斉志大学三年 夏 花火大会直後 梅子

 久々に実家へ帰った。独身時代ずっといたところ。父ちゃん母ちゃんへご挨拶。久し振り、って。
 斉志と二人、茶の間で正座し、頭をこすりつける事なく挨拶をする。
「お久し振りです、斉志です。お元気ですか」
 まずは母ちゃんが答える。
「斉君、こっちは大丈夫、元気よ。ホレ亭主、挨拶は」
「……斉君や」
「はい、お義父さん」
「それだけかい!」
 と母ちゃんがツッコみ、わたしに向き直す。
「梅子は? 元気だった?」
「う、うん」
 なぜかその先、わたしと父ちゃんが居間でくつろぎ、母ちゃんと斉志が台所へ立つというよく理解出来ない構図に……。
 久々にテレビを見た。画面は相も変わらず野球中継。それをただぼーっと見ているわたしと父ちゃん。高校二年までを思い出した。けど隣の台所ではなんだか随分話が弾んでいるみたい。かあちゃん、とか斉志言ってるし。
 食事もおわってお風呂もおわって。ええ、はい・あ~んではありません! 一緒にお風呂もありません!
「俺、俺……」
 なんと言われても恥ずかしいものは恥ずかしいんです! 最初、なときも父ちゃん母ちゃんの顔見られなかったのにー。実家のお風呂がおっきく改装されてても、防音は完璧ですって言われても厭なものは厭なんです!
「梅子、明日朝飯食ったら速攻でうち帰るぞ。俺、風呂も飯も別なんて耐えられない。梅子俺のことひとりにしないで」
 ハイ……。あのおうちではちゃんと、……その。
 でも、でもわたしの、もともとなーんにもない部屋が改装されて、防音は完璧で、おっきなベッドも斉志曰く軋まないから大丈夫、と言われても、言われても……。
「まさか俺とひとつ部屋の下にいてなにもしないなんて言うんじゃあるまいな梅子」
 ……。
「梅子。俺と梅子は夫婦だ、ヤらない方がおかしい。まさか梅子、俺にお預け喰らわす気じゃあるまいな」
 ……。
「こんなに濡れてるのにヤらないなんて……梅子も、……耐えられないだろ……」
 ……うん。

「……ヤらしいよな梅子」
 ……。
「感度よ過ぎるもんな。誘うの、得意で……」
 ……。
「食うのも、上手くて……」
 ……。
「なか、どれだけ熱ィか、……知らないだろ梅子……」
 ……。
「まさか梅子……」
 ……。
「ここで、……自分でヤってたなんて言うなよな……」
 ……。
「……そうなんだろ……」
 ……。
「俺、いま……嫉妬したぞ梅子……」
 ……。
「俺に梅子の指嫉妬させるな……」
 ……。
「この指? 俺以外入れるなって言ったろ……」
 ……。
「こうしてやる……」
 ……。
「でかいも太いも当然だ。較べるな」
 ……。
「まさか……どこまで入れた」
 ……。
「……それでも嫉妬するぞ。十分だ」
 ……。
「全然感じない? 当たり前だ。一度だけ? 当然だ」
 ……。
「異物? 自分で言ったくせに、俺以外入れるなって。あんな凄いプロポーズしておいて、なんで俺のこと放って置いた」
 ……。
「うちに帰る予定だったが……、変更だ。南の島だ、当然二人っきりだ。ヤりまくる。今夏休みって言ったろ。まさか梅子、俺がたかが島国のたかが試験だ講義だでどうにかなる程度の男だなんざ思っちゃいまいな」
 ……。
「いつもそう思ってただろ」
 ……。
「その程度なら、俺梅子に逢わせる顔ないぞ」
 ……。
「梅子の亭主はその程度か」
 ……。
「梅子。なんで俺があれだけ集中出来ると思う。梅子に愛想尽かされたく無いからだ。梅子に相応しい男になりたくて、そうでなければ梅子に逢わせる顔ないって、ずっと思っていたんだ! 中三の時も、三年弱も、今でもずっと!!」
 ……。
「怖いよ、俺。梅子が」
 ……。
「俺、見下される程度の男なら梅子に愛想尽かされる」
 ……。
「自分がいたら、俺梅子に溺れてそうなるって思ってるだろ」
 ……。
「俺はそれまでの男か」
 ……。
