93 育児。
White Day 2019
「婚約指輪、はずさないといけないんだって」
「……?!」
理由、妊婦心得その1。
妊娠すると手足がむくみやすく、指が傷つくかも。妊娠初期から指輪をはずしておく必要があります。
「……お母さん、さぁやとふたりで話します」
「任せます」
ゆっくりと階段を上がった。
2階で必須の話しあい。
「……知らなかった」
「私も。
式のとき結婚指輪するでしょう、婚約指輪はどうなるのかな」
「ああ……そういえば」
いま気づきましたよこの男。
「……さぁやの乳首に○して○して」
ぶん殴り、くるりと背をむけた。
すぐさま後ろから、腰ではなく首に腕を回し甘えてすがり、髪を頰でなでてくる。怒らないで、俺を捨てないでと滂沱。
「好きすき……もう少し現実的なことをいって」
背後から左手をとられた。
空っぽになる薬指。
「やだ、はずさないで」
「しかたがないだろう」
後ろでなにかしている。タグと婚約指輪が鎖骨をするり、谷間におさまった。
「式のあと、結婚指輪も鎖に通す。捨てないでくれるか?」
「しない。愛しているの」
「怒っただろう」
「ちょっとぶん殴っただけ!」
もう。
「怒らない。いーーーっぱい、無条件で愛してあ・げ・る」
「……挿れたい」
朝、目が覚めてひとり。
念のためしていたナプキンに経血が。やっぱり、毎月くりかえした感覚どおり。
あれだけ致されて、私……。
1階へ普通に下りる。いいにおい。
朝食後、父と弟を送りだしたあと、三者で重要な話しあい。
「あの。……生理がきました」
「わかった。さぁや、ピルを飲んで」
日付を書いた。……冷静だな。
「効用はすぐに出ないそうだ。重いのだろう、痛みどめを飲んで」
「ゆっくりしてね」
その晩、夢を見た。
ころころよちよちの赤ん坊。ずいぶん穏やかで。そっくりな顔の2人は男の子と女の子。
朝、目が覚めてふたり。
「夢を見た」
ころころよちよちの……。
「俺は男の子をありひろ、さぁやは女の子をれいあと呼んでいた。
正夢しか見ない。たぶん……」
夫婦が同じ晩に同じ夢。
「子どもは仕事が落ち着いてからだ。育児休業をとる」
「……あの」
「ノルマか? 全員達成している、どんとこいだ」
「……うん」
「育児も極める。最初はわからないことだらけだ、お母さんに土下座して教えを乞う。俺が2人を育ててみせる」
ちゅうと朝のキス。だってごぶさたなんだもの。
一緒のふとんにいるのに抱きしめられもしない、朝に隣が冷えているのはもういや。
喜色満面でキスを返してくれた。
「生理がおわったら即家に帰ろう、むろん致す」
まあうれしそう。うん、私もうれしいよ。
ああ楽々実家暮らしもこれまでか。
ごはんは出てくる、家事しなくていい、のんきに画面をただぼうっと見ていればいいだけ。まさに夢の空間。あれ、アパートでしていたことと同じじゃない?
1週間後、実家をあとにした。忠弘が3人に最敬礼。
車内。密室でふたりきり。
帰宅してひょいとお姫さま抱っこ、
「バスルームへいこう」
ここで致さないんだ。
「服を脱いで」
忠弘が脱がさないんだ。
「下着はそのまま」
……?
「乗って」
騎乗位かな。
「……体重計に?」
「警護に誘拐されても困るしな」
ふぅん。
「1杯分のコーヒーを淹れてくれ、チタンコップに」
まるで集中できなかった。コップからコーヒーがあふれた。
気をとりなおす。
二度目でなんとか成功。忠弘がひとり待つ、家で一番広い部屋へむかった。