お楽しみ。

99 お楽しみ。

 一路巨大邸宅へ、着替えてむかう。
 どう説明したのか、老人はにこにこと笑顔。

「よくきてくれた」
「手紙をありがとう、うれしいよ」
「読めたかのう。うなど、いつぶりか。忘れたわい」
「達筆だったよ」
「よかった」

 お茶を淹れた。
 鶴のように痩身な老人が茶碗をかたむける。ゆっくりと。

「……わしはもう、遠くには行けん。こんなじじいじゃ、異国の言葉は受けつけん。
 だが忠弘君が……」
「父さん、忠弘でいいよ」

 視線で合図。

「さぁやのことも、清子でいい。な、さぁや」
「うん、お父さん」

 老人の、痩身の体がぐらりゆれた。慌ててかけつける使用人。

「父さん、とうさん。俺がどうしたって?」
「ああ……あの世が……花畑が見えた……」
「困る、あと300年は生きてくれ」

 忠弘が視線で、さーや得意技を出すなといっています……もう黙っていよう。

「俺が?」
「ああ……花がきれいじゃった……」
「そろそろ戻ってきてくれよ父さん。俺がどうしたって?」
「花が……」
「父さん」

 しまいにかけつけたのは主治医さんだそうです……ようやっと、老いた父は意識を現世に戻してくれた。

「忠弘……が、結婚式を挙げると聞いたのじゃ。
 記念写真をもらいたいが、欲が出た。この歳で。ごうつくばりのじじいになってしもうた。
 この目で見たい。式は紋付袴と白無垢じゃ。忠弘、清子。この家で式を挙げてくれ。わしのために。
 ……よいか?」
「いいよ」

 にっこり笑顔でうなずいた。

「いつがいい?」
「……そこまで考えておらなんだ」
「神前なら、松の内の大安吉日はどう?」
「……世界一のごうつくばりになってしもうたわい」
「もっとなっていいよ。父さん、俺、さぁや。親子3人で記念写真を撮ろう」
「花が……」
 
 

 帰りの車中にて。

「ねえ。あのぶんじゃ、いつかはわからないけど、有弘とレイアに逢わせた日には、どうなるかなあ」
「停まる、対策をたてなくては……」

 どうやって?
 
 

 家訓の運動を少しずつ。海外旅行の心得を聞き、靴にもブーツにも十分慣れた11月13日。

「誕生日ケーキを焼くから、時間がかかるよ」
「うん! 朝食をリクエストしていいか?」
「おお」

 くわしくきたな。

「連れこんだ当初の、さぁやの誕生日と同じのにしてくれ」
「……うん!」

 巨大邸宅からの資料は以降、昼食と夕食の分となった。

「明日、午前か午後、どちらか。旧宅ですごさないか?」

 にっこりうなずいて、リビングのレースのカーテンを少し開けて外をみた。

「ひょっとして、野外露出がお好みか? 俺の夢、野外プレイをかなえてくれるのか? とてもうれしいが、ここは共同マンションで、散歩場所も共用なのだが」
「うん、私やっぱり運がいいや。なにせやっと受かった会社にずばり夫がいたし、ちょうど雨が降っている」
「……作物が育つ、適度な雨はちょうどいい、という意味だろうか」

 まるで、したことがあるようないいかた。

「うん、ほかもあるの。お楽しみ」
「なんだと……!? 雨中野外がそんなに好みだったか、さすがさぁやだ!
 いやしかし、いくらなんでもプレイが激しすぎる。もう寒い、俺はいいがさぁやが風邪をひく」
「そんなことは致しません。明日をお楽しみに」