応えた女。

32 応えた女。

WED, 22 OCT 2008

「忠弘」

 一生の宝物。

「好き」

 初めてのキス。

「……ん」

 ベッドにあおむけにおかれ、無防備な中心をリップ音つきでキス。ちゅく……ぴっくんはねる。

「……ん」

 起きあがり、ぐい。ネクタイを外していた、中途半端に。
 あてがわれた。怒張が、

「っっっーーーーーーー!!!」

 ぎりっぎり。瞬間イった。
 
 

「……や、っと」

 スーツ姿のまま。動きもなにもかも強すぎ、下のシーツとともに枕の方向へ。

「愛している!! 愛しているあいしている愛している、さぁや、言って!!」

 がんっがん突かれて引かれてがっくがく。

「……愛している、忠弘」
「さぁやあ!」

 はぁはぁ、ぶっ飛ぶ。抜けた声ときしむ音。

 愛情よりも激しくて、
 劣情よりも醜くて、
 絶望よりも非合理で、

「っっっっっーーーーー!!!!」

 一発絶頂。真っ白け。
 
 

 ぽたぽた。

「……?」

 とうに忘れた存在。

これはね。

死んだとき、認識してもらうためのもの。

戦死時に遺体は原形をとどめない。

人が人を殺してはだめなんだ。

子孫がおもいを受け継ごう。

だから。

どうか、

こんなものがいらないほど、

きれいな体のままで……。

 首にかけられたときの守りの言霊。
 ……よく憶えていない。

夕ごはん、なににする?

 ぽたぽた。

むかえにいくからね。

起きて、忠弘。

 よく寝坊した。

もう動かないの?

 イって動かない、惚れた女。

動かないよ

だって

あれは

もう

単なる

 病院の霊安室。どっちがどっちかもわからない、分けられない。
 どす黒い。鈍く光る番いの認識票。 

むしりとっていたんだって 客から

金の亡者だって

文字どおり 死んで当然

その息子がなぜ生きている?

「さ、ぁ、や……」

生きていないんだ

だって

あれは

ただの

むかえにきたよ。

「さあやああああああ!!!!!」
 
 

 ゆうるり起きた。

 ふとんのなか、目の前には惚れた男。脱いじゃったんだ。
 ねえ、スーツで抱いて。
 お願い、かなったな……。

「……言って? 全部」

 どっきどき、どっくどく……。

「忠弘が好きだった、ずっと前から愛していた……」
「言って……もっと……」

 つながって、ふれて激しく鼓動する。

「一生、手料理を作ってあげる……」

 番いのタグにキス、よく音が聞こえるように。

「もっと……」
「一生守って、すがって、甘えて、愛して……」
「もっと……」
「はなさないで、抱きしめて、もう離れない……」
「もっと……」
「一緒に生きよう……忠弘……」
「……うん」

 伝えるために舌だけ、

「もう、……眠れる?」
「……うん」

 熱い両手がおしりを淫媚になぞる。美乳とほめられた乳房と乳首をたくましい胸板に押しつける。

「……さぁや……前からきれいだがいちだんと……眼鏡どこ? 俺が見える?」
「見えるの……忠弘だけ」
「うれしいが……誰にも会わせたくない、皆さぁやで勃ってしまう」
「そんなの知らない……忠弘、して、見えるところにいっぱい、いっぱいキスマークをつけて、私は忠弘の所有物だから……」
「さぁやは物じゃない……が、見えるところだけか……?」

 迫ってきて、べろりとなめてくれる頰。くせかな?

「ぁん……全部……でも」
「どうした……?」

 やさしい声。

「なんでも言ってね、全部そのとおりにするから、なんでもいうこと聞くから、一生……」

 ちゅく……音をたてて。くちびるをふれあわせ、舌をれろれろからませて。言ってほしくてむさぼりあう。糸を切らさず伝えあう。

「だったら会社を辞めろ、月曜日朝に退職届を出せ。俺は嫉妬深い、誰にも引き継ぎするな、誰とも一言もしゃべらずその足で家に帰れ、俺たちの家を一生守れ」

 伝えるたび激しくキス。

「上司に伝えて? 誰ともしゃべっちゃいけないんでしょう、ね……」

 番いのタグ、ふれあって音がした。鼓動するたくましさ、ぴんと勃つ乳首のまわりに人差し指でのの字をかいてあげる。

「ぁあ……いい」
「お返し、して……?」

 すりよってキス。
 上体を起こす。乳房がぷるんとゆれた。もまれてお返し、ほんのり桜色の乳輪を攻める。

「誰とも会わせない、もう出社しなくていい、家を出るな……」
「一緒に出社したい……ずっと夢だった」
「そう、だな……首筋に死ぬほどつけてやる……」

 腰をつかまれてどがんばがん、ぐっちゃぐちゃに突かれまくった。ないてあえいでもまれてイかされた。
 もう絶頂。真っ白け。
 
 

