松の内、大安。

106 松の内、大安。

 一月初旬、本日。嘉き快晴だった。

「さぁや。寒くないか?」
「大丈夫」

 和服、正装の引き戸を守る警護二人が深く一礼し戸を開ける。
 部屋には三つのざぶとん、奥に金屏風。

 上座の父は第一礼装。染め抜きの家紋は新郎と同じ紋付羽織袴。

「待っておった」

 一代で大会社を興し、社員と家族を守りつづけ、社史に燦然と名を遺す切れ者たちを大喝しつづけた生ける伝説。最上級の牙を持つ男の烈々な氣魄が三十年間の沈黙を破ってよみがえり、痩躯にあふれていた。

 山本家の大黒柱が手をつかえる。

「父さん。清子と結婚します」

 同じくざぶとんを外す。三つ指をついた。

「お父さん、お嫁にきました。幾久しくよろしくお願いします」
「忠弘。よう似合う、見事じゃ。清子。三国一の花嫁じゃ」
 
 

 巫女に先導され移動する。

 玉砂利の庭には真っ赤な絨毯。ふたりでゆっくり歩く。老婦人が朱の舞傘をさしてくれる。後ろには父が。

 儀式殿へ入場する。
 修祓しゅばつの儀。浄衣の斎主が入場して拝礼後、全員起立。お祓いを受け、神前に一礼。
 祝詞のりと奏上。ゆっくりと起立、一礼。
 三三九度の儀。小盃、新郎から父、新婦へ、新郎へ。中盃、大盃。三口でいただく。三口目を清くのみほした。
 あらためて指輪の儀を。
 誓詞奏上。

「私たちは今日を嘉き日と選び、大前で結婚式を擧げました。今後御神德を頂き、たすけ合いはげまし合い、共に歩みます。なにとぞ幾久しくお護りください。
 山本忠弘」
「山本清子」

 拇印を捺す。

 親族杯の儀。父がゆっくりと起立、聖なる杯を三口で飲みほした。
 玉串奉奠ほうてん。神前に供える。二拝二拍手一拝。忠弘は拝も拍も悠々と行った。
 斎主あいさつ。全員が起立して拝礼。龍笛の鳴るなか退場した。
 
 

 道を再び歩き、南向きの部屋に戻った。新郎に手をとられ、ゆっくりと。父は見守りつづけてくれた。

 親子三人、金屏風を背に記念写真を撮る。

「さぁや……ん?」

 白無垢のまま父の背に回った。

「どうした?」
「お父さん、お肩をたたきましょう~」

 節をつけて歌い、両肩をたたいた。とんとん、優しく。繰りかえす。

「……あれ?」
「お、御屋形さまぁあああ!!」

 父が瞳孔をかっと見開き、泡をふいて倒れてしまいました……。
 
 

 なんとか、大騒動をおさめました。おもに忠弘が

「頼むから俺の心臓だけ停めてくれ……」
「お・任・せ!」