斉志大学四年 四月

 桜はさっさと散りおわり、薫風もへったくれもない春四月。
 思えばこの時期、俺はバカなことばかりしまくった。だがもうそんな事は無い。
 だから梅子が俺にお預け食らわそうったって俺が厭、そんなもんは当然却下だ。俺と梅子の辞書に誤解と浮気とお預けと倦怠期は無い。他にもあるが、それは言わん。
 出逢ったあの時からつい最近までこんな心境になるとは思いもしなかったがな。
 俺は梅子を甘やかさん。
 逆は当然ありまくりだ。

梅子

 えっと。斉志の言い方をまねすれば、桜はさっさと散りおわり、とかなると思うけど、わたしにそんな余裕はない。
 わたしの旦那様は自称ぼんくら亭主だけど、そんなの有り得ないって誰よりわたしが知っている。この星一番の街に庭付きのマンション最上階全部、とか、あんな車とか、南の島とか、あんな凄い大学とか、そこで一番とか、見てないけど凄いらしい通帳の残高とか、この星中にお友達とか、他にもいーっぱいあるけど、とにかくそういう凄いひと、なんです。
 料理も上手い……。何してもさまになる、うんと格好いい旦那さま。
 そーんなひとに。
 わたしはお食事を振る舞わなくてはいけません。
 ……。
 師匠に宣言した約束は勝手に破棄しちゃって。あの時は、……前からそうしようと、そう言おうと思ってた。高三になったら、もうあの部室に縛り付けたりはしないって。師匠も、斉志も。
 けど今は違う。今年は公務員試験、来年は職に就く。わたしはもう絶ーー対、斉志をほっとかない。そんなことしたらどうなるか、わたしが一番よく分かってるもの。だから、わたしが斉志に食事、食べさせて上げたい。お弁当とかも作って。
 その道のりはうんと遠い……。
 あ~んなにおいしい食事をつくるひとに。この星一番、とか、たかが島国、とか。そんなこと言うひとに振る舞わなくてはならない、ということは。
 ま、まずいのなんて、作ったり、したら。
 愛想尽かされます……。
 元々そういう事態は起こりうるものだったけど。ううん、最初からそういう事態は起こってばっかりだった。思い起こせばよくわたし、斉志に愛想尽かされないで……。そんなのばっかりやってた。こんなぐーたら女房なんて、斉志いつだって愛想尽かすと思う。
 もうあと一ヶ月ちょっとしかない。現在の成果は? ないも同然。
 集中です。集中しないともう駄目です。こんな気持ちになったのは前職以前、そう、学校の試験以来だと思う。試験と言えば。これでなんとかは自重する、俺厭々我慢する。そう斉志はいつも言ってくれた。だから。
 だから斉志に、その、あの……。お願いしたのだけど。
「却下」
 一・五秒で却下された。ちゃんと考えたのに……
「梅子。俺は言ったぞ。風呂は生理以外二度と別にせん。食事ははい・あ~んだ、それ以外? なにそれ。俺は梅子を修業では甘やかさん。梅子俺のことイかせるんだろ。飯を振る舞ってくれるんだろ。どっちも集中だ梅子」
「……」
「梅子。もし俺にお預け喰らわすなんてことしたら、俺梅子のお願い二度と聞かないからな。梅子が何と言っても俺が厭だ。生理の時でもヤってやる。墓に入っても抜かん、そのままだ。ああ、梅子その方がいいんだよな。俺の言うことなんて聞かないからな。そうやって俺を放っとくんだろ。俺をひとりにするんだろ。俺のこと見てくれなくて、俺のこと……そんなに嫌い?」
「好き……」
 斉志の言ってることはいつも正しい。わたし、甘えてた。ひとつのことに集中すると他が見えないわたしの悪い癖。斉志のこと絶対ほっとかないのに、そんなこと出来ないのに、いつもわたしは斉志を不安にさせてしまう。そんなことばっかり言ってる。してる。
 斉志はこのうちに絶対誰も入れないって、わたしだってそう思ってたのに、あんなふうに言ってくれて。いつもそう、わたしはいつも斉志に気を遣わせてばかり。
 ……無茶苦茶なお願い、してしまった。
「……ごめんなさい、斉志。もう、あんなこと言わない……」
「当然だ」
「ごめんなさい……」
「そういう時、どうすればいいか分かるな」
「……」
「梅子、頭の切り替え得意だよな」
「……」
「どうした梅子、梅子らしくないぞ。そうだ、料理は料理だ。いくら梅子だって、日がな一日二十四時間料理のことばかり考えてるわけじゃないだろ。当然俺のことだけ考えてるよな。それ以外? なにそれ。よって時間制限を設ける。俺をイかせる以外の修業をしていいのは俺がうちを出てから戻るまでだ。自力でやりたいんだよな梅子。今日から俺の誕生日の前日まで、俺が食事をつくる。それ以降は梅子がつくる、いいな」
「……はい」

斉志

 しょんぼりする梅子。俺とてこんなことは言いたくないが、梅子なら出来る。俺は梅子を信じている。それこそ……突き放す。よく俺こんなこと出来るようになったな、少しは成長したかもしれん。
 梅子は絶対出来る。俺に食事を振る舞って、俺に食わせて俺を食う。絶対出来る。梅子はいつもそうだ、逆境を全て撥ね除け俺の想像を遥かに超えることをする。必ず出来る、俺は梅子を信じている。

 次の日、梅子は俺が帰った時、久々にあの表情を見せた。そう、部室でのあの表情。義母ちゃんは二年の楽園生活で、平日は引き締まった顔をして帰って来た、そう言った。その表情で俺を出迎える。きりっとした表情で、それもまたいい。すぐに笑顔になって、俺をやわらかく抱き締める。悶絶一歩手前までおかえりのちゅー、こころから。俺のことだけ考えている、それが分かる。ならばと俺も集中して料理した。梅子は俺から決して逃げない。そう、一度も逃げたことなどなかった。ただ自信が無かっただけだ。梅子は自力でやればそれを自信に繋げることが出来る。俺のこと捲いたもんな、しかも二度。あれでどうして運動神まるで無しなのか理解出来ん。
 テーブルに食事を並べてはい・あ~ん。この時梅子は研究をしない。決して。はい・あ~ん、とろけるような眼差しで食べる。照れて、真っ赤になって、俺も食べろと、斉志も食べてとそう言う。
 切り替えがきっちり出来ている。嬉しくて、もう梅子俺のこと誘ってて、誘いまくりで、忍耐で食い切ってベッドへかっさらって押し倒して突きまくった。梅子俺のことだけ考えてて、いつもよりずっと俺に溺れて、真っ赤になりながら腰振って、甘い声で俺を締める。も、イきそ……。