 意識が淫媚に引きもどる。

「なにを……聞いてもいいか、全部、答えてくれるか、言ってくれるか……全部」
「うん……」

 甘さのかけらもない禍々しい声で、

「……なぜ大嫌いと言った」
「ごめんなさい……」

 まっすぐな瞳、そらせない。

「そんな言葉は聞きたくない、理由を言え!」
「だって……」

 熱はどうせ気まぐれだから。

「だってじゃない、言えさぁや!」
「だって……じゃあ、……どうして私?」

 下をむいてしまう。
 大きな手が髪をかき分け頭の後ろに回る。きつく、深く猛々しくむさぼられた。追いつけなくてただ受けた。

「それで無視したのか、しつづけたのか、俺がどれだけ!!」
「ごめんなさい!!」
「聞きたくない!! 愛している以外なにも聞かん!!」
「……ただひろ」

 ただの言い訳、聞いてもらえない。

「なぜ呼ばなかった、名前もなにも、……そちらさんだと?! 二度と聞かん!!」
「怒らないで! 許して、私を愛して!」
「……さぁやに、……言われれば俺がとまるとでも? ……甘いぞ」

 むさぼる舌も、においも甘い。

「……どうすればいいの……なんでも、するから許して」

 首に回した手に力をこめた。奥まで突かれるたび爪でひっかいた背中に指をはわせる。

「理由を聞いていない、質問に答えろ!!」
「っ、あの……自分でも、わからない」

 小声でしか言えず、

「なんだと?!」

 目をあわせていられない。ぎゅっと瞳を閉じて、

「知らないあいだに言っちゃったの、どうしてだかわからない、怒らないで、私を捨てないで!!」

 のどに顔を埋めた。

「誰がさぁやを捨てる!! さぁやこそ俺を捨てる気でいるくせに!!」

 顔をあげて、

「そんなことしない、できない!!」
「なぜ鍵を捨てた!! ずっと捨てる気でいたくせに!!」
「だって!! なんでそんな格好いいのに私が好きなの?!」
「理由は言った!!
 ずっと家を出る気でいただろう、いますぐ出ていく気だろう!!」
「しない! 愛している忠弘!!」

 ぎゅっと抱きしめあってむさぼりあった。音をたてて激しく舌をほどく。

「二度と出るな、一歩も出さん!!」
「一緒に出社できない……」

 なんでもするから。

「……なぜさぁやはそんなにきれいになった……もともときれいだが今夜はいきなりもっと……俺がいないあいだなにをしていた」

 ぐいとあごをつかまれた。
 0ゼロ距離で迫られるたび、想いを告げられるたび。

「忠弘にされてオナニーしていた、見たじゃない!!」
「……確かに。だが……異常すぎる……なにをしていた……一課長となにを話した、なにが勘弁だ、全部話せ」

 いくらなんでも、

「セックスしながら話せない、忠弘のことだけ考えているの!」
「……なにが営業トークできないだ、俺より口が回っていつも丸めこんで……言えさぁや。この先ずっとセックスだ、俺のことだけ考えながら言え!」

 だったら、

「なんで好きって言わないのか怒られた!」
「……なんだと?」
「ひとめでわかったんだって、私と忠弘が両想いなこと、でも私だけが忠弘に好きって言っていないこと、全部知られていたの!」
「……本当か」
「うん。きっぱり拒否した」
「……どう、して?」
「だって忠弘あの場でしちゃって仕事しないでしょう?! そんなのいや!」
「……いいのに。よかったのに」
「だめ、ちゃんと仕事するの!」
「……。うん」

 ちぢこまって、

「……怒るな」

 甘えすがる困った顔。

「怒らない、愛している忠弘」

 くちびるをよせると熱くむさぼってくれて、激しくからめると応えてくれた。
 だらり、銀の糸を切らさずに。

「一晩じゃたりないでしょう?
 惚れた男の自慢の、だぁあーーーれがみせるもんですか! どうせカメラとかあるよあんな立派な部屋なら複数。
 こっちは謝りにきたんだ仕事中だ、わかっているんだぞって怒ってやったら一課長黙ったの!」
「さすが俺の妻だ」
「うんっ!」