「とっくの昔に溺れてるんだ、逢った時から溺れてるんだ、俺、梅子に溺れてないとなにも出来ないんだ!」
 ……。
「俺だって、……そりゃ」
 ……。
「……したよ。一度や二度じゃない」
 ……。
「だから食わすのがイイんだ」
 ……。
「尻、向けろ」
 ……。
「灯り消せ? 却下だ」
 ……。
「食えよ」
 ……。
「……まる見えだ梅子」
 ……。
「知らないだろ、 なか真っピンクだ」
 ……。
「まさか……」
 ……。
「……ならいい」
 ……。
「俺? んなもん見るわけないだろ」
 ……。
「どくどく言ってる? 梅子もだ」
 ……。
「……」
 ……。
「……く」
 ……。
「……」
 ……っ。
「……飲むなって言ったろ」
 ……。
「こっち向いて脚、開け」
 ……。
「本当は……入れたまま眠ってもいいんだが……梅子胸……」
 ……。
「またへんな事考えたな。俺がいつ躯つきだけ見た」
 ……。
「なんで性格も知らず惚れたか? 梅子だってひとめ惚れしただろ。そういう問題じゃない。話逸らすな? 惚れたからだ。後付けの言い訳俺にさせる気か」
 ……。
「……まだそんな事を言っているのか。なんで俺が誰とも喋るな関わるなと言っているのか分からんのか? 知らないだろ、梅子がどれだけ、……」
 ……。
「そういう、……好かれ方、……一番やばいんだ……。上っ面だけ見てどうのなんざ言うなら……まだ、いい」
 ……。
「俺が嘘つくわけないだろ梅子。なんで俺が誰とも会うなって言ってると思う。俺がな、俺が梅子を綺麗にしたんだ。そうだろ」
 ……。
「ガキの頃の……、小学校とかの同級生が梅子に会ってみろ。一発で……」
 ……。
「その上性格でまで? これ以上言わすな」
 ……。
「焦らすな? 梅子いつもだろ。飯、二度と別にせんぞ。風呂、生理の時は厭々我慢してやるが……それ以外は絶対一緒だ」
 ……。
「どの体位がいい。言えよ、その通りヤってやる」
 ……。
「恥ずかしい? なにが。どれだけヤりまくった」
 ……。
「梅子ヤらしいからな。脚、開くといつも濡れてるだろ。見るだけでイくぞ」
 ……。
「背中……俺、ずっと見てたからな。だから弱点なんだ。は……がくがく言ってるぞ梅子。待て、誰が先にイけと言った」
 ……。
「いいからイかせろ? よし、イかせてヤる」

斉志

「酷い、斉志……」
 どこがだよ……。
「こんなこと言わせないで……」
 言わせて、……照れるの見るのが好きだって分かれよ……。
「だってほんとにおっきいんだもん……」
 当然だ。
「ふとくて、どくどくいってて、見てるだけで、……食べたいの!!」
 なんで俺月イチで我慢してたんだ?
「熱くて、ほ、欲しくて……」
 当たり前だ。
「ず、ずっと、してぇ……」
 やっと言ったか……。
「も、ずっと斉志、に溺れて、て……」
 知ってるよ。
「躯、さえ保てば……も、ずっと……」
 そうなんだよな……。思えばずっとうちの中。普段から陽の光は浴びせた方がいい、可能な限り庭を散歩はさせている。梅子は、緑陽樹の木漏れ日の下散歩をするのが特に好きだ。手を繋ぐだけだったがデパートへ行って初めてあんなふうに腕を組んで来た。それ以降庭ではそうしようと思ったが、……俺、その気ありまくり。結局うちへかっさらってヤりまくり。
 だがあのうちに開閉可能な窓だのテラスだのを付けるのは却下、警備上大問題だ。梅子が外へ出る扉に手を掛ける? ひとりで? なにそれ。その隙に侵入されたらどうする。知らないだろ梅子、あのうちはな、マンションじゃない。要塞なんだ。
「厭ぁ……」
 どこがだよ。単に接合部、鏡で見せてるだけだろ。見ろよ梅子、こんなだぞ、俺と梅子。
「見ろ」
「厭……」
「この体位、……梅子の正面見られないからな。だから鏡だ。そんな脚おっ広げて、俺跨いで、後ろから鷲掴みされるの、好きなんだろ」
「好き、好き、好き!」
「見ろ」
「ぁン……」
「どうなってる」
「い、……」
