梅子

 ちょっと寒気がして、うんと躯動かなくて、もうどうにでもなれって感じで、でも斉志、ごめん、ごめん梅子、俺のこと好き? って泣きながら何度も何度も言って、迫って来て、ちゅーで悶絶させようとするから、スキスキせいじ、待って待ってって言った。でもせいじ、厭だ俺待つのもう厭だ、病院へ連れて行く問答無用だって。
 あんまり、ひどくないから、このまま寝てれば治ると思う、って言った。こういうのは小さい頃はわりとあったし、あとその……あんまり薬のお世話になりたくなかった。
「駄目だ駄目だ、知らないだろ梅子、風邪って今の今でも根絶出来てないんだぞ、俺医者の免許片手間で取るから、もうこうなったら医大に入るから、そしたらもう梅子そんな目に遭わないで済むから」
 言葉が混濁しています……。
 斉志は体温、すぐ分かるひと。でも、やってみて欲しくて、額ごつんで体温計ってって言った。平熱とあまり変わらないって。だからなんとかこんじょうで説得して、おうちで療養、ということにしてもらった。そしたら斉志、ちょっと待ってて俺すぐ戻るから、って言ってばびゅーんとあの扉からどこかへ行って、ほんとうにすぐ帰って来た。
 それからお台所でお料理しているみたい、だけど。……このにおい。ひょっとしたら、おかゆ?
 と、勝手に予測していたらその通りのものが出て参りました……。雑炊、かな。
「はい、あ~ん」
 病人なわたしは、半身をおこして食べてます。いまは、ちゃんとパジャマの下も穿いてます。うんと珍しいです。なお、下まで斉志の穿いたらすそふんづけてすっ転んじゃったので下はわたしのサイズです。なお、斉志は生理期間中、わたしから剥ぎ取ったぶらとぱんつを握り締めてロフトで寝ます……。
 ふーふー、してもらって食べる。だから、……む、むね揉まれ、はありません。よって平穏無事(……)に食べおわる。いつもより半分くらいの時間で食べました。と思っているのは斉志にはぜーんぶ筒抜けだと思うけど、原因が原因だし、事実なので、あとでまたベッドの刑になろうとももういいです。のぞむところです。
 斉志も食べてって言ったけど、これほとんど日常だけど、全然聞き入れて貰えない。ようやっとさいごのほうで斉志がかき込むだけ。食べさせたいんだけど、今日はその、やまやま、です。
 でもですよ。
 斉志? 歯磨きはわたしがするって言ったじゃないですか。あのですね、おトイレのフタ目の前でかぱっと開けられて、下とぱんつ剥かれてそこに座らされるこの恥ずかしさ、分かってくれても、い、……いいんじゃないでしょうか……。
 それからベッドに連れて来て貰って、でもわたしその、……なのでだっこで、です。そっとベッドにおろしてもらって、おふとん掛けて貰って。
 あとは額にちゅーでお寝むかな、と思ったら……斉志、それしない。
 泣きそうな表情で、言った。
「ごめん、ごめん梅子……俺、性懲りない……」
「そんなことない。斉志、すき」
「俺、……区別、つかなかった。俺もつかなかった。俺、梅子に完敗だけど、全敗だけど、……体力ばっかりは梅子のことほっといて……こ、こんなことする俺」
「すき」
「……」
「すき、斉志。うんとすき」
「……」
「すき」
「……梅子」
「すき。斉志、いいの。我慢も忍耐もしないで」
「……しないとこうなる。だから、……梅子と一緒だ、区別付ける」
「でも」
「分かっている。梅子俺に遠慮して欲しくないんだよな。そうだ、俺も梅子に遠慮して欲しくない。俺と梅子は夫婦だ、信じている。遠慮は無しだ。だがな、区別を付けないと……こうなる。どの面下げてと毎度思うけどな、……梅子、俺と一緒に区別付けような」
「うん!」
「よし。じゃあ梅子、明日のお出掛けは午後だ。梅子俺のせいでこんなだからな、昼までたっぷり寝てて」
「……」
「今日も日中ずっと寝て、さらに半日以上もぐーたら寝るなんざ厭、か。駄目だ。梅子、俺の言うこと聞く」
「……」
「返事は」
「……」
「それでも具合わるい場合、お出掛けは延期だ」
「厭!!」
「俺の予定を外したくない、そうだな」
「うん」
「じゃあ寝てろ。ぐーたら寝てろ。病院が厭って言うんなら大人しく寝る」
「……うん」
「俺はその間爆発的大集中だ。ちゃんと寝る。飯も食う。午後、散歩してから出掛けような梅子」
「……うん」
「……おやすみ、梅子」
「うん。……おやすみなさい、せいじ……」

