この星一番の街の一角、閑静な住宅街に彼、成田斉志の住処はある。一見、出っ張りのない六階建てマンション。その隣にも建物はある。二階建てだが隣のそれよりは小振り。それらと樹々の生い茂る庭は二重構えの門と塀で囲まれていた。
 彼は六階建ての最上階を“うち”、二階建ての建物を“詰め所”と呼んだ。
 うちには彼しか入っていない。構内にある二階建ての詰め所一階へは数十人の屈強な者達が常時出入りしている。全員彼のお眼鏡に叶った者達で、出生地は島国に限らない。彼らが表立って姿を見せることはない。一年前からこの場には全員が揃っていない。
 二階は区画が二つあり、ひとつは詰め所宿舎。もうひとつのエリアには女医と看護婦がそれぞれ数名常駐する予定だ。
 彼は入学式当日からの、夥しい勧誘全てを無言で平然といなすと、マセラティ・スパイダーをひとり運転しうちへ直行した。一つ目の門のみが開く。二つ目の門前、彼はハンドルを右に切った。すぐに一つ目の門が閉まる。一見車庫たるそこへ車を滑らせると、車庫そのものが地中へ沈んで行った。その先はうちの地下、そこが車庫となる。そのスペースは一台二台分などではない。
 車を出て、まず最初に詰め所へ。そこからマンション一階、門に向かって左半分のエリアを有する食品・雑貨・生活必需品・クリーニングは並ぶがレジはどこにもない、一見総合店舗へ寄り、品を物色してから最上階のうちへ行く。これが彼の日常となる。
 詰め所一階の扉を開けると、そこはぱっと見シンプルだが豪勢な会議室だった。全員起立し、主たる彼を、それは見事な敬礼で迎えた。
 主は無言。会議室扉に一番近い所にいる、年齢が最も彼と近い男が先に口を開いた。
「第四管区方面異常無し」
 主はかの地の報告を、この地にいる限り毎日聞いた。
「ネズミが二匹」
 主はこの報告を、赤門内で試験と名の付く行事──主曰く鬱憤晴らし──のある時期によく聞いた。意訳すると、彼の住処へ侵入を試みた閑人が二人いた。ひっ捕らえてひとまず再起不能程度にしてあるがこの後どうするかと問うていた。
 主は無駄口を好まない。護衛の者達へは、本来一瞥で命を下せた。だが主は口を開く。
「入学祝いだ」
 その表情は、口に出した文字とはまるで関係なかった。
「処分しろ」
 かの地には、“なんとか湾にコンクリ詰め”なる伝統行事があるという。それは行われなかった。取り敢えず。なにせ彼は入学したてだった。よって処分された二名は学籍を外されないだけで、これからの四年間を務め上げた。二名は誰とも会話せず、ただ虚ろな表情をその後卒業するまで赤門連中に晒し続けた。人はこれを見せしめの刑と呼んだ。
 彼がこの手で命令をわざわざ口に出して下したのはこの一度だけだった。以降誰もこの手の人間を同キャンパス内外で見かけなかった。彼があの会議室でイの一番に求める報告を聞かない日は休講日と、長い休みの日だけだった。