「言えよ」
「あ、あしぃ……」
「開いてるな、……梅子の太もも、むっちりしてるんだぞ。知らないだろ」
「そんなの……」
「ほら。こんなにでかくて、乳首も真っピンクだ。いくら掴んでも指から漏れる」
「ぁ、っぁ……」
「俺がそうした」
「ン、ン……」
「摘むと……」
「ぁン!」
「イきかける。すぐだ。まだ早い」
「……イかせて!」
「却下だ。……よくもあの時、キスマーク付けるななんて言ってくれたよな」
「だぁっっ、ってぇ……ぁン!」
「鎖骨……見るだけで勃ってたんだぞ……よくもあんな、夏服着て……俺以外誘うな!!」
「だ、って、だって……」
「なに」
「せ、斉志ぃィ!! の、こと……」
「よくも学校であれだけ誘いまくってくれたよな」
「だって、だって、だって」
「ああ、昔の蒸し返しはするな、か。じゃあ今ヤってやる。どうなってる、梅子の」
「そんな……」
「ああ、俺のか」
「……ぅン」
「言えよ」
「斉志、のぉ……」
「俺を?」
「く、くわえて、て……」
「いつもだよ」
「ぐちゅぐちゅ、揺れ、て……」
「梅子がだろ」
「ぬちゅぬちゅ、いってて……」
「胸は」
「も、……揉みシダカレテ、て……」
「腰、いつ止めろと言った。振れよ」
「ン……」
「キス、しろ。いつもさきっぽだけだろ梅子からするの。いい加減奥まで犯せ」
「む、り……」
「ほら」
 躯を思いっきり弓なりにしてやった。形のいいでかい胸がツンと上を向く。その表情。梅子全部で俺を煽情する。口が少し空いて、目を瞑っても俺を誘う。
『ン……』
 片腕を無理矢理俺の首に回す梅子。結構柔軟性あるよな躯。ああ、俺がそうしたか。脚をこれだけヤらしくおっ広げて腰上下左右に振って乳房振り回して腕回して俺の奥まで俺を犯す。舌、絡め尽くす。鼻で息、荒く。熱ィ。
 ガンガン下から突いてやった。タイミング、梅子の尻と合わせて。そんなもん日常、俺がどう突けば梅子が迎えて、なんざ感じ尽くしている。どこまでヤれば、
『あ、あ、あ……っっっっぁ』
「梅子!」「斉志!」
 同時にイくのかも。

 真っ白になって全部吐き出す。中に。我ながらブルブル震えて……。梅子の中に全部。気が付くと梅子はトイレへ行く。出してるんだろ、俺の。
 命令口調がいい、そう言った梅子。それで、……ヤってみると、こんな言い方だけですぐイった。感度よ過ぎなんてもんじゃない。俺は長く保てるが……。梅子にもついて来て貰う。
「斉志──」
「……うん?」
「──」
 ぐすぐす泣く、梅子。恨みがましそうに見上げて……。大丈夫だ梅子、安心していい。俺は間違っても愛想尽かされたくなんかない。命令口調の次は優しいのがいいんだよな。俺は梅子にはいつもそうしようと思うんだが……。梅子が悪いんだ、どっちも感度よさ過ぎる。
「──」
「……ごめん……」
「──」
「あんまり梅子、可愛いから……俺、梅子の照れるところも、好きなんだ……」
「──」
「そんなに泣くな……」
「──」
「まだ怒ってる……」
「──」
「分かった……南の島行ったら、……優しくする」
「──」
「うちでも、する……」
「──」
「ほんとだ……」
「──」
「ごめん……」
 本当は梅子が、こうしてヤった後気が付いて、俺が腕枕している時の、……我ながら穏やかに梅子を見ている……それを梅子が特に好んでいるのを知っている。
「斉志、……最近、冷たい」
 どこからそんな発想が出る……。
「酷いもん……」
 ……。
「わ」
「梅子の躯目的、か。まだそんなことを言っているのか」
「だって……」
「だっては却下。いいか梅子。俺だって惚れなきゃな、素っ裸もなにもかも……晒すか」
「……」
「無言も却下。そりゃ、躯、だよ……。だがな、俺の躯に惚れたんじゃないだろ梅子」
「うん」
「見てくれに惚れたんじゃない、二親に貰った上っ面だけ惚れたんじゃないな」
「うん」
「だからこうして、……もう言わせるな。それでいい、そうだろ」
