古都にて

「ところで成。なんで俺が殴られなきゃいけないワケ?」
「黙って殴られただろうが。一発で済ませたんだ、有り難く思え」
「そりゃ普段の行い激いいしー」
 ちなみにどうして坂崎哲也が成田斉志に一発だけ殴られたのかと言うと、坂崎は梅子を泣かせたことがあるからだ。
 斉志は、梅子が泣くのは自分のためだけだと知っている。否、そう思い込んでいる。だが例外が一回だけあった。それが坂崎なのである。
 よって斉志はさらにブン殴ったろうと試みた。
 が。
「ちょぉ待て待てっ、俺あんたの相棒と違って頑丈にゃ出来ていないんだけど?」
 その通りだったので斉志は、ちっ、とだけ思うことにした。
「だったら頑丈なトモの家へ今から行こうなんて、まさか思ってないよなあ成」
 まさか、とだけ思っていた。
「まさかもう急襲し済みなんて、言わないよなあ成」
 バレたか、と思った。
「聖域に手ぇ出したらどうなるか、なーんて誰が言たっけ?」
 俺。
「手ぇ出していいのとそうでないの、間違えたらどうなるか。あんたの相棒でよく分かってるよな成」
「……言い方が俺と近所の野郎に似ていると思うのは気のせいか」
「気のせいじゃない? さってトモに電話するかな。俺からの電話、ワンコールで出なかったら相当の緊急事態なんだけど? したらどうするかなー。誰かさんに恨みのある有名大学上位集団に吹聴してどっかの家急襲さして、成功しなくても新聞沙汰になれば共倒れ上等、俺はトーゼントンズラ、ってカンジ?」
「そうか。ならば元を断とう」
「利用価値あるうちは殺さないんじゃなかったっけ?」
「あるうちはな」
 死なない程度に殴ったろう。
「だから俺はあんた達程黒帯持ってないってば。トモー。出ないなー」
「安心しろ坂崎。デートだそうだ。さっききっちり確認した」
「そ」

おうち 梅子

 斉志に、お電話のときの合図を教えて貰った。時と状況によってすぐきらなくちゃいけない場合あるかも知れないだろうめこ、けど俺、俺うめこの声聞きたい、周りに誰がいようと強引自己中で無理矢理電話する。だからひとことふたことで、一緒にイかないで、じゃあって言ってきるときあるけど、……こんなこと言う俺が好きだろうめこ、って。ハイ好きです。斉志が開口一番“ああ”って言うときがそうだそうです。そういうときは、ああ、とか、いや、とかしかお返事出来ないけど、うめこ俺に声聞かせて、って。ハイそうします。
 あとですね、俺が夜の八時までにうち帰らなかったらうめこ寝室へ直行しておねむすること、だそうです。
 ……。
 は、はちじーーー。
 ……いいです、斉志の思う通りです……叩き起こされるのに備えてぐーたら寝ます、ハイ……。
 斉志にお願いした。編み物、始めてみたいので、毛糸とか道具一式揃えて下さいって。斉志がもし編み物したことあるなら、ちょっとでいいから教えて下さいって。
 斉志は編み物したことないそうです。すればすぐ片手間、で出来ちゃうと思うな斉志。けど、なんとなくその、……レースとかを編み編みな斉志、といのはその、……なので。
 だからそれはいいのだけど。道具の話になると斉志、言い渋る。どうしたのかな。
「俺、……」
「? なに?」
 わたしが編み物の話をしたのは結構前。それから、その、いろいろあって、わたし出来るかどうか自信なかったしいまでもないし、とにかくそれからはわたし、……忘れてたに近い感じで言い出さなかったのだけど。
 斉志、言い淀んでる。どうしたのかな。
「えっと。せいじ、せいじがそういうふうに、わたしに言ってくれないときは、悩んでるときです」
 なお、これを言っている現在はわたしが斉志に腕枕中、です。ええ、すっぽんぽんでぷにぷにです。だから斉志の髪にちゅーしまくりながら言った。
「せーいじ。言って」
 綺麗な髪の斉志。濡れた感じ。好き。梳いてあげた。スキスキーーー。
「どうしたのー……」
「……俺、言う。……あの、な。梅子」
「? うん?」
 言い辛そう。どうしたのかな。
「その……」
「うん」
「……編み物っていうのはだな」
「うん」
「その……」
「うん」
「……毛糸と、……編み針使うだろ」
「? うん」
「……その」
「? どうしたの斉志」
「……ええい!」
「???」
 な、なにやら意を決したようにわたしに覆い被さります。押し倒されるのは日常だけど、ど、どうしたのかなー……。
「言う! 俺言う。あのな梅子。つまりだな、早い話が、……毛糸と編み針は危ない」
「え!!??」
「……その、……包丁みたいなもんだ」
「……え、……っと……?」
 つまりそれはその、と、ないあたまを巡らせて考えようとすると、斉志わたしのあたまぎゅって抱き締めて、さっきわたしが斉志に腕枕したのと逆、みたいな体勢になった。目の前斉志の胸板、です。かっこよくって引き締まった、精悍な躯。
 心臓の音、分かる。とくとく、とくとく。
「その、……つまりその、……そういう事だ」
 ……つまりその。包丁は、手を切るかもしれません。あぶないです。でも調理には必須です。同じように、毛糸と編み針も、……ということですか?
「梅子はその、……包丁の使い方、子供の頃から義母ちゃんに習ってただろ。それでその、……あ、……危うい手付きじゃなかったけどな、……その、……糸、絡まったり、……針で、……どうのとか……」
「つまりわたしがへたっぴーなことした挙げ句、針でぐさっと刺しちゃうとか、ぐるぐる毛糸巻きになっちゃって首くくっちゃうとか?」
「……凄いこと言うな梅子。俺、……そんなこと……また梅子俺の想像を遥かに超えること言って……」
「代弁しただけです」
「……ぅぅ」
「確かにですよ」
 もごもご動いて、斉志のおめめ、みつめてあげた。どうしよう、俺立場ないとか顔に書いてます。むー。すき。
「わたしはいろいろ全然なにも慣れていません! われながらやることなすことうんと全部あやしいです! 特に! せいじがいないときはもぉなにしでかすか分かりません! そんなんだったらそんなんするな、と言いたくなるのも分かります! でもやってみたいんだもーーーーん!!!」
 と言ったらまたぎゅーーーっと抱き締められました。む。斉志、いつも俺のこと見て、とか言ってるのに。さてはごまかしてるなこの星一番のぼんくら亭主め……。
「ああ誤魔化している、悪かったな! 梅子、頼む、……あ、……危ないことするな」
「不健康なこともしません」
 もごもご動こうとしても、今度はびくともしません。むー。すき。
「梅子、……俺な」
「うん」
「あのな、その、……ロフト、あるだろ」
「? うん」
「か、……階段だろ」
「まさかわたしがいつ階段でこけてどたんばたん転げ落ちてどうにかなるなんて思ってるんじゃあるまいな斉志」
「なんで俺の口調……」
「それはですね斉志。風が吹けば桶屋が儲かるみたいな、感じなんじゃないでしょうか」
「……言いたいことは、……分かる」
「そんなこと言い出したら、キリがないんじゃないでしょうか」
「……そりゃ、……そうだけどさ……」
「斉志。過保護」
「うん」
「そんなにすぐ認めなくても……」
「俺はこの星一番の過保護でばかなヤりまくりのボンクラ亭主だ。だから梅子、……編み物は駄目」
「いーーーやーーー。せいじ、せいじのこと見たいーーー」
 もごもご、どころか、かなり動いてみても斉志、びくともしない。むー。すき。
「その、……頼む梅子。……な」
「ちゅーしたいーーー」
 や、やっとちょっと腕ゆるめてくれました。すき。
「梅子、……頼む」
 せいじ、まゆげハの字になってる……。
「そんなに、……心配?」
「うん……」
「も、モニターカメラ付けても?」
「うん……」
 眉間にシワ寄ってるから、そこにちゅーした。
「せーいじ。しんじて」
「ずるいぞ梅子……俺、それ言われたら、……頼む梅子、俺の我が儘聞いて……」
 ……せいじ。かなしそう……。
「斉志」
「うん……。その、な。その、……俺に何か編んで上げたい、そう梅子思ってるって、……そりゃ分かる。俺、うれしい。俺も着たい。……けどな、……その」
「じゃあ、じゃあ斉志の目の前で編んでみる。あのね、わたし編み物したことないし、われながらね、あやうい手付きだったら、これはちょっと無理っぽそうだなってちょっとでも思ったらもうしないから。それでいい?」
「……、……、……分かった」
 不承不承の渋々顔な旦那様。うん、区別付かないことしません、です。
 だから、斉志が編み物道具一式を持って来てくれたのは、それから何回(……)後の何日の何時かなんて分かりません、ハイ。

