気が早い男。

68 記憶鮮明編 気が早い男。

WED, 22 APR 2009

 悪友がやってきた。

「認識票を頼む。YAMAMOTO SAYAKOと」

 なんだ? 山本? おまえいつのまに結婚したの?

「まだなんだ」

 まだって。

「これからなんだ」

 なにがこれからなんだ。

「逢うのが」

 ……は?

「あまり、まともにしゃべったことがない」

 おいおい。

「とても仕事熱心で。真摯で。誘いの言葉を、職場でいえない」

 同じ職場だろう。世の中そんなに恵まれていないぞ。

「作ってはもらえないだろうか」

 いや、作るけどさ。おまえの、ずいぶんといい品だ。これとまったく同じといったら……。

「金は出す、いくらでも。受け取ってもらえるとうれしい」

 いいよ、友だちから……そんな顔するのはやめてくれよ。わかった、ちゃんと請求する。悪いが高いぜ。

「かまわない、いくらでも。稼ぎはある」

 おまえ昔から、なりふりかまわず働いていたな。守銭奴とかじゃないよなあ……。
 血液型とかわかるか、そろいなら……って、なんで知っているんだよまともにしゃべっていないのに。
 なに、うちの人事はなかなか最低でな? だいじょうぶかそんな会社……はいはい逢えたから全部あとでね。
 おまえなら大きいところとか、なんなら独立か起業し……はいはい逢えたら天国、わかったよ。

 こういう品を買うんなら当然考えているんだろ、指輪。
 ……は? なんだその、ああそういえば、って。ここはどこだよ、宝飾店だぞ。
 だいたいな、おまえまともに恋愛していないだろ。なさそうだったもんなあ、まわりがやまほどまとわりついても迷惑そうで、こっちはうらやましかったのに……はいはい眼中になかっただろ、わかっているよ。

 じゃ10月中に納品な。式には呼んでくれ、成功を祈る。