47 ゆびで。
MON, 30 NOV 2009
「危急存亡の秋に辞められるか」
「……だよね」
課長、みんな。うらみは私が一身にうける。
渡辺君、ピンチはチャンスだ自力ではねのけて。
「10割復帰の件はなし、代表者に直接伝えたぞ。だと。
……いいかえせなかった」
すねている。
こども同士のかわいらしいけんかに負けちゃって、認めたくないみたい。
「しかたがない。内容を聞いた」
4か月ふたりきりだ、体力が。
「断った」
「ん?」
考えが及ばない。
「なにが才覚次第だ私用携帯電話もろくに使えんだ。俺と逢えず声も聞けずでどうだった」
「すーーーっごくさびしかった!」
たいへんな一日だった、もうごめんだ。
「俺もだ。論外だと答えたら合格だと」
ん?
「仕事だけの者は不要だそうだ。
一課長、補佐だけでなく、案内役にも面接されていた」
車内ならずいぶんな圧迫。いやだなあ。
「いいかえした。6割復帰は俺の手柄ではなかろう」
……ん、反応のしかたが。
「ほそぼそと営業続行。大会社の体面をみずから捨てたも同然だ。直接の加害者が謝っていない、ありえん。別の理由があるな。
合格だそうだ」
案内役は椎名の上司。
「見抜けん者はいらん予定だったがけっこうだ、わが社にこないか。こっそりレベル10をやろう、だと。
さぁやと相談してからと伝えた」
「……そっか」
夫の背中を押そう。
任せたよ。
「新居の売りは警護、さぁやは逃げも隠れもできん。だと。
転職する。二つ返事で引き受けた」
ああ自信満々。
「あの、……ね?」
「いくらでも俺をさぁやに挿れる。
望むところだ、どんとこい」
こころに悪魔。みんな、棲んでいるよね?
4か月後は解放される。
あま~いささやき。
夫は見逃さなかった。視線がいたい。負けた。
いさぎよく毎晩致されよう……。
「引き継ぎがある。帰社する、車を停めろとけりとばした」
なんだと。
したかったんだぞこっちだって。社会人の礼儀がなっていないでしょう、いくらなんでも。
自分だけする気だったの?
「つまらん。ふだんのつながりが薄いのか、すっぱり辞めてみせろ。だと。
……いいかえせなかった」
天使が拍手。
どういう人だろう案内役って。
「式だ披露宴だの衣装、新郎側はどうする気だ。
いいかえせなかったら即断しろ、だと。
目の前にいる人物が誰かまさかわからんわけがあるまい。活かせる機会と判断できたら決して逃すな。それすら知らんか、なにが営業だ。さんざんいわれた」
ひとの夫に。どういうやつだ。
「結婚指輪も世界一のものを用意してやる、だと。

なぜここまで世話を買ってでる?
未来の部下のめんどうをみれば一課長に貸しを作れる、大手をふって引退できる、ぜひ頼れ。だと」
いいかげんにして。
「辞任届にサインしたら、

夫人のめんどうをあんなにみたのに名誉職にすら残らんとは。根まわししてやる。
握りつぶされたそうだ。
一本取られたと聞きこれだと即断即決、ぜひ礼をいっておいてくれ。だと」
知るか。
「さぁやに感謝していた。しかたがなく頼んだ」
いいのか。
「新婚旅行をどうするか聞かれた。多少俺の趣味を知っているらしく、アウトバーンを走りたかろうとずばりいわれた。
ついそのとおりといいそうになったら、近所のフランスの教会で式をしてはどうか、夫人息子と一緒に参列できると勝手なことをいう。
客を全員プライベートジェットで優雅にご招待するそうだ。
友だちにただで海外を旅行させたい。アウトバーンも走りたい。さぁや、どうしよう」
「そこで話を私にふるの……?」
「考えておいてくれ」
なんとなく、目が別の形になっているような気がする。
「家から一歩も出さんとは不健康だ、敷地内をふたりで散歩しろ。だと。
反論できなかった」
よかった外の空気を吸える。
「体と心の健康状態を聞かれた。
食生活、睡眠状況ともに最低。いいかえせなかった」
大の苦手、カロリー計算と対決してみるか。
「致しまくりで体力を奪い飯まで作らせるとは。健康もきちんとみろ、体重が前より減っていたら警護が誘拐するぞと脅された。
何kg?」
「えーっと……」
減っているような気がしないでもない。
「空調も完璧だが甘えるな。まさか致したあとろくに風呂にも入れず、真っ裸でうろついているんじゃあるまいな。だと。
この野郎は俺たちの家を盗撮しているのかと疑った」
極端だなあ……。
「都内有数の総合病院を紹介された。医療費は気にするな。だと。
風邪薬をはじめ生理用品、生理痛に効く薬もどっさりもらった。使って」
「……う、ん」
言い訳が通じない。
「旧宅を紹介してくれた友だちには、俺の妻は豪勢なマンションを持っている。こちらにこなければ結婚しないと脅されしかたがなく引っ越した、勘弁してくれと言い訳した。
許して」
「……いいよ」
なんとな~くだんだん包囲網が……。
左手首をなめてくれる。脈のところにはうくちびる、熱い舌に感じてしまう。
「俺からの話はいったん終了だ。さぁや、順に話してくれ」