斉志

 俺は一階店舗へこれ程までに厭々赴いたことは無い。重い足を引き摺ってあの扉から厭々出て、厭々準備だけはしていた道具を持って沈み切った気分で最上階へ。
 その途中、考えていた。梅子のことだ、最初はあやうい手付きでも、集中すれば上手くなる。俺の為にうんとがんばってくれるだろう。だが。
 ……俺がいない時に限ってあんなんなったり、こんなんなったり、……。
 いかん、絶対にいかん。絶対にあきらめさせてヤる。
 そう思って、戻った。
「せーいじ。おかえりなさい!」
「……ただいま梅子……」
 満面の笑みな梅子に不承不承な面の俺。とてとて梅子が俺に抱き着く。背伸びして、目を瞑って、ちゅーして斉志、そう全身で語る梅子。
 このままちゅーで悶絶、ヤりまくってもいずれ梅子は編み物してみたいと必ず言い出す。梅子、……梅子最初から上手かったらどうしよう……そうかも知れん、俺が墓に入っても毎度全敗で完敗な梅子。そしたら俺どうしよう……。
 ……懸案はその場でさっさと解決、それが梅子流。舌を入れないでちゅーして、梅子おひめさまだっこで居間のソファへ連れて行き、俺に乗せる。
 厭々道具をテーブルの上へ並べて、本を開いて言った。
「ほら」
「……そんな不機嫌たらたらに言わないで下さい斉志」
「不機嫌たらたらだ。始めて、梅子」
「……じゃあ、始めます」
 即座に視線を俺から逸らし、テーブル上のそれへ。
 鈴の音が聞こえた。
 今、梅子の意識の全ては本の向こうにある。俺から見えないその表情。
 ──俺には見せないその表情──
 本に書かれた通り編み針を構え、指に毛糸を掛ける。きちんと読み、その通りこなす。その手付き。その意識。
 ──これが俺の知らない、梅子の前職中の日常──

 ──梅子の集中力が解放された時、手元には、このまま編み続ければ確実に完成する、今だけ未完成、というものが出来ていた。
「どう、斉志! 大丈夫? ……か、な」
 ──振り向く梅子──笑顔──
「せーいじ」
「──」
「うん、分かった。わたし、編み物、しない」
「──」
「これ、返して来て。あ、でも使用しちゃったから、……いいか」
「──」
「せーいじ。何か飲もう? えっと、……ホットミルクにしよう。うん。持って来るね!」

 ──梅子が台所に行っている間、それ、一階へ持ってって、無くした。

梅子

 その日は全部わたしが誘いました。全部わたしが上でした! うんとうんとうーーーんと食べました!
 全部、嘗めて。
 それから。ロフトに行きたいって、もう言わない!

