すべての、亡くなった人を愛するかたがたへ。

1 すべての、亡くなった人を愛するかたがたへ。

 すべての絶望を知っている。


 自宅兼生計を立てていた作業場をどす黒い巨大津波に目の前で流された。
 そこに家族が全員いた。
 ローンが残っている家。持っていた土地に新たになにかを建てられない。
 なにも知らず、ひとり高台にいた。

 戦時中しか聞かない、もう決してあってはいけない言葉。
 明朝になって雑音の入るラジオは伝えた。

「沿岸壊滅」

 避難所に届いた新聞は一面の見出しで、

「被災地に無情の雪」

 誰にもいわれる。

「津波まで30分もあったのに、なぜなにもしなかった」
「なぜ誰も助けなかった」
「なぜなにも持たずにおまえひとりだけ逃げた」
「なぜおまえひとりだけ生きている。おまえが死んだほうがよかったのに」
「大震災とは原発事故をいうんであって、津波はどうでもいいだろう」
「被曝していなければ被災者というな」
「生きているのならましだ、あそこはあたり一帯諸共やられた」
「そんなところに住んでいるほうが悪い」
「その歳まで生かされて金をためていないほうが悪い」
「自分が世界一不幸だとでも思っているのか」
「あんたよりつらい人は世の中に大勢いる」
「あんた自身は傷ひとつないんだからもうかったな」
「神は乗り越えられる試練誘惑しか与えない」
「必ず誰かが見ている」
「明けない夜はない」
「ひとりではない」
「あきらめるな」
「前をむけ」
「がんばれ」

 30歳をとうにすぎ、自営。身長が低く腹囲だけは一丁前。不細工。歯が溶けたばか。人生で相手がいた期間一度もなし。
 ぬくもりで優しさをもらえない。ただずっとそばにいてといえる人がいない。皆が目を背ける。


 信号が青になっても、心が渡れない。