斉志

 梅子、真っ白のぷりぷりなお肌に青みがかかって具合わるそうで、なのに俺……。敷地内の病院へも連れて行けなかった。明日楽しみにしてたからと梅子が言う。ちいさな声で。
“またお前のせいで入院なんぞさせやがったらわーたーしーが梅子の身柄引受人になるわ? 大馬鹿者と違って汗水垂らしての稼ぎで二人や三人などいくらでも……養えるのよ?”なんぞ言っていやがったどこぞの高飛車女房がいたが誰がんなもん一々報告するか、どうせ盟友と亭主へ筒抜けに決まっている。
 薬を厭がる梅子の為に飯に一服盛った。額にちゅーを落とすとすぐに眠る梅子。ぬくぬく、安心、そう全身で語りながら。
 躯、悲鳴上げていたなんてもんじゃないって分かっていて俺……。
 俺。性懲りない。
 ……。

梅子

 気が付くと腕枕だった。これが日常。
 のんびり、ゆったり、ぬくぬく。清潔であったかいすべすべのシーツ。逞しくって頼りがいのある、夜な夜などころかところ構わずいつもすけべでやらしい旦那様の腕枕、です。
 結婚してからは、指輪をいじるために、癖のように左指を。でも、右腕でも腕枕してほしくて、どっちでもして欲しくて、そう言ったら、斉志はあと変わる番こにしてくれた。
 うんとうんとうーんと格好いい旦那様。
 無防備。
 この時だけ。
 この時が、わたしの。一番の安心。
 ちょっと躯を起こして、頬杖付いて、しばらく見てる。すー、すー。って。規則正しい息遣い。その度動く、躯。逞しくって。格好よくて。お顔、整ってて、きりっとしてて、睫毛ばさばさで、いろっぽい。
 いろっぽい。いろっぽい。いろっぽい。
 ちゃんと自覚してるかなあ。こーんなひと、わたし隣にすれ違われたら、もう全部奪われちゃって、授業ー、って言わないのか、講義? どころじゃないけどなあ……。
 すこし長めの髪は、おうちではおろしてる。そうすると、ちょっとこどもっぽくなる。おとこのこ、なんて。
 言うと、どうもおこるらしいけど。
 かわいい。
 無防備で、全部晒してるこの姿。かわいい。
 食べちゃいたい。
 それが、目が覚めて。覚醒して。
 すると途端に纏う風。凶暴、爆風、荒れ狂う。穏やかで猛々しい……斉志。
 しばらく見てたら……あれ?
 あれー……おうちの光量が……まぶしい。斉志いつもまぶしいけど、光量が強い。レースのカーテンから漏れる光が強い。何時、何時、……
 十時だった。
 十時? 十時? 十時に斉志が寝てる?
 ……ついさっき眠ったんだ!
 わたしがお昼に起きるから、斉志二・三時間しか寝ないひと、だから、さっき……。
 わたし、ぐーたら寝始めたの確かせいぜい八時。それから、寝てる間ずっとあんなふうにずっとずっと集中、して……。
 ……。
 ほんとうは斉志、うんと忙しいひと。受かったってあの日から、斉志わたしに……こんなこと考えるだけで怒られる、かなしむ、けど。
 構ってくれるようになった。
 ほんとは、ほんとはそんな時間、全然ないひとなのに……。
 わたし、なんか、に。
 なのにあんなことして……。
「……梅子……」
 え!?
 お、起きたの、お、起こしちゃっ、た……?
 思わず躯を硬くして、斉志を見ると……目、瞑ってる。
 あ、……寝言、だ。珍しい……。
 よかった。ほっとした。これで起きた起こしたなんて言ったらもう、もう……。
 ……腕枕に戻って。もう少しうとうとすることにした。本当は、ここにこのままいて、へんにちょこまか動いたら、目覚めさせてしまうだろうから、どこかへ行った方がいいと、思う、けど。
 けどそんなことしたら? お邪魔でしょう、だから離れる、ひとりで頑張ってね。出来るでしょう、あなたなら。
 そんなことを言ったら? このひとはどうなる?
 そしたらもう、……多分、もう。
 駄目。どうしてもへんな方に考えちゃう。いい方に考えよう。とにかくお寝むしよう。斉志はわたしがへんな時間に起きようとしたから、へんなこと考えたから起きかけちゃったんだ。いけない、いけない。
 斉志の眠りを妨げないようにするためには、どうすればいいですか?
 それは、わたしが楽して甘えて。しょうもないなあ、って言われるくらい、ぐーたら女房してるといいのです。
 うん、そうしようっと。
 だからぬくぬく、ぬくぬく……。