斉志

 翌朝の台所。梅子は調理中。
 俺は手順よく世話しなく動く梅子の背後から抱き着き引っ付いている。
「せーいじ」
「うん」
「すき」
「うん」
「次、おなべ」
「うん」
「そっち、あと一分くらい」
「うん」
 梅子の指示通り動く。
「せいじはなにか、これが食べたいとか、ある?」
「梅子食べたい」
「うん、わたしも斉志たべたい」
「うん。いっぱい食って」
「うん。いっぱい食べようね」
「うん」
 出来上がった鍋を俺が持ち、梅子が皿と箸を持って居間へ。飯を並べる。
 梅子のエプロン、引き裂いた。部屋着も下着も。俺もそうしてソファ座って、梅子の手引いて俺に乗せた。
「はい、あ~ん」
「ぅ、……ん……」
 たっぷり濡れるの、待って。じゅぶじゅぶ出てから、箸一旦テーブルに置いて梅子を貫いた。
『……!!』
 前。向かい合う。
 奥まで一気に。すぐイく梅子。ちゅーですぐ起こして、あとは食いおわるまで突かない。
 俺が箸を。誘うなんてもんじゃない、上気してるなんてもんじゃない、煽情の瞳をうすく開けて俺を見る。梅子。
 狂え。
 飯食って、梅子食って、風呂入って梅子ちゅーで起こして着替えを。
「せーいじ」
「なに」
 ……もう、時間だ。
「そんなにおこらないで」
「怒ってない。梅子、行って来る」
「うん、信じる。行ってらっしゃい、斉志!」
 弁当と鞄を持ち、扉に手を掛け、エレベーターへ。梅子はもう、掃除を開始しているだろう。

梅子

 やわらかい白電話の音がする。
「はい、成田、です。斉志、おこってる?」
「梅子。好きだ」
「うん、好き。斉志」
「いまなにをしている」
「えっと、これからご飯、です」
「どこにいる」
「書斎」
「……」
「お行儀、わるい?」
「そんなことはない」
「そぉ?」
「ああ」
「いい?」
「ああ」
「すき?」
「……うん」
「せいじ」
「……うん?」
「カメラは?」
「……まだ、だ」
「そう?」
「……厭、か」
「ううん」
「……なんで」
「せいじ、安心するでしょう?」
「……ああ」
「だから」
「……そう、か」
「うん」
「……発信器は、……付けた」
「うん、分かった」
「……なんで」
「安心しているでしょう?」
「……うん」
「せいじ」
「うん……?」
「せいじ」
「うん……」
「せいじ」
「うん……」
「せいじ」
「うん……」

斉志

 こんなことは前にもあった。携帯を買ったばかりの頃、下らん嫉妬をして無言の俺に梅子何度も俺の名前呼んでくれて……優しくて、甘くて、ちいさな声。聞いていたくて、ずっとそうして……

 扉を開ける。とてとてと音がして、笑顔の梅子が俺を出迎える。
「おかえりなさい、斉志」
 ただいま梅子、そう言った。梅子俺のことぎゅって抱き締めて、少しすりすりして、それからつま先立ちになって顔上げて目を瞑る。
 食えって言ってる、梅子。
 あらん限り抱き締めて、あらん限り貪った。梅子の頭の後ろ支えて、俺の、俺の、俺の梅子。やわらかくて温かくてなんでもちいさくて、……胸はでかくて、ぎゅってすると形分かって……それでも、それでもあらん限り抱き締める。甘い、甘くて……しびれて立っていられないなんざ、……俺の方だ梅子、も、俺……。
 思わず本音が条件反射、うんと悶絶させてソファへ横たえふとんにくるんで浴室へ。さっさか俺洗って拭いて乾かし、準備されてある梅子と揃いの部屋着を着て居間へ。梅子はまだまだ眠っている。
 ふとん剥いて、その辺にぽいしてやった。ソファに座って梅子を抱き締める。……温かい。
 寝息の聞こえない梅子の僅かな息遣いを感じていたくて、ずっとずっとずっと……見ていると、梅子が身じろぎする。こんじょうで起きる気だな。可愛い。
 腕、少し緩めた。
 梅子、きっと今日、泣いてる。
 俺のいない、見てないところで泣かせて……なんで俺、いつも……。
 梅子がゆっくり目を覚ます。俺を見る。
 まっさらな瞳で──俺を──。
「ごめん、梅子。俺、……怒ってた」
「そぉ?」
「うん。……ごめん」
「そんなことない」
「……許してくれんか」
 許すわけがない。
「?」
「そうか。許さんか」
 いつだって。
「? わたし」
「こんなんな俺が好きだな、梅子」
「うん!」
「……言って」
「?」
「……そうか。そんなに許さんか」
 俺は許されることなど一度もしていない。
「??」
「命令、……しなければ、……言ってくれんか」
「???」
「怒れ」
 そう仕向けて初めて怒った梅子。
「え?」
 そしたら梅子はあんな笑顔を見せてくれた。梅子怒ると元気出て、抱えてるのを俺に見せてくれる。少しずつ。だから、
「怒れ梅子」
「え??」
 俺に見えるように、俺に晒して、梅子。
「怒ってくれん」
「???」
「泣いてもくれん」
「???」
 俺の見えないところで泣かないで、梅子。
「俺は梅子が生き甲斐だ。梅子が怒って泣いて、照れてイって食って寝るの見るの生き甲斐だ。……梅子が笑うの、……生き甲斐だ……」
 そうやって、俺の前でだけ照れて、梅子。
「可愛い……」
 いつだって眩しい。
「……そ、……。そ、ぉ?」
「うん……梅子、梅子怒って、うんと泣いて」
 もう抱えるな。
「あ、あのー……。ど、どこからそういう発想が……」
「俺、梅子笑うの見るの生き甲斐だけどな、……いつも、……全部見たいんだ、……だから、……怒れ」
 二度と抱えさせん。
「俺が悪いって言って。……な」
 梅子がそう言うのは、
「……じゃあ」
 俺だけだ。
 俺だけに。
 梅子が教え、叱り、諭す唯一の──

