陽光。

46 陽光。

MON, 12 OCT 2009

 淡い朝だった。

 車を降りた先、新居は5階建て。しゃれた洋館のよう。
 歩くと扉がひとつ、次も開く。誘われるように入った。1階の家、玄関へ。

 すぐそこに、

「忠弘!」

 広くて温かくて大きな背中。抱きついて甘いにおいを吸いこんだ。
 髪にキスして、耳に、頰に。きれいに剃られたひげのあたりに舌を落とす。

「好き、すき……愛している……」

 いったん腕をほどき、真正面にむきあう。
 目をつむっていた。まつ毛が濃い影を落としている。

「……忠弘?」

 組む脚の上に乗ってついばむように。

「ね、ただひろ?」

 口を真一文字に結んだまま。

「私に、……あきた? 捨てる?」

 がばっと抱きしめられた。強引で激しく熱い、守られている。大切にしてくれる。

「誰がさぁやを捨てる!!」
「やっと声、聞けた」

 腕すら回せないほどぎゅっと抱きしめられる体格差。厚い胸板、たくましい腕。
 組み伏せられたい、攻められたい、むちゃくちゃにされたい、征服されたい、犯されたい。

「どうしたの? ね、忠弘。すき。……して……挿れて……」
「……さぁ、や……」
「……ん?」
「俺……」
「ん……」
「……俺」
「ん……」

 耳もとでささやいて。

「情け、……ないだろ」
「なんのこと?」

 肝心の表情が見えない。

「……いいんだぞ」
「? なにを?」
「……情けないって、……言っていい」
「えっと、……なに?」

 少し、間があって。

「……鼻血」

 がっっっくり。

「……いいんだぞ。情けない男は大嫌いだ。鼻血男は嫌いだ。格好悪い男は大嫌いだ」
「忠弘が好き、あと知らない!! だから連絡しても出なかったの?!」
「出られるか!!
 ……そちらさんのような情けない男は大嫌いと……いわれるかと……」
「愛している! じゃなに、忠弘の妻は夫をこけにする最低女?!」

 ぎゅう抱きしめられる。見えなくてもわかる、困った顔してすねている。

「さーやはそんな女?! 言って!!」
「……ちがう」

 小声で慄えておびえている。

「ちゃんとごはんを食べているかって、眠っていなかったらどうしようって、ずっと心配していたんだから!!」
「……うん。……さぁや、……」

 ほっぺで髪をすりすり、声まで5歳児。

 腕をゆるめて、濡れた瞳で一瞬見つめあい、すぐ目を閉じて、舌の分だけくちびるを開けて求めあった。重ね、奪いあい、角度を変え、吸ってからめてはなさない。甘い唾液を飲みあった。

「ん……ん」

 同じ熱さ、ぷっつり切れても。

「さぁや」

 見とれるほどいい男。不安もふき飛んだ。

「……ん?」
「最終確認だ」
「……ん?」
「俺がいいんだな」
「うん!」
「もう聞かないぞ」

 なんのことやら。

 立ちあがり、妻をひょいとお姫さま抱っこ。

「?」

 まさか。こんなに自然なロマンティック、する?
 メインリビングルームという空間は生成り色とオフホワイト。繊細なレースのカーテンから光がもれ、淡く照らしていた。

「いいたいことがあるだろう。聞きたいこと、したいことがあるだろう。俺もだ」
「うん」

 いわく、案内役はあの野郎。
 新婚夫婦そろって外野からずいぶんいわれたらしい。
 新居のこと。内装がどうの。台所まわりに口を出されなくてよかっただけで、プライドずたずた。

 すきほうだいよくもまあ。腕力さえあったらぶっ飛ばしてやりたい。

「転職をすすめられた。内容を聞く前に断った」
「……ん?」