もうちょっとがまん。

48 もうちょっとがまん。

 だめだろう巨根は。床に転がるほど笑われたのもいえない。
 夫を下から見あげた。

Q. 致します?
A. 致します。

 忠弘の手を握ったまま、自分のふとももにおいた。なでなでおさわりしてくる。なんとなくぱたんとはたいた。
 うれしそう。今度つねってやろうか。

 もっといたぶって、とか……。

「おっほん」

 友情と愛情と突発的できごとのはざま。迷いゆられて言葉を拾う。

「えっと……。
 辞めようとしたらご敬老がきてうやむや。
 退職の件は一課長と秘書に頼んだから、間違いなく、いまの私は山本家の専業主婦」
「さすがさぁやだ。
 敬老会の実態を知りたい。さぁやと老人しかわからん。案内役も知りたがっていたくらいだ。どうだった?」

 知りたいだろう、情報不足の忠弘に話した。
 大当たりは偶然、違ったら本当に帰れただろうか。

「一課長、秘書と朝まで飲むと知らせてくれたな。なにを話した?」
「えー、……っと」

 ど~っきり。まるで不貞をはたらく妻のような心境で、

「忠弘に告白すること、あの大会社へいくまで考えていなかった。捨てられるかもって、こわくて決心がつかなかった」
「逢えば抱いた。全部言わせた。他人は関係ない」

 格好いいよ? また惚れちゃう。

「ん……言った、きっと」

 あのときの気持ちがよみがえる。
 ただ一度だけ。想う人に、むりやり言わされるのもいい。

 今度頼んでみようか。どう口説いてくれる?

「秘書の、いわなかった恋愛話なんだけど」
「別に」
「あとで必要なの、ちょっと聞いて」
「うん」

 惚れぼれ光線でほほ笑みかけると、さらに思わせぶりな笑みが返る。もう、全裸まであと何秒?

「秘書はもてるけど、これぞという人がいなかった。
 惚れたら美醜も体の相性も関係ない。相手を見つけられる、両想いになれる。
 奇跡だから早く言いなさいって。
 決心がついたのはあの2人のおかげなの。飲みながら、私から恋愛話をした。
 ものすごーく怒られた」

 忠弘が即座に手を握りかえし迫った。

「なぜ。今度あの2人に会ったら怒鳴り飛ばしてやる」
「今度会ったら雲の上の人だよ」

 怒ったあなたも格好いい……。
 誘おうか、ベッドで体力のあるうちに。

 人さし指で深く刻む眉間のしわをつんとひと押ししてあげた。ゆっくりと怒りを静めてくれる。
 両極端もいい。中間、ゆらゆらゆれるところも全部いい。

「入社式のときもう忠弘が好きだったのに、いったやったは正反対。
 惚れた男を地獄に突き堕としつづけたとはどういうことだ、一本取られたから黙るつもりだったけどそうはいかない。
 えんえん説教された」
「説教だと」
「いいの。私、それだけひどいことをした」
「していない」

 即答しないで、好きになるから。

「いまとなっては大嫌いと言われても勃つぞ。さぁやのどこにでも俺を挿れる。犯りつづける」
「ん……あとでお願い」

 お相手しましょう、地獄の谷底でも。天国の扉の前でも。

「実はその……忠弘に、もっとおいしいコーヒーを淹れてあげたくて。日本一の喫茶店へ3人で行ったの」
「……怒るぞ」
「……ごめんなさい」

 忠弘が腰に腕を回して強引に抱きよせる。

「行くなと言っただろう。誰を勃たせた。何人はめた」
「そんなことしていない!」

 くちびると頰がまず先に。いい声すぎる、どうしよう。

「ごめんなさい……もう家から出……る予定が……」
「……怒ったぞ」
「怒ってもいいから聞いて、お願い、おねがい……」

 とても手綱はとれません。

「返答によっては。警護もなにも知ったことか、一歩も出さん」
「怒らないで、機嫌を直して……」

 忠弘直伝、くちびるをあわせながら伝える。

「……さぁやに機嫌を直せといわれれば……わかった、聞く」

 複雑そうな表情もたまらない。困った状況なのに、どうしよう。

「すっごい、意外な展開になったの。ここからは私が主役じゃないの」
「さっぱりわからん」

 一部始終を話した。

「私はなにもしていない。偶然にすぎないのに重責を担わされて、正直いってつらいの。
 私は忠弘を愛したい、愛されたい。すがって甘えてもらいたいだけ。ほかは全部忠弘にお任せしたいの。いい?」
「いい。全部俺が負ってやる」
「うん、お願い……」

 目を閉じるとすぐに舌がれろれろからみ、ほどなく激しくむさぼられた。

「……ほかもあるだろう? さぁや」
「うん……」