 もう一度目覚めた時はお昼前。あと十分ぐらいで正午、そんな時間だった。
 空気を吸って。深呼吸。
 もう、あんなこと考えない。
 ゆっくり半身を起こす。ん? あ、起こせる。具合は? わるくない。
 歩ける? うん、多分歩ける。大丈夫。
 斉志、は……。
 えっと、その……。
 よく分からないけど、朝方、ってお昼だけど、とにかく起きがけはそうなそうで、そうなわけで。
 もう動けるし。考えてみれば昨日わたし歩いてないや(……)。
 いまはもう大丈夫。歩けるから、いつもならこれで、静かにベッドをこれでも出て、のろのろ、だけど。台所へ向かってさあお料理をー。なのだけど。
 でも今日は。
 今日こそは、したい、な。
 パジャマの上、脱いで。もぞもぞおふとんにもぐった。
 斉志の脚、ちょっと開いて。それから、えいって。パジャマの下とぱんつをぐいって上げて剥きまして。
「戴き、ます」
 うんと、うんと食べた。知らないだろ斉志、……美味しいんだよ。嘗めて、うんと嘗めて。舌で、手で、両手で、胸で、思いっきり挟んで。上下に。……そういうところも、全部触れて、嘗めて。……も、う、何本ものんで、る。細い腰。長い脚。
 がばー、って、……開いたとこみたい。みたい。
 みたいーみたいーせいじー。うんとうーーんと食べるから、食べてるから、起きてるでしょう斉志、分かってるでしょう斉志。
 ひらーいて。
「誰が、……んなもん……す、るか」
 美味しい……だから。ちゅばちゅば、って。わざと、音出してあげる。
「大体、……な、いっつ、も……朝、抜け出して……俺のこと、ひ、とりにして……寂しいだろ俺……言わなくても分かるだろ、……食ってから一緒に風呂だ。それから飯作れ……」
 のどの奥にまで斉志。
「よくも、……胸、揉まれないで済んだなんざ思いやがったな……。ヤりながら食わせてやる……」
 そうすると、わたしごはん全然喉通らない……。
「……分かった。しょうがない。……飯抜きは却下だ」
 うん……。
「だから、……胸と尻だけにしておく。梅子、……箸落とすなよ。こんじょうで食わせろ……」
 ぅぅ、それだと……。
「それだとヤられるのと同じくらい感じちまう? いい、イけ。そしたら俺が箸持って梅子に食わす。……ぁン!! 上手い、んだよ梅子!!」
 だってすけべだもん……。斉志より、うーんと……。
「ちゅーも、上手くて、誘うのも、……上手くて、ヤるのも食うのも上手くて……この……なんとか星人!!」
 そう、だもん……。
「俺、俺梅子誘ったこと、……ないって……知ってるか。俺梅子のこと……万年襲って剥いてばっかりだろ……誘った、こと、ぅ、く、……はないんだよ……」
 そう、いぇば……。
「誘い方なんざ、……知らないんだ、んなもん知らん、梅子だけに、教わったが、……少しは独創性、見せてやろうかと思うが……。俺、も……髪にちゅーして、ヤって、……いい?」
 うん……。でも、ね……。
「……俺は、いつも、……いるだけで誘ってる、……か? 梅子もだ……」
 うん……。
「そこ、……ィィ」
 うん……。
「も、……出る、目、瞑ってろ、……精液目に入れるな」
 ぅン……。

