斉志

 朝、一緒に台所へ。俺がつくっているところを隣から観察する梅子。部室では結局梅子の腕前を直に知る事は出来なかった。だが料理は? 相棒の集中力へ段々ついて行ったように、俺のも見て欲しかった。手元だけではなく俺を見る梅子。俺のように一部分だけを言うなど梅子はしない。いつもあんな瞳で俺を見る。俺がヘマした時程誘う表情で。よく視線を外すなんて出来たな俺。
 はい・あ~んで押し倒、したかったが厭々我慢した。梅子のこと、それで俺が大学をさぼるだの遅刻をするだのとなったら心配を通り越して泣き出すだろう。誰がするか。
 俺に上着を着せる梅子。身長差がある梅子と俺、だから梅子はつま先立ち。立ってキスする時のように。
「行ってらっしゃい、斉志」
「梅子、行って来る」
 うちの玄関ノブに梅子が手を掛ける事はない。梅子はここにいてくれる。もう俺をひとりになどしない。俺を置いてどこへも行かない。だからずっと言いたかった言葉を、それだけを言ってうちを出た。

梅子

 料理をしようと思うと、今食べているこの食事はどういう手順で、とか、材料は、とかを途端に考え出す。ずっとこういうことも考えていた斉志。うん、凄いや。だからってまた、逃げたり、避けたり無視したり。そんなこと絶対しないの。そう、うん、追い付くの。……無理過ぎるとは思うけど……。
 お掃除をちゃんとすると結構いい運動になる。だからお昼のあと、一旦シャワーを浴びて。もうあんな体型のわたしなんて見せたくない。ちゃんと家事のさしすせそをすると太らない、って聞いたことある。ちゃんとしよう。
 裁縫、は自分の手を縫うなんてことはない、って程度。
 躾は、……。
 炊事は、……。
 洗濯はクリーニング。シルクは全部クリーニング。だから下着、シーツ、パジャマ、エプロン、スーツ、シャツ、タオル、室内着、二人のアウターも全部そう。他は全部わたしの手洗い。ゆっくりごしごし。室内で干す。おうちにある、一見ダッシュボードのような小さな扉を開けて、クリーニングを落とす。すると後日出来上がって来るんだそう。斉志がそれを持って来るって。多分、クリーニング店のフダとかはないと思う。ゴミは斉志が家を出るとき持っていく。
 掃除は、が、がんばります。
 午前中でおうちのお掃除はとてもおわらなかった。なんとか慣れて、手順とか自分で考えて、所要時間を短くしよう。
 午後は料理の勉強。書斎へ行く。わたしの手の届くところに料理の本があった。斉志が料理をし出した中学校の頃から使った本がそのまま置いてある。あのときみたいに、何度も使い込まれた本を読む。いつかこうなりたい。
 これでも前職がその、……だったもので、斉志に無理言って買ってもらったマシンを起動。ちょっとその、そういうプログラムを組んで、材料のカロリー計算などをば。ちょっとづつ。ひとまず今日のお昼のは、……。
 調べるだけで気がつけば三時半を過ぎていた。
 もうすぐ斉志が帰って来る。
 だからその、……お風呂へ入る。……念入り、に。
「おかえりなさい、斉志」
「ただいま、梅子」
 目を瞑っておかえりなさいのキス。何時間も逢えなかった分を貪るように。これが日常。

斉志

 このうちを、俺を充たす梅子。音。体温。出迎えてくれる梅子。つま先立ちで俺の首に腕を回す。貪った。
 地獄の三年弱がもう遠い昔のような気さえする。もうひとりじゃない。うちに帰れば梅子がいる。上着を預けた。風呂上がりの梅子。俺の為に、そうだと分かる。玄関先で押し倒してやりたいが、それでまた飯も食わせずなど二度とせん。鍛えた忍耐力で着替えて一人でシャワーを浴びる。台所へ。
 梅子の集中力を手元に、いや俺に浴びて。纏う風はいつも温かい梅子。
 テーブルの上へ食事を並べる。裸用、ではない白のエプロンを着る梅子。よく似合う。
 はい・あ~んで……忍耐で食い切ってそれから押し倒す。ソファで一回目、あとはおひめさまだっこでベッドへ。二回目は梅子が誘う番。潤んだ瞳で俺を見る。名を呼んで、ちいさな唇を貪って、……俺は梅子を全部貰う。それが日常。

