飛ばされた男。

20 飛ばされた男。

 休日明けのブルーマンデー。

 忠弘を起こしてごはんを食べさせ、コーヒーを淹れ、弁当を持たせて先に出社。
 更衣室で着替えていると、

「加納さん……それ……」
「え?」
「まあ、左手の薬指に。髪形も眼鏡も変えていたわね、恋人でもできた?」

 しまった。

「えー、いやあの、……はあ、百円ショップで買いまして。おもちゃなんですよ、指輪とかしたことないからついつい」

 鋭い社員の巣窟を抜けて職場へ。
 渡辺が、

「うっわー先輩やりますね。やっぱりですか。誰です、どんなやつですか? 教えてくださいよ、先輩とおれの仲じゃないですか」
「……おはよう!」

 昼、逃げるように社員食堂へ。携帯電話がふるえた。
 はいはい、うまいがどうのでしょ。

山本忠弘
山本忠弘

今朝、突然北海道出張を命じられた。三日帰れない。とても寂しい。好きだよ、さや。

「ばんざーーーい!!」

 ぐうたらしてやる、ごはんは作らないぞ、外食して楽してやる、あんなに大量に食材を買わないぞ、荷物をおきっぱなしにして片づけないぞ、だらしない格好して家中をうろうろしてやるぞ、お風呂だって順番を待たないぞ!

 気分はまさに初めての一人暮らし。誰に叫べばいいの!?
 午後の仕事をうきうきとやっつけた。

 定時となり、ステップをふむ勢いでフロアを出て喜色満面で着替える。
 奇異の目で見ていた周囲には、

「ゲームで悪戦苦闘の末ついにラスボスを倒し真のエンディングを見たのです」

 近所のコンビニで弁当を2つ購入。朝はもっと眠れる、くっくっくっくっく……。

 携帯電話がふるえた。

「はーい!」
「……ずいぶんご機嫌だなさや。いいことあった?」

 もちろん、そちらさんがいないからですよぉ?

「ああ、北海道でしたね。ここは一発すすきので、きちんとした大量のお相手を侍らせてくださいね、じゃ!」
「待ってさや、なにを言って」

 ぶっつり通話終了、ご機嫌で帰宅。携帯電話は無視、同じ島にもいない。ふっふっふ。

 解放感いっぱいで玄関を閉めた。

 服をだらしなく脱ぎながら廊下を歩く。よれよれのパジャマをブラなしで着る。トイレで水を流しっぱなしにしない。風呂で次を気にせずのんびりつかる。風呂場と洗面所に道具一式をおきっぱなし。一度使っただけで水を落としたりしない、追いだき機能を存分に使う。
 風呂あがりに弁当を電子レンジで温める。大量の食材を前に悪戦苦闘しなくてもいい、調味料は何倍か考えなくていい、味見不要。焼き加減を気にする必要一切なし、明日の支度もしなくていい、米を大量に研がなくてもいい、洗いものなし。

 楽すぎて涙が出そう。

 明日の服を用意したあとすぐゲーム。昨日は負けたが今度こそ。熱中して、毛布を巻いて午前3時まで没頭した。力尽きてその場で眠った。
 
 

 ゆっくり起きても余裕。しょうじき眠いがラスボスは倒した。

 いい朝……!

 ご機嫌で出社。ふるえつづける携帯電話はめんどう、ロッカーに放置。周囲には、

「オンラインゲームで気のあう人がいたんです」

 楽しく定時にステップで帰宅。途中、美容院へ。通勤途中に目をつけていた看板。
 初めて入ってみる。ちょっと冒険、おまかせで切ってもらう。デスクワークで髪の毛がじゃまにならないように、染めるのはいや。
 かなり毛先をすいてもらった。髪が軽くなり、なかなか気に入った。

 繁華街へ出ようか。
 時間が遅い、相手がいない。なにより金がない。
 やむなく断念、合コンでは今度こそ。
 
 

 楽々三日目の水曜日。周囲の、

「できたのね」
「お楽しみだったのね」

 深読みは無視。

「よかったわね加納さん、どんな人?」

 ゲームの話題のみでふりきった。

 いやな定時が近づく。
 そろそろ大食漢が帰ってきてしまう。
 不在着信、未読……携帯電話を見るのが怖い。

 家政婦再開か。しかたがない、短い休暇だった。できれば週末に出張してほしかった。
 なにを作ろう。肉じゃがにするか、無難に。キャベツを大量に切ってサラダ、トマトを輪切り。

 風呂に先に入っておいて、掃除にとりかかった。いつでも帰れるように……って、引っ越しちゃった。いいや、整理整頓。食事作りを。うう、キッチンが現実すぎる。楽になれるのは早いなあ。

 作りおえると同時に玄関が開いた。お帰りだ、労のひとつもねぎらってやるか。

「おかえりな……」