斉志

 梅子はずっと俺と一緒だ。ならばもう、我ながら余裕が無いだの視野狭窄に陥るだのは在り得ん。
 だが梅子は、俺が梅子に関しては理性の欠片も無く、毎度真っ白舞い上がり、ヘマしまくりな行動をするとよく知っている。これで信じろとは我ながら説得力は無いが信頼は少しずつ積み重ねていくしかない。確かにふたりっきりで勉強を教えるなんざやろうとも思わんが、ふたりっきりで意識のある梅子に食わせて鬱憤晴らしもヤる気満々とはようやく納得して貰えた。
 梅子がこの報を待っているのは分かっている。あの時の俺のようにソワソワして落ち着かない梅子。
 俺からそれを伝えられた時どういう行動に出るのか、考えていた。まずドカン一発大泣きだ、これは決定、間違いない。俺に散々焦らされてもいる、梅子とて鬱憤晴らしをしたいかも知れん、違う涙でもない。気が晴れるようだからな、泣くままにしておこう。俺も少しは成長したか? いや、これからは梅子に対しても年齢以上のことをせんとな、なにせようやっと職に就く。俺は墓に入っても成長し続ける、でないと梅子に放っとかれちまうからな。
 梅子は俺の想像を遥かに超えることを言うし、やる。今日が確実にその日だ。俺はその度真っ白舞い上がり。だがこれからは。そう思って、いつもの通り帰った。
「梅子、ただいま」
「おかえりなさい、斉志」
 俺にやわらかく抱きつき、背伸びしておかえりの甘いちゅー。お互いあらん限り貪って、上着を預ける。忍耐でシャワーを浴びる前、話があるから夕飯の仕度をしないでソファで待っていて、そう言った。
 俺流に言えば、ついにこの日がやって来た。梅子の今の心理はずばりこうだ。

梅子

 えっと、斉志流に言えばついにこの日がやって来ました。俺は決して逃げてはなりません。二年の新婚生活の集大成です。えっと、じゃあどうしようかな。電蓄の針を取り替えて……あ、ソファで待っててって言われたっけ。
 うんと緊張してその瞬間を待ちます。こんなに緊張したの、初めて食事を振舞ったあの日以来。どきどきする。心臓、ばくばくいってる。

斉志

 俺をソファで待つ梅子。なにを言い出すか分かっているだろうがな、その前に俺がこういう行動に出るとは思っちゃいまい。いかなびっくり箱の梅子でも。
「梅子」
「っっっきゃーーーーーーーーーー!!」
「……きゃー、はないだろ……」
「だ、だって、だってだってだって……」
 なにがだってだ、ただ突然後ろから抱きついただけだ。気配を殺して。
 俺が隣に座って言い出すと思っていただろう、びっくり仰天で焦る梅子の耳元へそのまま囁いた。
「受かったぞ俺。一番で」
「……」
「梅子のお陰だ」
「……」
「うん」
「……お、おめでとう斉志!!」
「……うん」
「よかった、よかった、よかった!!」
「……うん」
「よかった、よかった斉志、よか、った、ぁ……」
 さあ泣き出し体勢だ。ソファ越しの梅子を担ぎ上げ、ベッドへ連れて行く。ティッシュは箱で大量に準備、でかいコップに三杯の氷水、おしぼりは当然常備、ちいさなゴミ箱ではなくでかいゴミ袋で準備万端だ。
 ベッドサイドに座り、俺に乗せた途端、
「ぅうぁああああーーー──ん──」
 声をあげて泣き出した。
 梅子泣き虫になったな。思えば名を呼んだ途端泣かせた。次に泣かれた時はああだった。その次に至っては狂っていた。いつもどうすればいいか分からなかった。
 ずーずー出る鼻水をかみ続け、うーうーわんわん泣きながら、よかったよかった言いながらひたすら泣き続ける梅子。アレもそうだが、ここまで出っ放しな水分がこの小さな躯のどこにあるものやら。
 ゴミ袋が膨れ上がり氷が程よく解けた頃、泣き声が小さくなっていった。
 おしぼりを差し出すと、気持ちいいと言わんばかりにそれに顔を伏せる、まだまだぐすんぐすんとしゃくり上げる梅子に言った。
「水、あるから」
 頷くだけ。
「俺、仕度して来るから」
 頷いてくれない。
「梅子がする? いいから甘えてろ」
 頷きもしない。
「梅子。俺はな、梅子に好きと言われて愛されて、我が儘言われて甘えられて、狂って溺れられて初めて安心出来るんだ。梅子、もうひとりだけでなんでもしようと思うな、出来るな。俺に頼らず楽もしないで梅子がひとりでなんでも抱え込んだら、また俺何かヘマするぞ。
 梅子が俺の生甲斐だ。俺がいないと駄目だって、梅子そう思ってるって、そう思えて初めて職に就けるんだからな」
 梅子の額にちゅーを落として俺からそっとおろし、寝室を出て台所へ。梅子は一週間先までの献立を作っている。食材を買ってくる俺の為に。
 献立通り料理した。梅子の下ごしらえを俺が料理する。何ていい。

梅子

 久し振りにうーんといっぱい泣いちゃった。
 受かったって。……ほっとした。
 それはその、……信じているけど、でもどう言えばいいかわからなくて。まさか間違っても一番で受かってねなんて言えないし。
 斉志はその、……集中しないときはその、……だから。だからわたしとその、……ということは、集中出来ない時間を過ごしている、ってことだから。
 でもそんなこと考えでもしたら斉志うんとかなしむ。だから、そうは思わないで。……でも、現実はそう。こんなこと言うと、というより考えるだけで怒られる、けど。
 だから受かったって聞いて、うーんとうーんとほっとして、おめでとうもそこそこに泣いちゃった。だめだな、ちゃんと笑顔でよかったね、って言おうと思ってたんだけどな。わたしの考えていることなんて斉志全部分かってる。
 でももうすっきりしたから、だから。
 だからもういい加減、あたまを切り替えよう。どうしてもどうしても、斉志に迷惑かけちゃいけないって、心配させちゃいけないって、そう思ってしまう。そういうの斉志がどれだけ厭かって知ってても、それでも全部わたしがひとりでやろうって、そう思ってた。
 そうすれば斉志に、……離れて行かれても。独りで生きて行けるから。
 そう思ってるのなんて、斉志全部分かってる。
 だから、もう、甘えよう。ひょっとしたらこれが一番難しいことかもしれない。でも、そうしよう。
 それが斉志を、ほんとうに信じるってことだから。
 だから、えっと……こういう場合はどうしよう。まず泣き腫らしてます。でも泣き顔なんていつも見られてるし、こんなお顔だけど、……あ、顔のこと言っちゃいけないや。……と、とにかくこういう場合で甘えるとはどうすればいいんでしょう。ベッドサイドに食事運んでもらうまで待つ? ううん、あんまりそういうのはお行儀わるいです。いいにおいがして来ます。どう甘えよう、かなー……。
 だから、とにかく寝室を出て、このうちで離れ離れなんて、斉志が書斎とかトイレ(……)にいるときとか以外は厭だから、台所へ向かった。

