十一月 斉志宅

 来月には三者面談がある。一ヶ月余裕があるとはいえ、おおよそでも将来を決めておかなければならない時期だ。
 特に、成田くんがそれを知りたがっている。自分のを、ではなく、わたしの、を。
 ベッドの中で、睦み合いながら……
「梅子……来年、……俺の誕生日に、一緒に……市役所行こうな……一緒にけっこん届出そうな……」
「……ぁ、……ン!!」
「俺、……やっと十八歳になる……ずっと待ってた……」
「……ぅ、……ン」
「もう待たない……もう帰さない……どこへも、絶対出さない……」
「……ぅ、……ぁ、ぁ、ぁ……」
「やっと、……やっと……」
 成田くんは、ずっとそう言って。日暮れ前の、時間ギリギリまでわたしの左手薬指をずっと、嘗めて……。

十二月十六日 月曜日 三者面談 A高二年B組

 多分、今はわたしの話が主題だと思うんです。ハイ。
 でもこの場は、三者面談の筈じゃあ、と、思うのですが……。
「いやあ成田君はわが校の誇りですよ」
 みたいなことを副担が言えば、
「やー、斉君はー」
 と父ちゃんが返し、
「いや成田君は我が校の誇りですよ。来年が楽しみです、どんな順位を取るものやら」
 と主担が言えば、
「斉君がねー」
 と父ちゃんが返す。
 何だか前にこういうのを見聞きした憶えがあるような、ないような。
 もしこれで、隣に成田くんがいなかったらわたし、さくっと教室を出て行ったかもしれない。
 けど。
「それでお父さん、どうなんですか? 婚約者同士でしたねえ、来春早々入籍とか」
 という話になって。成田くんが、
「ええ、当然」
 けど父ちゃんが、
「いやー高校生だからねー。まだ早いべー」
 すると先生が、
「そうですねえ、三年生ともなれば全員入試ですからねえ」
「ええー、そんな時に娘がひとりだけ楽をしていては、学生のみんなさんにかえって失礼でー」
「三年生は全員入試で殺気立ちますからねえ」
「ええー、そんな大変な時期に娘がひとりだけるんるん気分では、学生のみんなさんに申し訳が立たないと思うんですわー」
「そうですねえ」
「梅子、お前来年は就職クラスだべー?」
 わたしは、
「……う、うん……」
 としか答えられない。
「それじゃあクラスのみんなさんに、迷惑掛けるんでないぞー。今のご時世就職先を見つけるだけでも大変なんだからなー。ちゃんと就職試験受けるんだぞー」
 成田くんの方も。父ちゃんの方も。どっちも見ることが出来なかった。
「そうですねえ、こう言ってはなんですが、大学入試は学生にとって最も切羽詰まる時期でしてねえ、そういう時に、……浮き足立たれては、ちょっとねえ」
「そうだぞー梅子ー。みんなさんの恨み買うような行いしてはならないぞー。なー、斉君やー。斉君もそう思うべー。おれもなー、梅子が来年クラスのみんなさんに、間違ってもにくまれたりされたくないからなー。ちゃんと婚約しているんだから、先の話は早くて高校を出てからだー。そう思うべー、……斉君や?」
「……。はい」
 話は結局、わたしが公務員試験を受けられるだけ受ける、ということになった。
 面談後、父ちゃんはすぐ家へ帰った。部活は最初だけ雑談大会。西川は国立理系、成田くんは国立文系、わたしは就職クラス。
 それだけ言って。
 来年は三人共クラス、ばらばらだね。そんなことは言わないで、ただ集中した。