梅子

 おこれー、と言うので。こっほん、とわざとらしいポーズをとりまして。
「斉志が悪い、でーーーーす! 反省しなさーーーーい!!」
 両手じたばたして言ってあげた。
「うん。する」
 むー。もうもう、なんともないって態度。なにがうめこのことは慣れてない、だ。おこったー。
「なんですかもう、おこったのって聞いてもおこってないって言ってあとからおこってたなんて言って!」
「うん。ごめん。俺が悪い。もうしない」
 むー。なんて態度なんでしょう。すき。
「ちゃんとその場で言って! わたし、うんとおこった! あんなおっかない顔しておうち出ることないでしょう!!」
「うん。ごめん。俺が悪い。もうしない」
 むー。態度かわりません。もっと言って上げようっと。
「あんなおっかない声で電話することないでしょう!」
「うん。ごめん。俺が悪い。けど職に就いたら、俺職場でヤらしい声出さないからな」
「是非そうして下さい!」
「うん。する」
「おっかない顔しておうち帰るなーーーー!!」
「うん、ごめん。俺が悪い。もうしない」
 むー。表情も変わらない。なんてこの星一番に格好いい旦那様なんでしょう。すき!
「いいですか斉志。いっっくらどれだけ職場でなにがあっても、社会人たる者おうちにそんなの持ち込まないものなのだ! 分かったかーーーーー!!」
「うん、分かった。そうする」
 むー。なんて落ち着いているんでしょう。怒られているという自覚あるのかー。いろっぽいっていう自覚ないだろー。誘いまくりー。すきー。
「でも言いたいことしたいことは隠さない! 抱えない! お白州!!」
「そのお白州は矛盾しているぞ梅子」
 むー。言い返して来たぞー。
「斉志も結構そうです!」
「うん」
「じゃあこうします。いいですか斉志。怒ったら怒ったって言えーーーばかーーー」
「うん。じゃあ持ち込んでいいんだな梅子」
「ぅ」
 これはいけない展開です。わたしはぱ~で、斉志はあたま良過ぎるひとなのですー。
「俺はうんと持ち込んでヤる。仕事はしないけどな」
「してもいいもん」
「そうか?」
「うん」
 お仕事するせいじ。みたい。みたいみたいー。
「俺に愛想尽かさないか」
「なにそれ」
 そんなのは辞書にありません!
「うん、分かった。仕事もする」
「うん、そうして」
「仕事中私用電話して、ひとことふたことで勝手にきる」
「うん」
 わたしはましんがんと~くでスキスキ言ってやるー。
「仕事で我慢したら梅子ヤるし、仕事で忍耐したら梅子ヤる」
「うん」
 いつもして。
「怒ってもヤるし、そうでなくともいつもヤる」
「うん」
 してして。
「おっかない顔してうち出て、うち帰る」
「うん」
 すきすき。
「梅子ヤる」
「うん」
 してして。せいじ。まってる。せいじ。
「反省する」
「うん」
「だから、……その」
「ちゃーーーーーーんと反省するならこの件はこれで終了、いいな!!」
「うん、梅子」
 ……反省って、台所にいるわたしに後ろから抱き着いて、今日の夕ご飯をつくるときだけずどんで調理の手を止めない、って意味だったんですか斉志?
 そうですか……。
「斉志。泣かせたくないとか言って泣けってなに」
「うん。ごめん。俺梅子泣くの見たい」
「矛盾してる」
「焦らされるの好きで厭とはなんだ」
「ぅ」
「それと同じだ」
「斉志」
「お白州も矛盾と化している、か。俺もそう思わんでもない」
「うん」
「それでいいだろ」
「むー。うん」
「じゃあ」
 ……ええ、好きですとも、ずどんで調理の手、止められるのも……。

斉志

 俺が作った夕飯中、梅子ぐちゅぐちゅにして、さあ食ってやろうかと思ったら、
「せ、……ィじィ……」
「なんだ」
「わ、……い……」
「俺は梅子が生き甲斐だ」
「ほ、……」
「他? 全部だ。まさか言わないのは生き甲斐じゃないなんざ思ってるんじゃあるまいな梅子」
「じゃ、……あ……」
「なんだ」
 ……俺は梅子に尻ペンペンされるのも生き甲斐ってことでいいんだな?
 ……。
 ……。
 ……。
「さあ反省して下さい斉志」
「厭だ」
「おしり。だして」
「絶対に厭だ」
「生き甲斐なんでしょう」
「俺は梅子の尻ペンペンするのは生き甲斐だが、梅子に俺の尻ペンペンされるのは生き甲斐じゃない」
「矛盾してます」
「そうだ梅子。梅子は?」
「斉志の。斉志は?」
「……梅子の……」
「いま、じゃあぺんぺんも生き甲斐にしてって言われるの見越して厭々わたしのって言ったでしょう斉志。ふんだ、いいもん、うーーーーーーんと信じてるんだから。斉志はこんなんなわたしに惚れまくってるんだから。惚れた弱みなのだーーー」
「……そりゃそうだけどな。……なんだそのさいごのは。誰に習った」
「母ちゃん」
「もう俺以外の誰にも習うな。例外は無い」
「うん!」
「修業の項目はこれ以上一切増やさん。いいな」
「うん!」
「モニターカメラ付けるのと同時にロフト無くす。工事するから、その間出掛ける」
「……え」
「うん。梅子お出掛けなんざなんとかだよな。けど工事中のうちにいるってのもなんだろ。大丈夫だ梅子、安心していい。なんとかなところへなぞ絶対行かん。南の島へ行く」
「え」
「そうだ。ヤりまくり島だ」
「あのー……」
「行ってヤってヤりまくる。服も水着も着せはしないが、風邪引かれると困るからな、俺のパジャマは厭々着せる」
「あのー……」
「島では下着も無し。乳首おっ勃ててぐっちゅぐちゅに濡れてろ梅子」
「……いつもです……」
「すっぽんぽんで海泳いで、俺の目の前で脚開け」
「……いつもです……」
「よくも海で襲うって言った時却下なんざしやがったな梅子」
「いつの……話ですか……」
「よくも浮き輪なんぞに掴まっていやがったな梅子」
「いつの……話だってば……」
「梅子。いつの話絡みだがな」
「?」
「俺、修学旅行したい」
「……、……、そ、そうですか……信じてますよ斉志……」
「あのな。このうち以外で制服なんぞ着るわけないだろ俺も梅子も。俺、あの時へんに遠慮してどこも見て回らなかっただろ。だから、京都へ行こう」
「……え?」
「うん。俺、ヒマな学生だからな。出来る時に出来ることをする。後回しにしない。梅子どこか行きたいとこあるか」
「斉志と一緒のとこ行きたい!」
「……」←舞い上がり
「わたし、お出掛けなんてなんとかだけど、斉志しか視界に入らないもん。斉志以外の声なんか右から左だもん。だから、斉志がいるところならいい」
「そう、か」
「うん!」
「梅子」
「うん?」
「俺が視界に入れていいと言ったら、見ていい」
「……そ、ぉ?」
「例えばだな、いくら例外なんとか連中だからと言ったって、つい思わずぷんとそっぽ向いて挨拶するってのもなんだろ」
「あ。そういえば確かに」
「ただし」
「ぜーーーーーったい目なんか合わせません! その場がおわったら即忘れます! 声も存在も全部なにそれです!!」
「そうだ。だから、風景とか建物とかはいい」
「……そ、ぉ?」
「ただし、そればっかり見るな」
「当然です!」
「風景と建物に限って、梅子の判断に任せる」
「……うん!」
「ただし」
「人影がちょっとでもよぎったら、すぐ目を瞑って斉志ぎゅっとします!」
「そうだ」
「だから」
「……うん?」
「えっと。ドライブの際は、ちゅーで悶絶して戴けるとうれしいかな、なんて……」
「うん。いつもそうするけどな」
「あ、でも、斉志お話あるとき」
「こら」
「……うん。信じる。斉志のお役目、です。斉志の判断です」
「そうだ」