斉志

 とてとてと音がして、梅子が俺の元へ来る。わたしも手伝う、そう言って。一緒に料理をした。今日の献立は季節柄で牡蠣鍋料理。本来これは一緒に箸をつつきあうもんだろうがこのうちでそんな食い方は無い。
 俺が鍋を持って、梅子がごはんを持っていく。ソファに座って梅子を乗せて、俺が梅子にフーフーして食べさせた。
「わたしも、する」
「うん」
 箸を渡して梅子もフーフーする。そしてはい・あ~ん。
「美味しい、梅子」
「うん、美味しい。斉志」
「熱くない?」
「うん、大丈夫」
 さいごのうどんまで残らず食べた。俺と梅子は好き嫌いがない。どれが特に好みか、そういったものもない。味付けの好みも一緒、俺がそうした。
 一緒に歯磨きを。梅子はいつも思わず手を腰にやろうとする。それを見るのもまたいい。俺も後片付けをしようと思ったが梅子に叱られた。
「駄目。わたしのお役目だもん!」
「……分かった」
 そうだ、梅子の役目だ。ずっとさせるからな、梅子。足腰立たさなくした場合は除くが。
 今日はこのまま書斎へ行かずとも心配はされまい。ソファへ戻った。梅子は合格祝いに俺に我が儘を言ってくれる。もう分かっているぞ、梅子。

梅子

 わたしは斉志に頼って甘えて楽をするぐーたら女房、です。気をつけなくちゃいけないのはぐてーっと太ることと、斉志から逃げないこと、お掃除中とか片付け中にこんな高価な食器とかがっちゃーんって割っちゃわないこと、です。実はいつもおっかなびっくり扱ってるんだけど、なんとか無事です。えらい自分。
 今日は斉志、書斎へ行ってません。合格、したからだと思う。よかった、ほんとによかった。一番って、そういえば初めて言われた。いつも自分で勝手に知って、おっかなくなって、どう逃げようかなー、なんて算段してました、いつも。こんなどうしようもないぐーたら女房のどこがいいのかなと思うけど、とにかく全部いいらしいから信じます。はい。
 ソファに座ってる斉志。抱きつき返し、してやろうかな、って思ったけど、……乗りたいから正面に回りました!
 だから、いつもだけどおいでポーズしてる斉志に乗った。重くないのかなと思うけど軽いんだそうです。四十キロ以上ある重石、わたし膝に乗せられたらとても軽いなんて思えないんだけど。でも斉志です。いっぱい黒帯持ってる斉志です、わたしは軽いんです、わっはっはー。
 ……それで斉志の首に腕を回して。いつも、いつも囚われる熱っぽい瞳。言って? って言ってる、斉志の瞳。
 ふつうは、合格したひとが祝うひとに言うものだと思うけど。でも、甘ったれなわたしは言いました。
「斉志。合格、おめでとう」
「うん、梅子」
「あのね、斉志」
「うん、梅子」
「あのね、あの……合格祝いに、……お願い聞いて」
「うん、梅子」
「我が儘なの。うんと我が儘」
「……いいよ?」
「じゃ、じゃあ。言います」
 おっほん、とわざとらしいポーズを取りまして。こういうの躊躇っていいことないです。一気に言いました。
「斉志! わたしは斉志のお金で合格祝いを買いたいです! それは腕時計です! 何故かと言うと斉志時計してないからです! それ職場の皆さんに言われて、誰かに、じゃあ自分が贈って上げる? とかその、おんなの、……ひとなんかに言われるの厭です! 斉志が時計見なくても時間を知ってるのは分かっているけど、それを知ってていいのはわたしだけです! 対外的に時計して下さい! はっしんきとか付けなくていいです! デザインはシンプルなのがいいです! もっと言っちゃうと、わたしがしてるのと同じのがいいです!! どこからか、こんじょうで探すとかして下さいっっっっっっっっっ!!!」
「うん、梅子」
「え」
「いいよ?」
 ……斉志、表情変わらない。いつもの、うんと格好いい旦那様。 
「梅子が実はショッピング好きだと知っている」
「……」
「だから俺の知り合いの店へ連れて行く」
「……」
「他には?」
 ……考えていませんでした。
 いやその、斉志が驚かないのもこみで考えていなかったんだけど……。

斉志

 そうか、時計と来たか。梅子は前職場でさんざ外せと言われていたからな。社会人の先輩だ。ならばこれも考えているだろう、だから言った。
「梅子。俺な」
「うん?」
「梅子にお白州を言い渡しているが、例外を設ける」
「……え」
「梅子前に言ってたよな。職場の冠婚葬祭とかお付き合いとかはある、と。そうだ、そういった連中の件だ」
「……」
「俺は職に就く。当然仕事に関する付き合いがある。梅子がそういった場に出る可能性もある。そうなれば、俺以外の生物に会って話す機会もある」
「……」
「その為の外出着だ。ああいうのを着て、下らん場に出る必要があることは否定しない」
「……」
「ただしそれに出席する全員に、下らん物言いはさせん。誓う」
「……」
「この俺が、梅子に会わせる機会を持つ連中は全員それなりの人物だけだ。もう分かっているだろうがな、そうだ、新婚旅行で会って話をした、ああいった連中だけに限る」
「……」
「いいか梅子。お白州の例外は俺が許可した連中だけ、それ以外はあの通りだ、いいな」
「うん!」
「梅子。合格祝いを貰いたい」
「うん! なに?」
「梅子をくれ」
「……う、ん」
 途端に真っ赤になって俺を上目遣いで見る梅子。ぎゅっと俺を抱き締めて、何度も何度も頷く。そんなのいつもだもん、ずっと全部上げてるもん、そうちいさな声で、耳元で囁く梅子。
「梅子。俺はな」
 もう濡れている梅子をベッドへだっこで連れて行く。横たえ、ゆっくり脱がす。うっとりと俺を待つ梅子。
「俺には梅子みたいな独創性は無いんだ」
「……そんなことない!」
「ある。これが俺のガキの頃からの悩みでな。既存の価値観ではいくらでも一番が取れる。いくらでも調べて究められる。だがそういう領域にないものに、俺は想像を働かせることが出来ないんだ」
「そんなことない!!」
「出来なかった」
「……?」
「俺には出来ん、そう思っていた。梅子前に、何故俺が自信無いのか、そう言っていたよな。そうだ、俺は自惚れは過ぎるわプライドが高いわだが自信家じゃあない。自分に足りないものがあると自覚し過ぎていてな。だから俺は自信家では有り得ん」
「……」
「そう思っていた」
「……」
「足りないものがなんであるかを確信したのは雪の日だ。自信があればその場で告ったが、無くてな。逃げたが、別に学校の勉強をしていたわけじゃない。どだい島国の試験勉強なんざやったのはせいぜい中一までだ。書斎にある本は何度も読み返したんじゃない、この星にそれしか現存していない書籍を根性で取り寄せただけだ。俺は勉学と名が付けばなんでもござれだ。
 ただしそれは過去を洗い直したというだけだ。痕跡があるものを辿っただけだ。実際この目で見て感じなければ分からないものがこの星には溢れている。それを知りたくて暗黒の二年弱はこの星を飛び回ったよ。
 それでも、やっぱり知ること見ることが出来る、それだけだった」
「……」
 あらん限りちゅー、貪った。俺はなんとか星人、でかい胸も貪り尽くす。
 ばくばくと鳴る梅子の全てを俺が貰う。
「梅子を……」
「ぁ、……ン」
「知れば、……知るほどな」
「ン、ン、ン……」
「貰えば貰うほど、真っ白になって、浮かれて舞い上がって……それが俺に、足りなかったものだ」
「ぁ、ぁ、ぁ……」
 脚をおっ広げ、指と舌で、ぐっちゃぐちゃに掻き回す。なまめかしい。触れる箇所、躯全部、こころもなにもかも全てが惚ける。
「そう、……思えた、よ」
 躯全部に舌と指を這わす。一番の弱点、背中はわざと外して。こうする時の梅子の表情、……そそる。
「ぅ、ぅ、……」
 俺も梅子も血が集まって、もう、
「入れる、ぞ……」
「来、て……」
 あてがって、……抉る。
『!!』
 熱、ィ……。
「熱、ィのも……」
 俺に合わせて腰を振る梅子。うすく目を開け、俺を見て、俺を呼び俺を締める。
「焦がれるのも、……惚れるのも、……梅子が俺にくれるもの全部が、俺に、……ぅ、く」
 飛びそう、だ、いつも俺は、こうやって、こんなに、
「俺に、足りない、のは、……、分かる、よ、な」
 中に出す、それが、こんなに、
『……梅子!!』