 ……って、待てよ。
 俺をイかす修業に時間制限は設けていない。誰がするか。いや待てよ、ひょっとして……。
 俺、イかされそうだ、今。
 集中と言ったのは昨日だ。昨日の今日で、……もう?
 俺は? 梅子に? 俺は梅子に一生敵わん。そうだ、そんなもんはとっくの昔に分かっている。出逢ったあの時から俺は梅子に完敗だ。
 だが。
 ひょっとしたら、これでまで俺、……梅子に負けるのか? そりゃ体力は俺が上だ。だがそんなもんは所詮二親のお陰だ、男に生まれついたってだけだ。
 俺。梅子にこれで負けたら、……立つ瀬、無い。
 俺を締める梅子。俺は梅子にどうすれば悶絶するかよく知っているが、逆を言えば梅子は俺をイかせることなど、ひょっとしたら、ひょっとしたら……。
 前から知っていた? 俺が集中しろと言ったから本気を出した? 間違っても梅子にこれで負けるなど、俺、俺、……。梅子、……な、梅子、そんなに、……そんなに締めるな、……なん、てタイミングで、……俺、意識飛びそう、だ、そんな、時に、も、抜くことなんて、出来、な……。

 この俺が、一回目だけで満足なぞ有り得ん。今度こそ焦らしてヤる。

 イきかけた。途中で抜くなど出来なかった。
 ……。
 背中を攻める? んなもん負けを認めるようなもんだ。
 ……。
 一点集中攻めして悶絶させた。完全に本気でヤった。ひょっとしたら初夜以上に。今度こそ梅子は悶絶した。
 ……今度こそ?
 ……。
 眠りの深い梅子の隣で鬱憤晴らし。待ってろ梅子、俺絶対梅子をこれで起こしてやるからな。

梅子

 斉志はわたしが眠っているとき、隣でうんと集中して勉強している、という。それは貰われたときからで、わたしは斉志が隣にいるといつも安心して眠っていられる。夢とか見ることなくて、どちらかというと、眠ったらすぐ起きた、そのくらいの感覚。これは完全に熟睡らしくて、疲れが次の日に持ち越さなくていいんだそう。斉志が自分の睡眠時間を言ったとき、わたしにちゃんと言ってくれてるんだって思って、だからわたしも、自分の眠っている感覚を言ったら斉志がそう教えてくれた。
 うんとおいしい斉志の食事。すぐ超えることなんて出来ない。けどもう、甘えないの。お墓に入るまでとか、そんな甘えたこともう考えない。超えることなんて出来なくても、可能な限り近付くの。斉志は貰われたあの日からの、つくった料理のレシピを手書きで全部作って残しておいてくれていた。とてもとても凄いこと。これはもう、データベース化していつでも呼び出せるようにしてある。だって前職がそうだもの。甘えるなんて絶対しない。斉志は来年、職に就く。もう日程調整なんか効かない。だから斉志が出掛けたあとに、朝食の内容を思い出して、それを作ってみる。その、……ヘタ、だけど。ちゃんと自分でやらなくちゃいけない。そうしないと絶対駄目。自分のことは自分でしなくちゃ!

斉志

 大学の連中は俺が四月の声を聞くと集中力を更に上げて来ると思っているらしいが俺とて別にこの時期を選んでいるわけじゃない。俺は梅子に敵わんが、こればっかりは負けるわけにはいかん、俺はプライドが高いんだ、こればっかりは梅子にへし折られるわけにはいかん。集中だ、これで絶対梅子を起こしてみせる。
 来年からの俺の勤め先でも鬱憤晴らし。一対多人数、どこからでも掛かって来いだ。その位でないと、梅子に俺、……。
 絶対に負けん。
 我ながら気合い十分でうちへ帰る。梅子は引き締まった表情で俺を迎え撃つ、いや、出迎える。いかん、戦闘モードで抱き締めてどうする俺。おかえりなさいのちゅーは甘く悶絶一歩手前、
 手前、
 俺、今本気なんだが……。
 梅子はあれ以来、ちゅーはいつもさきっぽだ。俺が中を蹂躙するとようやっと応戦、いや違った、応じて来る。それからああすると梅子は気を失うんだが。
 だが。
 ……。
 ……!!
 ……!!!
 ……悶絶してくれた。
 やっと。
 ……。
 俺にしなだれかかる梅子をベッドに横たえ、部屋着をパジャマに替え、ふとんにくるませてから気合いで料理をした。気合いだ。絶対に負けん。
 テーブルの上に並べてから梅子を起こした。いいにおいで目が覚める、そういった表情で、とろんとした瞳で、靄靄の表情で起きる梅子。目の前の食事を見て、においで、おいしそう、そう梅子は表情で語る。いただきます、嬉しそうに梅子は言って、箸を梅子が持って俺にはい・あ~ん。も、瞳とろけてる……梅子。わたしも食べる、そう言って、たどたどしく食べる。すこしだけ口を開けて、ちょっとづつ食べる梅子。その口をもっと開けるのは、俺に蹂躙されるか、俺食う時のどっちかで、もう、俺のこと誘いながらはい・あ~んしてて、も……。
 その場で押し倒した。パジャマも下着も剥ぎ取って、俺も脱ぎ捨てて、梅子おいでポーズして、俺覆い被さって、もう梅子濡れてて、飯食ってる最初からそうで、俺だって勃ちまくってて、指も舌も入れずすぐ突いた。入った途端締められて、中熱ィ、もう飛びそうだ、喘ぎ声、それだけでも意識、飛ぶ、梅子腰使い上手くなって、俺のこと咥え込んで、迎えて、それがまた飛びそうで、なんて表情で俺を見る、も、それ、だけ、で……。
 ……。
 集中だ。誰がなんと言おうと集中だ。俺絶対梅子のこと起こして見せるからな。

梅子

 斉志はちゃんとわたしのこと叱ってくれる。うんと心配して、守ってくれて、……絶対、料理つくって、へんなのなんて作らない。だってこんな凄いレシピあるんだもの。さらさらの綺麗な字。新鮮な食材。斉志はいつも、あの日出逢ったときからずっとわたしのこと見ててくれた。どうやったらわたし斉志のこと放って置いたり出来たんだろう。もし昔に戻れたら、そんなこと止めなさい、って言う。
 けど、蒸し返したって今が変わるわけじゃない。
 わたしはわたしの出来ることをする。それだけ。