 キスして楽しく舌を離す。

「ね、結婚指輪は? 妻はずっと待っていたんだよ」
「ああ……そういえば」

 いま気づいたな。

「さぁやとセックスすることしか考えていなかった」
「もう。よく出世できたね」
「まさかいまさら仕事ができん男は大嫌いだなど……」
「大嫌いだよ? でも忠弘は好き」

 髪をなでてあげた。よしよし。

「順番を逆にしてくれ、心臓が停まったぞ」

 同じく返してくれた。喜色満面ですねて怒鳴り飛ばして、あいも変わらず忙しい男。

「忠弘の心臓を停めるのは、私だけ」

 こんな男に惚れちゃった。

「こんな女に惚れたな……さぁやも営業にくるか?」
「私が営業事務だったらな」
「いまごろきっと……なぜそんなに突然きれいになった。話をそらすな、営業トークがうますぎる」
「じゃあ、愛しの忠弘にだけ」
「ああ」

 ちゅくちゅく、ちゅうちゅう、舌をれろれろ。

「一課長のところにコーヒーを運んでいた美女がいたでしょう?」
「知らん。さぁやが美女だ」

 なんとなく、相性が悪そう。

「とにかくいたの。ほら、忠弘を山本某とか呼んでいた人」
「別に」

 興味ないみたい。

「黙らせたら、一課長から一本取った人は初めて見た、おまえの人生を変えてやるって、さっきまでエステで顔も体も全部磨かれていました」
「いましただと。全部だと。俺以外に裸を見せたのか」
「この歳でなにもない、はありえない。でしょう?」

 セフレとかいきなり、びっくりした。

「……やめよう。こんな話はセックスの最中にするものじゃない。
 それで。エステとやらへいくとそこまで突然きれいになるのか」

 わざとらしい。よく営業やっているな。

「なんだかねえ、今日で日本一の女にしてみせるって豪語された」
「……レーシックか」
「みたい。あのね、日本一の店リストを送られちゃったの」
「……なんだと」

 なんとか終わりにしてもらえた、もう怖いものはない。
 はず。

「忠弘の誕生日プレゼントを買ったの。もらって?」
「そんな天井知らずな金、どこに持っていた」

 興味ないみたい。欲しくないのかな。いらないのかな。

「私がいくとただみたい」
「……なぜそんな人脈を総務一直線が」

 また怒って。

「どうして営業は総務を下にみるの? 総務のほうが偉いの!」
「……そのとおりといわされそうだ」

 いわせてみせる。

「待て、プレゼント……俺にくれるのか?」
「うん。一生、忠弘にだけ贈るから」
「うれしい……」

 キスしてすぐに激しく返される。

「中身はなんだ? どこにおいてあるか知らんが抜かんからな」
「えっと。腕時計」
「……なんだと」

 お怒りだ。

「いやなの?」
「そうじゃない。うれしいが……俺がさぁやに買ったものより高いということじゃないか」

 困った夫だ。

「もう、へんなプライドは捨てて!」
「俺からプライドと牙をとったらなにも残らん。……リスト? ……ひょっとして宝飾店もか」
「うん。ほかにもすごくいっぱいあったよ。抜かれたくないからあとで見てね」
「俺のプライドが……結婚指輪も贈れん」
「欲しい! 忠弘が欲しい!!」

 脚もぎゅっとからませた。全身つながりあったまま。熱い怒張、本当に大きすぎ硬すぎ激しすぎ。

「くれている!!!」
「ぁんっっっっっっっ!!!」

 過激に突かれた。体位が変わって組み敷かれ、がんっっがん。真っ白け。
 
 

 目覚めてもぴったり。

「いいかさぁや。この先一生ずっとセックスだ、わかったか。話をそらすな。……友だちに頭を下げて返品するんだぞ……」
「がんばってね
「……降参だ。さぁや、一生……」

 勝った。

「いつ結婚するの? 月曜日朝までって、何曜日?」
「……いますぐしたい。このまま役所へいこう」
「できるわけがないでしょ!」
「……言ってみただけだ」

 無防備な5歳児。

「いついくの?」
「……抜きたくない」
「あの、ちょっと、……トイレとか……」
「ああ、……まあ。そのときにいこう」
「もう。あ、そうそう。忠弘に驚かれたくないから先にいうね」

 頰をべろりとなめあげた。

「……なんだその不穏当な発言は。何度俺を地獄に突き堕としたら気が済む」
「日本一のお店で服とか靴とかバッグとか大量に買わされちゃった。おくところがないでしょう? 都心一等地の大きなマンションに引っ越せって豪語されちゃった」

