お任せ。

97 お任せ。

 食後、きちんと化粧を直す。食事でとれた口紅もきちんとさす。
 どれだけ怠けていたのだろう。

「式の日を決めよう、なるべく早めに」
「うん」

 12月上旬の某日とした。

「旅行の日程も決めよう。式の後でもいいし前でもいい、どうする?」
「うーん」

 なんとなく、暮れ正月は日本ですごしたい。

「前かな?」
「俺の誕生日ののちに出国・新婚旅行、結婚式。年内に帰国・帰宅。どうだ?」
「うん」

 仕事もはかどるだろう。

「招待状が確定だ、一緒に書こう」
「うん」
「さぁやの先輩2人に提案だ」

 夫婦そろってファーストクラス往復券と五ツ星ホテルを。
 子どもがいる先輩には家から送迎も含めて家族単位で忠弘の兄のプライベートジェットで。

 すぐに返事ができなかった。

「ご機嫌をそこねたくないが。
 兄さんから、すべてを任せてくれとかなりいわれている。
 式の話は案内役と先にした。あの場で再就職、新居、結婚指輪、タキシード、すべて即断即決だ。
 さらに式はフランスともなれば、こういうのは礼儀だろう? たとえ相手が誰であっても」

 うなずいた。人としての礼儀をかいてはいけない。

「兄さんとはあまり、いや、できれば助けは求めたくない。
 へたに深く関われば父さんの遺産相続争いに巻きこまれる」

 昭和のドラマのよう。

「父さんにはずっと長生きしてもらう。だが人間だ、いつかは、だ。
 俺が私心をみせれば容赦なく巻きこまれる。泥沼骨肉の争いだ。
 むろんそうはならない。兄さんの家にはいかない、助力も可能な限り求めない」

 現実的で理知的、私心はなかった。

「いつもいいかえしているのだが、兄さんは聞かなくてな。
 さぁやの機嫌をそこねたことをずっと気にしている。今回の件は喜んで協力するだろうし、そこまでとする」

 家庭を渇望する男が父さん、兄さん、か……。

「式までもう時間がない、まずは先輩2人に知らせてくれ」
「私のほうの招待客が増えるよ?」
「いい。なにせ俺の悪友どもの返事は全部」

欠勤上等ただ万歳。

 失業しないでね。

「家訓その10、運動しにいこう?」
「式の準備と旅行の日程、内容も決めよう」
「あ、そっか」

 いけない、いけない。

「ごめんなさい、わからない。教えて」

 へたな知ったかぶりはやめよう。

「フランスという前提なら、日程表が全部案内役からあの日のうちにもうきていた。
 俺たちは希望日に時間どおりにいけば専門のプロがなにからなにまでやる、そのとおりにすればいいだけだそうだ」

 ずいぶんと面倒見がいい人だなあ。

「よほど引退したいらしい」

 かなり高齢のご敬老とか?

「旅行は人任せにしない、俺が決める」
「……うん?」
「さぁやの意見も取り入れなくてはな」
「じゃあ……って。私、海外旅行したことないし」
「ふたりの共同作業だ、このままでは俺の目がスポーツカーになっておわりだが」

 致す、もあるでしょう?

「お・任・せ」
「わかった、任せろ」

 家訓を忘れないでね……。

「明日はさぁやの誕生日だ。さすがに、その、……明日は」
「はい、お好きにしてくださいませ」
「うん!」

 明日はどんな、いや、いくつの体位で致されるか……待てよ。

「十日後は忠弘の誕生日だね」
「うん!」

 ほっぺにキスで済ませちゃおうか?

「そうだ、旅行はえっと……費用そのほかはすべて持つ、とか一課長が……」
「人生で一度きりの旅だぞ、全部俺色に染めてやる」

 うん? 待てよ。

 海外? フランス? アウトバーン?
 料理は誰がしますか? はい私です。
 実家で海外驚愕映像あるある、スーパーも映った。
 あれ。な~んにもわかりません。確か単位とかも違った。にんじんを買おうとしてシャンプーを買っちゃうかも。

「ヨーロッパのどこか、だよね」
「うん。まずは夢、世界三大レースのかの地へ行き、アウトバーンをひた走り」
「ごはんはどうするの?」

 忠弘、ぽっかーん。

「外食する気はないよ、プロポーズどおり手料理を作る気満々。
 食材は誰がどこからどのように入手しますか? 土地勘がないからスーパーの場所も外観もわかりません。行けても全部、多言語で包装されていて欲しい食材、なにも見分けがつきません。
 私は英語もおぼつかないのですが」

 忠弘、ぽっかーん。

「配達してもらうの?」

 滂沱の忠弘が料理長に連絡した。ヨーロッパどころか世界中に知人弟子が大勢いるから。レシピも食材もどこへでも届けてくれます、お・任・せ。