十一月 店

 ここ、一番駅近くの店と呼ばれるショッピングモールの一角で、とある高校三年生集団が集っていた。人はそれを、
「何か言ってよ進路決定者軍団」
 と呼ぶ。ちなみに言ったのは千代子。
 しかし、誰も第一声を放たなかった。
「あーもう暗い暗い暗過ぎる!! っつーかあたし達初代だべ!? 初代っつーのはさ、お祭り好きの噂好きのあっかるーい連中のコト言うんだべ!? なにさそれがもう……」
 千代子を囲む男共は、主なメンツで大学は推薦のA高元生徒会議長・大塚直緒、C高元生徒会長・前野剛、実家を継ぐC高の平松高彦・D高の片瀬十兵衛・藤谷明紀らである。
 野郎共が一向に腰を上げないのを見て千代子、
「あのねえ。言いたくないけどタカギの売上今年落ちて」
『しーっっっっっっっっっっっっ!!! それは禁句だァ!!』
 千代子の文言を野郎共は遮った。
 しかし二の句は出て来ない。千代子は諦めた。
「いいよもう。ひとりで呟いちゃうんだから。あたしはねえ。もう決めた。……あんなの聞いたらカラオケなんて行けません!!」
 それは寂しい光景だった。千人もの前で、伝わらぬと分かっている思いの丈を、ただ聴くしか出来ず、ただ涙するだけなど。
「ハーイ僕ちゃんもでーす……」
「俺もでーす……」
 野郎共はうなだれながら手を挙げた。
「ここでー。誰かあれ聞いてー。帰る時記憶あったやつ手ェ挙げてー……」
 皆、誰も挙げなかった。
「……やっぱか」
「大塚ー」
 誰かがこの中で、関係者の名前を挙げた。
「何故、僕」
「分かってんべー」
「分かっている。あっちの二人の、あとの接触機会は、という事だろう」
 大塚があの二人の関係者とはいっても、同じA高生である、というだけである。
『そーでーす』
「卒業式以外、無い」
 分かっていたが知っての通りの内容に過ぎない。
「……つまんねぇガッコ」
「うるさいな。僕も居場所がないんだよ学校で。A高は進学校だ、こっちのように推薦決定者は立場がない」
 大塚は誰かに恨まれているだの、ねたまれているだのはない。だが、居づらいことは確かだ。
「それだってさー、ちゃんとやることやったから決められたんだろ?」
「ということを口に出してなどとても言えない」
「大学入試って今が追い込みなんでしょ?」
「そうだ。ゴンとも相馬とも電話で仲良くお喋りなど全く不可能。就職組もそうだろう?」
「ええそうです。やっと最近お仲間が増えましたが、それでつるんで行動していると白い目で見られますからね」
 なにせ藤谷は妹の朝子からも白い目で見られている。
『犠牲の子羊』
 全員が声を合わせた。
「……という言葉が毎日頭をよぎっておりますよ」
「先、決められねえモンも辛えだろうが、決めても辛えっつーのがなあ……」
 話の向きが自分達になっている、とみた年食い片瀬が本題に入る。
「俺さ。もーくっつきゃいいのに、って思ってたんだ」
 斉志と梅子、あの二人が。
「引っ張って、とか言ってたなあ」
「確かにそんな事やりゃマジぃ状態になったな。どーせ成田にゃ誰も直かませねえ、そしてサイトーちゃんがたった一人で子羊さん」
 その場が目に浮かぶようである。自分達は、これでも集団になって来たが、梅子はいつだってたった独りで全てを引っ被る。
「やり切れねえ……」
 それが梅子の中三時代の毎日でもあったこと。その間に梅子を救ってやるべき者達からずっと見放されていたことなど、この場で分かる者はさて何人いることやら……
「何とかなんないのかよ……」
「……なっていますよ」
 暗い声の藤谷。
「ナニが。どーなっているんだ」
 答えがはっきり返って来るとは思っていなかったので、質問を続ける。大塚が返事をした。
「こっちもその役割を僅かでも分かち合う、それが僕達の役目、という事だな」
「そういう事です」
 言われた皆、意味を反芻する。
「……なるほど」
「あたしらが出来る事といったら、……嫉まれるまんまにしとけっつー事だな?」
 つまりはこうだ。梅子は嫉まれる大標的。それは、ひとりだけそうだから、目立つからなのだ。標的の規模は小さくとも、他にもそういう者達がいれば、周囲の目は梅子一人に留まらず分散する、と。
「そーゆーこった」
 よしこれでこの場はおしまい、……というふうにはならなかった。なにせこれでは、自分達の身の振りようだけを考えたに過ぎない。根本的な問題は、まだ解決していない。
「僕はだから……むしろ別の問題を考えていますよ」
「それを口にする時期じゃないと思うよ僕」
 藤谷の言葉を、ツヨシが遮った。
「なあ、アタマいい軍団だけ先考えるっちゅーのヤメてよー。言っちゃいな」
 片瀬に答えなど思いつかない。
「いずれ来年はやって来る。この閉塞感も打開される。そうしてでさえ、あっちの二人が別れたままなら?」
 言われた全員、頭をがっくりと落とした。
「……このネタは止めよう。ヘヴィ過ぎる」
「言いたくはありませんが……」
 まだあるのか。しかし聞かねば。またしても年食い片瀬が続けさせる。
「こ・怖いけど……言ってチョ、ノリちゃん」
「来年春になったら、……あの時はまだマシだった、などという感想を持つのが怖いです」
 もう勘弁してくれと、この場の全員が思った。
「逢えないとしても今はまだ同じ場所にいるも同然。ですが来年になったら成田は東京、斉藤梅子さんは管内。本当に離れ離れ。そうしたらもう……」
『止め止めーーーーーーーーーーーっ!!!』
 片瀬、平松、千代子が揃って叫んで立ち上がった。
「帰ろう。帰って全員犠牲の子羊を続行だ。それしか策はねえ」
 平松がかばんを取って上着を着た。
「同感。来年の事は来年だ!」
 千代子も帰り支度をする。
「……僕は県外に出るけどな」
 そんななかで大塚のこの一言。管内居残り組がピキ、と固まった。
「僕も言いたくは無いが……。こっちに残る者。……後は頼んだ」
『テメーーーーーーーーーーーっ!!!』