 がっくり肩を落としていた。

「……待て。……服? 1着しか……おくところ……待て、不動産会社の息子にまで俺は頭を下げるのか」
「うん、そう」
「簡単にいうな。ここはむりを重ねて格安で紹介してもらったんだぞ。もっといいところを見つけたから引っ越すなど失礼だ。友だちの好意だぞ?」
「忠弘の人脈がその程度ってことだけど?」
「……大嫌いより傷つくぞ。頼むからこれ以上俺を地獄に突き堕とすな。なぜセックスの最中に奈落の底に戻らなければいけない……やっと結ばれたのに……」
「ね、すけべな下着の私とか見たい?」

 困惑していた。

「……なんだそのはしたない単語は」
「見たくない?」
「見たい。死ぬほど見たい。一生セックスしよう」
「うん!」

 外では気の早い鳥がもう鳴いていた。
 
 

「さぁや。起きて。朝だよ。飯、手料理を食わせて」
「ん……」

 ごはんに反応してくれる。美乳をもみつづけた。

「いま、なんじ……?」
「同感だ、さぁやのプレゼントが欲しい。どこにある?」
「……荷物の部屋」

 裸のまま一緒に。

「そのへんにおいた……」

 品の隣にあぐらで座った。両脚を広げてまたがせる。首に腕を回してくれた。
 包みを開ける。……バレンタイン。

 絹の風呂敷、桐の箱。品を包む絹布に守られた時計。
 値段は天井知らず、ではなく、つけられない。値札は外されたのではなく、最初からない。
 この世でただひとつの品。

「……文字盤……指輪と同じ色?」
「そう……男物の時計ってどう選べばいいかわからないし、ああいうお店のは性能とか全部いいって聞いたから、たんに見た目で選んだの。これだ、って……」
「……うれしい」

 時計を左の手首にして、みせた。

「気に入った、ありがとう」
「よかった……」
「俺の誕生日はまだ先だ、……前渡し、か」
「ううん、違う。去年の分」

 ちゅう、ちゅう、キスしてくれる。同じく返した。何度でも一生。

「……去年?」
「うん。ほら忠弘、欲しかったんでしょう。今年のは別なのを考えて贈るから。毎年ずっと一生贈るから。なにか欲しいものがあったら言ってね」
「だったら……誕生日とは関係なく……頼みがある」
「いいよ、なんでも。全部そのとおりにするから。なに?」
「これと同じので、女性用を作ってくれるよう、頼んでくれないか。さぁやとそろいの時計がしたい」

 鎖+指輪+時計、3点全部おそろい。

「……うん! すごい、すてき!」

 誰に作ってもらえばいいかわからない。自力でできない。
 プライドを曲げ、白旗を掲げた。

「結婚式しよう」
「……ここで?」

 明かりもつけない物置の畳のうえ。

「ああ……」

 ロマンティックなるものを誰も教えてくれなかった。

「営業の知識として、結婚式に出席してほしい客に招待状を出すのは3か月前が妥当といわれる」
「話したいんでしょう?」
「そうだ」
「せめてリビングでしようよ」
「このまま時雨茶臼はだめか」
「もう」
「さぁやとセックスすることしか考えていない」
「もう……」

 右腕に抱きしめ立ちあがって、リビングへむかった。

「いま何時?」
「10:05」
「のどがかわいた。水を飲まない?」
「腹も減ったろう」
「ん、でもお話を先にしよう。あ、水は飲みたい。忠弘もでしょう」
「うん」

 冷蔵庫前で下ろし、左腕で腰を抱きしめて右手で冷蔵庫を開ける。特売日にねらっている特選秘境の水。

「ね、あれで飲もう」

 安物の薄いステンレスコップに似ていた。

「チタンコップっていうの。私のお気に入り」

 よりそってくれる。

「……やっと物をおいてくれた」

 水をくむ。

「先に飲んで。間接キスしたい」
「……ん」

 半分を飲んで手わたしてくれる。
 くちづけた箇所をべろりなめ、のどを鳴らして全部飲んだ。

「……水がうまかったのは初めてだ」

 深くふかく息を吐き出す。かみしめた。

「もっと飲む?」
「うん。もっと、さぁやを飲みたい……」

 腕を回し同じ味の口内をむさぼりあった。
 名残惜しくも銀の糸を残し、右手で抱きしめてソファーに座った。

 さっきの体勢だと対面座位のかけ茶臼ちゃうすを犯りたくなる。横むき、膝のうえにのせて、

「式に招く客に招待状を出したい。
 俺には血縁者がいない。ふつうは招くだろう親類がいる披露宴はやりたくない」

 惚れた女のめったにない表情。

「俺の昔は、か」
「……うん」
「忘れた」