「……うん」
「誰が冷たい」
「ぅ」
「ぅぅは却下。だが、いい」
「……え」
「梅子の、分かってるだろうな他も全部だぞ、……ぅぅ、とか。好きだ」
「えっと……」
「可愛くて、……照れてるだろ梅子」
「むー……」
「俺、こういうのいつも後で言うからな。先に言うぞ。まさか倦怠期がどうのなんざ考えてるんじゃあるまいな」
「……どうして分かるの」
「全部貰ったと言っただろ。ほら、ぅぅは」
「ぅぅ……」
「そんなものはない。何故か? いいか梅子、俺はこんな狭い島国の尺度では考えていないと言っただろ。せいぜいこの星程度だがな。俺と梅子はこの星一番のバカ夫婦だ。島国以下の尺度は却下」
「……どう返事すればいいんですか!」
「うん、でいい」
「……うん」
「いい加減、俺のこと信じろ」
「……うん」
「よし。まだヤれるが、……梅子もう足腰立たないよな」
「……」
「なんで俺はいつもそう元気か? あのな梅子。俺が梅子より先にイってどうする」
「……」
「イかせてやる? 無理だ」
「……」
「なんで? 悔しかったら研究だ梅子。これも修業」
「なんて返事すればいいの!」
「うん、だ」
「……うん」
「どうだ。倦怠期なんざやってる暇ないだろ」
「……うん」
「大体梅子は俺の想像を遥かに超えることを言うはやるはなんだ。梅子な、あんまり自覚無さ過ぎるぞ。梅子に一番合わん言葉だ。むしろ驚く」
「……」
「なに」
「うたって」
「……」
「無言は却下!」
「なんでそうやって……俺の想像を遥かに超えた事を言う……」
「聞きたい」
「俺も充分照れ屋な」「嘘」
「……」
「わざと命令口調は、厭!」
「……」
「防音でーす!」
「……」
「おうちでも、うたって欲しいの。あの、けどその……休講日に、気が乗ったらでいい、んだけど……」
「……」
「いいもん、言うもん。さっき言われっぱなしだったもん! よくも照れること、というか、は、……恥ずかしいこと言わせてくれたよな斉志……」
「……」
「ちょっと違うかな、言い方、まねしてみたいんだけど……」
「無理だ」
「ぅぅ……」
「あのな」
「?」
「俺も恥ずかしかった」
「……うん」
「だがもう無しだ」
「うん」
「うた、か。どれがいい」
「スタンド・バイ・ミーがいい」
「我ながら、……楽園はないよな。いい曲だが……泣きそうになったよ、合い過ぎた」
「それもうたって」
「うん」
 腕枕で斉志のうたを聞いた。ずっとそうしていたかった。

 梅子が、……穏やかな表情でうたを聞く。だから俺も、さすがにその気にはならないでうたった。梅子はその後静かに眠った。
 梅子はそういうところがある。音を聞いていると安心するらしい。電蓄を聞いていてもそうだ。俺も梅子を研究。梅子は俺の集中力がどうのと言ったが、梅子の眠りはかなり深い。俺の集中力など届かない程。だから俺も梅子の隣で鬱憤晴らし、これで目を覚まさせるようにならんとな。まだまだ修業が足りん。
 久々に、ずっと腕枕をしたまま朝を迎える。この対岸で、一度だけそうした。あの時から既に地獄の三年弱のカウントダウンは始まっていた。だがそれももう過ぎた事だ、いつまでも蒸し返してなどいたくない。
 俺のあの家からは見えない。ここからは見える、水平線から昇る太陽を。
 だから要塞のマンションでは不可能な事をした。窓を開け、裸のままで、梅子もそうで、それを見つめた。今は夏、海からの風も緩やかだ。お互いが暖、寒くは無い。
 冷たいと言われるとはな……。俺、聞きたく無いな……。
「……」
 気付いたようだ。
「おはよう、梅子」
「……おはよう、斉志」
 梅子は起きる時、貰ったあの日言っていたように、靄靄だ。だがすぐに陽の光が溢れ出そうとしている時だと分かったようだ。見る見る瞳を躍らせて、俺と梅子で。
 光を。

 日の出を見て、それからおはようのちゅー。やはり梅子はたどたどしく、舌は歯にしか届かない。……それもいい。