 梅子は俺をさぞ自信家だと思っていただろう。俺が自信を持てないのは、そうだ、梅子だけだ。俺に頼って甘えてくれん梅子に関することだけだ。
 もう、分かってるよな……梅子。

梅子

 もう分かってる。そう、わたしが自信を持てばいいの。
 斉志はわたしを好きだって。ほんとうにそう思えば、それでいいの。

斉志

 梅子の腕時計と同じもの、と言われるとはさすがに思っていなかった。早速設計図を引いて知り合いに復刻させた。これだけなら、別に外出させる必要は無い。それでも連れ出すと言った俺に、何か考えがあると思っているんだろう。そうだ、ある。まず梅子に想像は付かんだろう。

梅子

 出掛けるとか、ショッピングが好きだろう、なんて言われるとは思わなかった。斉志そういうの厭がるのに。でも、知り合いの、っていうし、だったらレジにも誰もいないだろうし。
 たぶんわたしはお墓に入っても、もうお札なんか触らない。鍵もそう。他にもあるけど言う必要ありません!
 えっと。それでいい、そうだろ斉志!

斉志

 梅子が朝飯の片づけをしている時、今度の休講日に庭を散歩して昼飯を食った後連れて行くと言った。そうしたら、梅子が俺の背に、まるでなんの気もなく言った。
「斉志」
「うん?」
 このタイミングは珍しい。俺はこれから大学へ行く、爆発的大集中だ。梅子は俺が出掛ける時遠慮しまくって、挨拶以外なにかを言ったりはしないのに。
「わたしのこと、きらい?」
「わけないだろ。……どうした?」
「じゃあ、斉志も言って」
「……」
 梅子は俺の想像を遥かに超えることを言う、それはいつも望外の言葉。
 そうだ、俺が梅子を全部貰う。
「俺のこと……好き?」
「うん! 好き、斉志。いってらっしゃい!」
「……好きだ、梅子。行って来る」
 あらん限り抱き締めて、あらん限りキスをした。
 これ以降、なんとかなる文字は俺と梅子の辞書から永久に無くなった。お互いの口からそれを聞くこともなかった。

梅子

 最近、斉志はあんまりわたしのこと焦らさないようになった。あの、受かったって日から。
 でも実はわたし、斉志に焦らされるの好きかもしれない。
 ……なんて言ったらなにされるか分からないから言わない。と、思ったんだけど……。
「梅子俺に焦らされるの好きだろ」
「……なんで分かるの……」
「顔に書いてあるようなもんだ」
「ぅぅ……」
 もうなんでもわかられてるんです。斉志は梅子びっくり箱、なんて言うけれど、……全然そうじゃないと思うんだけど……。
 月イチとお庭以外、外に出るなんて久し振り。別に、というか、出なくて全然いいんだけど。斉志はわたしが楽してくれない、なんてずっと思ってるみたいだけどとーんでもありません! どれだけ楽しまくっているというのー。日がな一日おうちにいて、ただ斉志を待って。どれだけどれだけ幸せなのかな。斉志がおうちを出掛けても、わたしはひとりじゃなくて、わたしのなかに斉志がいて、このおうちは斉志そのもので、だから全部全部斉志でつつまれてて。
 どれだけ幸せなんだろう。
 斉志を放って置いたあの日から。わたしはそうなる唯一の可能性も放って置いた。もうどうでもよくなった。倒れたら、それでおしまい。あとは消えてしまえばいい。三年間を穢し続けた、これが咎。そう思って。
 でも。放って置くってことが、斉志にどれだけ、どれだけ、
「なに考えてる……?」
「斉志の、こと……」
「うん。俺の、……なに?」
「ごめんなさい……」
「……なんでヤってる時にごめんなさい……」
「……だって」
「だってじゃない。なに考えた。言えよ」
「……放って置いてごめんなさい、って……」
「……いつの話だ」
「……だって」
「だってじゃないと言ったぞ。……そりゃ、確かに放って置かれたがそれは俺もだ。いつだってかっ攫えたんだ。……そう言っただろうが。なんで今蒸し返す……」
「……だって」
「梅子。言う」
「……好き。斉志」
「梅子」
「も、もう、言わなくていい、そうだろ……」
「俺の台詞取るな。……梅子」
「……うん?」
「俺は、……集中するぞ」
「? うん、斉志はいつもそう、です」
「そうだ。俺は出る。いいな」
「うん」
「いいか梅子。俺がどう行動しようとも、もう心配するな。二度とするな。返事はうんだ」
「うん!」
「……本当だろうな」
「本当だもーん。わたしが、やれ、斉志がわたしのせいで時間を取っちゃってるー、とか、わたしのせいでどうのー、とか全然、思いません!」
「思ってはいただろ」
「……思ってました! でももう思わないもん。ほんとだもん! そ、そりゃあわたしはその、ぜーーーんぜん信用ないけど」
「信じているよ」
「……うん」
「もうヤってる時にごめんなさいなんざ言うな。ヤられるの厭かと思うだろ……」
「そんなことない! ご、……えっと、……好き。もっとして……」
「うんとしてヤる」
「うん……」

斉志

 後は猥らな喘ぎ声だけ。何故あんなん言ったのかはイかせた後にたっぷり聞いてやる。腕枕で、な。……梅子は腕枕が好きだが、それだけじゃない。腕枕されながらたわいない会話をするのが好きなんだ。なにせ俺はこんなんだ、このうちではヤりまくって出すもの出して爆発的大集中して飯食って風呂入る以外なにもせんボンクラ亭主だ、だからヤってる時しか会話する機会がなくて、そんな時に喧嘩になっちまうしそんな時しか会話が出来ない。
 職に就いて三ヶ月はなんとか大学、その後はもうこうしていられる時間は激減する。それは梅子の方がよく知っている。だからそれまでの短い期間、今まで取れなかった時間を取ろうと思う。いくら片手間と何度言っても信じてくれなかったつまらん試験も済んだ、俺がこうしていてももう心配せん。

