清子の誕生日。

98 清子の誕生日。

 11月4日。

 ……いい朝!

 気合で勝負下着と服を決める。本気で家のなかでピンヒールを履きたい。

「忠弘。本当に格好いいね」
「さぁやこそ。今日はとくにきれいだ」

 いまならできる、三食分を一気に作った。

「できたよ」

 妻の趣味全開、戦闘服の夫が家事しにやってくる。もう、全裸まであと何秒?

 テーブルには赤ワイン。真っ赤な24本の薔薇の花束、ベルベットの箱が2つ。
 視線で火花が散った。

「誕生日おめでとう、さぁや。愛している」
「ありがとう、忠弘。愛している」

 今日こそは。目玉焼きにおみそ汁、ごはんサラダ焼き魚。
 +牛乳、ヨーグルト、一日一個で医者を遠ざける蜜いっぱいの林檎。特製という専用なにやらサプリメント。

「死ぬほどうれしい。いただきます」

 儀式をかみしめるように行い、猛然と食べはじめ、おかわりを自分で盛る忠弘。

「私がやるのに」
「さぁやの誕生日だぞ」

 24歳。かあ……。

 心臓そのものの赤ワインを洗練された所作で注いでくれた。

Here's looking at you, kid!君の瞳に乾杯
「……おいしい」
「よかった。俺のワイングラスにくちづけて」

 ぴかぴかに磨かれたグラスにリップ音つきで紅を残した。

「ワインがうまかったのは初めてだ」
「初めて誕生日プレゼントを初恋の人にもらえた。私、幸せ」

 箱を開けてみる。

「わあ……」

 銀色に輝く二連ティアラ。ダイヤモンドの三連イヤリング。

「きれい……」
「よかった」
「着けたところをみたいな、一緒にドレッシングルームにきて」
「うん」

 夫に、こころから感謝を。

「ありがとう。すてきなものを贈ってくれて、うれしい」
I will be with you till God do us part天がふたりを別つその日まで君とともに.
 If it's not you, it's meaningless君でなければ意味がない
 
 

 お昼すぎ、キッチンでひとり。

「もう……き・て」

 座って待っていない、扉のすぐそこにいるんでしょう?

「後ろから抱きしめて、でないと料理しない」
「うん」

 愛情多過な、十日間だけ年下の夫。
 
 

 致されすぎた翌日。
 朝食後、薬を飲んだらもう。ぶっ倒れて眠った。お昼に起こされ、食後すぐに眠った。

 朝寝に昼寝、ぜいたくよね。愛の巣でひとり、

「あー、あー」

 よし、声はOK。立てるかな? ベッドを出てみる。うん、歩ける。
 長い時間夫をひとりにしてしまった。

「忠弘!」
「……さぁや」

 つぶやいて困った顔。捨てられた5歳児のほっぺにキス。

「逢えないからってすぐに落ちこまないで?」

 ひとつ屋根の下で一緒にいるのに。

「いつでも愛してあ・げ・る」

 とたん喜色満面、がばりと抱きしめる。うん、戻った。
 
 

 コーヒー豆がなくなっていた。
 滂沱で買いにいった忠弘がいないあいだ、家を掃除。

 あのプレゼント、絶対大金かかっているよね……家に車に。来年からはなんとかよしてもらおう。
 
 

 夕ごはんを用意していると玄関が開いた。

「お帰りなさい」
「ただいま。やっと逢えた、うれしい」

 ドライブデートして、店で買っているときも車のなかにいればよかったな。
 手には豆のほかにもあった。ちらりとみる。白い封筒?

「手紙だ」
「……なんだろうね」

 表の宛先はふるえた毛筆による墨書き。

山本忠弘様
  清子様

 裏面の送り主は超大物の名前。
 切手は貼られていなかった。

「父さんからだ」
「電話でもいいのに……」

 封を切るのももったいないような和紙。中身は二枚重ね。
 ふるえた字で、

紋付袴と白無垢を見たい。

 海外でマリエことウエディングドレスとタキシード、洋風挙式なら。

「和風挙式か! あの家ならなんでもある、神社もあれば神職もいる。
 父さんの家へいこう」
「うん!」
「いや待て、心臓が停まったら困る。それとなく連絡してそれとなくいこう。いきなりきりだすなよ、いつもの得意技は出すな。せめて俺だけにしろ」
「うん、忠弘の心臓だけ停める」
「頼む」