二月 庭 梅子

「斉志」
「うん?」
「あったかい」
「うん」
「あったかい」
「うん」
 季節は二月。そう、二月。冬じゃなくて二月。
 ここより北のひとだったわたし。だからここの季節はいま、二月。
 このおうちの庭を初めて散歩した。
 修学旅行で最初にこの街へ来た中学二年の時は孤独で。はやく帰りたかった。家に帰ってぼーっとして。それでよかった。どこへも行きたくなかった。行ったって意味はなかった。ふとんをかぶって起きれば朝、毎日それの繰り返し。ご飯を食べさせてくれる両親がいなくなったら、わたしもおしまい。だからそれまでぼーっとしていればそれでいい。
 そう思っていた朝、起きたら大雪が降っていた。
 どうして近場の小学校じゃなくて、バスに乗らなくちゃいけない中学校にしようと思ったのかな。もう忘れたけど。
 そこへ行って出逢ったふたり。綺麗で綺麗で、キラキラ、キラキラ。
 丁度いまのように。
 このお庭は高い木々が多く植えられてあって、そこを縫うようにゆっくり歩く。手を繋いで、手を引かれて。軌道のひくい太陽光は枝葉を通し木漏れ日になって、ここへ届く。
 見つめると眩しい、斉志。
 おうちでは髪をおろしている。あの日のように。それを初めて見たのは貰われた日。眼鏡をしていなくて、ひとりでわたしを待っていたあの日。わたしを求めていたあの日。これからなにが起こるのか、あの瞳が言っていた。言葉に出さなくても。
 全部裸にするって。
 貰う、って。
 手を引かれてゆっくり歩く。高二の夏のあの日のように。散歩っていいなって思えたあの日。泳いでみたかったけど、襲うからって言われちゃった。……襲ってもいいよ、って、言いたかったけど。あの頃はもう、離れる気でいたから。どう言おうかな、ってずっと考えてた。
 どうさよならしようかな、って。
 このひとがわたし以外のひとを見たら、どんなにかいいだろう。そう思っていた、思い続けた楽園生活。そうしたら? 安心した。ほっとした。それでいいって。それがいいんだって。それがこのひとにとって、いいことなんだって。
 わたしを置いて、誰かとどこかへ行って欲しかった。そうしたらもう二度と関わらないでいられるから。

斉志

「梅子」
 なに考えてる?
「うん?」
 気持ちいい?
「うん」
 庭、気に入った?
「うん」
 散歩好きだよな。
「うん」
 ちゃんと陽に浴びさせるから。
「うん」
 絶対出さないつもりだったけど、それじゃ駄目って。教えてくれたよな。
「うん」
 手、温かい。
「うん」
 全部、温かい。
「うん」
 なのにほっとかれて。
「うん」
 よく俺、我慢しただろ?
「うん」
 もう。
「うん」
 どこへも行くな。
「斉志」
「うん?」

梅子

 チューして。
「うん」
 欲しいの。
「うん」
 あのね。
「うん」
 わたしが。
「うん」
 全部欲しいの。
「うん」
 どうせ嫌われるから。
「ううん」
 そう思ってた。
「梅子」
 もう。
「うん」
 どこへも行かなくていい?
「うん」

 気が付いたら、……してた。お庭、散歩してたら斉志、迫って来て、チューで意識が飛んだ。気が付いたら、ゆびでぐちゅぐちゅ。それが日常。いろっぽくて、猛々しくて。腰細いの斉志。引き締まってて、それ、……みだらにふる。そそって、汗、顔にかかる。
 熱くて。
 求めて、求められて。
 生でって、斉志言ってた。
 これがそれ。斉志そのもの。ふれる、あつい、なかで。
 わたし、に出されるのが、こんなに、こんなに、こんなに……!!
 初めて斉志の全部を受けとめたような気がした。
 全部、全部、全部。
 わたしの──斉志。

