52 大開脚。
SUN, 7 NOV 2010
目標、海を見る。
致しつづけてなまけていた。
ひさびさにアスファルトをとらえる。早朝から行動を開始しているお仲間の迷惑にならないよう、信号では足ぶみのまま。
南下する。
帰巣本能、時刻・方向感覚。忘れない、奪われない。
「はっ……、はっ……、はっ……」
視界に入るものが移動しながら変化する。空が白んで明るくなる。消えゆく星はあえて追わない。
「朝陽にむかって走れ!!」
息があがる。筋肉が悲鳴をあげる。
寝転がった。まぶしくて腕でさえぎった。
「はー、はー、はー、……はー……」
のどがかわく。
むちゃしてお助け連絡は情けない。途中、自動販売機のお世話になった。体にいいらしい液体は透明な砂を胃につめこんでいるよう。
「……そうだ」
水筒を選んでもらおう。口づけをこいねがえば感慨無量の味がする。
予想もしなかった、いまを。
問われたとき答えられなかった。からっぽのまま生きた。
「でかけよう」
遠出して、野原のにおいを知ってほしい。貝塚までの道のり、森や林のなかの道ならぬ道を一緒にいきたい。葉にさえぎられた木もれ日と樹がつくる影、おそろしいほどのコントラスト。手にてをとって走った先、波煌めき緑まじる青い海をふたりで見たい。
「……そろそろ帰るか」
料理中、いつも小さくうなって……。
ブリッジ一発立ちあがった。
生理です、致せません。言ったが最後、どうなるか。
「わかったでかけてくる」
広い新居にぽつん。
いや待て、前もあった。ひょっとして……?
さわりの1週間、ずっとごはんを食べてはひとっ走り。日中でかけ、夜になると勉強した。なんという勤勉良夫。
触発されるではないか、恋の正体はわがままとみたり。
横からうかがう。
同じ営業とはいえ、いままでとはまるで違うはず。あの猛者ぞろいの大会社に投げこまれて……どう挑む?
「さぁや」
目がかわいていた。
「飯」
もう手持ちの料理ねたがつきた。
切実に、母に教わりたい。
キスしたい、頼りたい……。

忘れた。
配送先の住所も知らない。
「いっぱいでかけよう。あらゆる市区町村・都道府県・国で致そうな」
ご迷惑ですよ。
「気分を変えようか」
うれしいです。
「視聴室で映画を見よう。
コメディが好みでな。ホット・ショットはどうだ? 俺は2から見た」
この男がギャグ。意外だ。
「あとでさぁやの趣味を教えてくれ」
少し知っているタイトルがあった。楽しそう。
「頼むからあの下着は着るなよ」
「ほかのは?」
言葉責めならぬ下着責め。いかが?
「……いうな」
視線を斜め下に落としている。ふっ……。
「最初の観音様で十分、くっ……さぁやは刺激が強すぎる」
やったね。
「じゃ、いい?」
「鞭とろうそくというのは……」
ハウスウエアに着替え、玄関へむかったら滂沱のぱんだが気落ちしてお待ち。
手をつなぐ。とたん喜色満面、感情を体いっぱい表現する。
「にんじんは知っているんだよね」
少し教えようか。
「形状からしてきゅうりも入れていいのでは」
「仕事で商品を扱うために原材料を熟知する必要があるように、食材も名前と商品を結びつけて覚える、ってできるんじゃない?」
「ああ……そういえば」
「たとえばね、たとえばだよ。私がどうしても家から出られないとき、なにか食べなくちゃいけないでしょう? 食材を買うリストのメモを渡すから、買ってきてほしいの。いい?」
「うん」
すなおないい男。
「これが卵、わかる?」
「入れると中で割れて痛そうだ」
「……油をひくの油って、なにかわかる?」
「ガソリン?」
先は厳しい。
「卵を割るって聞いてどう想像した?」
「握りつぶす」
論外。
「お肉は難しいな。豚・鶏・牛。違い、わかる?」
「聞くほうがやぼだ」
そうでしたね。
「営業的感覚で覚えて?」
「まさか仕事ができん男がどうのと……」
「いわない。研究。課題。得意でしょ?」
「このままだと料理しろといわれそうだ」
「どうしてそんなにかたくななの?」
「さぁやに捨てられる」
なにをいまさら。
「料理してくれとプロポーズしたんだぞ。できないから同情してもらったんだ。奇跡的に料理してみろ、ああそちらさんできたんですね。即離婚だ」
ここまでいわせるほど私の行いは悪うございました。たいへん申し訳ございません。
「カップラーメンがない、手料理は精液だけだ」
惚れた男の勢いだ、うまいとなんとか……まずいです!
「庶民の魚もちゃんとあってよかった、切り身ばんざい」
「まったく見分けがつかない。実に難しいが研究しがいがあるな。みていろよ、情報だけはさぁやより持ってやる」
「うん、その調子」
いっぱい作ろう。
なんにしよう。
「これはどうだ」
なんとこの男が料理の提案だ、ああ驚いた。
「なすを握りしめてなにか意味があるのかな」
「やはりこれが」
「バナナがどうしたの? そんなにいま食べたい?」
「聞いたところによると、さつまいもを加工するといいらしい。どこにある?」
「……そういうお友だちがいるんだ。ふうん。
私がなにをいいたいかわかるよね」
捨てないでとすがられた。
後ろから抱きしめてもらっての料理はかなり余裕だった。いつもこうだったらなあ……むり?
ホット・ショット2、鑑賞。
「あの意味のない後方宙返り、ショーツなしによる生足360度大開脚をやってもらいたい」
「それで2のほうをみせたの?」
「うん」