梅子

 夕べは躯に訊かれなかった。今、腕枕されてもう日中。お天道様たぶん一番上にのぼってる。ごはん? ベッドサイドにサンドウィッチがあります。これ、右端わたしが齧って左端斉志が食べて、食べすすめるとちゅー。牛乳はもちろん口移し。斉志の味がする……。
「梅子」
「うん?」
「考えたこと全部言えと言ったろ……」
「夕べは躯に訊かれなかった、なー……」
「他には……」
「腕枕されてもう日中で、お昼で、ごはんサンドウィッチだなーとか、端から食べあって、ちゅー甘いなーとか、牛乳、っていつもだけど、全部いつも斉志の味がするなーって、それが日常で、……斉志腕枕朝以外しないんじゃないの? あ、でも斉志がなにしてもいいの、斉志がそうだって考えるならいいんだもーん、とか、かな」
「……そうか」
「うん」
「夕べのは今訊く。なんで、……あんなこと考えた」
「うんと幸せだから……、だから、……逆に幸せじゃない時のこと思い出して」
「二度と思い出すな」
「……うん。ご、……」
「ヤられるの厭か」
「そんなことない!!」
「当然だ。……俺を怒らせるな」
「!」
「……泣くな!」
「──ご、──」
「俺! ……言い過ぎた、ごめん、梅子、俺のこと怒らせろ、心配させろ、ただな、……厭なんて言うな……」
「──わたしが、すき、だもん──」
「も」
「わたしもせいじもうんとすき──。あの、でも、なんとかなんて言ってない──」
「……そう、だな。言ってない」
「──せいじ」
「……うん?」

斉志

 おいでポーズの梅子に覆い被さって涙を舐め取る。梅子は腕枕が好きで、だから腕絡めろ梅子、……違った絡めるな梅子、俺したくなるだろ、瞳潤んでる、煽情だ、口少し開けて、食えって言って、る……。
「合格祝いに上げたいの、ある、の」
「……!?」
 なんでこういうタイミングで言う、いや梅子がなにを言ってもいい、ずっと聞いていたくて、だがな俺はもうヤる気満々なんだ、勃ってるんだ、ちゅーまで一センチもないだろ、そんなタイミングでお預けかますな梅子、
「ノートパソコン」
「……!?」
 いかん梅子はお話したいモードだ、そうだ梅子が俺を煽情するなんざ日常だ、潤んだ瞳も日常だ、それはいい、いやそうしてみせると思っていた、
「あのね、もう使わなくてもいいの。斉志全部手書きで残してくれたでしょう、だからわたしも手書きでしたいなー、って。ちゃんともう全部憶えたから。ちゃんと計算出来るから。だからもう使わない」
 梅子はもう日付けも曜日も気にしない、したくない、だから返すと言っている、いやそれは分かる、実にいい、俺とてんなもん気にされたくなぞない、いつ取り上げてやろうかと思っていた、梅子は、いかんまだお話したいモードだ……。
「あのねせいじ、ちょっとその、聞きたいことあるんだけ」
 ごめん梅子、俺もう……。
 結局呑んで食って食わして全部舐めて吸って揉んでブチ込んでとけて惚けて真っ白になって中に出し尽くして梅子に覆い被さった。んなもん日常。
 ……。
 折角梅子が珍しく質問し掛かったというのに俺は毎度日常こんなんだ。猛省だ俺。イっちまって意識のない梅子の躯を洗って俺もそうして、一緒にベッドへ。腕枕で起きるのを待った。
 ……だが梅子はまず質問してくれんだろう。あまりやらんと言った腕枕しまくりな俺の心配をまたするだろう。なにをヤっているんだ、俺……。

梅子

 気が付くと腕枕をされていた。わたしを穏やかに見る斉志。すき。あ、でも一部分だけじゃないぞー。あ、なに考えてるうめこ、って思ってる。言うもん。
「斉志」
「……うん、梅子」
「あのね、わたし斉志のことすき。全部、なんだから一部分だけ言っても泣かないでね」
「誰が泣くか。……なに?」
「うん、って斉志言うのすき」
「……そう、か?」
「うん。あ、でもね、言ってほしいことあるの。“ああ”って、言ってみて」
「……?」
「わたしのこと……すき?」
「……」
「……すきじゃない?」
「わけないだろ!」
「じゃあなんで言ってくれないの……」
「……」
「言って……」
「……ああ」
「わーい! 初めて言って貰えた!」
「……そんなに嬉しいか」
「うん!」
「……なんで」
「かっこいい! あ、わたしご飯つくってくるね!」

斉志

 初めてじゃないんだが……。
 怒ってもいない。心配してもいない。ただしなにを質問したかったかは忘れているな。まあいい。
 腕枕から身を起こし、弱点の背中を俺に晒して、俺のパジャマを着る梅子。梅子はいそいそと着ているつもりだろうが俺にはたどたどしくとしか思えん。ふりふりの尻が一瞬見える。じゃあね、そう言って俺の髪にちゅーして寝室を出る。下着を着けるのは別な部屋で。でないと俺が襲い倒すからな。
 俺も寝室を出る。梅子に後ろから抱き着いて欲しくて書斎へ行った。梅子が一番安心するのは俺が爆発的大集中している時だ。俺が大学へ行っている時、そしてこれからは俺が仕事をする時だ。不安になるのは、……梅子曰くあんまり幸せな時、だそうだがんなもん俺と梅子の辞書からさくっと消してやる。
 俺は不安になるなぞ有り得ん。絶対に見限られんからな梅子。

梅子

 強烈な風を感じながらお料理です。ふんふーんってハナ歌なんか唄っちゃう最近のわたし。合格したって。受かったって。うっれしー、なー。ほっとしたなんてもんじゃない。うんとうーーんと安心した。
 怒らせるなって怒られちゃって。でも怒らせていい、って言って貰えて。……ほっとした。あーあ、だめだなわたし。
 ……首振った。だめ、これがわたしの悪いくせ。悪い方に悪い方に考えるのは駄目です、勝手にお白州! いい方に考えよう。
 お料理、お料理、嬉しいなー。斉志にいつも美味しいよ、って言って貰えるの嬉しいな。斉志は好き嫌いなくて、わたしと好みが同じ。さすがにその、ハンバーグとかカレーとかスパゲッティーとかいつも食べるってひとじゃあないんだけど……。
 和食のうすめがすき。ごはんの硬さ、ちょっとかためなのがすき。出汁を取るのはうんと気を遣います、これが決め手だもん。出汁の利いたおかず、お味噌汁。浅漬けがすきで、それが大体いつも朝食になる。味が濃いお料理はあんまりだめです。
 ……あれー。そういえばわたし、なにか斉志に聞きたいことあったんだよね。なんだっけ。いけないや、あんまり幸せなもので、その、……幸せぼけ。
 えっと。そうそう、試験って確かふたつあったような。俺公務員試験となんとか試験受けるから、きっちり東大入るから、とか言ってたもの。あとは、……ここ、マンションっていうけど、他の住人さんいないのかな。……いなさそうだけど。あとは、……斉志ってお勉強中に珈琲とか紅茶とか飲まないひとなのかな。……どう考えてもそういうことしなさそうだけど。おうちでお酒とか飲まないのかな。誕生日以外は全然お酒に手も付けないみたいだけど。お酒のつまみとか、父ちゃんに言われて、それだけはよく作ってたんだけどな。でも斉志がおうちでべろんべろんにみっともなく酔っぱらって、居間でぐてーっとおねむ、なんて父ちゃんみたいなことするわけないし。あとなんだっけ、そうそうたばこ吸わないんですか。
 ……なんだか全部今さらなような。
 献立はつくってるけど、いつかきっと夕飯食べられない時が来ると思う。だってわたしでさえ最初っからそうだったもの。斉志は多分、もっとうんと忙しくなる。だからその、……食材買いたいんだけど、なー。でもこれは言ってはいけません。思ってもいけません。こういうのは我が儘じゃないんです、辞書にない文字です、行為です! だからわたしは考えないのだ!
 えっとお夕食大体これでいいので、お皿並べて、お味噌汁とご飯よそえばいいだけにして、エプロン着けたまま書斎へ行った。これ取ってもいいけど、斉志はその、エプロンすきだから、斉志の前でとる。
 そーっと、そーっと書斎の扉を開けて。このおうちには鍵なんてない。そんなの見たくないもん、あったところで視界に入りません! だから、扉をただ押す。すると爆風に直撃される。心地よくて、高揚感さえ感じたあの頃。でも今はもう、そうじゃない。
 安心する。この風は。
 斉志そのもの。
 だから背中から、斉志に抱き着いて。髪にちゅーして、耳元で。
「……斉志。ごはんだよー……」

