夏のおわり

 とある日、ひとはそれを夏の終わりと呼ぶ二週間前、梅子は直属の上司たる主任に、クライアントとホテルで会う、それなりの格好で来いと厳命される。
 彼女はそれなりの格好をする為、なけなしの貯金をはたいて、この手に詳しい名前嫌い同盟の友人・朝子さんと共に二番駅内の店へ買い物に出かける。朝子は彼女の為に、その手の服ではあるもののパンツスーツをすすめた。
 当日、梅子は珍しく午後出勤だった。時間はもう夕方と言っていい、珍しいことだった。だから彼女はオンボロ車後部座席に二泊分の着替えを置き会社へ向かった。上司たる主任は、彼女の出社を見止めると二番駅付近の、管内では最も大きいホテル内の飲食店へ伴った。
 主任、そして彼女。二人は白い布の掛かった丸テーブルで、空いた席へ座るべきクライアントを無言で待った。もう短くなりかけていた陽も落ち、食事が運ばれる。彼女はそれに手を付けない。水も、食前酒も。
「どうしたんでしょうね」
「さあな」
 彼女はクライアントの来る時刻を知らない。ただし着席してから一時間は経過していた。その間彼女は微動だにしなかったが、主任は時間が経つごとに姿勢を崩して行った。
「何時だ?」
「丁度八時です」
「みっともない時計だ。外せ」
「仕事に関係ありません」
「服に合っていない」
「時間は正確です」
「冷める。食うぞ」
「え」
「口答えするのか」
 結局クライアントは来なかった。
 帰り際、業務一覧表を元に大量に仕事を言い付けられる。メモひとつ取らず彼女は直帰した。
 給料泥棒にボーナスは出ない。