 その後義父さんと義母ちゃんに挨拶、顔を洗って歯を磨いてはい・あ~んで朝飯を食って支度をして実家を出る。名残惜しいが、また来ればいい。故郷へはいつも独りで行った。逢えないと分かっていても、……梅子の部屋で、梅子を感じていたかった。
 今の梅子がそうかも知れない。あのうちで、俺の帰りを待って。
 帰りは久々にバスを使った。いつもの待ち合わせ場所、電話ボックス付近のバス停。手を繋いでバスを待つ。上に乗せては厭々我慢、二番駅まで。そこから電車。ふたりで三番駅を通り過ぎる。一瞬だけ見える、あの家の跡地。
 あの家ではずっとヤりまくり。いつも性急で、焦って、帰したくなど無かった。何度もかっ攫う事ばかり考えていた。独身時代ずっと。
 だがそうしていたらどうなった? 中学の時やっていたら故郷はない。高校の時やっていたら梅子が口性無く言われただろう。大学へ入った直後にかっさらえば良かったかもしれん、だがそうしたら、誰より梅子の気が晴れんだろう。なにかをしたくて俺から離れたんだからな。自分ひとりで、何かが出来ると思いたくて。
 社会人としては先輩の梅子。だからいい。俺が職に就けば、そこからの日常がどうなるかを知っている。俺に余裕をもって対応出来るだろう。そこまで考えていたかどうかは分からんが。
 梅子は俺のそばが一番幸せなんだ。笑顔など無かったんだからな。俺もだ。
 梅子は悶絶と言ってもそれは途中まで。そこから先は本当に眠っている。余程安心しているのか無邪気そのもの。俺の睡眠時間を言った時、よく梅子逃げなかったな。その位、よく眠る。疲れているのか。体力が落ちているのか。
 ……よく言ってどっちもだな。なにせヤりまくり。それで足腰立たせなくして修業は中断。思えばこれも日常。
 いかん、実にいかん。俺が梅子を放って置いてるな。そんなもんは却下だ。
 月イチは改めるか……。うちは可能な限り採光に気を遣っているが、間違っても外から覗けるようになど出来ん。あの街はこの星一番、そればっかりは、だ。今は所詮ヒマな学生、職に就いてより休みの日は多い。確かに付き合いはある、梅子はそれも気にしている。だから月イチと言った時、むしろ梅子はほっとしたのかも知れん。それを分かっていて、また甘えた。
 庭は散歩と言っても徒競走をしているわけでもない。梅子逃げ足速いからな、かくれんぼなんざ却下だ。本当に逃げられそうだ。エステも結局室内、うちと同じように採光には気を遣っているが外からは覗けん、同環境だ。移動は車、悶絶で。
 ……。
 そのうち体力落ちるな、間違いない。俺? 本職へ出向いて鬱憤晴らし。機動隊はどうかと言われた。
 ……。
 梅子だけ先にイくのか? それであれだけ深く眠られて。俺? まだまだヤれるのに目の前でお預け喰らうのか。そうやってまた俺、梅子に放っとかれる? 冗談じゃ、……。
 分かっている。俺が日中いない間に庭を散歩させればいい。それで陽の光を充分浴びて、休講日には可能な限り遊びに連れて行けばいい。
 だがどれだけ塀を高くしても乗り越えられる。それを完全に防ぐと言ったら、結局庭もうちと同じ、室内と化する。それでは庭と言わん。だが梅子は俺に黙ってひとりでほっつき歩いて勝手にどこかへ行く浮気者だ。梅子があの扉に手を掛ける? それで攫われる? なにそれ。
 一緒に遊びに連れて行く、そんな場所などいくらでもある。当然日中、それも腐る程ある。そりゃ、出来れば友達とも……。俺がこんなんで無かったら、大勢で、遊びほうけさせるとは言わんが、……そうさせてもいい。だが梅子はこんなんだ。問題はそこなんだ。独身時代厭という程思い知らされた。梅子は単に仲良くお友達、なんざ考えているようだが全く自分のこと分かってないだろ梅子。浮気はな、向こうがしたいと思っているんだよ。梅子そういう意味で全然相手しないだろ。当然だ。だが向こうは、……振り向かせたいと思ってるんだよ! 極端にそう想われるんだよ!
