ゆっくり帰宅。

105 ゆっくり帰宅。

 世が世なら討ち入りは、現代では忘年会の時期。

「私、出なかった」
「いい。ひどいものだった、前社長はハラスメント発言ざんまいだ」

 忠弘から完全に見えない姿勢をとり、忠弘にだけは見せたくない表情であの人物を軽蔑した。

「俺も怒った。いまにみていろ、新人だが必ず懲らしめてやると決めた」
「うん!」

 怒りがおさまらない。

「茶事件の顛末はとうに拡散している。誰も採用しない、相手にしない」
「うん……」
「俺は当時半人前の新入社員、営業。宴会芸を披露しろと命じられた」

 まだそっぽをむいたまま。

「いろいろある。見てみないか?」
「見たい!」
「ロンダートから後方宙返り3連続。一番広い部屋へ移動しよう」

 3回目はひときわ高く跳んだ。そうとう余裕らしい。

「うわぁすごい」

 大拍手。

「ブレイクダンスもできる」

 ストリートダンスという、単語だけは聞いたことがある。
 車と同じ、技の名前まではわからない。すごいというのだけはわかった。素直に大拍手。

「忘年会、やっぱり出ればよかったな。見たかった」
「来年は別な宴会芸をする」
「毎年やるの?」
「営業畑だからな。現在はトリッキングに挑んでいる、なんといっても基本からだ」

「ネクタイを頭に巻いての裸踊りはいちおう、しない予定だ」
「しないでください……」

ネクタイを頭に巻いての裸踊り。

 12月23日。

「忠弘に驚かれたくないから先にいうね」
「……なんだその不穏当な発言は」
「クリスマスプレゼントを頼んでおいたの! たぶん管理人室? とかに届いているからとってきて。私が行く?」

 外側から鍵をかける音がした。

 間もなく戻ってきて、

「営業的にたずねる、中身はなんだろうか」
「総務的に答えます、見てからのお楽しみ」
「こんなに大きいバイブがいいのか? 何種類買ったんだ? さすがのさぁやでも……」
「もう。忠弘じゃないと感じないの!」
 
 

 12月24日、クリスマスイヴ。

「一緒に段ボール箱を開けよう? 共同作業」

 ふたりで開けた。

「……これは?」
「モミの木」

 さして大きくない、150cm以下。

「クリスマスツリーだよ」

 木の飾りの段ボール箱も開けてみせる。

「憶えている……?」

 一番上に飾る希望をあらわすトップスター。救い主の到来を知らせる天国からの喜びのベル。永遠の命をもたらす赤い玉。助けあいの心を象徴する杖、キャンディ・ケーン。罪を背負った茨の冠・柊、流した血を象徴する赤い実。地獄すらも照らす光・現在は電球。くつした。

「飾りつけ、しよう?」

 手もふるえた5歳児が、手わたした星を一番上に飾った。

「愛の巣にちょっとだけひとりでいてね」
「俺を、……捨てるのか」

 見事な泣き声。ぐすりぐすりと鼻をすすって。

「変身するの。初見プレイ、見てからのお楽しみ。真っ裸で待っていてね。お・楽・し・み」
「さすがさぁやだ! 全力で脱ぐ」

 扉を開けて、

「お・待・た・せ」

 赤いサンタクロースさんですよ。
 ガーター、きらきらストッキング、ピンヒール。おしりにはしっぽこと白いふわふわつき。ちょっとバニーガールさんかな。

「脱・が・せ・て」
 
 

 翌25日、聖なる日。

「さぁや、起きて、さぁや……」
「ん……ぁ」

 快楽の夜明け。

「……おはよう、愛している。いい朝だ……」

 つながるこころ、突きあげられるからだ。じんわりあふれてとまらない。
  
「プレゼント、もらって……くつしたに入れた……ぁ」
「は……いつのまに」
 
 

 けっこう大きいサイズ。履くためのものではなく、プレゼント用の特注品。

 中身は月。

 直径20cmほどの半立体の品。青白く、ほのかにともった。
 本物の月のように、ゆうるりとした間隔で虧けては盈ちる。

「……さぁ、や」

 月面のクレーターまで精巧に再現した地上の月。

「地獄に光は……」