怪光線。

41 怪光線。

 眼鏡が壊れて抱きしめられてどきどきした。ついてっきり引っ越した。忠弘が沸騰するのは当然だ、でも気づいたのはあと。
 指輪がとても気に入った。生活感もあうんじゃないかな、料理以外はなんでもする男だし。

「婚約指輪に結婚指輪。どうするのかな」
「重ねづけする人もいるわね。実際は、家事のとき気になるでしょう」
「いい案はある。山本某に聞きなさいね、きっといい答えを返すわよ」
「ふうん……」

 サンドイッチを作ったら泣かれた。年なりにプライドがある大人の男性が食事のたびに泣く。

「あの日からどうすごしていたのか聞いた。こたえてもらえなかった。忘れたって……」
「そう。確率は半々だった、おそらく当人もそうとう迷ったはず。
 少年の半生は根幹、尊厳に関わるわ。あなたといえども傷つけてはならない。彼の意思を尊重して。過去はもう、聞いてはならない、知ってもいけない。
 よく肝に銘じて」

 うなずいた。

「さあ、続けて。いつ本題が始まるのかって期待しているのよ?」
「はあ……」

 北海道出張の話をした。

「まさかすすきのへどうぞとかいわなかったでしょうね」

 ばれている。

「こら!!!」

 2人に声をそろえられ、しゅんと小さくなった。

「いくらなんでも少年がかわいそうよ。なにが冷たくあしらったよ、どういうこと?! 事前に、とうに告白してあげるべきよ!」

 笑い転げたのはどちらさんでした?

「山本某が嫌いなあたしでさえ同情するわよ! ひどすぎるんじゃないの?!」

 2人にたっぷり怒られた。身に覚えだらけ、申し訳ございませんの一点張り。

「ふー……少しは気が晴れたわ。さあ、続けて。いい加減希望内容を白状してくれないかしら」
「ふっ……お待ちのシーンを申し上げましょう」

 のどを潤すためワイングラスをかたむけた。

「やっと? どうあえいだかまでちゃんと鮮明にいうのよ」
「えぇえ……」

 2人が目から怪光線を発した。たじろいで観念する。

「えー……三日間無視しちゃいまして。せいせいしてばんざーいって社内で言っちゃ……」

 2人の怪光線がさらに増した。あぶない不穏な光景にちぢこまる。

「忠弘さまはご帰宅後。当然お怒りで。殺されるかと思った。
 次、どうなったかわかる? ここまでひどいこといったりやったりの私をぐいっとひきよせてキスですよ。はあ、それはもうねっとり熱く。お2人のご想像以上でした。すぐ濡れた。
 よく雨にたとえた歌詞を聞くよね。実態がなにかも知らなかった私がですよ。なんで挿れて、いますぐセックスしてっていわなかったかいまでもわからない。
 一歩手前って、この時点でもなの。なぜか上半身にとどめてくれた。理由不明。どう命じられてもこわくて聞けない、あのときのことは。
 冷たくて真っ暗な奈落の底の表情……目が死んでいた。
 たぶん、5歳以降はずっと……」
「……そう」

 一息ついたのを見計らったか、しおりが3つのグラスを満たす。

「ずいぶん笑わされたけど……やはり、実際は聞かなければわからないわね」
「続けなさいよ、清子」

 3人とも、めいめいのペースで注がれた赤を飲んだ。

「全部私が悪いんだけど。飯を作れ、愛していると言え、忠弘と呼べ、結婚しろ。
 さすがに命令ばかりでぶち切れて、山本家の禁句をあるだけ言った。
 忠弘、激変して……指一本ふれないとかできもしないこと言っちゃって。
 はーいお待ちのシーンでございます」

 2人の目の輝きは一瞬にして危険度レッドゾーンに達した。

「やっと?! 前ふりが長すぎる!」
「はあ……やっぱり一歩手前だった先週。
 ……させられましたよフェラチオ。なんですかもう目の色変えちゃって。
 一言いいですか? 精液まずい。
 聞いていないって? はいはい、知りたいんでしょう、例のがどうかって。
 ばーっきばきに太くて硬い。どれくらいか? 見ましたよ私だってそれなりにすけべぇですからねえ、洋のポルノビデオ。出ましたよいかがわしい警告画面が。あやうくデバイスは感染私は特殊詐欺にひっかかり、公共機関名をかたった最終通告書が……え、そこじゃない? はいはい。
 洋でした。両手で扱けるんですよ、あごがはずれるほど口を開けないと咥えられない。あんなの挿るわけない。巨根ですよ、聞こえはいいけど凶器だって!
 昨夜というか今朝まで致されましたが。本番で満足してもらえなかったらどうしようって御社におじゃましたときも心配していましたようはいはいこれが私の一番の本心でございます! ええ、それが聞きたかったあ? でしょうねえ!!
 生理のときはしないとか……ぜーーーったい犯りますねあの男。間違いない。生理中は全開で痛がらないとやっていられない。明日から4か月間毎日毎晩ごはんを作っているときもトイレに至るまでされそうですよ。ふたりきりにしていただいてけっこうですが、ありがたいというか死ぬ気でかからないとというか……はぁ。
 よく先週の月曜日出社できたなあ……オーラルだけだからって? そんなわけないでしょう、激しすぎ強引ちからわざばーーーっかり!
 なぞのお得意先から連絡があって助かりました。もう勘弁してくださいよ……しない? ああそうですか……」