33 ともに歩むふたり。
SUN, 9 NOV 2008
いままでで一番しずかな声。
もっと早く。
できたのに。いつでも、なんでも。
「泣かないで。
甘えていいんだろう? 一生すがって頼るからな」
観音様のようなほほ笑み。
「どうした……?」
「……どうして?」
「……惚れたから」
「こんなに……」
もどかしい。
「俺の客は友だちだけだ。さぁやも親御さん以外は友だちだけにしてくれ。そのへんの、小さな教会で挙げたい。いやか?」
「いやじゃない、そうしよう」
楽しそうな友だち。……うらやましい。
「結婚の誓いのとき、指輪交換があるだろう? それまでに用意してみせる」
「……待っている」
子どものころは誰でもこんなふう。瞳も曇りないガラス玉、おおきな黒目。
いつから変わってしまうのか。
「飯を食ったら役所へいこう」
ごはんを作って……あ。
「どうした?」
肝心なことを。
「私の親に結婚の報告をしたいの」
「ああ……そういえば」
教えてあげよう、一生かけて。
どこ? 確か、メッセージを送ったのが操作したさいごだったから……そうそう、
「寝室」
「で致そう」
あまりにも感情がまっすぐだと、ガラスさえ曇らない。本当にこの男、5歳児のままいきなり現在に至っている。
「……抜くなら抜くっていうのは?」
「寝室イコール愛の巣だ」
「……おなかが空いた」
「後ろから犯ってやる」
「汗でべとべと」
「風呂場も致すところだ」
「……じゃ、どこで?」
「家のなかは致すところだ」
ほかはないのか。
「……。とってきて」
「離れられるとでも?」
「トイレは」
「致す」
「どうやって」
「放尿しながら」
ぶん殴った。
「痛くない」
「Mか」
「さぁやが開発した」
さあ折衷案だ。
ロマンティックなお姫さま抱っこを希望、この体勢なら致せない。
寝室へいって、すぐリビングにとってかえして連絡。
ドライブ中眠って体力を回復します、あとはぶっつづけ。どう?
「さすがさぁやだ。営業にきたらさぁやのほうが出世したな」
「もう、へんなプライドは捨てて!」
「いやだ」
実家に連絡してくれた。
「Hello, world! あなたの加納でーす!」
実父。50歳前後、男性。
コーヒー類だけ偏執的に凝り、ほかは能天気。自称万年係長でずっといたいなあ、なんだかあやしくなっちゃった。
「そちらさんの娘の清子ですが」
「おぅやわが娘。ひさびさだな、どうした。いよいよリストラか?」
秋に結婚したな。
「私、好きな人ができたの」
「なにーーーーーいいいい?!」
あのころこの手の感情はわれながらなかった。
忠弘をどうこういえないな。
「誰でもいい、気が変わらんうちにやっちまえ!!」
「うんやった、気が変わらないうちに結婚したいの」
「でかしたわが娘!! さっさと役所へいけ、届けを出せ!! 気が変わっても離婚届にサインしなきゃいいんだからな!!」
「そうする。でね、気が変わらないうちに夫と家に帰りたいの」
「わかった連れてこい!! 拷問かましていうこと聞かせてやる!!」
ピンヒールを持っていこう。
「ごちそう10人前を準備して、夫大食漢なの。ちゃんと立派な格好して待っていてね。ああそうそう、ビールもいっぱい」
「さぁや。行くのはいいがすぐ帰る、家で致したい」
「18年間暮らして私のにおいのしみついた私の部屋で致したくない?」
「致したい。
親御さんたちは俺の営業トークで飲ませつぶす、俺たちの激しい愛の営みの音を聞かれずに済む」
「うん。お父さん聞いた?」
「でかしたわが娘ーーーーーー!! さっさとこい!!」
ぷっつり切って、
「どう?」
「最高だ。さすがさぁやだ、営業部長にどうだ?」
「やったね忠弘をこき使ってやる」