成田夫妻

 次の生理は普通に来た。もうすぐ新婚旅行。
 だから、言わなくちゃいけないことがある。──前職でのこと。
 厭だった。どれだけ厭だったか。毎日が厭だった。厭な男の上司に毎日お茶を入れて会話をした。これを斉志に全部言いたい、ちゃんと。
 斉志は、わたしがなにを考えているのかなんて言わなくたって分かる。新婚旅行前にドライブに行こう。そう言われた。
 斉志の、かっこいい運転で一路都外へ。ドライブとはいっても、わたしは外を興味ありげにしげしげとは見ない。ずっと斉志の運転を見ていて。
 わたしが車を運転することって、もうないと思う。けど、そういえばさいごの運転では、わたし、いつつるっと滑るかに怯えながら山道を走破したような……。
 おっほん。わたしのことはもういいの。かっこいい旦那様が運転してくれるんだから、助手席に座って、文字通り助手なんだから、ガイドマップとかを見て斉志を誘導……
 なんて必要あると思います? はい、ないでーす。斉志にはカーナビも必要ありません。初めて行くであろう道も、すいすいでーす。
 ドライブ先の洒落たペンションでは、取ってある部屋で、ではなく、一階のロビーで話す事になった。だって個室、密室となるとおうちと結局同じ事だから。
 宿の従業員さんが、会話が聞こえない所にはいるけど、見える所にいるという場所で。ソファに座って。
 包み隠さず全部言うと、斉志は怒ったりそっぽを向いたりはしなかった。
「梅子。もう二度と俺をあんなふうにひとりにするな。俺のこと放って置かないで。無視しないで。俺の厭がることしないで、俺のこと嫌いにならないで……」
 ずっと。
 分かっていた。斉志がどれだけほっとかれるの厭かって。厭がることをされるのがどういうことか、誰よりわたしが知っているのに。
 なのにほっといて。無視して、厭がることして。
 嫌いになんてなれない。そんなこと考えたことない。考えることない。
 ずっと好きだったのに。ずっと好きなのに……。
「なあ梅子。一番なんざ所詮小さな島国のいち大学のいち学部でだけだ。こんな狭い国を飛び出したらそんな肩書きは通用しない。いつだって裸一貫、そうだろ。だがな梅子、俺は絶対にひとりでは生きて行けない。梅子が厭と言っても俺が厭だ。そりゃまだ大学はあるし、職に就けばうちに帰る時間を一定には出来ないだろうけどな。
 まさか試験がどうのでまた俺のことほっとく気じゃあるまいな梅子」
 分かられていたみたい。
「もしそんなこと考えでもしたら、俺大学中退するから。ボンクラ亭主になる。働きもしない」
 安心して下さい……絶対勉強の邪魔しません……。
「俺、梅子に嘘なんて吐かないから。厭々公務員試験受けるけど。それだって来年になってからだから。最低でもガキな学生のうちは新婚だ。生理の二日目までは厭々我慢するけど。三日目からは戴かれるから。食べられるから。それおわったら五日間ベッドに縛り付けるから。安心していい梅子、きっちり足腰立たなくする。その間は修業休んで。梅子俺に永久就職だけど、たまには休みも必要だもんな」
 あのー……。
「俺、結婚したら梅子をあのうちから出さないつもりだったけど。厭々我慢する。月一回は一緒に出掛けよう。散髪して、マッサージとかして貰って。健康診断も。当然女性スタッフしかいないところで」
 それってひょっとして、え、えすてとかいう場所なのでは……。
「梅子。もう二度と俺のことひとりにしないよな」
「うん」
「よし。この件はこれで終了、いいな」
「……」
「返事は?」
「怒っているでしょう……」
「許す」
「……」
「こういう時、どうすればいいか分かるな」
「……うん」
 すでに至近にある斉志のいろっぽいくちびるにキス。それから、それから、
「もう二度と離さない」
「……うん」