105 ゆっくり帰宅。
White Day 2019
世が世なら討ち入りは、現代では忘年会の時期。
「私、出なかった」
「いい。ひどいものだった、当時の社長はハラスメント発言ざんまいだ」
忠弘から完全に見えない姿勢をとり、忠弘にだけは見せたくない表情であの人物を軽蔑した。
「俺も怒った。いまにみていろ、新人でも必ず懲らしめてやると決めた」
「うん!」
怒りがおさまらない。
「茶事件のいきさつはとうに拡散している。誰も採用しない、相手にしない」
「うん……」
「俺は当時、半人前の営業。宴会芸を披露しろと命じられた」
まだそっぽをむいたまま。
「いろいろある。どうだ?」
「見たい!」
「ロンダートから後方宙返り3連続、一番広い部屋へ移動しよう」
3回目はひときわ高く跳んだ。そうとう余裕らしい、大拍手。
「ブレイクダンスもできる」
ストリートダンスという単語だけは聞いたことがある。
車と同じ、技の名前まではわからない。すごいというのだけはわかった。
「やっぱり出ればよかったな。見たかった」
「来年は別な宴会芸をする」
「毎年やるの?」
「うん。いまはトリッキングに挑んでいる。なんといっても基本からだ」
✅最新版
— Reiji トリッキングパフォーマー (@rubyyyy3) June 18, 2020
▶️トリッキング初級編
技名
1.ラウンドキック
2.フックキック
3.トルネードキック
4.バックスイープ
5.側転
6.片手側転
7.ロンダート
8.エアリアル
9.バタフライジャンプ
皆さん安全に挑戦してみて下さい✨🙏
スローモーションも貼っておきますね👍#トリッキング #日向蓮 笑 pic.twitter.com/bGevaT4IA7
「ネクタイを頭に巻いての裸踊りはいちおう、しない予定だ」
12月23日。
「驚かれたくないから先にいうね」
「……なんだその不穏当な発言は」
「クリスマスプレゼントを頼んでおいたの。たぶん管理人室? とかに届いているからとってきて。私がいく?」
外側から鍵をかける音がした。
まもなく戻ってきて、
「営業的にたずねる、中身はなんだろうか」
「総務的に答えます、見てからのお楽しみ」
「こんなに大きいバイブがいいのか? 何種類買ったんだ? さすがのさぁやでも……」
「もう。忠弘じゃないと感じないの!」
12月24日、クリスマスイヴ。
「一緒に段ボール箱を開けよう」
ふたりで共同作業。
「……これは」
「モミの木」
さして大きくない、150cm以下。
「クリスマスツリーだよ」
木の飾りの段ボール箱も開けてみせる。
「憶えている……?」
一番上に飾る希望をあらわすトップスター。救い主の到来を知らせる天国からの喜びのベル。永遠の命をもたらす赤い玉。助けあいの心を象徴するつえ、キャンディ・ケーン。罪を背負った茨の冠・柊、流した血を象徴する赤い実。地獄すらも照らす光、現在は電球。くつした。
「飾りつけ、しよう?」
手もふるえた5歳児が手わたした星を一番上に飾った。
「ちょっとだけひとりでいてね」
「俺を、……捨てるのか」
見事な泣き声。ぐすりぐすりと鼻をすすって。
「変身するの、初見プレイ。真っ裸で待っていてね、お・楽・し・み」
「全力で脱ぐ」
扉を開けて、
「お・待・た・せ」
赤いサンタクロースさんですよ。
ガーターベルトにきらきらストッキング、ピンヒール。おしりにはしっぽこと白いふわふわつき。ちょっとバニーガールさんかな。
「脱・が・せ・て」
翌25日、聖なる日。
「さぁや、起きて、さぁや……」
「ん……ぁ」
やっぱり、ここかな……。
「おはよう、いい朝だ」
つながるこころ、突きあげられるからだ。じんわりあふれてとまらない。
「プレゼント、もらって……くつしたに入れた……ぁ」
「は……いつのまに」
けっこう大きいサイズ。履くためのものではなくプレゼント用の特注品。
中身は月。
直径20cmほどの半立体の品。青白く、ほのかにともった。ゆうるりとした間隔で虧けては盈ちる。
「……さぁ、や」
クレーターまで精巧に再現した地上の月。
「地獄に光は……」