斉志

 梅子は俺の想像を遥かに超えることを言うし、やる。何故か? ……俺は梅子を甘く見ていた。俺の方が体力がある、そう思っていた。まさに自惚れていた。
 猛省だ俺。
 気合いと根性の爆発的大集中で講義を受ける。誰も俺に近寄らんが、我ながら今の俺にヘタに近寄らん方がいいぞ。この俺を止められるのは梅子だけだ。絶対に負けん。
 本日も本職へ出向いて鬱憤晴らし。体力だけは俺が上、なにがあっても俺が上。最早誰も俺に一対一の勝負を挑んで来んが、んなもん出来るのは梅子だけだ。
 気合い続行でうちへ帰る。戦闘モードを漲らせる俺を迎え撃つ梅子の表情はすでに俺を誘っていた。仕草のひとつひとつが俺をその気にさせまくる。あらん限り抱き締めた。今日こそ一発で悶絶させるからな梅子。
 ……。
 気合いで料理だ。梅子は? ……ソファで待っている。意識、ある。
 ……。
 俺、今まで一体なにをヤっていたんだ……。前もこんなことを考えたぞ俺。相手は当然、梅子。
 ……。

梅子

 そろそろ斉志の誕生日のメニューを考えよう。これからは、それが日常。わたし自身はレシピとか思い付かない、けどそんなのばっかり言って甘えちゃ駄目。斉志に愛想尽かされるなんて、わたし絶対しないからな!
 ……と、言い方だけ斉志のまねをしても料理が上手くなるわけじゃないので……。
 えっと、朝。早く起きます。斉志は朝方眠って朝起きる。よくそれで躯、持つなあって思うけど、ひとそれぞれのライフスタイルだと思うし、それだけ斉志は、わたしでは絶対想像付かないくらいの努力をして来たひとだから。
 朝は和食がいいな。お弁当も作るの。高二のとき、ずっと持って来て貰った。思えば食器も洗ってなかった甘えん坊なわたし。もうそんなことしない。あの内容を思い出して。えっと、汁物とかは、……ご飯の堅さ加減は、味付けは……。
 夜は何にしようかな。わたしが和食好きだから、斉志もよく和食を作る。中華は難しいけどそんな甘えたこと言っちゃ駄目。全部ちゃんとやるの。結婚してからずっと料理している所、見せて貰ったんだもの。一年以上、ずっと見て来たんだから。

斉志

 あれ以来でははじめての休講日。出掛けようと思ったが却下だ。このままでは俺の誕生日が来る前に、想像すらしたいと思わん事態が起きそうだ。確かに梅子は俺の想像を遥かに超えることを言うわやるわだが、まさか、まさか……。
 そりゃ、イくのはいい。だが。
 俺が先に? イかされる? それで梅子は俺をどう思う?
 本気でヤれと言った次の日即座に本気で俺を迎え撃った梅子。俺? 甘やかさんだの言った。俺は梅子に甘えまくり。
 ……間違いなく愛想尽かされるな。挙げ句俺は見下されて? ヘン、その程度かボンクラめ、口だけは達者だな、かわいいもんだ、……
 ……。
 負けん、負けんぞ梅子。

梅子

 誕生日まであと一週間、斉志は休講日。お友達とかとちゃんと会ってね、そう言ったら、今年は四回生だからみんな就職活動とか、卒論とかしているんだそう。忙しいんだ。わたしは高卒だからそういうのは分からないけど。
 今考えるべきはとにかく修業のこと。けどそれは斉志が出掛けているときだけ。今日は斉志がいる。お出掛けはしないみたい。多分勉強するんだと思う、だって斉志も今年が試験だし。心配するな、とは言われてるけど、絶対邪魔なんかしない。
 修業にはひとつを除いて(……)時間制限があるけど、書斎と寝室には近寄らないでおこう、っと。
 そう、思っていたのだけど……。
 あのー、斉志……。お食事、うんとおいしいです。ええ、とっても。
 でもですよ。
 朝から押し倒されてますわたし。お昼もベッドです。それからずっとです。気が付くと夕方です。あの、夕食くらいはその、ソファで、とか……。
 却下ですか? どうしてですか? すっぽんぽんでお風呂場へおひめさまだっこで連れて行かれてお風呂ででもです、あの、斉志、なんだか……。
「……厭」
「……え」
「いま、斉志……躯、目的」
「……」

斉志

 俺。一体何してる。
 ムキになって、……イかせることばかり考えた?
 そんなことしてどうする俺。そりゃ、躯、だ……だが、これじゃ惚けないだろ……、俺も、梅子も。梅子に惚ける。梅子にとける。梅子に溺れる。
 それでいい、……そうだよな、梅子。
 またしても梅子に学ぶ俺、甘えてばかりの俺。梅子はこんな俺をいつも許す。こころから、思いの丈を込めてちゅー。甘くて、俺が舌を絡めると梅子もそうする。甘くてやわらかい。背中、触れるか触れないかで梅子はぴくぴく震えてすぐイった。その表情を見るのもいい。その間梅子の躯中に舌を這わす。甘くて白くてやわらかい。俺の刻印だらけの梅子。梅子の意識が戻った辺りででかい胸、形のいい胸を揉みしだいて鷲掴み。乳首を甘嚼み、これも弱点。蕾を含む、これも弱点。舌、中に。指でも掻き回す、ぐちゅぐちゅに。感度よ過ぎる梅子、俺がなにをしてもイきかける。
 最初のように、した。
 中、熱ィ。梅子そのもの、梅子に、……とけた。ふたり同時に、名を呼び合う。中に出す、……熱ィ……。

ボンクラ亭主二十二歳の誕生日

 おうちは採光がうんと綺麗。いつも淡い光に満ちていて、だから灯りのスイッチは寝室のしか知らない。お風呂に入ればもう灯りは点いていて、出るとゆるやかな灯りに落ちている。日中はお陽さまのまま、夜になれば段々と灯りが増して行く。空調も完璧に整えられていて、寒いとも、熱いとも思ったことない。
 早朝、意識した時間通り目を覚ます。目覚ましなんて掛けない、これは前職の賜物、だと思う。
 気が付くと斉志の腕枕。斉志、眠っている、その表情。初めて見る。出逢ったのが十四歳だから、八年以上経って初めて見たことになる。斉志の、……無防備な姿。斉志は全部晒す、そう言った。これが斉志、そのもの。斉志も見ることが出来ない、わたしだけが見られる姿。
 ちゅーしようかと思ったけど、斉志は武道をやってるひと。眠りを妨げてしまう。わたしみたいにちょっと齧った、なんてもんじゃなくて現在合計十四の段持ちだそう。最初にこれ言ったら梅子俺から逃げただろ、と言われました。ハイ、そうです……。
 だから、そっと起きて、そっと寝室を抜け出した。斉志いつもこんなことしてたんだ……。わたしと違って、ほんの少し前にベッドに潜った、それが分かる。その位の、想像を絶する努力をずっとずっとしてきた斉志。
 顔を洗って歯を磨いて、部屋着に着替えて。
 エプロンを着けて。
 ──本気で。

