映画好きな男。

19 映画好きな男。

 マンション指定駐車場にそっと停めた。
 じき隣ですうすう眠ってくれる未来の妻を起こせない。

 この週末、雰囲気がいい。

 だが女心はなんとやら。
 強弱をつけたつもりのアプローチをすべて無視して突然奈落の底に突き堕とす度胸の持ち主。余計な一言が命とり。

 大学時代に見た映画の1シーンを思い出す。
 確か……。
 
 

 目の前にはたくましい胸板。ふれているところが熱い。車のなかじゃない、木目に見覚えがある。家の廊下?

「なにを……しているのでしょう」
「起きた? 家に着いたよ」
「質問に答えましょう」
「さやを運んでいる」

 えー。ひょっとして。
 お姫さま抱っこ?

「お。お。下ろしてください。歩けます」
「キッチンまで運ぶ」

 荷物か。

 映画等々で見たものの画面のむこうの行為、勝手がわからず。
 また眼鏡のようになりたくない、なんとか足から着地。

 キッチンは現実だ。

 キャベツ、タマネギ、ねぎをみじん切り。いい包丁でうまくやれば涙は出ない、できるだけ細かく大量に。
 表面のフッ素樹脂コーティングがとれるまで使用したホットプレートで。重要なのは焼きかた、からしが苦手でマヨネーズには混ぜない。ソースとかつお節で仕上げる。

 香ばしいにおいが満ち、よだれをたらす勢いでうれしそう。

「召し上がれ」
「いただきます! うまそうだ」

 ちょっと食べながら次の1枚を焼いていく。次々には出せない、都度待ってもらう。
 ベースはすぐになくなった。野菜を食べさせたかった。

「おいしかった。ごちそうさま、さや。好きだよ。さあドライブにいくぞ」
「私はなにをすればいいんでしょう」

 せっかくの休日、ごはんを作る以外疲れることはしたくない。

「さや専用の助手席に座って眠るもよし、景色を見るもよし。どこかいきたいところはある?」
「あまりごみごみとしたところは嫌です。夕ごはん前に戻してください」
「了解した。安心して乗って」

 忠弘の運転は本当にうまかった。発進、速度変更、カーブ、ブレーキを一切感じない。
 シートが体にあっていた。ふくらはぎも楽。なにも要求されない。
 風が流れる。
 
 

 帰宅後、8人分の酢豚を気合で作り、テーブルにどんと出して召し上がれ。滂沱の勢いで食べていた。気分はなんとなく5歳児の母。

 夜の7時には食事をおえ、風呂に入って夜8時。
 ゲームしたい、午前0時をすぎてでも。

「わかった。俺は仕事しよう」

 隣で遊ぶというのも、どうも……。
 しかたがない。イヤホンをつないだ。
 
 

 倒してたおしていざ勝負、大一番。
 ぬぉお苦しいたたかいだ、くるしい。しかしあと少し、

「さや。そろそろ眠ったほうが」

 いま、いまだ!

「っぎゃーーー!! やられたーーーー!!」

 ラスボスめ、この奮闘をどうしてくれる! ああセーブが……。
 イヤホンをぶん投げ大声を出しても発散できない。

「さ……さや、そろそろ眠ったほうが」
「え? もうそんな時間ですか」

 セーブポイントから戻ってまたやるのもなんだ、携帯電話を捜す。

「腕時計しないのか?」

 お金がない。

「贈ってあげる」
「いいえ、もう十分にいただきました。あ、どう感謝すれば……」
「……いいよ、もう眠ろう。あすは仕事だ」
「あーああ、また1週間の始まりか……」