忠弘の誕生日。

100 忠弘の誕生日。

White Day 2019

「ひろってください……」

 髪の毛が濡れる。頰でなでてくれる。背中が熱い。

「お昼、旧宅でお弁当を食べよう?」

 だ・か・ら。
 そんなに泣かないで。そんな声、よそで出したら反則よ?
 同い年の夫へ。

「ハッピーバースデー、マイダーリン……」
 
 

 薬を飲んでしっかりお化粧。
 本日こそは勝負下着。いざ挑まん、淡いイエロー+桃色のE65。

「雨合羽を着て」
「……?」

 傘を2本持ってあげた。高級品でもなんでもない、カラフルな市販の品。

「遠足にいこう」

 風こそ強くなかったものの、しとしとぴっちゃん。
 遠出はしない。敷地内なら初めて履く長靴でもいい。
 つないだ手をひっぱった。

「やっぱり。ほら、少しだけできている」

 職人さんが毎日きちんと管理している、緑もまぶしいゴルフコースのよう。

「小さいころ弟と、家のまわりにできた水たまりをとりあっていたの。
 あっちは私のもの、そっちは弟のもの。どっちの量が多いか長靴でけって競争していた。
 そのうちお父さんが迎えにくるの。もう夕ごはんだぞ、いつまで遊んでいるんだ?」

 ねえ、泣かないで。思い出して。
 
 

 ルームウエアから着替えた。センスのいい上品なツーピース、ちょっとシックで大人めいた秋色のコート。

 もう、泣かないで。運転できる?
 
 

 ひさびさにあのエントランスへ。
 はれぼったい目のままの手をひいた。

「お掃除とかきょうは私がする」
「そうはいかん」

 見事な泣き声。ぐいと握りかえされた。

「なんだか、連れこまれているみたい」
「連れこんでいるんだ」

 コーヒーセットを持ってくればよかったな。

「お待たせ、さあ致そう」

 もう。そんな顔、よそで絶対しないでね?

「き・て」
 
 

 目が覚めても熱い。
 頭部から伝わる感覚がいつもと違った。惚れた男が腕枕している。
 なかなかな初めて、意外に弾力が……こんなに安心できるんだ。

「忠弘の、想像のさーやは……」
「ん……?」
「……どんなかんじ?」

 入社式。あの日、夜。もしも、

「台所に立って……俺を誘う」
「ん……」
「キスを……胸……下……こう……」
「……ぁん……」
「あとはベッドで、……一晩中」
「ん……!」
「朝、ふたりで……もう帰さない……」
「っあ……」
「美乳……割れめ……後ろから……ありったけ」
「ん……」
「きれいで……かわいい……なあ、いつ致したっていいだろ……」

 ああ、うれしい。どきどき……。

「……ずっと待っていた」
「やっと襲える」