 顔とむね、ごしごしこすって貰って、お手てもおしぼりで拭きふきして貰って、シーツにくるまってだっこでお風呂へ、です。
 ゆっくり、焦らされるほど。ずっと、見つめられながら、巻き付いたシーツを解かれていく。熱いまなざしで、もう、……いつも、それだけで濡れて、て……。
「……梅子」
「う、……ん?」
「なに、考えた?」
「……え?」
「朝、そういう気配した」
「……」
「起きたぞ、俺」
 顔、近付く。あのときのような瞳が迫って、わたしを射る。
 貫くように射る。
「考えたこと全部言えと……言ったろ」
「……」
「分かるぞ……言えよ。……言わないと……」

 シャワーを一緒に浴びながら後ろから。手、壁について、後ろからガンガン、犯されて、おしり、うんとやらしく突き出して、て……。
「朝っぱらからなに考えた! この分からず屋!!」
「ァァァァァァ!!」
「もっと突け? 壊してやるよ、尻もなかも全部!! 全部ブチ込んで犯しまくって、……この、この!!」
「ぁぁぁぁあああア!!」
「よくもあんな、……こと!!」
 手、ぇ、前に、来てて、……しげみのなかにある蕾、信じられない、くらい、弄りまくって……。
「構う? ひとりで? 離れる? よくも……よくも!!」
「……! ……!!」
「そんなに俺の……こと!!」
「……! ……!!」
「言え!!」
「……すき!!」
「言え!! 一生言い続けろ!! 墓に入ってもだ!!」
「すき、すき、すきぃいいイ!!」
 なか、とまって、胸、イ、痛いくらい、ううん、痛いィ!! わ、し攫み、で……
「時間がないだと!? そんなに信じられんか、俺はその程度か、俺は下らんやつらと同列とでも言うのか!!」
「ぁ、あ、ィ……イ!!」
「もし、……く、締め、……なん、て……、も、し、またあんな、こと考えた、ら、分かって、るだろうな!!」
「ぁン、ァ、んんん!!」
 も、躯、がくがくいわされて……。凄くて、激しくて、え……。
「言え!!」
「も、も、もぅあんなこと考えない、絶対考えない、せ、斉志ィィィ!! は、わ、わたしが、いィのぉ!! わ、たしでなくちゃ駄目で、絶対駄目で、わたしは、斉志が、斉志、の、ことぉ、も、も、い、いないと、駄目、厭って、……言ってもずっとずっと一緒にいる!!」
「誰がなんとかなんざ言うか!! もしあんなこともう一度考えでもしたら鎖で手首足首繋いでやる!!」
「ゥ、ん、ゥ、ン!!」
「前にも言った筈だ!! もう二度とお願いなぞ聞かん!! 生理中もヤる!! 風呂もだ!! いいな!!」
「──!!」
「言え!!」
「──ゆる、してぇ!!」
「……言うに、……事欠いて!!」
 背中思いっきりされ、て、
「ァアアアアアアアアアアアア!!!!!」