梅子

 斉志の帰る時間が一定じゃなくなった。うん、これからはこれが日常、これは決定です。
 それでね斉志。朝ご飯出来るの、居間で待つのが日常、じゃなかったでしたっけ。なにかこう、……抱き着くのが日常、になりそうな気がするっていうか。斉志居間で待ってなにか読んでたの、あのときだけ、っていうか。
 ……なーんて考えると、ずどんの挙げ句、斉志大学も仕事もさぼっちゃうと思うので、いいです。斉志の思う通りです。
 入念にお風呂に入って夕ご飯の支度。六時過ぎたらひとりで食べます。斉志、お外でちゃんとしてる。うんと安心。
 かちゃかちゃ食器洗って、歯を磨いて。朝ご飯の下ごしらえをして、パジャマに着替える。それから、八時まで書斎に行きます。
 高い天井までぎっしりの本、本、本。
 そのなかで、わたしがよく見るのは、天体写真の本。こういうのは、本自体がおっきい。A3サイズのおっきな本。見開きにするとA2です。重たーい。
 いろんな星座。星、星、星。迫力の天体写真。
 本のうしろにいろいろ、説明が載ってあるけど、わたしは、その、そういうとこはあまり読まないで、……観て、ます。天体観察。
 この街はこの星一番。だから、見られる天体は太陽と月だけ。つまり、わたしが見られる天体は太陽だけ。
 だから月の写真を観た。
 爪のような月。三日月、満月。それよりも。
 下弦の月。青い空に浮く白い月。それを観ながら帰るのが、きっと斉志の、これからの日常。
 時間になったので、本を戻す。
 斉志に、あとで電蓄の掛け方聞こうっと。
 そう思って、眠った。

「……、……ン」
 ……感じて、熱くて、意識が戻る。
「ぉ、……かえりな、……さぁィ、……せいじ、……す、き……」
「ただいま……梅子……好きだ……」
 ……濡れたぐちゅぐちゅの音すら耳に入らない。斉志の声が、この星で一番、一番、……。
 好きな、旦那様のあたまに両手を。貪られて、も、……背中弓なり。
「せいじ……ぃ」
「梅子、俺……」
「ぅン……」
「酒飲んで来た……」
「ぅン……」
「口直しする……脚閉じろ……」
「ぅン……」
 せいじの、あっつい舌、ゆび、ずるって抜かれて、……厭、……だけど、脚、閉じた。
「躯……起こせ」
「ぅン……」
 そこ、に……お酒、注がれる。いっぱい、……呑んで……。
 寝室、暗い、でも分かる、斉志、ぺろぺろ、お酒なめてる……。
「美味い……梅子」
「ぅン……」
「梅子も呑め……」
「ぅン……」
 あっつい、せいじ、くち、した、……呑みくだす。
「……どう、だ?」
「おい、しい……」
「酔え……俺に」
「ぅン……酔ってる」
「飯……美味かった」
「ぅン……」
 居間に、……せいじのぶん、置いといたの……ヨカッタ……。
「食器……」
「ぅン……」
 それ、……わたしの役目、だもん……。
「歯、磨いて……シャワー、浴びて……」
「ぅン……」
「この星一番の寂しがり屋、……は?」
「……せいじと、わたし……だった、の」
「うん、そうだ……梅子、俺は出るからな……待ってろよ梅子……」
「ぅン、待ってる……」
「……していいか? ここ……」
 あし、がばーっと、開かされて、そこ、浮かされ、て……ちゅー、舌……。
「……っ!!」
「……厭、……か」
「……、……」
「硬く、……なったな。しない。……誓う」
「……、……」
 せいじ、……ふとももの、うちがわ、ちゅーするの、きつく、それから、したにおりてって、……あ、あし、の、……ゆびの、……あいだまで、……なめる、ぅ!
「俺のだ……梅子」
「……ッ、……ッ!!」
「ァ……じゅぶじゅぶ、……出た」
「……ッ、……ッ!!」
「……美味い、ぞ? 梅子……」
 出、たの、呑む、の……ぉ、じゅるじゅる、って……ぇ……。
「俺、……梅子でしか……酔ったことないんだ……」
「ぅ、……ン!!」
 しげみも、つぼみも、むさぼる、の……ぉ……。
 いじってぇ……。
「梅子……」
 すり寄って……あ、おひげ……。ちゅー、くちで……。
「……美味い、……だろ?」
「ぅン……」
 むね、……やっと、いじってくれた……。も、いつもむね、いっぱいするくせに、……焦らして、もう……。
「……大丈夫だ……焦らさん……欲しいだろ? 奥まで……梅子、俺を見ろ……」
「ぅン、ぅン、せいじ、欲しい、いろっぽい、いろっぽい……すき……」
「狂え……」
「くる、ってル……来て……」