斉志

 今この瞬間、押し倒してやりたいよ。
 飯だと呼ぶというよりどう考えても俺を誘っている梅子。まあ梅子のやる事なす事全部俺を誘いまくりだがな。
「うん、分かった」
 回された軽い腕を厭々解きおひめさまだっこで居間へ向いながら言った。
「なんで“ああ”って返事しないか、か。俺がうんと言いたいからだ。もう一つの試験はもう一番で受かっている。このマンションに他の住人なんざいるわけないだろ。俺はこの通り爆発的大集中だ、その時にチンタラ茶なんぞ飲まん。酒は梅子で酔う、それ以外? なにそれ。俺は梅子と飲む以外は一斗樽かっ喰らっても酔わん。俺ひとり酒飲むなんざ誰がするか。煙草? 俺が梅子の躯に悪いことするわけないだろ。他は」
 居間に着き、観念しましたと顔に書いてある梅子は観念したとばかりに味噌汁と飯を盛った。
「……。あのー。……わたしお酒のつまみ結構つくれるんですけど……」
「なんで今頃言う」
「ぅぅ……」
「反省中」
「……ぅぅは却下……」
「いいか梅子、飯時とヤってる時は反省するな」
「……うん!」
「よし。いただきます、梅子」
「いただきます、斉志」
 梅子が箸を持って俺に食わす。もう梅子はこれは自分の役目と思っているようだ。俺とて食わされるのもいい。だが食わすのもいい。
「ぁ、ン……」
 部屋着の下、中途半端におろして、尻半分出して撫で摩りながら食う。
「もぉ、……それじゃ食べられ、なぁぃい……」
「食えよ」
「も、ぉ……」
 箸を取り落としそうになる梅子。ここからは俺が持つ番だ。
「せぇ、じ、はあ……。両手、ききぃ……?」
「そうだ。……なんで今更……。だって、か」
「わたし、のせりふ、ぅ……」
 前から指、掠るだけ。濡れて、とぷとぷだ。
「せ、せ、せ、ぃ、じぃ……」
「ちゃんと食え梅子。食うまで入れるのお預けだ」
「……たべるぅ……。食べさせてぇ、ちゃんと……お願ぁい」
「うん」
「あ……」
「なに……」
「やっぱり、うん、がいいや……」
「……だろ?」
「うん……」
 さていつ言うか……。寝室では却下、風呂で言う話題じゃない。居間と言ってもこの通りだ。食器を空けはしたがもうお互い腰ガンガンだ。
「せぃ、じぃ……! も、も、も、っと!!!」
「ヤ、らしいんだよ梅子……」
「せいじ、と、おんな、じくらいぃ……」
「俺の方が遥かにヤらしくなってヤる!」
「うん、いっぱい、いっぱい……」
 ゆさゆさ、でかい胸俺の目の前で揺らして自分から腰上下左右に振りまくってちゅーしてと口を寄せる。俺はな、梅子の穴と言う穴全部に、……ぶち込んでヤりたいよ!!
 怒られた。
「もう、もう、もう、せいじ!!」
「……そんなに怒るな……」
「おこった! おこったおこったおこったーーー!!」
 ……怒っても可愛いんだよ。
「ふーーーーんだ! わたしがおこっても、なんっっともないって顔してーーー!!」
「可愛いと思っているに決まってるだろ、なんともないとはなんだ」
「なんでおこられなきゃなんないのーーー!! おこった!!」
「さっきも聞いた」
「うーんとうーーんとうーーーーーーんとおこった!!!!」
「さっきも聞いた……」
「それがおこられてる態度ーーー??? 反省しなさーーーい!!」
「ぅぅ」
「わざとらしーーーーーーーい!!」
 それから梅子は怒った怒ったを繰り返し、そこへ直れと俺をソファへ座らせ真ん前で腰に手をやってふんじばって俺に説教する。俺ははいはい生返事。目の前で茶までしばいてやると、
「せいじのばかーーーーーーーっっっっっっっ!!!」
 両手をじたばた振ってでかい声を出す梅子。可愛い。
「……もう、もう、もう、……聞いてるのーーーーーーーーっっっっ!!??」
「聞いている。梅子茶煎れるのも上手いな。美味しい。もう一杯」
「わざとらしーーーーーーーい!!」
 ぷりぷり怒りながら湯飲みを持って台所へ行った。
「斉志!!」
「なんだ」
 台所からでかい声を出して俺を叱りつけている梅子。苦笑というより、我ながらスケベ笑いしか浮かばん。
「お茶以外は飲まないの!? 珈琲とか紅茶とか!!」
「そうだな、紅茶を一杯。珈琲を一杯。口移しで」
「分かった!!」
「そうカリカリするな。梅子、生理は三日後だ。この時期梅子一番凄いからな、もうヤられたくて疼いてるだろ。なんだったら今そっち行ってぶち込んでヤるか? いきなり後ろからヤられるの好きだもんな梅子」
「はなしそらすなーーーーーーーーーーーっっっ!!」
 まだぷりぷり怒っている。可愛いくてしょうがない。もうもう、俺のばかばかとぷんすかぷんすか怒りながら煎れている。
 盆にカップをふたつ乗せ、こぼさないよう持って来る梅子。
「はい、どうぞ」
 カップふたつをゆっくり置き、盆を持って台所へ向かおうとする梅子の手首を攫んで俺に乗せた。
「……」
「そう怒るな」
「……」
「駄目だぞ梅子」
「……」
「どうして? まさか梅子……」
「思ってない!! でも……」
「なんだ。まさか辞書にない言葉だ文字だ言う気じゃあるまいな梅子」
「言わない」
「そうだ。いくらマンション一階に警備万全の俺専用レジなし総合店鋪があると言ったって梅子はあの扉に手を掛けん」
「そうだもん!! でも!」
「なんで今更言いやがるんだこの馬鹿野郎、か」
「そんなこと思ってもいない!」
「じゃあなんで怒る……。口開けろ。もう怒るな。あーん」
「……あーん」
 梅子の味がする珈琲を飲んで口移し。
「美味しいだろ」
「……せいじのあじがする……」
「うん」
「やっぱり……、うん、がいい……」
「聞くと、……濡れる?」
「せいじといると、濡れる、の……」
「……俺待ってる時、……」
「せいじ、は……?」
 梅子が紅茶を含んで口移し。
「……すると思うか、誰があんな空しいもん。二度とせん」
「……」
「何回やったか、か。……訊くな」
「……」
「訊きたい? ……飲んでからだ」
「うん……」
 正確に言うと飲んでヤりまくってから、だが。梅子凄いからなこの時期は。サカって俺咥えまくって抜かせない、俺の方こそイきまくり。涙浮かべて腰振りまくる。俺の手の痕が付いている腰と尻、でかくて形のいい胸、俺の刻印だらけの真っ白な躯。
 俺の日常は梅子にある。

