無上の夢。

50 無上の夢。

 忠弘が足で扉を開けて、

「致すところだ」
「……そう」
「テーブルには俺が座る。さぁや、俺に乗って腰をみだらに激しくふって」

 そんなことしたら私、壊れる。
 忠弘が足で隣の扉を開けて、

「致すところだ」
「……そう」

 外が見える。緑の芝生は海外ドラマのよう。

「ガラス窓に手をついて。後ろからさぁやの尻を突きあげて犯ってやる」

 そんなことしたら私、壊れる。

「次の致すところは」

 部屋ともいいませんよこの男。

「ドレッシングルームだ。三面鏡の化粧台に手をついて、後ろからさぁやの尻を突きあげて犯ってやる。鏡でさぁやのイく顔を見たい」

 部屋の名前を教えてくださりありがとうございます。

「書斎、俺の夢だ。いい椅子だろう? 俺に乗って腰をみだらに激しくふって」

 椅子を壊そう。そうすれば私は壊れない。

「ゲストルームの全部のベッドでも致そう、さぁや」

 客に失礼な。……待てよ、くる客いる?

「メインダイニングルームではさぁやの手料理をさぁやに女体盛りだ。さぁやの一番の手料理とあわせて三段重ねだ、楽しみだな」

 君子くんし庖厨ほうちゅうを遠ざくる也。

君子は生あるものを哀れむ気持ちが強いから、生き物を殺す料理場に近づくことは、とうてい忍び得ない。

 張り紙でもしてやろうか。

「朝食ルームもあるんだぞ。いつものメニューはどう女体盛りすればいい?」

 いつ服を着ればいいのだろう。

「台所は俺の領分だ」

 料理のりの字も知らないくせにいつからそんな。

「後ろから致す。キッチン・ファック、俺の夢だ」

 休みをください……。
 
 

 忠弘が笑顔で夢を述べつづける。

 ファミリールームではのんびりしながら激しく致そう。
 バスルームは本当に楽しみだ。まず脱衣場で致すだろう? 大きな鏡張りだ、気分はラブホだな、あとでいこう。24時間風呂だそうだ、もうその都度洗わなくていいぞ、湯船で致そう。
 トイレの個室は3つある、それぞれで致そう。せまいところほど燃えないか?
 視聴室ではAVを大音量で見ながら致さないか? より燃えるぞ。映像は俺たちの営みだ、いっぱい撮ろうな。
 荷物置場の部屋はどうだろう。そうか、どこになにがおいてあるかよくわかるか。よかった、とことん致そう。
 ほらここ、広いだろう? あえて手を入れず、さぁやのアパートにあったテーブルと、致すのにちょうどいいソファーだけをおいた。あえぎ声がこだまする、いっぱいないて。
 お待たせさぁや、もっとも重要なマスターベッドルーム、俺たちの愛の巣だ。横になればすぐ眠れるが、眠らせない。
 昼寝はしろよ、ころり眠れるぞ。毎晩必ず全体位致そうな。シルクのシーツ、毎晩何枚だめにしようか。さぁやもスプリングもぶっ壊す。
 
 

 社会人のたしなみ、聞き流した。

「ごはん。食べたい?」
「うん!」

 お肌がつやつやしている。頰がなんとなく桃色だ……。
 キッチンへむかった。

「指2本じゃもうたりないよな。襲っていいよな」

 そんなに夢が大事ですか?