斉志

 集中すると逆に聞こえる梅子の寝息。聞いていたくて鬱憤晴らし。集中力は上がり続けた。思えば出逢ったあの日からそうだった。
 俺は睡眠なんざ何日かに二・三時間でも構わんが、ガキな学生のうちそれをやればいくら心配するなと言っても梅子は納得すまい。地獄の三年弱は特にそうだったなどとヘマを言ったら確実に逃げられる。だが職に就けばそうなるだろう。梅子も納得するだろう。あんな最低会社によく梅子を勤めさせていたなとは思うが、もう過ぎた事だ、それに今となってはそれも必要だった。二度は無いが。
 梅子は俺が眠っている間ベッドを出る。俺はこの時決して起きてはならない。俺も睡眠に集中。俺は梅子に敵わんが、睡眠の深さは確実に完敗だ。だが梅子の起きた気配では目を覚まさん。逃がしはしないが。
 いいにおいで目が覚めた。
 出逢ってから八年以上、こんな日が来るとは思っていなかった。考えてもいなかった。俺は梅子に何一つさせるつもりは無かった。ガキの独身時代も、結婚してからでさえも。俺がいかにバカかを梅子は出逢った最初から諭し続けていた。俺の立場を、梅子の立場を。全てを配慮し続けていた。その人生を捨てようと、その行動で。その言葉で。俺の命令だろうと全て撥ね除け梅子の意志で。これからもずっと。
 台所から離れた部屋で顔を洗って歯を磨く。部屋着に着替え、ソファで待つ。これも初めて。梅子は俺が全部貰うが、梅子も俺を全部貰う。……なんていい。
 梅子が朝食を持って来てテーブルに並べる。白のエプロンが似合う。穏やかな笑顔で俺を見る。
 支度をおえ、梅子がエプロンを外し、俺に乗る。
「おはよう、梅子」
「おはよう、斉志」
 それから朝のちゅーを。いいにおいがする。温かい。やわらかな光に包まれて、梅子そのもののこのうちで、梅子をあらん限り抱き締めてちゅー。悶絶など当然させん、タイミングなど日常、厭々でも無く自然に離れる。銀糸を引いて。同じ表情の俺と梅子。
『戴きます』
 俺は梅子を全部貰う。梅子も俺を全部貰う。いつも一緒だ、梅子。
 梅子が箸を持ってはい・あ~ん。とろける瞳で、それは互いにそうで。初めて、食べた。
「……美味しい」
「……よかった」
 梅子にとけた。惚けた。……温かい。ヤらずとも、それはいつもだった。心からそう思う。……俺、幸せだ。これが俺の誕生日、これからはこれが日常。
「梅子」
「……うん? 斉志」
「逢えて、……よかった」
「うん、斉志。わたしも、……よかった。逢えて」
 そうで無かったら俺はもうこの世のどこにも居はしない。今まで出会った全ての者達に感謝を。
 そして梅子に。
 飯をおえて、押し倒すことなく一緒に食器を片付けた。梅子はこれも自分がやると言ったが、ガキの学生のうちは俺もやると言うと厭々納得していた。俺は梅子の体温を感じたいんだ。
 一緒に歯を磨く。梅子の歯磨きは気合い充分、こんなもんは別に修業でもなんでもないんだが。庭へ出る為一緒に着替えた。梅子の服は当然俺が脱がす。思わずその気になっちまうがそれはまだ、厭々着せた。俺も着替えるが、梅子はそれを見てまたしても照れる。この様子だと墓へ入っても慣れんようだがそれもいい。
 着替えをおえ、あの扉に手を掛けて、だっこでうちを出る。梅子は意識あるままうちの最上階を出る時、帰る時、必ず俺の首元に顔を埋めて目を瞑る。マンション内とは言え最上階の外をまじまじと見はしない。
 庭に到着。風は確かに薫らんが実にいい天気だ。清々しく、梅子もそうで、この時は手を繋いで、あとはゆっくり散歩した。
 互いに無言、俺と梅子の辞書に気まずいなんざ文字は無い。無言というより、穏やかに。温かい。出逢った最初から、それを感じた。……温かい。
 しばらく歩く。緑陽樹の下を縫うようにゆっくりと。
 ふと梅子を見ると、……開放感、そう顔に書いてあった。
 ……。
 木漏れ陽を眩しそうに見上げるその表情──最上階では決して見せない──視線の先は俺を通り越し──外を──
 ……。
 即座に悶絶、うちへかっさらって飯も忘れてヤりまくった。

梅子

 美味しいって、言ってくれた。……よかった。ほっとした。気分は十三階段前だったのだけど、そんなの表情に出したら気分良くお食事なんて出来る筈ない。そう思って、あれでも必死でなんとか笑顔ではい・あ~ん。ちゃんと出来たかな、そもそも味に自信なんてぜーーーんぜん、無いのだけど。
 そういう意味で悶絶されちゃったら、もうわたし、絶対三行半突き付けられる。斉志は緑色の届け出用紙ー、なんて言ってるけど、そんなのわたしが触れたくない。絶対見たくない。全廃連合に参加します! 斉志とわたしの辞書に、あ、あんな文字はありません!
 けど斉志は五体満足で(……)ちゃんと散歩出来ている(……)。よかった。
 と、思ったのだけど……。
 あのー、わたしお昼つくれないです斉志。お昼抜いちゃ駄目だって、いつも斉志言ってるじゃないですか……。

斉志

 風呂でも突きまくった。俺はいつもこの時期狂うのか? 飯を作れる梅子。ひとりでも、もう生きて行ける。自分で、誰にも頼らず生きる気概を持つ梅子。立場など無くとも、そう、腕力も金も、評価され易い才能も、そんなものがなにも無くとも、逆境の中にあっても自力で撥ね除け突然多くの者達を惹き付け味方にし、自分だけで活路を見出す、それが梅子。
 突き放し、それでも自力で出来たらそいつはもうひとりでやって行ける。それを俺はあの梅子に。そんなことしたら……。
 俺、……いなくてもいい?
 ……俺、怖かった。梅子はそうだと、分かっていたからなにもさせなかった。させたく無かった。だからこのうちに閉じ込めた。梅子はひとりで生きて行ける。そうしてどこかへ行く? 梅子がいなければ生きて行けない、俺を置いて。
 梅子、梅子、……もう、
 俺。……要らない?

