忠弘の誕生日。

100 忠弘の誕生日。

 11月14日、朝。

「さぁやさん、ひろってください」

 滂沱で髪の毛が濡れる。頰でなでられ、後ろから抱きしめられて料理開始。
 背中が熱い。

「お昼、旧宅で一緒にお弁当を食べよう?」

 だ・か・ら。
 そんなに泣かないで。そんな声、よそで出したら反則よ?
 昨日まで年下で、今日から同い年の夫に。

「ハッピーバースデー、マイダーリン……」
 
 

 薬を飲んで、しっかりお化粧。でも今日は。

 下着はいつものきわどい繊細なシルクではなく、淡いイエロー+桃色のE65。
 高級服でもなんでもないルームウエアを。

「雨合羽を着て」
「……?」

 傘を2本持ってあげた。長靴も雨合羽も傘も、高級品でもなんでもない。カラフルな市販のもの。

「遠足にいこう。おやつは300円まで」

 さあ、外へ。

 風こそ強くなかったものの、しとしとぴっちゃん。雨はそれなりに降っていた、昨日から。
 遠出はしない。敷地内なら初めて履く長靴でもいい。
 つないだ手を、今日はひっぱった。

「やっぱり。ちょっとできている」
「……?」
「ほら、見て。少しだけ、水たまりができている」

 まるで、職人さんが毎日きちんと管理していても雨が降ればできてしまう、緑もまぶしいゴルフコースのよう。

「小さいころ弟と雨が降った日、家のまわりにできる水たまりをとりあっていたの。
 あそこにできたのは私のもの。そっちにできたのは弟のもの。
 雨のあと、どっちの水たまりの量が多いか競争していた。長靴で水たまりをけって。
 そのうち、お母さんが迎えにくるの。もう夕ごはんだよ、いつまで遊んでいるの……」

 一緒に小さな水たまりで遊ぶ。カラフルな傘をさして、長靴と雨合羽で。

 ねえ、泣かないで。思い出して。
 
 

 ルームウエアから着替えた。センスのいい上品なツーピース、ちょっとシックで大人めいた秋色にコート。

 もう、泣かないで。運転できる?
 
 

 ひさびさにあのエントランスへ。
 はれぼったい目のままの忠弘の手をひいた。

「今日は忠弘の誕生日だから、お掃除とか私がする」
「そうはいかん」

 見事な泣き声。ぐいと握りかえされた。

「なんだか、連れこまれているって感じ」
「連れこんでいるんだ」

 忠弘の誕生日に、忠弘の家で、忠弘が家事。なにかが間違っているような気がする。コーヒーセットを持ってくればよかった。

「お待たせ、さあ致そう」

 もう。そんな顔、よそで絶対しないでね?

「き・て」
 
 

 目が覚めても熱い。
 頭部から伝わる感覚がいつもと違った。惚れた男に腕枕されていた。
 こんな感じなんだ。こんなに安心するものなんだ。

「忠弘の、想像のさーやは……」
「ん……?」
「どんな格好……していた?」

 4月1日。もし、もう近寄れていたら。

「こんな……」
「ん……」
「飯を、作っていてくれて……」
「ん……」
「食べて、って……」
「ん……」
「台所に立って……俺を誘うんだ……後ろから抱きしめて……」
「ん……」
「キスを……胸……下……こう……」
「……ぁん……」
「あとはベッドで、……」
「ん……!」
「それから、一晩中……」
「うん……」
「朝、ふたりで……もう帰さない……」
「っあ……」
「美乳……割れ目……後ろから……ありったけ欲情した……」
「ん……」
「きれいで……かわいい……なあ……いつ致したっていいだろ……」

 ああ、うれしい。どきどき……。

「ずっと……寝室で待っていた」
「……やっと襲える」