 しかも話は毎度ややこしい。おまけに会ってすぐにそうなって、そこまで心底、……になりやがる。
 だが俺とは根本的に違う。
 梅子、……まただ、ちょっと目を離すとすぐこれだ。外の景色、……そんなふうに見るな。そんな顔、俺のいない、見てないところでするな。
 結局悶絶させて俺に乗せた。梅子、俺のことなにを考えているのか理解出来ない行動を取るだの言っていたが俺だって同じこと考えているんだ梅子。
 俺と梅子は考え方が正反対だ。強引自己中、プライド高くて自惚れが過ぎるマシンガン命令トーク野郎、それが俺。梅子は?
 ……全部該当せん。これは少し、いや、梅子流に言えばじっくり話し合う必要があるな。ベッドの上では絡みまくり、だが会話となると、ぁン、だの、……。裸の時は梅子いまなに考えてるか全部分かるんだがな。それを言わすのがいいんだ。
 俺と梅子の苗字と一緒の空港を出発する。行き先の南の島でふたりきり。ヤることと言えばひとつしかない。
 ここへ来るまではセスナ、パイロットは俺。当然上空へは飛行機その他なんぞ飛ばさん。梅子水着なにがいいかな……白、それでいい。梅子キスマークだらけだからな。浴衣を着るから首元は厭々我慢して花火大会に臨んだんだ。絆創膏だらけになんぞして、視線をそこへ集める? 冗談じゃない。
 だがもう遠慮はせん。夕べヤりながら付けまくった俺の刻印。俺の梅子。

梅子

 気が付くと、青い海、白い空。ばーんと一面ひらけた海、白い砂浜。青と言っても緑のかかった、あったかい海だってことは分かる。うしろを見るとぽつんと家。平屋の、木で造られてますよー、そんな感じの家。
 そしてわたしはすっぽんぽんです。場所は浜辺、波打ち際。それで、えっと。ええ、斉志に抱きついてます。ええ、その……。あし、砂浜に付いてません。右脚の膝下に腕が入ってて、それで脚開かされて、……くわえてて、突き上げられて、腕、斉志の首にまわして、くち、ベロベロ吸い合って、むね、乳首も乳房も斉志の胸板に押し付けてて、熱くて、欲情されてて、犯されてて、おしり、鷲掴みで、え……。
「も、……熱ィ…」
「だって、ぇ……」
「なに……」
「せぃじ、もぉ……」
「俺、が……?」
「さそって、るの……知らないでしょう……」
「いつもだよ……」
「違うもん……」
「なに……」
「いつも、いつも、……あの時から誘ってるの!」
「……いつから」
「も、……知ってる、のに……」
「言えよ」
「つ、つめたぃ……」
「言え」
「……さ、最初、にぃ……、わたしの名前……」
「……」
「呼んだ、とき、から……よ、……欲情してたでしょう……」
「そうだ」
「も、それ、で……」
「それで?」
「だから……」
「だから?」
「だからぜんぜん、……こわくなくて……」
「それで?」
「は、はだか、晒すの……厭じゃ、なかった」
「俺な」
「……?」
「ずっと、……見たかった。よく俺、高校生なんざやってたよ……」
「……?」
「ずっとこうしていたかった……。梅子のこと、全部、貰いまくって、悶えさせまくって、俺も、……悶えたかった」
「うん……」
「俺、……つめたい?」
「……だって……」
「言う……」
「つ、つめたく、しないで、やさしく、してぇ……」
「厭だ」
「どうして……」
「俺の全部がいいんだろ梅子。俺の本性がいいんだろ」
「……うん」
「本性なんざこんなもんだ」
「……ぅ、ン」
「も、……イこ、梅子」
「うん……」

斉志

 それからは喘ぎ声だけ。裸の会話なら成立するが、それ以外の話題はヤってる最中は却下だ、乗る時も却下。修業中も却下だな。
 するとあとはどこに……。
 南の島? 俺に理性は無い。間違いなく話し合いには最も相応しく無い。だが俺の忍耐力はこの星一番だ。
 梅子は俺を冷たい亭主だと思っている。わざとだよ、しかも口調だけ。誰が、……。
 ヤり過ぎかもしれん。ありとあらゆる意味で。梅子は俺がたかが高校の鬱憤晴らしにもならん下らん試験とやらで一番を取っても逃げる性分。義母ちゃん曰くそれは前かららしい。ひょっとしたら今も。
 ……いや、そんなことは無い。なにせ俺がいないと梅子はもうひとりではいられないんだからな。
 丸太ん棒で組み上げられた一軒家、そこでシャワーをふたりで浴びた。下手に浜辺で絡めば砂が入る、んなもん却下。梅子の指ですら嫉妬した。梅子の中指はしゃぶり尽くしてやったがまだ足りん。
 浴室を出る。水着姿で対話は不可能、厭々服を着せた。あとで解く肩紐のワンピース、当然白。ノーブラだと乳首が浮いて襲いかかること必定、厭々下着も着ける。ショーツも穿かせた。キスマークだらけの梅子の躯。この格好、我ながら全く対話には向いていないが忍耐だ。俺は上下ともラフな木綿で、どうせ後で脱ぐ。テラスへ出て、隣に座らせた。ここからの眺めはいい。故郷を思い出す。
