実家にて。

34 実家にて。

SUN, 9 NOV 2008

 ぼうっとしながらゆっくり身を起こした。

「ああ、ひさびさ。……運転お疲れさま、忠弘」
「うん」

 懐かしの地は前とすこし変化していた。連絡する。

「はーいあなたの加納でーーーす!」

 実弟、大学2年生。

「偉い姉よ、もうすぐ着くから玄関で出迎えて」
「待っているぞ、にいちゃん格好いいか?」
「弟の百倍はね」
「よしいいぞ、酒が飲める!」

 加納家に到着。

「いらっしゃーーーーーーい!!」

 万歳でお出迎え。

「よくぞわが娘と結婚してくれた! さあ、上がってあがって!」

 笑顔で借家な実家の敷居をまたいでくれた。

「お父さんに一発ぶん殴られたほうがいいのか?」
「いつの話? Mがすぎるよ」

 茶の間のテーブルにずらりと並ぶお赤飯、ごちそう、ビール。

「まずは乾杯!」

 父がジョッキを持つ。

「その前にあいさつを」

 忠弘がざぶとんの横に正座する。隣で、ざぶとんを外して座った。

「山本忠弘と申します。さやと結婚しました。これからも末永くよろしくお願いします」

 ふたりで手をつかえ頭を下げた。

「はーーーい了解! さあ頭を上げて! 堅苦しいことは抜きぬき、倒れるまで飲み倒そう!」
「ありがとうございます」

 飲むわ食うわの大食漢、やはり驚いていた。早々に台所へ消える母。

「いっやーにいちゃん格好いいですねえ! よかった!」

 今夜のことを考えて苦手なビールは飲まない。食料補給に努めた。

「姉のどこがよかったんですか!」

 酒が飲める歳にやっとなれて、うれしくてしかたがないもよう。

「控えめでやさしいところ」
「聞いたか姉! にいちゃんほめてるぞ!」
「山本君……いや息子。ずいぶん飲むねえ、……あぁ頭ぐるぐる……」

 弟は早々にダウン、父もろれつが回っていない。
 忠弘がキスする勢いで、

「さぁや、先に風呂に入って部屋にあがっていて」
「ん」
「さーやときたか、いいぞ息子!!」

 茶の間を失礼。
 廊下で母が呼びとめる。

「お疲れさま、お母さん」
「ずいぶんきれいになったね。あの人のおかげ?」
「うん!」

いろいろ、おかげさま。

 この心を忘れなければいいわ、ただし言い放ちぐせはやめたほうがいいわよ……お茶の淹れかたを教わった女性の言葉。

「よかった。ずいぶん食べる人だねえ、そのへんどうなの?」
「実は……」

 里帰りの本心をぶちまけた。

「だったらもっと教えてやるんだった……」
「そのとおりでございます……」
「朝ごはんは手伝いなさいね」
「はい」

 お約束、実家に帰らせていただきますと口に出した日には……この先どうしよう。

 悩んだところで重い足音はやってくる。

「さぁや、お待たせ。さあ脚を広げて」
「ちょっと恥ずかしいかな」

 身を起こし両腕を広げ笑顔で、

「きて」

 口もとと鼻の部分を右手で抑え、斜め下に視線を落とす。

「どうしたの?」
「……鼻血が出そうだ」
「連れこんだ日から出していたんじゃないの?」
「出血して眠れるか……鼻の奥が……」

 いいや忠弘ならできる。

「鼻血まみれで致して」
「できるか。体面だ、沽券に関わる」
「じゃあこの姿、いや?」

 黒の総レースが乳房、しげみをより強調。

「んなわけあるか。……あのな、刺激が……」

 ある程度想像したというすけべな下着。
 実物はいかが?

「毎日この姿で出迎えてあげる、慣れて」
「……あのな。夫を失血死させる気か」
「うん」
「……あのな、く……俺をして惚れた女を直視できない事態がこようとは……」
「甘い」
「Sか」
「致してくれないの? ずっともだえて待って、あふれているんだよ? 好き、忠弘。挿れて?」
「……この!!」


 声もかれた翌朝。
 ふたりで台所へ。母がいない。

「どうしたのかな」
「3人とも茶の間にいるぞ。つぶして毛布をかけてある」

 髪の毛を頰でなでる。

「お母さんまで? ビールもなにも、お酒ほとんど飲まないのに」
「俺は営業だ。怒るだろうが取引先の女性の受けはいい」
「うわ、やっぱり。だから意地を張ったの!」
「……やはり最初から迫るんだった」
「あれ? 皿とかどこに……」

 ちらっと見た台所にもなかったような。

「洗い物なら片づけた」
「え?」

 後ろから抱きしめたまま、

「鍋、まな板、包丁はわからんが、とにかくさぁやがいつもやっているようにしてみた。一生ずっと一緒だ、料理はできんがほか、やれるところは俺がやる」
「……ありがと」

 父と弟は完全にぐったりのもよう。

「起こさないほうがいい、まず昼まで起きられない」
「人によってどのくらいかわかるの?」
「俺は本職だ」
「どうなっているんだか……ね、お母さん。一緒にごはんを作ろう」

 うなって起きた母、

「……え、ここ……どこ?」


 3人で台所へ。料理開始。
 さすがの忠弘も、いまに限っては椅子に座って女性2人を見守った。

「ええっと。山本君、というより忠弘君。今日は日曜日ね、もう泊まってはいけない?」
「はい。朝ごはんをいただいたら帰ります」

 米を研いでだしづくり。

「男性2人は寝ているし。代表で、私からいくつか質問していいかしら」
「はい」

 さっさとぱっぱと慣れた手つきで朝食を支度する。ふふふ、少しは成長したのよお母さん。

「清子と、なれそめは?」
「1年半前、入社式で。同社同期の同い年です」
「ああ、それで」
「はい」
「お父さん、あまりのうれしさにその場で結婚してとかいっちゃったの。後悔していない?」
「まったく」
「同い年なら24歳くらいよね、いくつ?」
「11月14日で24歳です。お母さんは反対ですか」
「いいえ! 清子に好きな人ができたとは初めて聞いたし」

 ぴくんと反応していた。

「驚いているだけよ。ええと、あなたはどういう人なのかしら。男前と大食漢はわかったわ。ほかには」
「両親がいません。血縁者すべてと絶縁しています。出自は最低です。やはり、いけませんか」
「……! そう、ではなくて……」
「披露宴もできません。こんな最低の人間には、大事な娘さんを」
「そんなことをいってはいけないわ!」

 母が包丁をおきむかいあう。

「……ただひろ?」

 少し小首をかしげて笑顔を浮かべる。大丈夫。

「ほかに条件は」
「清子が好きなら」
「好きです」

 うなずく母。

「結婚式、親類のかたの列席はお断りしていただけますか。情けない男ですみません」
「……そんなことをいうものではないわ」
「こんな俺をうけいれてくれました。死ぬほど感謝しています。
 ひたすらすがっています。お願いです、俺からさぁやを奪わないでください」
「……すべて忠弘君のいいように。
 盆暮れ正月もこなくていい、どうか清子と一緒に……」