「斉志、……わたしのむね、すき?」
「ああ。好きだ」
「……うん、ああ、ってのも、やっぱりすき」
「そう、か?」
「うん。わたしの、……好き?」
「好きだ」
「わたしのこと……」
「惚れてる」
「うん、わたしも、……惚れてる」
「うん」
「……あの」
「大学では勿論爆発的大集中だ」
「……」
「うちに帰ると気を抜けば手が伸びた。だから、休日はこのうちにいられなかった」
「──」
「高三の時一番、……したよ」
「──」
「泣くな……」
「──」
「……泣いていい」
「──」
 大泣き、だ。声を殺して俺にしがみついて泣く梅子。だがもう逃げはしない。俺に背など向けはしない。俺に向かい泣く梅子。
「梅子はいつ、……した?」
「──」
「そう、か。俺もだ」
「──」
「そうだ梅子、俺はこんなふうに時間を取れなくなる。梅子の方がよく分かっているが、それが職に就くってことだからな。だが俺はこんなんだ。梅子、俺はどんなことあってもうちに帰るけどな、時間ないかも知れんから玄関で立ってヤるぞ、行儀悪いとか思うなよ」
「──」
「躯洗わなくていい? 厭だ。俺の愉しみ奪うな」
「──」
「夜中に叩き起こしてでもヤってやる」
「──」
「朝でもいい? 当然だ。いつでもヤる」
「──」
「そうだ、俺はなんでもする。だがな梅子、叩き起こされたらちゃんと昼寝しろ」
「……」
「俺の夢がなんだか知っているな」
「……」
「そうだ。梅子を俺の、三食昼寝付き永久就職この星一番のぐーたら女房、にすることだ。まさか俺の夢奪おうなんざ思ってるんじゃあるまいな梅子」
「……おもえない……」
「じゃあちゃんと寝る。ぐーたらしてろ」
「うん……」
「梅子、職に就く前に実家行こう。しばらく行けんからな。……寂しいか」
「……ううん。せいじがいる。いいの。便りのないのはいい便りとかいうし。結婚する日、こっちのことは心配しなくていいからね、って言ってたし。がんばれよ、っても言ってたから」
「そう、か」
「うん。……斉志」
「……うん?」
 泣き腫らした顔を隠すように、俺の腕にしがみついて胸で挟んで、俺に頼りっきりな梅子。もう梅子は、いや……。
 梅子はとっくの昔に俺なしでは生きて行けん。出逢ったあの日からそうだ、俺に負担を掛けたくなくなかっただけだ。
「……すき」
「俺も。好きだ梅子……」

