晩春 サッカー部くん

 今、俺のいる所は自室・湘南のアパートじゃねえ。京都の、とある宿屋の一室にいる。目の前にはマイペースな野郎・テツ。
「へー、トモって設計士になりたいんだ」
「……まあ、その予定」
「サッカー野郎一筋かと思ったけど」
「……まあ、学生の内は体を動かしていてえなあ、とか……」
 別の意味で動かしまくっているような気がするがそいつは置いとこう。なんで俺、こんなんペーラペラ喋ってんのかな。そりゃあ絶品だけどさ、テツの懐石料理。
 転がり込んだ相手ってのがどんな女か知らねえが、呼ばれるままCBRで京へ行ったら、どう見ても一見さんお断りな、代々続いているっつーカンジの、古めかしくも由緒ある構えの家だか旅館だかに通されて、一番奥の、景色も落ち着いたこれまた絶景、な広い部屋へ着流しな野郎に通された。最高ランクだろうこの部屋にある器、家具、花瓶、花、神棚、掛け軸、畳から座布団に至るまでおそらく全て一級品。檜の露天風呂、ゆったりとした時間、贅沢な空間。こいつはマジ何モンだ?
 運ばれた料理の膳には見て一発で舌鼓。静謐、それを感じる。品格、だ。これじゃプロじゃねえか。一体いつこんなんやってんだ?
 絶品に箸をつける。食ったら……ココロが軽くなった。ふっと……楽しくすらなった。
 堪能して……ご馳走さん以外、言葉は何も出なかった。
 テツが湘南へ来ると毎度バイトは増やさなくちゃいけねえしサイフの札も飛んで行くが、ボードだバイクだ9Bだ酒盛りだマトモに競えるのはこいつしかいねえ。ほんでも後がヤバそうだから、最初以降はもう、来いと言われてもホイホイとは京へ行かずにおいた。なにせバイトが山程あるからな。
 俺がたまに京に行くと宿泊先は毎度違う。どこも由緒ある、俺が単独で辿り着けてもよくて門前払いな店構え、ってなとこばっか。女っ気一切無し、それこそ俺が寛いだ。お代は最初から最後までマジでタダ、せいぜい往復のガソリン代だけ。
「俺はこの通り、旅館屋家業を継ぐんだけど」
「……まあ、そりゃいいが」
「イナカのはオヤジオフクロで充分だからー。ここにさ、俺のオリジナルで建てようと思うんだ」
「ふーん……」
 よく知っているわけねえが……。こういう所は新興なやつらにいい顔しねえんじゃねえのか? いい場所になんか全部とっくの昔にあるだろう、歴史の分だけ。オリジナルじゃなくても、テツならいくらでも老舗を乗っ取れそうだ。その方が楽に決まっている。
 ……だがこいつはそういう道は選ばねえな。気負う事なく我が道を行く、飄々と、マイペースに。人生楽しく遊び倒す、ってなところ。
 俺もそう出来りゃあいい。だが人それぞれの道だろう。
「てなワケで、トモ設計ね」
 こいつが建ててえオリジナル旅館を、俺に設計せよとのお達しだ。だが、
「俺は洋式専攻なんだが……」
 なにせ大学は横浜か神戸にしようと思っていた。京ってのは最初から選択肢になかった。
「まーそう言わずにさ。いろんな場数踏むのも楽しいぜ」
 そりゃあそうだが……。確かにそれはある。視点はいろんな方向から持った方がいい。何だか持ち過ぎってか場数踏まされまくっているような気もするが。
「ってことはさ、テツって大学上がったらどっかに勤めるとかしねえのか」
「そういうの俺ってゼーンゼン合わないしー」
 全くだ。新入社員のサラリーマンで、得意先にペコペコ頭下げるとかまるで似合わねえ。想像も出来ねえな。俺はやるだろうけどさ……。