 意識を無理矢理戻されて、湯船でも許してって言っても、聞き入れてなんか貰えなかった。名前も呼んで貰えなくて、泣いても許して貰えなくて──でも、でも病み上がりだから、湯当たり駄目だからって、すぐ出て、躯拭いて貰って、下着とパジャマ上下ちゃんと着せて貰って、おふとんも掛けて貰って、それでソファに座ってる。
 あんまり、あんまり、あったかくくるまれてて──ずっと、泣いてた。
 あんまり、あったかくて──
「せいじ、すき──」
 独り言みたいに呟いてた。台所からは調理の音。
「すき──」
 あったかい。やわらかい光は、今が一番光量が多い。まぶしい。
 レース越しの光はうんとやわらかくて、だから、それだけで泣けて来る。
「すき、すき、すき──」
「もっと言え」
 声、おこってる──。
「すき、せいじ、すき──も、お願い、なんかしないから、で、でも──」
「厭だ。どれだけ量多かろうが鈍痛あろうがヤってやる」
「せいじ──!」
「もう知らん」
 ──!!

斉志

 分かっている。俺は言い過ぎている。引っ込みが付かなくなっている。大人げない。
 お願い聞かないなんて、厭だ。俺、梅子のお願い、聞きたい。その通りしたい。梅子のお願いはいつも事前に予測なんざ付かなくて、それがよくて、望外の言葉ばかり。いつも浮かれて舞い上がって……それがなくなるなんて、厭だ。
 俺……。なんでいつも止まらない。病み上がりなのにまた風呂でして。分かっている、梅子は幸せに、……俺と同じだ、幸せに慣れていない。だからいつも、ちゃんと考えているだけだ。
 梅子の厭がること二度としないって誓ったのに。いま、梅子厭がってる。うんと泣いてる。きっと涙腺壊れてる。
 ……梅子が、……そんなことになったらどうなるか、分かっているだろ俺……。
 火、全部止めた。料理全部途中で放って置いて居間へ。
 梅子、……梅子ふとんにくるまって、……。
「梅子。好きだ」
 俺に乗せて、ふとんごと梅子ぎゅっと抱き締めて、言った。
「ごめん」
 声も上げていない。殺してすらいない。聞こえなくても分かる、大泣きだ、一番の大泣きだ。見えなくても分かる。表情、……消えてる。俺がそうした。
「許す」
 聞いてなんかくれない。そんな余裕、ない。俺、梅子に余裕持たせたこと一度もない。いつも梅子は俺でいっぱいなのに、俺……。
「お願い、して」
 震えている。怯えている。俺に離れて行かれると思っている。
 ……発狂一歩手前、だ。
「うんとして。いっぱいして。我が儘聞く。全部その通りする。生理中はしない。風呂も別。ちゃんと区別付ける。だが俺はこんなんだ、他の日はいっぱいヤりまくる。処構わず時間構わずだ。一番、……はズドン一発だ。梅子一番感じるだろ」
 とても返答出来る状態じゃない。……なんで俺、いつも……。
 ふとんごと梅子抱えて、立ち上がって扉へ向かった。俺は部屋着だが、構わん。靴を引っ掛け、扉に手を掛け、そのまま出た。
 梅子が知ることはないが、警備上警戒度が最も高いのは散歩の時だ。今頃連中が所定の地点へ散っている。
 庭へ出るまでもずっと言い続けた。七年前の春、初めて言ったあの時のように。
 届けばいい、伝わればいい、そう思いながら。
 伝わってはいないだろう、そう思った七年前の春。振られて、……それでも追い掛けて得た、俺の梅子。
「好きだ。好きだ。好きだ……」
 ──。
「好きだ、梅子。好きだ」
 ──。
「いま、庭だぞ。梅子」
 ──。
「梅子は外の空気吸うの好きだよな。うん、分かっている。梅子は俺をほっぽりたくて散歩するんじゃない、俺と一緒に気分転換したいんだ。うちがなんとか、じゃなくて、……そういうもんだよな」
 ──。
「梅子。好きだ。梅子」
 ──。
「梅子。梅子。梅子」