「斉志……わたし……溺れてる。斉志、助けて……ずっと一緒に、でないとわたし……も、沈んじゃうの……わたし……」

 梅子はそれからベッドで呟いた。俺の腕枕で。
「海で溺れたことがあるって言ったでしょう。子供の頃。まだ泳げなくて、溺れたとき、わたしが暴れて出来た泡だらけの海ごしに空を見た。最初はそれでもまだうす水色に見えたのに、溺れて沈んで行って、空がもう群青色になって行った。暗くなっていったの。怖いなんて、そんなのじゃなかった。死ぬかと思った。
 前の職場、リストラされて、それを思い出したの。わたしにはなにもない、そう思った。わたしはなにも出来ない、そう思った。まっくらになった。
 もう、そんなの厭。
 そんな思い、させないで……」
 俺は大馬鹿者だ。鬼畜の犯罪者のゲス野郎、根本的に最低野郎だ。やっと去年、そうで無くなった、そう思えたのに。また自惚れた。
 俺の考えなんざ梅子はすぐに分かる。相互理解出来ていないのは全く突発的な事だけ、そんなものは出逢ったあの時から誰よりこの俺が知っていた。
 俺がいなくなったら、……もう梅子、生きてないだろ……。
「……ごめん、俺、……怖かった」
「……」
「梅子に離れて行かれたら、もう、俺……怖くて……ごめん」
「わたし……」
「……うん?」
「斉志と一緒じゃないなら、もう、いい……」
「……そんなこと言うな……俺もだ」
「うん、……うん」
「……ごめん」
「斉志」
「……うん?」
「誕生日プレゼント買いに行こう? 今度はぜーったい、わたしのお金で!!」
「……」
「いま、よく憶えてたなとか、よく見てたなとか思ったでしょう。分かってるんだから。ぜーーーーったい、わたしがお金払います!! しゃ、社会人にも、……プライドあるもん!!」
「……言ってくれるじゃないか梅子。どうせ俺はガキだ、学生だ、一日も休まず勤め上げるなんざやったこともない!! 悪かったな!!」
「そんなことないもん! じゃどうしてこんなお金持ちじゃないと出来ないことばっかりなの!! 汗水たらして働いたってこんなの無理!!」
「悪かったな、どうせ頭の中で下らんこと考えてりゃ稼げる方法で残高増やしてるよ俺!! 俺はその程度なんだ、だが見ていろよ、来年になったら今度こそ全部自分で動いて下らんやつら全員追い抜いて出世してやるからな!!」
「どうせわたしは出世なんて出来ませんでしたよーだ!!」
「なんでそういう話になる!! 俺は梅子に少しは格好付けたいんだ、一番取ったって逃げられた、この星制圧したって梅子俺から逃げるだろ!!」
「どうしてそういう話になるの!」
「梅子があんまり、……本当のことばかり見るからだ!!」
「え?」
「……成績、どれだけ上げても、……総代やっても、一番の学校に一番で入っても、……梅子そういうの評価しないよな。そうだ、そんなもんは評価に値しない。上っ面でいくら見せつけても梅子は評価しない。ランク付け出来ない、それが勝負の場だ。梅子、そういうとこ見るもんな。それは所詮、……学生のままじゃ無理なんだ。俺、そう思っていた」
「そんなことない!!」
「ある。梅子それ出来るだろ……。学生も社会人も関係なく、梅子それ出来るだろ……誰かに教わらなくても、最初から、……自分ひとりで」
「……わたし成績なんて」
「もう関係ない、そうだろ。前職に居た時、師匠は凄いって思っただろ。その通りだ。評価は結果でしかされないが、経過が大事なんだ。それは易々と評価されない。評価され難い。梅子は……」
「斉志は凄いことして一番なんだもの。わたし、……よく逃げたけど、……わたしなんてなにもないから、それ斉志に知られたら嫌われるって、それなら最初から関わらない方がいいって、そう思ってばっかりだったの! だからいつも逃げてたの! 斉志から逃げたんじゃない、わたしなんてなにもないからそれ知られたく無くて厭だったの!!」
「あるだろ!!」
「……え?」
「あるだろ梅子に!」
「……え」
「あるだろ……俺」
「……」
「……やっと気付いたか。なにがなにも無いだ。二度と言うな、いいな!!」
「うん!」
「よし、この件はこれで終了だ。……なんで喧嘩なんざしなきゃならん」
「……ごめんなさい……」
「終了と言ったぞ梅子。プレゼント、だったな。分かった。……金、梅子の厭々使う。けど行き先は俺の知ってる店だから。他は梅子が何と言っても俺が厭だ」
「うん、それでいい。もう、我が儘言わない」
「……言っていいぞ」
「……え」
「梅子、……頼むから、俺に甘えてくれ。甘やかさないなんて、もう言わない……」
「厭だもん」
「……なんで」
「そんなことしたら本当にぐーたら女房になるでしょう。そしたら、またあんなふうにぐてーっと太って、……斉志に愛想尽かされるもん」
「わけないだろ。いいから本当のグータラ女房でいろ。ぐてー、とはなんだ。俺と梅子の辞書に愛想尽かすなんざ文字は無い、それでいいな! 返事はうんだ」
「……さいごのは、うんでいいけど……」
「ちゃんと修業してるだろ梅子……。なんで俺が教えてるのにそんなんになるんだ。ヤりまくるのも体力造りになっていると言ったろ。……そうか、まだまだヤり足らんとそう言いたいんだな梅子」
「だからどーしてそういう展開に……」
「いい、分かった……出掛けよう。さっさと買うもん買って、時間も遅い、夕飯は一緒に作ろう。昼、抜いちまったな。その分夜ヤりまくる。大丈夫だ梅子、安心していい。飯、……本当に美味かった。頑張ったもんな梅子。ご褒美ってわけじゃないがこの連休は修業休んで。俺、梅子の足腰きっちり立たさなくするから。梅子俺がいないと絶対駄目って分からせるから。ああ、心配しなくていい。躯目的なんかじゃないぞ、そんな文字は俺と梅子の辞書に」
「……もういいです……」

