季節は秋。

6 季節は秋。

 いやな相手から連絡がきたのは素子の勤務日。まるで調べているかのように、

「フリーズまたはクラッシュして連絡先が消えました」
「だったら課内で出るな佐藤。悩みがあるだろう、いえ」
「いやです」
「やはりあるな。ないならないと答えるはずだ」

 ばれもする。
 のんきにデートだけしていい歳ではない。ぼろ一戸建てから引っ越し、マイホームがどうの、ウエディングドレスがどうのと課内で浮かれてしゃべりだすはず。経験者は語る。

「いつもの場所で17:00ヒトナナマルマル。こいよ、べらべらしゃべってもらう」
「だが断る」

 周囲はそっとしておいた。
 
「退社と同時にこいってか」
「きたじゃないか」

 同ビル内の酔興な酒場で。もう深酒だった。

「どうなんだ。ギャグも通じんか」
「いいませんよ」

 ひょっとこめ、今日は吐かないぞ。人脈を維持したいだけだぞ。

「じゃあなにをいわせているんだ?」

 ただ、おちょこをかたむける。

「おのろけの出番だぞ、おじさん」

 おちょこをかたむける。

「21歳だろう、犯罪だぞ。なにか文句があるのか?」
「ありません」
「じゃあ不足か?」
「ありません」

 毎回違うスーツを決め、素子を誘導しているだけだった。
 
 さまざまなところへ行った。レンタカーではなくマイカーを買おうか、いやいや係長だとマイカー通勤は許されないか、ぐらいは考えた。
 それだけ。テーマパークへただ行って、署内の人たちにと買ったおみやげの荷物持ちをして手がふさがる。
 だけ。

「はぁあああああああああ……」

 酒に顔をふせる。

「やはり歳の差か……こんなおじさんより若い彼がすきだな」
「ぐさっっっっっっっっっっっ」
 いつも笑顔を絶やさない佐藤、仕事も同じ。決して不快な言動はとらない、同。紳士で真摯、同。

「よかったね素子、長年の想いがかなって」
「うんっ!」

 署内、素子の友人は誰ひとりあせっていない。21歳、結婚の前に合うか合わないか慎重に考えてと周囲は見守っていた。
 課長は定年が近い。もう枯れていて、30歳でもまぶしい。相手の気持ちはさてどうか、くらいで、口には出さなかった。
「どうだった? キスとか」
「……は?」

 たそがれの秋。

「え。なにそれ」

 同期の友だちが敏感につめよった。

「さすが大人の男性はすごくてとてもいえない。って意味?」
「なんですかその反応。さすが若者初々しい? 汚れたわれわれにはいえませんか」

 あれから半年以上経過し、あいかわらずノルマ達成は係内最速。

「別に、くわしくはいいから。どこまでいったの?」
「そろそろ招待状を出すべきでは? 下書きだけでもお見せください」
「キスは当然でしょ?」
「主賓の会長の都合はかなり前から押さえないと」
「まさかもう妊娠とか……している?」
「花嫁のドレスはお直しは……」

 自宅で深酒した。

「なにも……ないとか……」

 ないよね?
 ないですよね?
 


 映画や動画で見て知っている。
 あんなの画面の向こうのものよ。

 キスってなに?
 
「あぁあああんたねえええ!!」
「だって……」
「言い訳? 相手を待たせてどうするの!」
「なにを?」
「はぁあああああああああ……」

 かわいそう。
 男2人が飲んでいた。泥酔だった。

「なにも! 隙が! ないんだぁあああああああああ!!」
「あのなぁああああああ!!!」

 真摯に紳士をふるまった。ふるまいすぎて狼になるタイミングを失っていた。
 
 今年度は素子の非番の日≒デート。顧客に向ける笑顔以上の笑顔で接した。

 そろそろ男の顔になりたい。

「どうやって……」

 今日もスーツを決めてつぶやく。
 デートのたびに服をおろす。下着・靴下・靴も新品。これでもかと毎回磨く。もうひげづらで逢ったりしない。
 紳士に。やさしく。

「って……じゃないぃいいいい!!!」

 毎回同じだ。
 試しにインカメラでみたら自分の顔に目をそむけた。

「いかん……」

 紳士の顔をプライベートも、は疲れる。

「どんな顔で俺……逢っていたっけ……」

 真摯な紳士、あしながおじさんとして会っていました。

「あぁあああぁぁぁあああ!!」

 あと5分で素子のアパートへ行かなくては。
「キス、キス……キス」

 知らないからしてもらおう。

 今日もお化粧、服、バッグをがんばる。チャイムが鳴った。

「おはようございます!」
「おはよう……」

 さあ今日も。
 ……なの?