「……」
 起きたか。さすがに島に着いて早々服脱がせて立ってヤりまくり、はないよな俺。だが移動中、梅子は隣で無邪気に眠ったまま。この時は確かに襲う気は無いがその分あとで出まくりになる。
「起きた? 梅子」
「……ん」
「着いたぞ、南の島だ。さっきからだったがな」
「……うん」
 水をすすめると、靄靄の表情で受け取り、飲み下す。仕草のひとつひとつが俺を誘う梅子。
「梅子」
「……うん?」
「梅子はちゃんと修業に精進している。がんばっている。なのに俺は毎度中断させて足腰立たせもしない。散歩中もすぐうちにかっ攫ってヤりまくり、結果せっかく付いた梅子の体力を俺が落としている」
「……そんなこと」
「ある。だから、……厭々だが今より外に出掛けることにする」
「斉志」
「うん?」
「あのね」
「うん」
「デパートに行ったでしょう」
「うん」
「こわかった」
「俺が?」
「違う! あの」
「不用心だ梅子」
「……ごめんなさい」
「そんなに、……俺がこわい?」
「違う!」
「違わない。梅子、……体引き気味だぞ。そんなに俺……つめたい?」
「……」
「そんな恨めしげな目で見るな。……駄目だな」
「え」
「隣じゃもう我慢出来ん!」
 結局梅子を俺に乗せた。こうなればどうなるかお互い分かっているが今は忍耐だ。梅子も濡れ出していない。それどころか、俺の首に腕すら回さない。駄目だ、俺、やり過ぎだ。
「わ、わ、……わたしのこときらい?」
「わけないだろ……」
「だって、だって、最近、冷たいし、駄目、なんて、わ、わ」
「まさか俺が梅子にどうのなんて思ってるんじゃあるまいな」
「だって──」
「俺が駄目、なんだ。……ごめん、梅子。俺も不用心」
「──」
「うん、でいい。梅子」
「──」
「泣くな……」
 俺が駄目だ。梅子、涙零して……。俺のこと恐がって、震えて、不安にさせて。本当の意味で梅子に、……逃げられたら?
 ……冗談じゃない。
「ごめん。俺、また甘えた。梅子俺のことほっとかないって分かったら、また甘えた」
「──」
「……ごめん、俺……冷たくしてた。わざと。……もう、しない」
「──」
「俺のこと……嫌い?」
「──すき」
「……よかった」
 梅子、俺に抱きついて……首に腕、回してくれた。絶対離さん。
 涙は全部舐め取った。泣かせるなよ、俺……。
「斉志……」
「うん……?」
「あの、……命令口調は、好き。でも、わざとは厭……」
「うん。もうしない……」
「……うん」
「……それで、デパートがどうした? 梅子」
「えっと、ね。……人混みが恐かった」
 うちの庭では安心出来るもんな、だから手を繋いで、それでよかった。だが久々に外へ出たら、か。確かにこればっかりはだ。梅子は俺に永久就職、新聞テレビ雑誌は無し。だがあの街はこの星一番、新聞等を賑わすタダのおイタではとても済まん事件が街を賑わせていることなど誰でも知っている。
 故郷・管内は田舎だ。人混みなどあの街とは規模が違い過ぎる、別世界だ。花火大会で、梅子流に言えばさくっと俺から離れて人探しをした。俺もさくっと、……なんぞ有り得ん、すぐ後ろで気配を殺していたが、離したことは離した。地元だからだ。そこから上京した梅子。
「もともとわたし、その……ひとと接するのは苦手で、けどその」
「いい、言って。……言いづらいか。梅子友達たくさん出来たよな。だから別に人間嫌いじゃあない。ただし、都会の人混みはレベルが違う」
「……うん」
「とは言え梅子は立ち向かう性分だもんな」
「……あの」
「いい、言わせて。梅子、あの街はあの通りだ。自己防御しなければいけない街だ。梅子も外へは出たい。だがふたり一緒に外へ出て、自分はいいが俺の身になにかあったら厭なんだよな」
「……」
「いい、今は無言も許可する。
 梅子。恐がっていたらなんにもならない。そうだよな。だがそういうレベルに、あの街はない。絶対に自分を守らなければならない。特に女は。女は事件に巻き込まれればたとえ被害者と言えども口性なく言われる。枚挙に暇が無い、例など出さんでも皆知っている。
 だから梅子、梅子の言っていること、思っていることは正しい。恐がって外に出なかったら、それは負けだ。だが不用心に外へ出たら、それも負けだ。俺は梅子をひとりで外に出さん。……そりゃ俺が厭だが……。分かっていると思うがそういう理由で出さないんだ。
 俺はそのうち職に就く。そうしたら、忙しくて一緒に外へ出る機会は無い?