 悶絶で連れて行き、店の中で気付かせる。他の客など当然いない、ワンフロアだけ、この店の主は俺の知り合いの老夫婦。当然話し掛けてなど来ない、梅子を見ない。リボンなぞ却下だ、俺のどこにも巻かせん。梅子はそれも買いたいと言ったが梅子が何と言っても俺が厭、この手のお願いだけは聞いてやらん。
 梅子が選んだ酒を買う。厭々レジに札を置かせた。釣りなど無し。梅子は当然俺がなにを考えているのかなど分かるだろうが問答無用で即悶絶。札は回収、俺が払ってうちへ帰った。知り合いの老夫婦から、余程惚れているんだな、そう言われた。
 ああそうだ。梅子がいないと、俺は死ぬんだよ。
 うちへ帰って、俺と梅子で夕飯の支度。もう梅子は俺の隣でただ見るだけなどしない。自分でも出来る。
 分かっていた。いくら抱いても梅子は俺の手をすり抜けて行くことを。たったひとりで生き、俺を置いてどこかへ行く。それが独身時代。結婚してさえ、俺はひとりなのか。いつ出て行かれるか、それに怯え続けるのか。過去を清算してでさえ。いくら身分を確定させても梅子は俺の手をすり抜ける。俺はそれを止められない。暴力では二度と止められない。
 見えないものは奪えない。俺は梅子が欲しい。奪いたい、それでも梅子は奪えない。上っ面など梅子は最初から一切評価しなかった。金に飽かせてどれだけ命令しても梅子は奪えない。
 梅子の意志を、俺は奪えない。あんなふうに、また言われたら? もう自分でなんでも出来る、だから自由になりたい、そう言われたら? 外へ出たがっている梅子。
「はい・あ~ん」
 やわらかい声、一緒に食べる。俺の口に食事を運ぶ梅子。
 食べた。飯、きっちり食わせないと、梅子は逃げる。押し倒したかった、だが駄目だ、昼も抜いただろ……。躯だけ、それは駄目だ。梅子はそれを最初から一番厭がっていた。
 口の中は一緒の味。一緒に片付け、歯磨きをした。殴り込み体勢の梅子。この時、既に梅子は俺を見ていないのかも知れない。保身した俺。全てを捨てた梅子。
 一緒に風呂へ入った。脱がし専門の俺、本領発揮。梅子は脱がされるのも、俺が脱ぐのを見るのも照れる。見せていない所なんざ何一つ無いんだが。梅子が俺の髪を洗う。余程俺の髪質が好きらしい、誘う時はよく俺の髪にキスをした。まさか俺の髪に嫉妬出来るわけも無い、二親に感謝を。俺も梅子の髪を洗う。梅子は高校の時しばらく伸ばしていた、結婚する時は自前で髪を結えた。だがその後、俺に切ってもいいかと聞いてから、出逢ったあの時の長さに切り揃え、その後はずっとその長さにしている。梅子の躯を洗う。俺のなすがままだが照れまくる梅子。そこ、も……洗う。厭がるし抵抗もするが結局俺のなすがまま。俺? んなもん自分でやるに決まっている。俺も充分照れ屋なんだ、洗い方にコツあるしな。梅子も、それは任せると言わんばかりに真っ赤になりながら、それでも俺の背中は流す。俺が梅子の背中を洗ったらすぐイった。それ以降梅子は背中を洗われるのを厭がる、厭々我慢。それから風呂へ入って一回目。下から突き上げ、梅子が迎える。湯と汗、淫らな音、揺れるでかい胸、上気した眼差し。そうやって、俺だけを見ろ、梅子。
 湯当たりは却下、風呂では焦らさず、汗をシャワーで流して浴室を出てすぐ躯を拭き、ガウンを着せる。イっちまって意識の無い梅子の髪を乾かす。結婚した時は髪も肌も荒れていた。もうそれは無い。だから俺のそばにいろ、梅子。
 ネグリジェを着せてベッドへ連れて行き、ふとんにくるませ、俺も髪を乾かしてから裸のまま寝室へ戻った。
 もう、気付いたようだ。躯を起こしている。
 スケスケなネグリジェ、我ながらいい趣向だ。実にそそる。ふとんをどかし、乳首をおっ勃てた梅子がおいでポーズ。落とした照明で俺を待つ。俺が寝室へ入れば当然灯りは最大だ、素っ裸の俺を見て、またしても照れる梅子。だが手は下ろさない。
 真っ赤な顔のまま俺が迫るのを待つ梅子。俺が剥ぎ取ってもいいが、梅子が自分から脱ぎながら照れるのを見るのもまた、いい。だから脱がせた。中途半端に。
「恥ずか、……しい、よぅ……」
「……そうか? なら梅子……下着、穿いててもいいぞ」
「……え?」
「ほら」
 レースの、これまた実にスケスケなショーツ、まあパンティだな、を穿かせた。驚いているようだがまだまだこれからだ、今日は俺の誕生日。俺は我が儘言いまくり、梅子に甘えまくり。俺、梅子がいないとなにも出来ないからな。それを梅子の意志に教えてやる。
「広げろよ、脚」
「……え」
「は、濡れて……染みになってるな、もう」
「ヤ、……」
「見てろよ。目、逸らすな」
 毎度ながら脚をおっ広げて、俺はその間に座る、だけ。梅子が真っ赤になりながら、梅子の……そこ、を互いに見つめる中、俺の指でそれに触れる。下着越し。なぞる。梅子は、そこ……薄い。ヤりまくって、さらに薄くなった。だがここまでスケスケの、繊細なレース。漏れている、……それを見てさらに照れる梅子。いや、イきかける梅子。
「見ろ」
「……い、ヤぁ……」
「見ろよ。どうした、指も入れてないぞ……上からなぞっているだけだ」
「ヤ、ヤ、ヤ……」
「見ろ。俺の言うこと聞けないか」
「……聞、く……」
 ぷっくらとした蕾の上も、なぞる……。
「……ぁン!」
「なにもしてないぞ梅子。まさか下着でイくなんざ言うなよ、梅子をイかせるのは俺だけだ」
「だ、ってぇ……」
「びちょびちょだ梅子」
「だ、って、だってぇ……」
「……どうして欲しい?」
「……入れ、てぇ……」
「なにを……?」
「斉志、ぉを……」
「……駄目だ」
「どぉ、してぇ……」
「梅子俺から逃げるだろ……」
「そんなことしない! も出来ない、知ってるくせに、ずっとずっと、もう、斉志、どうして……」
「なにが」
「知らないでしょう……」
「知っている、梅子のことなら全部。俺を置いてどこかへ行きたい、そうだろ。梅子なんでも出来るもんな。飯も作れる、自分で汗水たらして稼いで、友達いっぱい作って、こんな、ひとつところに閉じ込められるなんざ厭だと思っている、そうだろ」
「違」
「俺はまだ喋りおわってない。俺なんか要らない、そうだよな。そう思って離れたんだもんな。義親父さんに言われて無理矢理、そうじゃなかった。俺なぞ要らん、女友達にすら会わせない、独占欲だらけの、……もう分かってるだろ、闇だらけの俺なんか邪魔だろ……。今だって、今更こんなこと言う俺の、こと、……もう見限ってるだろ。一生閉じ込められるくらいなら、あんなふうに……電話ボックスを出たみたいに、俺を退かして……あの扉から出て行く気だろ……。逃げる気だろ。梅子が逃げたら俺、撒かれるもんな。腕時計なんか捨てて、それでこの街に、紛れ込まれたら、俺……」