 ──。
「梅子。おなか空いたろ? 俺、料理途中で放って置いているんだ。一緒につくろう。……な」
 ──。
「なんで最近考えていることが分かるんだ、か。それはな梅子。梅子がひとりで抱え込まなくなったからだ」
 ──。
「梅子が抱え込むとな。俺どうしたらいいのかわからなくなるんだ。梅子がなにを考えているのか分からないと、俺、要らないのかと思って……それでヘマするんだ」
 ──。
「これ言うと怒るだろうけどな、もう済んだことだから言うぞ。梅子が俺を放って置いた時、梅子ずっと前からそうしようと思ってたんだよな。けどな、……俺には分からなかったよ」
 ──。
「春休み、俺ずっと梅子呼んで、梅子ずっと来てくれて、ずっと抱いていただろ。梅子全然厭がらなかっただろ。だから俺、十八の誕生日に義親さんに無断で籍を入れようと思っていたんだ」
 ──。
「全然分からなかったよ」
 ──。
「いまは違うぞ。もう分かるからな」
 ──。
「けどな、全部ってわけじゃない。それはな梅子。梅子が意志を持っているからだ」
 ──。
「いいか梅子。梅子の意志は曲げるな。絶対曲げるな」
 ──。
「だがな、それも含めて梅子は俺のだ。全部俺のだ。そうだろ」
 ──。
「梅子」
 ──。
「どこへも行くな」
 ──。
「俺を置いて行くな」
 ──。
「ずっと一緒だ」
 ──。
「惚れてる」
 ──。
「……酷いこと言った。ごめん。俺、あんなこと考えてもいない。……なんで、言ったか自分でもわからん。ごめん。梅子、……忘れて」
 ──。
「厭?」
 ──。
「そうか、厭か。それでもな、俺は梅子のだ。梅子は俺のだ。一生離さん。絶対離さん。墓に入ってもずっと一緒だ。梅子、言っておくが棺桶も俺と梅子でひとつだからな。別々なんざ有り得んって分かっているよな」
 ──。
「梅子。……具合、どう? 昨日より、……治ってる? わるくなった? 体温は変わらないぞ。けどな、やっぱり病院へは行こうな。梅子、分かってるぞ。注射が厭なんだろ」
 ──。
「やっぱりそうか。梅子そういうところあるよな。……赤ん坊みたいだ」
 ──。
「梅子は、……自分のこと、あんまり自覚ないだろうけどな。いいにおいがするんだ。赤ん坊みたいだ。こうしてだっこしていると安心するよ」
 ──。
「ああ、俺のだ、ってな」
 ──。
「うちにいると思うと安心する。俺のこと好きで、溺れて、惚れてて、甘えて頼って。ちゅーして、抱いてるともっとそう思う。一番近くなるからな」
 ──。
「俺、梅子が俺のだって思えてようやっと何か出来るんだ」
 ──。
「そうでないとな。あんまり下らなくてなんでも片手間でやっちまうんだ。どうでもいいんだ。それでも……それでも一番を取れるんだよ。答えが予め用意されている試験なんざ全部。本当だ。これを言うと方々から白い目で見られるからな、言うのはいまが初めてだ」
 ──。
「人間じゃないだろ」
 ──。
「梅子に逢って、俺やっと人生に興味持てたよ。なにせ本当に片手間だ。考えてみろ梅子。こんなこと言う俺が、中学の勉強なんざあの当時、どう考えていたと思う? あの時から一番なんざ方々から言われて面倒だからな。試験なんざどう間違えて回答するか、程度しか考えていなかった。当然片手間だ。目を瞑って書いたよ」
 ──。
「下らなくてな。このまま行くのかな俺、なんでも目を瞑って、それでもその通りで、それでお終いかな、そう思っていたんだよ」
 ──。
「梅子に逢った」
 ──。
「惚れた」
 ──。
「梅子」
 ──。
「応えて梅子」
 ──。
「こたーえて」
 ──。
「応えてくれなくても、……それでも。好きだ」
 ……。
「梅子」
 ……。
「梅子」
 ……。
「梅子。……俺の、……こと?」