 お姫さま抱っこからそっと下ろされた。以前はいかにも荷物を廊下におきましたよという扱いだったのに。なんだろう、いつものデリカシーのなさはどこへいった。

「すごいねここ」
「うん」

 即座に背後をとられ、ぎゅっと抱きしめられた。この男、キッチン自体は見ていない。

「業務用のとんでもないのじゃなくて、広いのにほんわかして、いいなあ」

 腰に当たる。

「まな板をおくところが何箇所もある、余裕を持って料理ができるよ。ぴっかぴか。片づけをきちんとしないと、いままで以上に時間がかかるな。
 わあよかった、前買ったジャーだ。ご飯は私がとうてい使えない本物で炊くと本当においしいんだよ。
 食器が多種多彩、ずらり。いくらするかな、間違っても落とせない」

 熱い。大きくて硬くて。

「調味料も調理器具もやっぱりすごい。こんなの使いこなせないよ。冷蔵庫もすごいね、こんな大きな業務用が3つ。
 ワインセラーにビールだけ?」

 激しく動きだす。上下に、左右に。円を描いて。
 その気になってしまうではないか。

「食材がある。そっか、旧宅の冷蔵庫にあった食べ物を粗末にしなかったんだね。えらいな忠弘」

 挑発は嫌いじゃない、むしろ好き。

「やっぱり、包丁もこのあいだ買ったの以外がおいてある。何種類もあったって私、使いこなせないよ」

 こっちだって、熱くなってしまうではないか。

「聞いている?」
「聞いている。犯したい」

 すそをめくりあげた。すけすけなレースのショーツを中途半端に下ろし、おしりをぷりっと上げる。

「し・て」
 
 

 午後。空きっ腹を抱えて忠弘の書斎へ。調べてからコンビニへいこう。
 座る忠弘の上に乗ってぎゅっと抱きしめられながら検索。

「コロッケとかいいなあ。油は本当に危ないからだめ、ね?
 新居に引っ越し祝い、カレーにしようかな。いか大根、いいなあ。ひじきの煮物が食べたい。なめこ汁にしようっと」

 この男を相手に毎日規則正しく外出、できるわけがない。
 効率化しよう。仕事より深くかしこく考えないと。主婦の道は厳しいぞ。

「牛丼とかいいなあ。よく食べたでしょう、もっと盛ってあげる」
「女体盛りのお初が牛丼か。さすがの俺も考えなかった」
「料理のりの字も知らない男がなにか食べ物を盛ったことある?」

 仲よく一緒に家を出た。
 マンションの事情を少々聞く。1階が山本家、5階が案内役宅。
 鍵の開け閉め、方法は一切教えてもらえなかった。

「さぁやには必要ない」

 あるよ。

 エントランスを通り、外に出る。もうすぐ10月の気候は穏やかだった。
 世間の空気を吸えたはいいものの、ひとりではむりそう。こうなったら怪盗清子を名のろうか。
 手をつないで歩いてコンビニへ。大きなカートに入れっぱなしで家に運べる、ひとりでも楽だ。

 スパゲティ用のレトルトソース、カレーのルー、チャーハンの素。
 必需品もおいてあった。なければ外に遠征する必要があった、ほっとした。

 忠弘が大量の食材を大きなカートで運ぶ。

「洗濯物はすべてそこのクリーニング店で。だと」

 なんと。ぜいたくをとおりこして楽しすぎていない? 過保護すぎるといいことないぞ。

「さぁやの下着は出すなよ。誰にも見せるな」
「じゃ室内に干すよ。見て欲情しないでね、私でしか勃っちゃだ・め」

 忠弘が、野外プレイが……とかなんとかつぶやいていた。さっさとおいていったら捨てないでとすがられた。

 家に戻ってキッチンで。

「挿れていいよな」
「だ・め」
「……いいだろ」

 もう。さっき十分致されたよ?

「やっぱりだめ。ちゃんと集中して作りたい」
「俺の夢だ」
「おなか減ったし」

 いつまでたっても手料理を作れない。

「後ろから抱きしめてね、でないと料理しない」
「そういう脅しは実にうれしい。丸めこまれるのもいい。さぁや、カレーなら前の5割増しで頼む」
「……本当ですか」

 あれ、大きな鍋でいっぱいだったのに。

「堅苦しい言葉づかいでも十分勃つ。懐かしいな。さぁや、言って」

 意地を張っていたあのころ。

「私、そちらさんを愛しています」
「俺は君が好きだ」
「……感じちゃった」
「勃ったぞとっくに」