 気が付くと、眩しい光量のなか、斉志の腕枕。
「梅子、おはよう」
「うん、斉志、おはよう……」
 それからすぐ、ちゅー。甘ーーーい、あつくて、とろけて、も、とけてる……。
 せいじ、躯起こして、上半身ベッドの上の方に寄り掛からせて。それでわたしのこと抱き締める。せいじの、引き締まった躯。……わたしのちくびで、よく分かる、の。この感覚、……せいじ、分かってくれると、いいな。
 斉志、ベッドサイドのテーブルの上にあるなにか、手に持って、くちにくわえる。あ、サンドウィッチ。わたしに、端っこたべてって、言ってる。
 熱い瞳で、わたしのこと、護りながら。
 ぱくって食べた。ごっくんって飲み下す。斉志の、熱い瞳の真ん前で。
 それから、ちゅー。甘ーーーい……。
 牛乳、せいじ、くちのなかで噛んでからわたしに飲ませてくれるの、いつも、なんでも、甘ーーーい……。
 それから、して、……も、なにがなんだか……分からない……。

斉志

 電蓄の部屋のソファで、梅子を抱き締めながら起きるのを待った。俺のパジャマを着る梅子。やわらかくて、ちいさくて、いいにおいのする熱い躯、こころ。なにもかも俺の梅子。
 梅子、梅子聴きたい音楽とか、観たい本とか何かな……。いっぱい揃えてやろう。少し前までは訊けもしなかったが、もう大丈夫だ。梅子は俺の厭がるようなものを絶対に言い出しはしない。文章の一切無い風景写真集とか、インストゥーメンタルのCDとかを言って来るだろう。
 テレビや小説は却下。とは言え梅子はんなもんなんとか、考慮の対象外だ。言い出しもすまい。
「……」
 気付いたようだ。
 やわらかくて温かくていいにおいの躯が身じろぎする。温かい……気付いて、瞼をしばたかせながら、迷い無く真っ直ぐを見る。
 そうすればそこに俺がいる。それ以外何一つ考えていない、俺の梅子。
 鼻にちゅーしてやった。途端照れて、靄靄の意識が少し戻る。
「……せいじ……すき……」
「うん、梅子。好きだ」
「すき……」
 とろけ過ぎて、また俺に寄り掛かる梅子。だが、うとうとだ。熟睡じゃない。
 これを言いおわったら、もう一度眠るだろう。それでいい。
「梅子」
「うん……?」
「梅子何か……欲しい本とか、CDとか、あるか。揃える。言って」
「……う……ん」
「うん、もう寝ろ梅子……後でいいから、……考えてて」
「う……ん……」
「いつでも、いくらでも言って……思い付いた時でいい」
「あ……」
「……うん?」
「せいじの、……うたごえの……」
「……それは却下」
「どうして……」
「こうやって……」
 ……耳元で直接。
「……な?」
「うん……」
 熟睡するまで歌い、ベッドへ連れて行って寝かせた。あとはベッドサイドで鬱憤晴らしの大集中。待ってろよ梅子、俺はこれでも叩き起こしてやるからな。

 ある日、梅子が俺のそばに寄って来て、言い出しづらそうに切り出した。
「あのね、あのねせいじ、……あのね……」
「……うん? どうした? なんで震えてる……どうした? 言って梅子……」
「うん、うん……」
「言って、梅子言って、俺、……何した? ……そ、そんなに厭……だった?」
「……え?」
「分かった、もうしない。絶対だ……ごめん、ごめん梅子……」
「え、あ、あのせいじ」
「もう、……許さない……か?」
「? あ、あの、せいじ、えっと、……あの、あの……本のお話……」
「……え?」
「お、……おこられるの……」
「……」
「あ、……おこった……」
「怒ってない。梅子、……尻、の話、……じゃないのか?」
「……それはしないって斉志言ったもん……」
「うん。絶対しない。……本の話、か? なんで、それで震える?」
「だって……」
「言う。俺だって言ってるだろ、梅子、俺ちゃんとおこるから。……な?」
「うん、うん、……お、おこって……」
「おこる。おこるから、……そんなに震えるな……な?」
「うん、うん、……あ、あのね、……中学校のときの話、なの……」
「……それ、……で?」
「えっと、……中学にあがったばっかりの時に、ね。
 あの学校、美術室がA高よりおっきかったの。それでね、準備室みたいなとこちゃんとあって。そこにね、なにかね、その、そういう本っていうのかな、専門書? なのかな、みたいなのがいっぱいあって。見てみたかったけど、どうも部員さんとか、とにかく関係者以外はそのお部屋入りづらくて、でも、洋書みたいな感じで、貴重っぽさそうで、見てみたかったの。でも結局言い出せなくて、どんなのあったのかな、って思って。
 あ、あの、それで、……そ、そういうの、見たいな、って思ったんだけ、ど……こ、こんなふうに言われても斉志、困るよね……」
「困らん。揃える」
「え」
「知り合い経由で五中のを借りて、複製して原本を即返す」
「……」
「どうしておこるって思った? 梅子、言っておくが俺怒ってないぞ、理由が知りたいだけだ。俺、……その、……てっきりその、……だと思って」
「だって、……逢う前の話……」
「知りたいに決まっている。梅子ちゃんと言ってくれただろ? それでいい。……そんなに震えるな梅子。そりゃ俺こんなんだけどな、信用ないけどな……」
「ち、ちがうの、違う、あの、……ご」
「梅子」
「う、……うん……」
「分かってる。梅子は俺を信じている。……あやふやな言い方だから怒ると思った、か?」
「うん……」
「わけないだろ?」
「……うん」
「CDは? なにか思い付いた?」
「えっと、……わたし音楽とか、あんまり分からないから……せいじ、なにかこう、いいの揃えて」
「電蓄で聞いているようなのでいいか? クラシックとか」
「うん。あ、」
「うん。掛け方知りたい、だよな梅子。それはだな」
「うん」
「却下」
「……どうして」
「針だ」
「……」
「梅子。お白州。こわい言葉使うな」
「……ごめんなさい」
「そうだ。それは怒った。俺、怒った」
「ごめんなさい……」
「反省。して。梅子」
「うん。……ぺんぺん?」
「しない」
「……どうして?」
「梅子が俺のことほっといたらする。だから梅子、梅子もだ。いいな」
「うん!」
「だが反省はしてもらう」
「う、……うん」
「梅子。いいか、このうちでは走るな」
「え!?」
「俺はいつ何時帰るか電話するかわからん。となると、梅子は状況により、走って白電話に向かったりあの扉に向かったりする。……そんな時転ばれたら、俺……」
「……」
「なんてこの星一番な過保護っぷりだと思ったな。そうだ、俺は過保護だ」
「ハイ」
「運動不足がどうのと思ったな。月イチのお出掛けの時、そこで運動させる。うちでは走るな」
「……」
「絶対に危ないことをするな梅子」
「……う、ん」
「よく包丁を持たせて貰えてるなと思ったな梅子。そうだ、我ながらよくあんなもん持たせてるなと思ってはいる。けどそれないと梅子、料理出来ないだろ。俺厭々我慢しているんだ」
「知りませんでした……」
「そういえばこのうちにハサミもカッターもナイフもフォークも無いと思っているな。んなもんあるわけないだろ。なにそれだ」
「ハイ」
「俺はな梅子。箸より重いものは絶対に持つなと命令したいんだ」
「知りませんでした……」
「厭々我慢している。どうだ、俺の忍耐力はこの星一番だろ。認めろ梅子」
「うんと認めます」
「じゃあいいな梅子、返事はうんだ」
「うん」