梅子

 いま、ふたりとも裸でベッドにいる。わたしは斉志の腕枕、じゃない。
 斉志とわたし、向き合ってる。斉志はわたしの胸を弄りながら吸ってる。わたしは、そんな斉志のあたま、抱き締めながら髪を梳いている。
 ちゅっちゅって、音がする。斉志の手、おっきくてあったかい。斉志の髪、綺麗。
 安心する。
「斉志」
「うん」
「わたしがどれだけ安心してるか分かる?」
「……うん」
「ほんとにほんとに安心してるの。こんな気持ちいいところにずっといてもいいなんて、子供の頃は絶対絶対思えなかった」
「……そう、か」
「うん。ほっとする。こんなにこんなに幸せ。うんと好き。斉志、……好き!」
「うん」
「好きー、好き!」
「……うん」
「好き!」
「うん」
「せーいじ」
「……俺」
「うん?」
「俺」
「うん」
「……よかった」
「うん」
「よかった。……よかった、よかった……」
「うん」
「ほんとに……」
「斉志」
「うん?」
「ちゅーしたい」
「して?」
「じゃあ、します! ちゅー……」
「ん……」
「目、閉じて」
「見たい」
「ぅぅ……」
「舌入れろよ……」
「……だって」
「なに」
「はずかしい」
「恥ずかしがるな。お白州」
「えーー!?」
「なにが、えー」
「……だって」
「梅子。して」
「……うん。じゃ、じゃあ、……ちょっとくち開けて」
「あーん……」
「あーん、って……」
「早く食わせろ……」
「うん。……戴きます……」
 し、舌を、入れて……するとすぐに斉志が、ちゅーし合ったまま上になって、もう、もうとろけて、て……。
 気が付くと斉志の腕枕だった。さっぱりしてて、……そしてなかに斉志がいる。
 これが日常。
「梅子」
「……うん?」
「……ぐっちゃぐちゃにしてやりたいよ」
「うん」
「……」
「もう分かってる、でしょう?」
「言わすのがいいんだとも分かってるよな」
「ぅぅ……」
「ほら」
「……なに、されてもいいです!! どうされても、なに言われても、もう、いいの。なんでも、いっぱい、……して」
「当然だ。全部する」
「うん」
「……あの、な」
「うん?」
「俺、……梅子のこと全部知りたい」
「うん!」
「だから、……訊きたいことがある」
「うん」
「いい?」
「うん!」
「……怒らないか」
「うん。……言ったでしょう、なに言われてもいい、って」
「俺、……こうだろ。だから、……」
「なに、されてもいい」
「……」
「どうされてもいい。なんでもして」
「……ほんとか?」
「信じてるでしょう?」
「信じてるか?」
「もう分かってるでしょう? どれだけ信じてるか分かる? あのね、あのね、わたしがいたら、……成績落とすかもってわたし思ってたの知ってるでしょう。でも斉志、一度もそんなことなかった。もう、……成績、じゃあないでしょう。う、受かったって聞いて、……ほ、ほっと、して……」
「……うん」
「訊いて、なんでも訊いて? 全部聞いて、全部知ってほしいの。逃げないもん、そうしないって、……逃げるの成績だけってもう分かってるでしょう? だから安心、してほしいの……」
「……うん」
「斉志は待ってるの、……好きじゃない?」
「好きじゃない」
「わたしは斉志を待ってる。斉志を待ってるの、好き」
「……うん。俺は梅子に待たれるのがいい。そうなって欲しい。そうする。必ずそうして見せるとずっと思っていた」
「うん」
「……じゃあ聞くぞ」
「うん」
「……俺、以外とヤったことあるか」
「ないでーーす。そんなのあったら舌噛み切って死んじゃうもん。その前に逃げるもん。逃げ足速いもん。誰だって撒いちゃうよ。知ってるでしょう斉志、MVPなひと二度撒いたんだよ。もう自信満々にあるもん」
「……そう、か。……俺以外と絶対するな」
「なにそれ」
「うん。……俺、以外と、ちゅーとか、……その」
「ない! あ、でも」
「俺は忘れたぞ」
「うん。ということは、そういうのないでーす。斉志以外なんて絶対ない、考えてもない」
「当たり前だ。絶対されるな」
「うん。他には?」
「……俺、以外に、……告られたことあるか」
「まるでないです。ああ、えっと、環にはああ言われたけど、それは友達として、です! 今までもこれからもあり得ませーーん。これも自信ある」
「……そう、か。……俺以外に絶対されるな」
「うん! 他には?」
「……俺以外、振ったことあるか」
「ない。これまた有り得ません。斉志だけだよ、あんなひっどーいこと言って許してくれるの」
「……そうか。……俺以外、……絶対振るな」
「そんな機会ないもん!」
「当然だ。……俺以外に、裸触られたことあるか」
「母ちゃんと父ちゃんと明美と環とお医者さんと看護婦さんとエステのひと、はある」
「……そう、か」
「うん。ごめんなさい」
「……それは、……いい。だがな、俺以外、医者と看護婦と月イチの連中以外はもう駄目だ。いいな」
「うん!」
「……俺以外に料理、……作って食わせたことあるか」
「父ちゃんにはある」
「……それも、いい。……だがな、もう駄目だ。義親父さんだろうが義母ちゃんだろうが許さん、俺にだけ作れ。俺にだけ食わせろ」
「うん!」
「……梅子の初恋はいつだ」
「斉志に、中二のおわり」
「……そう、か」
「うん」
「……梅子の好みのタイプはどんなのだ」
「斉志」
「……あっただろ、……俺に逢う前に」
「わたしマコと最初に会ったときこう思ったの。他人がどう付き合おうが関係ないでしょう、わたしそんなの興味ないし、って。このときまだ雪の日のひとが斉志と」
「待て」
「……?」
「俺以外は誰であっても名を呼ぶな。苗字もだ。例外は無い」
「……うん」
「……それ、で?」
「えっと、斉志と……なんとかさんとは知らなかったの。それ思い出したとき、あああれって初恋だったんだなあ、って思い出したの。とにかく、全然そのー、こ、こいとかしたことなくて。そういう感覚もなかった。斉志がわたしの名前呼んでくれるまでなかった」
「……そう、か」
「うん」
「……あの、な」
「うん?」
「俺が梅子の名前呼んだその時は、俺梅子に名前聞いてないだろ。なのに名前呼ばれただろ。……それ、どう思った」
「?」
「……勝手に調べられている、……気持ち悪いとか思わなかったか」
「ぜんぜん。あの時ひとめぼれして、その後その前にもひとめぼれしてたの気付いたんだもん」
「そう、か。……俺な」
「うん?」
「俺、……あのな、梅子のこと部活に遅刻させた次の日、F組へ行ったんだ」
「……そうだったの?」
「ああ。あの時、……俺F組で梅子に逢ってたら、……梅子、どう思った?」
「えー……。あのとき……?」
「処分喰らわされるわ遅刻させられるわ……そんなやつに逢ったら、……なんとかって思うだろ」
「ちょっとそれは分からないや。というよりちょっと、……憶えていない。ごめんなさい」
「……なら、いい」
「他には?」
「俺のこと、……許してくれた時、慣れてるって言っただろ。……初めてだったんだぞ。……誰と較べてあんなこと言った」
「……?」
「……これ、……あの時言ったら、……あの場でまたあんなことした。いま、……やっと言える、くらい、だ」
「……。……。……??? え、っと……」
「“な、慣れてる”“なにが慣れてる”“……全部”“全部って、なに”“わ、わたし、は、慣れて、もいないし、は、はじめて、だ、ったし”“……梅子。俺は梅子が最初で最後だ”」
「……」
「思い出したか」
「……ああ! 思い出した、そう、わたしだって訊きたかった」
「なに」
「どうして初めてのひとがひにんの仕方を知っているの?」
「……」
「ぶ、ぶらの着け方、とかー」
「一般常識だ」
「えーーーー!!??」
「野郎の一般常識だ」
「……そう、なの?」
「そうだ」
「……知らなかった」
「じゃあ梅子はその、……他のやつとヤったことあるからそれと較べたんじゃないんだな……」
「……」
「ごめん」
「そういうの知ってたから、慣れてるのって訊いたんです! だって他もいつもなんでも慣れてるでしょう!? その、……こういうの除き! それは自惚れ過ぎるほど慣れてるでしょう。ぅぅ!」
「……なんだそのさいごのぅぅは」
「なんとなく!」
「ああそうだ、他は慣れている! 梅子のこと以外は全部慣れている! そうでないのないなんざ、……生理は間違いなく無理だ」
「……いくら、なんでもそれは……」
「他にもあるんだが」
「? なに?」
「なんだその嬉しそうな顔は」
「嬉しいもん」
「……」
「遠慮しないもん」
「そうか。……俺は絵が描けん。大変に下手だ。美術なんざクソ喰らえだ」
「……」
「驚いたか」
「……うーんとうーんと驚きました」
「別に出来なくても困らんしな。選択教科でもある。俺がそこまでド下手くそとはほとんどのやつは知らん。ただしガキの頃の、……小学校の同級生で目敏いやつは知っている。それで、音楽で誤魔化した」
「……そう、だったんだ」
「ああ。……あのな」
「? うん?」
「梅子は」
「?」
「梅子は訊きたいことないか」
「??」
「疑問に思っていることとか。慣れてる、で訊きたかったんだろう。あるだろう、何か。答える」
「……斉志の好みのひとって雪の日以前はどんなひと?」
「俺は大の堅物硬派だ、梅子以外はのっぺらぼうのハエにしか見えんと言っただろう」
「……うーん。不思議」
「そうか。……俺もそう思わんでもない。なにせ本当に全員同じに見える。そうじゃないのは梅子だけだ」
「うん、不思議」
「他は?」
「斉志はもう、ない?」
「あの、……な」
「うん」
「……感じた、って言っただろ。学校でヤった時。……誰に教わった」
「……」
「俺、……そんなこと梅子に言ってない」
「……なんというか、思ったまま言ったんだけど……」
「そう、か」
「うん。教わってなんかいない」
「……そうだよな。梅子そうだよな」
「……なにが?」
「独創性あるだろ。……俺は無い。だから美術なんざ見たくもなかった」
「音楽は?」
「俺は作詞も作曲も出来ん」
「それは別に……。あの、斉志。うた上手。聞きたいな」
「梅子の歌声も聞きたい」
「……」
「照れるな」
「なに、うたえばいいの……」
「スタンド・バイ・ミー」
「……」
「傍にいってって意味だ……」
「……」
「うたって」
「……あ、あの」
「……うん?」
「えいごが、さびのところしか分からない……」
「そこだけでもいい……うたって」
「……」
「それで……一緒に眠ろう……」