斉志

 気が付いたら口吸って意識飛ばしておひめさまだっこでかっ攫っていた。うちへ連れ帰って服脱がせてショーツひん剥いてブラ剥いで俺も脱いだ。キスマーク付けまくって胸鷲掴み、揉みしだいて乳首に吸い付いて顔埋めて、脚おっ広げて舌で蹂躙して唾液塗ったくって指ぶち込むと自然に濡れた。なかをぐちゅぐちゅに掻き回すと意識が戻る、これが日常。見上げる顔、その表情はいつも俺を誘っている。気付くまで何されていたか思い描いて真っ赤になる。無意識に腰を猥らに振っていたと気付いてさらに照れる。その表情。いつも俺を誘っている。
 潤んだ瞳。初めてした時血を流した梅子。痛い筈なのに強がって、そう思っていた。髪にチュー、そんなのされたことなくて。目の前には俺の刻印付きのでかい胸。真っ白に舞い上がった。まぶたにチュー。くちびる、あまくてやわらかい。浮かれたなんてもんじゃなかった。そしてあの、煽情の瞳。そういう目で見て欲しくて、そういう気持ちになって欲しくて、そんな瞳で俺を射抜く。理性なんざ全部飛んだ。破ったとこ、抉って、さらに抉って痛めつけた。
 狂って。あんなことして。土下座しても無意味だった。見抜かれて、準備万端で引き剥がされた地獄の三年弱。そう思っていた。……そうじゃ、なかった。いつも呼び付けていた二年の楽園生活。それを嫉妬されていた。……だけ、だった。
 涙を流して、うっすら瞼を開けて俺を見る梅子。煽情の瞳、それが日常。そんな瞳、俺以外の誰にも見せるな、梅子。
 ガンガン突く。奥まで。熱ィ。俺を迎える梅子の腰を押さえて突く。俺の名を呼ぶ。初めて呼ばれた時のちいさな声。ずっと聞いていたくて、それでもいつも“なりたくん”。それすら聞きたくなった楽園生活。もう何でもよくて。けどそんなこと言ったら梅子、俺のこと名前で呼んでくれないだろ? 強制なんかしたくない。それでも無理矢理全部貰った。
 中に出す。俺を。俺以外入れるな。俺、……出るから。だから俺を梅子に残す。
 梅子に残す。
 俺を全部。
 梅子に生で触れるのが、梅子の中に出すのが、こんなに、こんなに、……こんなに!!
 トイレに行く回数は俺より梅子の方が遥かに多い。下世話な話。これが日常。

梅子

 お風呂も一緒。ずっと一緒。でもねせいじ。わたし、……びっくりしちゃった! 初めてこのおうちでまじまじ、自分の躯見たんですけど。お顔はいつだってまじまじ見ません、そんなの斉志だけ! ……と、とにかく。
 なんですかこれはーーー。
 もぉ、びっくり。仰天、です! きすまーくだらけです! 躯中、あざ、痣、あざー。もう躯中、です! ひょっとしたら、ううん絶対と思って背中鏡に映したら、そこにもー。
 ぅぅ……。
 ゆっくり、うんと穏やかで。暴風、爆風、猛々しい集中力。それがこのおうち。斉志そのもの。
 斉志、いつも言ってた。俺梅子とふたりっきりだと理性ない、服脱がせてそれからのことしか考えられない、って。
 いま、ふたりっきり、です。斉志は爆発的大集中で書斎にいます。わたしはお掃除、お洗濯。
 ……わたしとふたりだと斉志、集中してくれないってこと、だよね、だから、だから、……離れた方が、ううん、離れなくちゃ、って思ってたんだ、よ……。
「俺の忍耐力はこの星一番だ」
 梅子がそうした。だそうです! はい、そうです……。

斉志

 俺は信用がない。
 そりゃ理性もないけどな。学問も武道もせいぜい鬱憤晴らしだ、これで信用落としたことないだろ俺……。長い休みはいざ知らず、普段は週に一度しか逢えなかったんだ、そんな貴重な時間に他なんざ考えられるか。ヤった後いつも寝るがな梅子、すぐに起こしてヤってやろうと思っていたんだぞ……。
 そこまで余裕なかったらいくらなんでも嫌われるかと思って寝ている間に鬱憤晴らし。あれだけ集中出来たことはなかった。貰ったあの日、人生最高の瞬間は全て新鮮なことだらけ。
 それは今も、今までもこれからも。これが日常。