 次の日、梅子が俺のそばに寄って来て、明るい口調で言って来た。
「せーいじ」
「うん?」
「あのね。おこるの」
「うん、おこる。言う、梅子」
「うん。あのね。お耳掃除したい」
「……」
「母ちゃんが父ちゃんにたまーにね、膝枕でしてるの見て、そう思ったの」
「……」
「だからおこられるの」
「……梅子」
「うん?」
「おこった」
「うん」
「そんなこと言われたら、習うなって言った俺の立場ないだろ」
「うん、斉志。して、いい?」
「うん。……して、梅子」
「うん!」
 早速膝枕を。梅子のももに俺の頭を乗せる。
 あまりにやわらかくて。俺の頭で潰れるんじゃないかと思う。
 だが梅子のこと。腹筋を使って体重を掛けないようにしても、すぐにバレるだろう。遠慮なく乗せた。
「梅子……」
「膝枕? うん、したことない。初めて」
「そう、か?」
「うん」
「……もっと早く言え」
「うん。ごめんなさい」
「うん……」
「あ、でもせいじ」
「うん?」
「お耳きれい。掃除するとこない」
「……気持ちいいから、しばらくそうしてて、梅子」
「うん」
「梅子……」
「うん?」
「俺、梅子のも、する……されたことあるか」
「母ちゃんにも父ちゃんにも、ある、の」
「……おこった」
「うん……」
 眠くなるもんだな……。
「斉志、逆もするから、こっち座って」
「厭だ」
「どうして」
「こうする」
「ぁン!! ち、ちがう、も、それじゃぁ……」
「よくも……こう出来ない言い方しやがったな……」
「ちがうもん! そうじゃなくて、だってソファ座りづらィ!!」
「こうしてやる……」
「……ァ、……ァ、……ァ!!」
「も、……伝ってるぞ? ほら、見ろ……」
「……ぅ、……ン!」
「梅子……ヤらし過ぎる……俺欲しいって、ひくひく言ってるぞ? そうもじもじするな、焦らしたくなる……」
「厭、厭、焦らさないで、も、も来てせいじ……」
「そんなに……腰も胸もヤらしく振って……脚おっ広げて……そんなに欲しいか?」
「ほしい、ほしい、ほしいのぉ……」
「……食うのとどっちがいい?」
「どっちも!! ぜんぶ!! も、ぜんぶ、いっぱい、来てえ!!」
「イけ俺に……梅子」
『……!!』

梅子

 その後も膝枕してもらって、うとうとしながら。
「……膝枕するってのもいいもんだな」
「うん、そうでしょう?」
「いま、梅子も腕枕してみたいと思ったな。却下」
「どうして?」
「梅子は梅子の腕枕でいい。俺は俺の腕枕」
「……ぅぅ」
「こういうのなら、……習うのもいい」
「そぉ?」
「うん。……厭々だけどな」
「むー」
「俺は膝枕、するのもさせるのも当然初めてだ」
「うん」
「梅子」
「うん?」
「その、な。なんであんなに……震えた?」
「……あの」
「うん」
「あの、ね。わたし、……そういうの見ると、つい、そればっかりになるわるい癖が、ありまして」
「それ俺の前でしたら俺が怒ってあんなんなって震える思いを梅子がする、だな。悪かったな。返事はぅぅだ」
「……ぅぅ」
「そりゃ、……俺だって分かっている。揃えたら、俺が出掛けた時に電話で言うから。書斎のどこそこにあるって言うから。そしたら観て。俺が帰ったら、分かっているな」
「うん!」
「……俺だって少しは考えていると言ったろ。また梅子ひとりで先見通して……俺に黙って勝手にひとりで先を考えるな、お白州!」
「えー」
「なんだその抗議のえーは」
「ぅ。えっと、うん。斉志の思う通りです」
「そうだ。ほら、逆向け。俺食え」
「あのー……」
「なんだ。食いたくないのか」
「食べたい」
「梅子」
「?」
「その、……最初、……厭だっただろ」
「……」
「その、……いつ、から、……食いたいって思った?」
「最初から」
「嘘だ」
「そう思わなかったら食べてないもん」
「嘘だ。厭がってた」
「うそじゃないもん。斉志がね、こういう……」
「……ぁン!」
「こえ、出すの聞きたくて食べてたの」
「離すな!!」
「うん。じゃあ……」
「……っく、……焦らすな梅子!! 奥まで食え!!」
「おそわったの……うんと……いっぱい……」
「手! ……でしろ! ……この!」
「じゃあ、……舌、いい?」
「わけないだろ!! 俺を焦らすな、食え梅子!!」
「ここ……」
「……ぁン!!」
「あ、……イく? いいよ?」
「……この!!」
 俺を焦らすな、二度と焦らすな、もしまたこんなことしたらおしりにぶち込むって言われたのでもうしません。でも反省はなしなのです、だってしてるときはしちゃ駄目だからです。飯時も、なので、……いつ反省すればいいのかな?
「反省しろ梅子」
「はい。どうすればいいんでしょう」
「開き直って……よくも俺を焦らしやがったな。……梅子いま、ヤるのでも焦らしてやろうと思っただろ。駄目。却下。お白州!!」
「ハイ」
「なんでぅぅとか、えーとか、むーとか言わない」
「え?」
「俺、梅子が開き直って俺の言うこと聞かないのも生き甲斐だ」
「え」
「それを強引自己中で無理矢理言うこと聞かすのがいいんだ。梅子、ぅぅって言って。えーって言って。むーって言って」
「……、……。ぅぅ。えー。むー。斉志、わたし斉志のことイかせてあげたら、や、やるのでも焦らしたいです。お願い。我が儘。区別? なにそれ」
「……よくもそこまで言ってくれやがったな梅子……そうか、そんなに修業さぼりたいか」
「え」
「梅子。飯は絶対抜いちゃ駄目だから作るのはいい、ちゃんと食って。けどな、他の修業、俺の休日と前後だけじゃなくて、週にプラス二日はさぼって」
「そしたら俺が仕事さぼってもうめこ文句言えないだろって思っているでしょう返事はうんだ誰が修業さぼるかばかーーーーーー!」
「……そうか。梅子、トイレにもカメラ付けるか」
「いーーーやーーーー! そんなことしたらどうなるか分かっているのかーーーー!」
「どうなる?」
「よじ登ってカメラぶっ壊してやるーーーーー!!」
「……そうか」

