闘って。

107 闘って。

White Day 2019

 あすはいよいよ夫の入社日。

「公務員試験を受けなかったの?」
「公僕は嫌いだ」

 地獄の底でも愛してあげよう。
 たとえ天国の門までたどりついて、天使につきかえされたとしても。
 
 

 夜、すんなりと眠れなかった。いつもなら……でも、その気になれなかった。

「なあ、さぁや」
「……ん」
「大学時代、まわりにつられてさあどこかに勤めよう。という性格にみえるか」
「……ん?」

就職するのだ、落とされてはいけないのだと誰もが学生気分をふりきった。

 ひょっとして。

「どうして……その、1社だけ受けたの?」
「映画の影響だ」
「どんな?」
「1994年公開、スピード。

 一定の速度以下になるとバスが爆発する。見たことはあるか?」
「一度くらいは……有名だし」
「俺もだ。はじめ、主人公は一匹狼にみえた」
「うん……」
「バスが走るために必須の軽油、燃料タンクにナイフかドライバーのような鋭利なもので穴を開けた。
 車好きがみれば血も凍るような場面だ。燃料がなくなればスピードも維持できなくなる。それでもやった。
 ひとりよがりの判断ではなく、同僚上司と状況・情報の連絡を細かくとり対策を講じた。
 SWAT隊員の主人公は巡査と名のった。乗客は、

巡査? まだ若い、平社員じゃないか。

 誰もいうことを聞かなかった。
 主人公は一切前例のない最悪の状況のなか、最善でなくとも最高の最低限を実行しつづけた。
 エンドロール後、集団行動してみようという気になった。
 手応えがあったは個人の感想、落ちたかもしれなかった。かまわなかった。
 結果はさぁやがいる。家族を得られる、最上だ」
「……うん」
「状況が致命的とわかっていても絶命まではまだ時間がある。
 なにをどう考え、判断し、実行するか」

 おやすみのキス、目を閉じた。
 
 

 翌朝。

「いってくるよ、さぁや。愛している」

 甘い香りがふわり残る。扉の影はあわく長かった。

 両手を組み、御守を握りしめる。
 どうかあの、まっすぐな瞳のまま、闘って。