「斉志!!」
 抱きついて来た。俺の首に腕を回す。ぎゅっと……表情は見えない。
「そんなにわたしのことひとりにしたい?」
 躯、震えている……俺と同じ。
「どうしてあれだけ努力して、あれだけ凄いこと、見えないところでし続けて、なのにどうしてそんなこと言うの? プライド高いのも、自惚れとかも、全部努力して、揺るぎないそういうのがあって、だからでしょう? どうしていつも、……わたしに対しては、自信がないの……」
 ゆっくり、腰に両腕を回した。俺もぎゅっと。撫で回す。……温かい。
「どれだけわたしが自信、ないか知っている? と、……閉じ込められるくらい、お墓に入っても独占、されるくらい、そんなふうに、……惚れてくれるひと、あの雪の日までそんなこと考えたこともなかった。有り得ないとも思わなかった。下らない思考に相応しい下らない人生だけだと思ったもん。住む家はあって両親はいて自営業で、友達も学歴もなくたってよかった。斉志、貰ってくれたでしょう。あの時から、……ひとりなんてもう無理」
 俺なんかな、ずっとそうなんだぞ……。
「わたしのこと、知れば知るほど、なにもないって分かる。だから……斉志から逃げて、それでも掴まえてくれるひと斉志しかいない。環からは逃げた。環はひとりで、……今は違うかも知れないけど、ちゃんと出来るひと。わたしが放って置いたら、環はやっぱりひとりで大丈夫だった」
 俺も梅子の首筋に顔を埋めた。……もっと言えよ、梅子。
「わたし、斉志のこと知っちゃった。もうほっとかれたら駄目。あのとき離れたのは、いろいろ言われるの、もう厭だった。結婚したのは、なに言われてももう構わないって、そう思えたから。斉志、わたし斉志にほっとかれたら、どうなると思う? そんなに世の中甘くない。それ、リストラされた時厭になるほど分かった。両親は、……いつか死んじゃう。そうしたらわたし、ほんとうに、ひ、──ひとり、で──」
 腕を緩めて向き合った。
「こんなこと言うわたしのこと、──嫌いでしょう」
「惚れてる」
「じゃあ閉じ込めて。独占して。不安だもん、そうして貰わないと、もう厭──」
 涙はいまにも零れそうで、声、ちいさい。まぶたにちゅーして、ほっぺにちゅーして、くちにちゅーして、顔中ちゅーしまくって耳、あまく嚼んで、囁いた。
「ああ、そうする。月イチと庭だけだ、もう出さん。梅子、俺だけを見ろ。他なんざ見るな。思うな、考えるな……」
「うん、……斉志、わたし……そんなにどこかへ行きたさそうにしてる?」
「ああ。梅子はな、ひとりでほっつき歩いて俺を置いて勝手にどこかへ行って浮気するこの星一番の要注意人物だ」
「……そこまで言うんだ」
 言うぞ俺。梅子はな、ちゅーだ。ちゅーの刑に処してヤる。んなもん日常。
「事実だろ。あの扉、一歩でも出れば俺なんかもう見ていない。庭でも外でもどこでもだ。梅子いつもそういう表情するぞ。ああやっと出られた、あとはこの塀乗り越えて、閉じ込めてるやつを殴り倒してどこかへ行きたい、そういう態度だ」
 首に舌、嘗め尽くす。甘い、……甘いんだよ梅子……。
「……そ、ンな、ァ、の……」
「そうだろ」
 鎖骨、吸った。いつもそそられて、梅子細くて、蹂躙したくて、犯したく、なって……。
「ァん! 都会の人混み、苦手って言った、ァ、庭でも外でも、斉志がいるから安心するの! 斉志いないと厭!!」
「当然だ。都会の人混みとはなんだ。そこまででなければ、そういう所へは行きたいのか、ひとりで」
 乳首両方摘んでヤった。
「ぁン!! ひとりなんか厭! 無理だってば!! 信じて! どうしていつもわたしのこと疑うの!!」
 ……逃げるからだよ。
「信じてって、いつも言うくせに……。信じてる、ン、ン、の……に、これだけは斉志、……絶対信じてくれない。まさか斉志、わたしに行動力があるとか思ってるんじゃ……ァ」
 ……あるだろ。
「無い、ンァぁあ!!」
 乳房鷲攫み。揉んだ。ボリューム満点、俺の、俺の、全部俺の梅子。
「嘘だ」
 何度俺に態度で示した? 俺が動かん時程梅子は動く。どれだけの逆境にも拘らず、たったひとりで鮮やかに。いつだって俺は要らなかった。むしろ俺が、
「無いもん!!」
 ……いない、方が……
「あったら、ぁ、ぁ……友達無しなんてない、友達も、親友も……師匠も恋人も旦那様も全部向こうからそう言って来てくれたからなんだもん!! わたし自分から言ったことなんてない!!」
 言ったら、……どう、なった?
「友達になって下さいとか、師匠になって下さいとか、好きになってとか、言えるわけないでしょうわたしが!! なのに、えっと? ん、ん、ぁ、ひ、とりでほっつき歩くの、な、……不用心だもん、こわいもん、市内も出たことなかった、の、ぉ、修学旅行とか、し、か……ぁ、ぁ、ン、わたし、甘える、も、も絶対自分で働くなんてしない、楽するの、毎日汗水たらしてなんて厭、もう厭、辛かったの、ほんとにほんとに厭だったァアアア!! ぁ、ィ、ぃ……せ、……いじィ!! しか視界に入れたくない、も、もそれ以外厭、も、あんな、……厭なこと言われたくなぃ、聞きたくなぃいイイイ! ずっと閉じ込めてぇ!!」
 胸、食った。歯形付けてレロレロ舌で乳首転がして噛んだ。もう片方も揉みまくり。梅子俺の髪にちゅーして、ちゅーしまくって、もっと食えって言ってる……だから食った、もう片方食いに行った。心臓の音、俺と同じ……。
「斉志、も、しわたしが出て行くとかまた考えたら、も、もなんの修業もしない、就職も、させない、ずっと、……ずっとベッドに縛り付けるから!!」
 乳房に唾液、たっぷり残して。糸引いて、ふたたび向き合う。
 互いにイきかけている淫らな瞳、貫きあって、言った。 
「いい度胸だ梅子。梅子の度胸はこの星一番だ、この俺をベッドに縛り付けるとはな。
 そんなもんは却下だ。俺は出る。梅子は花嫁修業、墓に入ってもだ。未来永劫閉じ込めてヤる」
「望むところだ!!」
「言ったな。よし、俺に甘えて楽をしろ。俺もたっぷり甘えてやる」
「うん。……だから……」
「……こんな体勢で言う内容じゃなかったな」
 なにせ前戯の真っ最中。俺はおっ勃ちまくりの素っ裸、梅子は脱ぎかけのスケスケなネグリジェに濡れそぼったスケスケのパンティ穿いて、ひくひくいっててヤられたがっている。