 ──うめこは梯子・足台・棒・登山用具・おうち脱出道具・どろぼうさん必携ツール・包丁以外のこわいの、に触れちゃいけません。よって一階店舗にはそれらあぶないラインナップは一切揃えませんのであしからず。お白州。
 だそうです。そうですか。
 いいですよ斉志。もしこれから、ちょっとでもトイレとおしりのこと言ったり考えたりやっちゃったりしたら、わたし、おうちにあるお皿とかカップとか使ってカメラ目掛けてぶん投げる、おうち中そういう破片でいっぱいになる、その上をふんふーんって裸足でほっつき歩いてやるって言いました。

斉志

 カメラはいかにも分かりやすく見せつけるように設置するのではなく、どこにあるか分からないよう壁に埋め込んでやろうと思って工事する気でいたが……。
 ……。
 俺、梅子に梅子を人質に盗られた。完敗だ。どうしよう。全敗だ。俺墓に入っても勝てない。全然勝ち目ない梅子……。

梅子

 ……泣かれたので、もう、こわいこと言わない。
 でも。

斉志

 梅子に、カメラをどこに設置するのかか全部白状しろと命令された。どこに付けてもいいが、梅子の手の届かないところに付けること。でないと掃除中割っちゃうかも知れません。大体、どこから見られているか分からないなんて厭。
 ……。
 俺、四方八方にうんといっぱい設置する気でいたんだが……。
 んなもんその通りゲロしたら梅子、……。
 ……。
 例えばだ。俺、いつものごとく誘われて、毎度真っ白舞い上り、挙げ句つい思わずあーんなアングル、こーんなアングルで見たそのままをポロっと言っちまったりして、あの梅子にそれ、気付かれでも、したら……。
 ……。

梅子

 せいじ? いいですよ、いっくらでも開き直って斉志の言うこと聞かないで、こわいことでもなんでもうんと言ってあげるから。結構得意ですよわたし。この、こーーーのわたしが得意なんて自信たっぷりふんぞり返って言い切れるってことがどういうことか……分かっているんだろうな斉志……。

斉志

 俺は躯で言わされた。壁だ床だ天井だに計三桁取っ付ける気でいた埋め込み式だ、梅子は間違ってもぶっ壊せん、見つけられん代物だと躯で言わされた。
 ……。
 カメラ、却下。と言われた。
 ……。

梅子

 泣かれたので。
 こうすることにしました。天井に。見えるように。一室につき一個。限定。
 それ以外に……わたしに隠れて黙って勝手にこそこそ取っ付けたりしたらどうなるか、分かっているんだろうな斉志……。

斉志

 嘘泣きは効かなかった。それどころか、わたしは斉志が知っての通り、いつだって泣きたくて泣いてます、それ以外したことない、いままでもこれからもです。そうですか斉志、……うそ泣きだったんだ……。
 とまで言われた。
 ……。

梅子

 トイレがあるお部屋は却下。それ以外は見えるように一室一個、いずれも天井に限定。ええ、信じてますとも。お手て振ってあげようっと。

斉志

 俺は嘘泣きどころかマジ泣きで改造携帯を改造した。何故こんな限定されたアングルでしか見られない。なんでこんな話になった。
 いや、相手はあの梅子。
 梅子あれで結構交渉上手だよな……しかも時と場合はここぞとばかり。どこが人間なんとかだ。行動力がない? 無自覚にも程がある。よくも毎度頭がどうの言ってくれやがって……さては俺を油断させる気でいやがったな梅子。
 俺はまたしても梅子を甘く見過ぎていた。まさかこのうちで梅子にこの星一番の行動力を発揮されようとは。しかも取り上げようの無い武器まで揃えられ。
 ……。
 完敗だ。全敗だ。なんで俺、いつもろくに戦えもせず負けている……。

梅子

 せーいじ。だったら工事する必要、ないでしょう?
 ロフトのあるお部屋、物置きにしたらどう? 本とか、ああいうのはかさばるでしょう。わたし、行かないから。あ、お掃除斉志がして。

斉志

 ……とまで言われたら、俺、俺……なんで梅子に黙って隠れて勝手にコソコソ集音マイクを取っ付けようとしたのまでバレたんだ?

梅子

 このおうちは改造・改装しちゃ駄目です。わたし、おうちならどこだって行っていいんだもんね、ロフトにも当然ふんふーんっていつも行きます。お白州。