斉志

 生理中。ヤれない、一緒に眠れない。厭々書斎で鬱憤晴らし。食わせまくる。もう一回だけなど我慢出来ん。
 だから梅子が調理中台所へ行っても、いつものように後ろからズドン一発ヤられるとは梅子も思っていない。どうしたのかとは思っているが、ヤられる心配は無いと安心している。そうか、そんなにか。……まあ包丁を持っている時ショーツ剥かれるのが厭なんだろうが、俺理性無いからな。
「梅子」
「うん?」
「もう献立は作らなくていい」
「……え?」
「俺が買って来た食材を見て、即興で作れ」
「……」
「出来るか」
「……うん」
「よし。梅子全部憶えたんだよな、俺が書いたのも。じゃあ、レシピも残さんでいい」
「……」
「もう、日付けも曜日も気にするな。……な」
「……うん」
 朝飯。乗ってくれない日。撫で回せん日。厭々我慢だ、梅子は二日かなり具合が悪い。よく高校の時我慢してたな梅子。
 はい・あ~んで押し倒せん。忍耐だ。生理中ばっかりは、だ。だから話をした。茶を飲みながら。
「梅子」
「うん」
「梅子、……梅子、生理な、酷くなってないか」
「え?」
「結婚してから、少しずつ酷くなっているとか、ないか」
「……最初がああだったけど……」
「それは、……いい」
「それ以降はずっと定期的に来ているんでしょう?」
「ああ、定期的だ。感覚は? 梅子にしかわからん、答えて」
「……別に……ずっと変わらない、かな」
「高校の時より酷くなってないか」
「それはない」
「……断言出来るのか」
「うん。高校のときのほうが……あ、なんでかっていうと、その……ひと、多くいたし、斉志以外に隠さなくちゃいけないでしょう。それには気を遣っていて、制服だったし授業あったし、いろいろ制約あったし。でも今は全然違って、だから今のほうが、来ても別に……あのそれは、鈍痛は確かにあるの。でも変わらないし……」
「そうか。……梅子、少しでも体調変わったら即ボタをン押せ。いいな」
「……うん」
「梅子。抱え込むな。すぐに押せ。いいな」
「……うん」
「本当に分かっているか? 俺がどういう気持ちで言っているか分かっているか?」
「うん、分かってる。あの、斉志……無理、しないでね」
「梅子が無理しないなら俺もしない」
「うん。しない。無理、しない」
「もし一度でも躊躇ったら即辞表を出す。二度と職になど就かん。いいな梅子」
「……うん!」
 ソファに俺だけ座って梅子を跪かせ、うんと食わせてから大学へ。寝てろと言っても梅子は聞かない。病気じゃないから、いつもあるから、無理しない程度に修業すると。そう言われれば否やはない。
 梅子はあれ以来ボタンを押してくれん。電話もせん。梅子はそれがどういう意味か分かっているからな。俺とてこれで心配させたくない。だからわざわざ電話ボックスに入って電話した。
「はい。成田、です」
 すぐに出る梅子。
「うん、梅子。今なにしてる?」
「お昼の支度」
「それなら、いい」
「斉志は?」
「電話ボックスから掛けてる」
「え?」
「俺、……俺やっぱり梅子に電話しないなんて無理だ。ちゃんとこうして、誰もいないところで、聞いていないところでするから、時間一定に出来ないけど、電話するから、寝てる時はしないから、梅子厭がらないで」
「そんなことない! あの、その」
「掛けて、いい?」
「……うん」
「梅子」
「うん?」
「……どうしよう。俺、電話きれない……」
「え」
「どうしよう」
「え、ぅ……あの、じゃあ、一緒にきろう斉志」
「イく時みたいに?」
「え、ぅ……あの、……うん」
「分かった。イこ、梅子」
「あ、あの……うん。一緒に……」
 一緒に名を呼び合って、きった。
 電話のやりとりでも温かい。厭々でなく電話ボックスを出た。……温かい。
「よ。惚気野郎」
「遼」
 講義にはまだ時間がある。だからいいが、電話でもなく直接……どうした?
「報告。向こう行く前に籍を入れる」
「披露宴は」
「式も旅行も暇ァねェ」
「遼」
「あ」
「祝電は」
「要らん。以上」
 お前もまあまあ他人行儀になりやがって、か。
 遼はもう、あの電話を使わんだろう。この手の直感は、昔はすぐに外れた。だから今度もそういう直感を持とうと思う。
 双児のようだった俺達。大学まで一緒の相棒。初めてこれだけ遠のく距離。
 道が別たれたのはいつだ遼。九年前の春か。八年前の冬か。七年前の春か。それとも……。

 うちへ帰って、食材とクリーニングを玄関脇のテーブルへ置く。とてとてと音がして、
「おかえりなさい、斉志」
「ただいま。梅子」
 温かい梅子が俺を抱き締める。ありったけの心を込めて、おかえりのちゅー。甘い、甘くて……貪れば貪る程梅子を感じる。俺の梅子。
 梅子ちゅーも俺より上手いからな、遠慮なく悶絶一歩手前まで。でないと俺が悶絶させられそうだ。痺れて立っていられないふらふらの梅子をソファへ座らせ、荷物を片付けてからシャワーを浴びる。その間梅子はこんじょうで立ち直り、台所へ。俺が出て来るあたりに並ぶ夕食。いいにおいで浴室を出る。なんていい。
 厭々隣ではい・あ~ん。この時の度タンポンでと思うが、いかん俺以外は梅子でも却下だ。だから梅子も隣で。尻も撫でられない。厭々我慢。だが飯は忍耐でもなく食う。……美味しい。いつも本音が口をつく。その度梅子はほっとする表情を一瞬見せる……それもいい。
 その後は跪かせて俺を食わせる。梅子の頭、押さえて。出すまでの時間、我ながら長くなっている。梅子あご外れないといいな……。指、舌、胸。やわらかくて温かい。それが触れると熱ィ。全部嘗めて貰って……長く、長く扱く。
 どれだけ飲んで欲しいと思ったことか。梅子はもう何度も俺にお願いしている。我が儘を聞けと、飲ませろと……そればっかりはだ、お白州だ、もう言うな梅子……。
「ぅン、ぅン、ぅ……ン」
 煽情の瞳で俺を見上げる。知らないだろ梅子、俺だって……疼いてるんだよ、中、出し、たィ……。
『……!!』
 梅子に顔射。これも日常。
 風呂は別。厭々別。そればっかりは四日目がきっちりおわるまで梅子厭がる。だから歯磨きだけ一緒。梅子の胸の谷間、見下ろして。俺を扱く梅子の胸。
 梅子はシャワーを軽く浴びて、片づけをして飯の下ごしらえをしてすぐに眠る。ヤらない日に夜更かしなど絶対させんが、梅子は生理中、夜中に起きる。だから厭々書斎で鬱憤晴らし。朝方、食って貰う為に独りでロフトへ。もう、……厭だ。
「梅子、梅子、俺もう我慢出来ない……」
「ぅ、……ん」
「ロフト無くす、独り寝なんて厭だ、もう耐えられない……」
「ゥ、……ン」
「乗って、ずっと乗って、でないともう厭だ……」
「ゥ、……ん」
「……撫でないから、四日、は」
「ぅ、……ン」
「もっと食って、いっぱい、はやく、……はやく中に出したい」
「ぁ、……む」
「梅子、……梅子!!」
 俺だらけの梅子の手、顔、胸、ごしごし拭いて……一緒に風呂に入りたい。
「梅子、梅子、俺もう我慢出来ないから、寝かせないから、生理おわるまでいっぱい寝て。……な」
「……う、ん」
「だが飯は抜くな。……な」
「……う、ん。斉志も、食べて……」
「うん……」

 あんなことを言った手前、昼に電話を入れづらかった。だから、……期待していた。梅子が俺に電話してくれるのを。
 いつもの時間に電話ボックスへ。掛かって来るまで梅子と揃いの弁当を食べないで、左胸が梅子の振動パターンで震えるのをただ待った。七年前の春のように。
「あ」
「梅子!」
「……あ、うん、えっと……成田、です」
「うん。梅子、掛けて来てくれると思ってた」
「そぉ?」
「うん」
「あの……」
「うん」
「あ、あの、いま大丈夫?」
「うん、大丈夫。いまひとり」
「そぉ?」
「うん。時間もある。梅子いまなにしてる?」
「えっと、お行儀わるいけど、ベッドで半身起こして食べてるの。子機で掛けてる」
「うん、それでいい梅子」
「あの……」
「俺はちゃんと寝てる。梅子は?」
「うん、ちゃんと寝てた」
「……具合は?」
「えっと、いつもの通り、です」
「うん、梅子。俺もいつもの通り帰る。俺夕飯作るから」
「わたしが作る。斉志に作るの生き甲斐なの……」
「……分かった。けど俺も梅子に作るの生き甲斐なんだ。しばらく作ってない、今日は俺に作らせて」
「……」
「俺の、食べたくない?」
「……食べたい」
「じゃあ寝てて。……な」
「……うん」
 名を呼び合ってきる。……温かい。