 それは言い訳だ。
 梅子。可能な限り外へ出ような、俺と一緒に。それすら出来ないのなら、俺はそれまでの男だ。
 ……だがな……」
「出掛けるときは絶対ふたりっきり! そうでないときは絶対あのうちにいます! それで、えっと、出る時でも、……人混みは苦手、です。そういう意味で、へんなところへは連れて行かないで下さい。しないもん、う、の付くのとか!」
「誰がへんな所へなぞ連れて行くか。ふたりっきり以外なにがある。浮気? するわけないだろ俺も梅子も。誰がさせるか」
「うん」
「あのな」
「……うん?」
「俺、警察官になる」
「……え?」
「うん」
「そう、なの?」
「そうだ。俺は確かに今の大学へ入る気ではいた。それだけは決めたがしばらくはその先を考えていなかった。法学部卒、どこかのキャリア。その程度だった。だが梅子とあのうちに住むのは絶対だ。誰が何と言おうと問答無用だ。
 だから決めた。
 梅子。俺と一緒に身を守れ。誰より自分の身を守れ。
 俺は出る。二度と誰にも止められはしない。止めさせもしない。感情でも、立場でも動かん。
 梅子の為に動く」
「……」
「梅子が俺の全てだ。だから俺の意志で動く。俺だけの意志で動く。その為に生きて来た。これからもずっと」
「うん。斉志、信じる」
「俺も信じる。梅子を信じる」
「うん」
「梅子、海好きだよな。海へ行こう、こんなふうに。ドライブしよう。いろんな所へ行こう。ガイドブックには載っていないような所へ。そうじゃない場所やこの星一番の街になにがあるか、どういう所か。それは俺が知ればいい。梅子俺のお役目取らないよな」
「うん!」
「よし。梅子、うちへ帰ったら修業の項目を追加だ」
「え?」
「武道の手解きだ。俺、少し齧ってるからな。俺だけが梅子の浮気相手をしばき倒してもいいけど梅子もしばき倒したいだろ、俺と一緒に」
「……あのー」
「大丈夫だ梅子、安心していい。梅子に段持ちになって貰おうとは思わん。俺は梅子に投げ飛ばされようなんざ思っちゃいない」
「あー、のー……」
「俺のこと組み伏せて……」
「あのー……」
「俺、理性無いけど……修業中は、……忍耐力、あるから……」
「……」
「今は、勿論無いから……」
「……」
 俺は梅子に泣かれたくなどない。恨みがましい目、それも、……可愛いと思った。だが度を超せば梅子に愛想尽かされる。誰がするか。梅子にそうと分かるわざとは却下、俺もお白州。
 俺は梅子の。梅子は俺の。だから俺は俺の思う通り。梅子も俺の思う通り。それでいい。
「わ、わたしは、……わたしの思う通り、じゃないの?」
「却下。俺の思う通りだ」
「ぅぅ……」
「なんで、うう」
「その通りなんだもん!」
「そうだ梅子。ヤりまくろうな、俺と一緒に。返事はうんだ」
「うん! もう!」
「もうは要らん!」
「斉志好き!」
「俺も好き!」
『アイシテル!』