初秋

 ここは店と呼ばれるショッピングモール。一階の出入り口の外側に、白いイスやテーブルが並んでいる。そこに一人の男子学生がやって来て、空いている席に座る。
 すると、彼の見知った顔があった。あの顔は……
「おい。なにをやっているんだ」
「え?」
 声を掛けられた女生徒、斉藤梅子は、誰が見てもぼーっとしていた。
「ぼーっとしているの」
 それは見れば分かる。だから、
「他には?」
 と彼は訊いた。
「それだけ」
 あとは彼女はぼーっとするを続行。黙ってのんびり座っていた。他に休む所はないから。
「おい」
「……え?」
 先ほどの質問で応答はおわりかと思った彼女は、意外そうに訊き返した。
「誰かを待っているとかか?」
「ううん。ただぼーっと」
 また、二人の間に静寂が訪れる。
「おい」
「……なに?」
 彼女はもう、彼の方を見て答えなかった。
「行かなくていいのか?」
「まだ……時間ある」
 また、静寂が訪れる。
「おい」
「あ……ひょっとして、わたし邪魔?」
「え? いや、そうじゃないけど」
「お祭り男くんって、結構静かだね」
「そうか?」
「なんかいつも華やかっていうか、明るいから、すごく陽気なのかと思っていた」
「まあ……たまには」
 お祭り男くんと呼ばれた彼は、あんまり彼女がひとりで頼りなさそうにぼけっと座っているもんだから、とある人物に電話した。
「おー、俺俺久しぶり。今、店。あのさ、俺の隣に腰までの髪のやついるぞ。じゃな」
 そこでぷつっと電話を切る。それを聞いた彼女、ただでは済まない。
「え。ちょっとお祭り男くん、いいいいまなにを」
「決まっているだろ、あんたの彼氏に電話」
「な!! なななんでぇええええ!?」
「こんなところでボケっとしているんじゃねえ」
 ひーひー慌てふためく梅子のアホ。
「おいおい、逃げたって無駄なんじゃねえの?」
「うっ」
 その通りである。
「大人しく待っていなって。ありゃすぐ来るな、絶対」
 隣でどうしようと焦る梅子を尻目に。
 聞いていないのは分かっていた。すぐにいなくなるのも分かっている。
 だから呟いた。
「俺さ。
 もう……まあ三年だ。高校三年、猶予なし。
 性格明るいってさ……就職活動じゃ必須だろ。だからその上で何かが出来ないといけない。俺、それしかやってこなかったんだよな……明るいことしかやってなかった。ずっとやってたんだ。意識して、明るいこと」
 そう呟いていると、重く響く低音が段々と近付いて来る。血の沸き立つ音。
 そいつは一直線にこちらに向かって来ると目の前で止まり、隣の、なぜかぴたっと静かになって座っていた彼女をかっ攫う。
 バイク野郎はメットのバイザーを上げ、一言。
「木村、感謝する」
 他のイナカ高校生が言ったら浮くこと請け合いの台詞を残し、彼女を後ろのシートに乗せてどこかへ去って行った。
 こういう場面には結構遭遇することが多い。
 電話の向こうで激昂していたバイク野郎。自分の高校の校則を自信過剰に変えたやつ。
 腕があるやつだけ乗ればいい、なんて校則作るか普通。
 D高もそうしてくれればよかった。とはいえ、あいにく自分はバイクを持っていない。あんな限定解除の必要なもの。自分には無理だ。
 自分はよく友達の多いやつだと思われているがそうじゃない。知り合いはいる、これでもかなり。
 そいつらはみんな、目の前で今のように去って行く。誰かを見つけ、または目標という名のなにかを見つけ。
 結局その日、待ち人は来なかった。