気が早い男。

68 記憶鮮明編 気が早い男。

 悪友がやってきた。

「認識票を頼む。SAYAKO YAMAMOTOと」

 なんだ? 山本? おまえいつのまに結婚したの?

「まだなんだ」

 まだって。

「これからなんだ」

 なにがこれからなんだ。

「逢うのが」

 ……は?

「あまり、まともにしゃべったことがない」

 おいおい。

「とても仕事熱心で。真摯で。誘いの言葉を、職場でいえない」

 同じ職場だろう。世の中そんなに恵まれていないぞ。

「作ってはもらえないだろうか」

 いや、作るけどさ。おまえの、ずいぶんといい品だ。これとまったく同じといったら……。

「金は出す、いくらでも。受け取ってもらえるとうれしい」

 いいよ、友だちから金をとる気は……そんな顔するのはやめてくれよ。わかった、ちゃんと請求する。悪いが高いぜ。

「かまわない、いくらでも。稼ぎはある」

 おまえ昔から、なりふりかまわず働いていたな。守銭奴とかじゃないよなあ……。
 血液型とかわかるか、そろいなら……って、なんで知っているんだよまともにしゃべっていないのに。
 なに、うちの人事はなかなか最低でな? なんでそんな会社に……はいはい逢えたから全部なしね。
 おまえみたいな高学歴はもっと大きなところでも……はいはいそれじゃ逢えなかったんだろ、わかったよ。

 こういう品を買うんなら、当然考えているんだろ、指輪。
 ……は? なんだその、ああそういえば、って。ここはどこだよ、宝飾店だぞ。
 だいたいな、おまえまともに恋愛していないだろ。なさそうだったもんなあ、美人がやまほどまとわりついても迷惑そうで、こっちはうらやましかったのに……はいはいんなもん眼中になかっただろ、わかっているよ。

 じゃ10月中に納品な。式には呼んでくれ、成功を祈る。