育児。

93 育児。

「婚約指輪、はずさないといけないんだって」
「……なんだと?!」

 理由、妊婦心得その1。
 妊娠すると手足がむくみやすく、指が傷つくかも。妊娠初期から指輪をはずしておく必要があります。

「……お母さん、さぁやとふたりで話します」
「任せます」

 ゆっくりと階段を上がった。
 
 

 2階で必須の話しあい。

「……知らなかった」
「俺もだ」
「ね、式のとき結婚指輪するでしょう。婚約指輪はどうなるのかな」
「ああ……そういえば」

 いま気づきましたよこの男。

「……さぁやの乳首に○して○して」

 ぶん殴り、くるりと背をむけた。
 すぐさま後ろから、腰ではなく首に腕を回し甘えてすがり、髪を頰でなでてくる。怒らないで、俺を捨てないでと滂沱。

「好きすき……もう少し現実的なことをいって」
「……しかたがない」

 忠弘が背後から左手をとり、ゆっくりと指輪を外す。
 薬指が空っぽ。

「やだ、外さないで」
「しかたがないだろう」

 後ろでなにかしている。タグと婚約指輪が鎖骨をするり、谷間におさまった。

「式のあと、結婚指輪も鎖に通す。さぁやは俺を捨てないか?」
「しない。愛しているの」
「怒っただろう」
「ちょっとぶん殴っただけ!」

 もう。

「怒らない。いーーーっぱい、無条件で愛してあげる」
「……挿れたい」
 
 

 朝、目が覚めてひとり。
 念のためしていたナプキンに経血が。やっぱり、毎月くりかえした感覚どおり。

 あれだけ致されて、私……。
 
 

 1階へ普通に下りる。忠弘が嬉々として家事していた。
 朝食後、父と弟を送りだしたあと、三者で重要な話しあいを持つ。

「あの。……生理がきました」
「わかった。さぁや、ピルを飲んで」

 日付を書いた。

「効用はすぐに出ないそうだ。重いのだろう、痛みどめを飲んで」
「おわるまでここでゆっくりして、清子」

 忠弘もうなずいた。
 
 

 その晩、夢を見た。

 ころころよちよちの赤ん坊。ずいぶん穏やかで。そっくりな顔の2人は男の子と女の子。
 
 

 朝、目が覚めてふたり。忠弘が、

「夢を見た」

 ころころよちよちの……。

「俺は男の子をありひろ、さぁやは女の子をれいあと呼んでいた。
 正夢しか見ない。たぶん……」

 夫婦が同じ晩に同じ夢。

「子どもは仕事が落ち着いてからだ。育児休業をとる」
「……あの」
「ノルマか? 全員達成している、どんとこいだ」
「……うん」
「育児も極める。最初はわからないことだらけだ。お母さんに土下座して教えを乞う。俺が2人を育ててみせる」

 ちゅうと朝のキス。だってごぶさたなんだもの。
 一緒のふとんにいるのに抱きしめられもしない、朝に隣が冷えているのはもういや。
 忠弘も喜色満面でキスを返してくれた。

「生理がおわったら即家に帰ろう、むろん致す」

 まあうれしそう。うん、私もうれしいよ。

 ああ楽々実家暮らしもこれまでか。
 ごはんは出てくる、家事しなくていい、のんきに画面をただぼうっと見ていればいいだけ。まさに夢の空間。あれ、アパートでしていたことと同じじゃない?

 1週間後、実家をあとにした。忠弘が3人に最敬礼。
 リムジンのなか、ふたりきり。
 
 

 帰宅する。忠弘がひょいとお姫さま抱っこ、

「バスルームへいこう」

 ……バスなんとかするの?

「服を脱いで」

 忠弘が脱がさないんだ。

「下着はそのまま」
「……?」
「乗って」

 騎乗位かな。

「……体重計に?」
「うん。体重が減って警護に誘拐されても困るしな」

 気軽にとんと乗った。
 
 

「1杯分のコーヒーを淹れてくれ、チタンコップに」

 まるで集中できなかった。コップからコーヒーがあふれた。
 気をとりなおす。
 二度目でなんとか成功。忠弘がひとり待つ、家で一番広い部屋へむかった。