「そう、だもん……。甘える、からね斉志……焦らしちゃ厭……」
「それは却下」
「どうしてーーーー!!」
「俺の思う通りだろ梅子。まあ抵抗されるのもいいんだがな。……せっかくいい雰囲気だったのに……乾くな梅子」
 俺の指に梅子の唾液絡めて、なかへ突っ込んだ。
「無理!!」
 当然だ。
「斉志いないと厭!! なんでも言うこと聞く! ずっと、ぐっちゃぐちゃにして……いっぱい、して!」
「ああ、するさ。覚悟しろ梅子。本気でヤる」
「来てぇ……!」
 染みたシルクのパンティは一部だけ引き千切って、そこから指、舌、俺。梅子は悶えまくってイきまくり、猥らな声で、締めるの上手くて、お陰でこっちもイきかけた。俺は梅子に完敗、イきかける度に背中攻めてヤったら梅子は猾いと俺に言う。そうだ、俺は猾い。梅子で酒を呑んで、酔った。俺も梅子も酔いながら、お互い体力付いたしな、風呂に入っても汗まみれで三日三晩ヤりまくり。食った飯なんざせいぜい軽食、サンドイッチと牛乳程度。きっちり足腰立たせなくして世間の言う連休とやらは終了した。
 俺がこれで足腰立たなくなるなんざ墓に入ろうが有り得ん、風呂へ入れ俺のパジャマに着替えさせてから梅子をベッドに縛り付け、揃いの弁当と子機をベッドサイドのテーブルに置いて講義へ出てやった。昼に惚気電話を入れると弱々しい声で、酷いだなんだと言って来やがった。当然俺も応戦。酷いのは梅子だ、あれだけ誘いまくって食いまくって、俺よりスケベだよ梅子。そうでかい声でキャンパス内で言ってやった。帰ったら梅子は俺をさぞ恨めしげな瞳で見上げるだろう。実に愉しみだ。
 俺が梅子を守る。梅子は下らんことを周囲に言われるのが心底厭だ。二度と言わさん。もうどこへも出さん。なんで俺、可能な限り外出するなんざ言ったんだ? 我ながら自分で自分の首を締めたな。だがそれで梅子のあの言葉を引き出せた。本音だった。梅子の本音。自分に責任を引っ被せない、梅子の本音。それが聞けるなら喧嘩もいい。梅子はそういうところがある。怒らせると本音が出る。やり過ぎはいかんがな、俺は梅子のお願いは聞く。誰よりそれが俺の望みだ。
 梅子の意志、それは誰にも頼らずひとりで生きること、だった。そう思っていた。だが俺に甘えると、楽をすると。独占して閉じ込めろと。なんでも言うこと聞く、ぐちゃぐちゃにいっぱいヤれと、それが梅子の意志だと。やっと言ってくれた。
 やっと、やっと……梅子の意志で、梅子の意志も。もう全部俺のだ。
 うちへ帰る。出迎えは無し。我ながらヤらしい苦笑を浮かべ、グラス二つに水を満たし、寝室へその表情のまま行った。梅子はベッドで、掛け布団を顔まで引き摺り上げ恨みがましい瞳で俺を見つめる。俺だけを見ている、俺だけを考えている。
「ただいま梅子」
「……おかえりなさい、斉志」
「俺が先? 水が先?」
「斉志が先! 水分くらいは摂ったもん……」
「トイレで出す必要あるからな、俺の」
 そう思って、ヤる度少々寝かせはしたからな。
「……すけべ」
「梅子がな。そうか、俺はベッドに縛り付けたつもりなんだが……まだまだ修業が足りん」
「誰の、せいで……」
「俺のせいに決まってるだろ。俺は梅子に開発されたんだ。梅子には敵わん、俺以上にスケベでヤらしいんだ」
「……違うもん」
「俺が先と言っておいてか。安心しろ、飯抜きは却下だ。とにかく飲め。ちゅーで口移ししたいが厭々我慢してやる、今夕飯つくるからな。美味いやつを」
「……どうせ、どうせ」
「なんだ。梅子の飯は美味いと言ったろ。まさか梅子、つくりだして九年の俺にもう追い付いたなんて言うなよな。梅子自信家だもんな、だが俺は負けんぞ」
「……どうして、自信家」
「何となくだ」
「? へんなの……」
「ああ、俺はへんだ。飲め、飲んで。……な」
「……うん」
 水を飲み下す梅子。そうやって、……俺のも飲み下して欲しい。だが却下だ。あんな超絶不味いもん……。
 空になったグラス二つを受け取って台所へ。弁当箱は片付けられていた。いくら出す必要があると言っても根性で起きやがったな。……それもいい。
 冷蔵庫を開けると思った通り牛乳が減っていた。梅子は子供の頃から根性で牛乳を飲み続けああいう体型になったという。カルシウムを摂取するのはいいことだ。今でも一日に瓶一本は空ける。酒はやはり飲めないようだ、あんな雰囲気でもないと飲むことすら考えない。
 夕飯をつくってから、梅子を寝室からソファへおひめさまだっこで連れて来て、俺に乗せてはい・あ~ん。腰砕けの梅子、俺に完全に寄りかかっている。梅子いつも遠慮しまくってるもんな。それだけ軽くて、躯ちいさくて、出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んで。
 俺も、他の誰も曲げ得ぬ意志を持つ梅子。その全てが俺のだ。
 実にヤり過ぎたようで、梅子の躯が悲鳴を上げているのが分かる、濡れてもいない。そうとなれば俺の忍耐力はこの星一番。食い切って、梅子をソファに座らせたまま俺が食器を片付けた。根が甘えん坊でもなんでもない梅子は自分もやりたがったが、無理だろ梅子。いいから甘えていろ。あとは椅子に座らせて歯磨きをさせた。足を踏んばって歯磨きをしないように、これはお白州だ。そう言うと、俺の脚が長いのが分かるから、なんとなく対抗意識でと言った。梅子は実に俺の想像を遥かに超えることを言う、それはいつも望外の言葉。だが却下だ、脚はちゃんと閉じて歯を磨くこと、そう言った。なんだか子供に教えてるみたいだな俺。俺の言うことをちゃんと聞く梅子。それは最初からだった。たまに開き直るがそれもいい。
 それから風呂へ入れた。今日は厭々我慢してやるが明日からはヤる、そう言うと、照れながら、うん、そう言った。俺の思う通りの梅子。それでいて、意志がある。じゃあ明日から修業を再開する、そう言った。いいにおいで、俺は目覚められる。
 それから、昼も梅子と揃いになった。梅子は弁当を二つ作る。中身は一緒、俺と梅子、同じもの。
 風呂を出て、寝室へ連れて行き、もう寝ろとそう言った。おやすみのちゅーを額に落とす。安心、そう全身で語る梅子。すぐに眠った。深く、深く。
 俺も安心、ベッドサイドで大集中の鬱憤晴らし。俺は負けん、必ずこれで起こす。最初から梅子はこうだったが、あの時の俺の集中力などで起きなかったのは当然だ。なにせ起きていてですら全く怯まなかった。勝負の意志を感じる時、梅子は決して逃げはしない。その身一つで立ち向かう。
 俺は一生梅子に学び続けるだろう。