十二月十六日 月曜日 夜

 遼太郎は、部室に来た斉志の様子を鋭く看破していた。思った通りの結果は得られなかったな、と。
 よって部活後、夕飯を食べおわった後あたりを狙って、改造携帯で斉志に訊いた。
 するとやはり、結果は良好ではなかった模様。
「ほー、お前ののおやじさん、強敵だなァ。で、どうするんだこれから」
 斉志は答えない。悔しすぎるからだ。
「確かに来年となりゃー俺達は高校三年生、お受験だ。みーんな焦り出すべなあ。ンな時お前のがひとり幸せホクホクなツラしていたら、まァ、ちょいと恨み買っちまうかもな。いいんじゃねェの? 確かに婚約はしている。おベンキョさせるだけさせて後はかっさらうんだろ斉」
「当然だ」
「そいつはいいさ。問題は田上がどのクラスへ行くかだ」
「ああ」
 二人の声が引き締まった。
「二年の時は確実に別というのは分かっていたが……まず文系、成績は二十番前後、おそらく国立。間違いなくお前と同じクラス、だな」
「監視する必要がある。むしろ好都合だ」
「一年ときみたくな。だが奴はお前が確実に国立文系へ行くと分かっている。それを避け、どうやってかお前のの進路先を調べて一つしかない就職クラスへ、なんざ考えているかも知れん。狙って同じクラスに出来る唯一の機会だ。今回は介入するんだろ」
「当然だ」
「だが奴の進路そのものはどうこう出来ん、学校側へ訊くと言ってもせいぜいどのクラスを希望しているか程度だが……奴が就職クラスへ行くとなったらどうするんだ」
「決まっている。梅子をあのマンションへかっさらってエリート校へ転校だ。そして俺の誕生日即籍を入れる。三年待った、もう文句は言わせん」
「だな。奴と一緒のクラスとなりゃお前の自身がおやじさんに泣き付くだろう。ムスメがそこまで頼みゃ最終的には許可するべ」
 遼太郎のこの案は、勿論最後の手段だ。こんな手、いかに有効であろうと使いたくはない。また梅子が大泣きする。
「ハ、かっ攫うなら最初っからやっているってか? アホ、なんの為に今の今までガマンして来たんだよ。強行手段に出たら将来の両親との仲が険悪になっちまって、お前のが板ばさみに遇っちまうからだろうが。いいか斉、ここが正念場だ。キレれば折角の忍耐が全部パーだぜ」
「分かっている」
「おし。お前も結構成長したじゃん」
「そんなことはない」

十二月二十四日 クリスマス・イヴ 斉志宅

 二人、ベッドの中で。一昨日から三日連続、もう何回目かなんて記す意味はない。
「ごめん、ごめん……梅子、俺のこと嫌い?」
「……好き……」
「俺、俺十八になったらすぐ籍入れて梅子この家から出さないつもりだったけど、もう絶対帰さないつもりだったけど……厭々我慢する。梅子のご両親の言うことだから我慢する。だから、……籍入れるのは後になるけど……こんなこと言う俺嫌い? 出すって言ったのに、梅子の中に生で出すって言ったのにやっぱり出さないなんて言う俺嫌い?」
 ……論点がずれています……。
「俺、はやく出したいのに……梅子今日安全日だろ。もう出すからな。子供が出来ても、双子でも三つ子でも大丈夫だから、マンションもう完成してあるから、何人でもいいから、ちゃんと授業中に育児時間設けるから。大丈夫だ梅子、安心していい。俺があやす。無理なのは母乳だけだ」
 ……授業中にみんなの前でむねを出してもいいんですか、と言ったら大納得して下さいました。成田くんを説得出来るなんてうーんとうーんと珍しいことです。滅多にありません。えらい自分。
 けど哺乳瓶がどうの、とも言われました。
 ……。
 ……赤ちゃんの泣き声で授業を邪魔したら、成田くんと別なクラスのわたしがみんなにどう言われるんでしょう、と言いました。きっぱりと。
「ごめん、ごめん……梅子、……俺のこと嫌い?」
「……好き……」
「俺、梅子と二人っきりだと理性ない、もう生でしたくてしょうがない、それで梅子が悪く言われるなんて耐えられない」
 言われたくないです。
「俺、厭々我慢する。結婚するまで我慢する。早く十八になる、いい男になる。それまで待ってて。すぐになるから、それまで待ってて。こんなこと言う俺嫌い? 待ってなんて言う俺嫌い?」
「……好き……」
「俺、もうすぐいい男になるから、そうしたらちゃんとご両親説得するから、だから勝手にどこかへ行って浮気しないで、俺のこと嫌いにならないで」
 ……今日の成田くんはうんと強引でうんと自己中でうんと下手に出てうんと分からない行動ばかりしていました。だって、これ言いながら、その、わたし、の……に、舌、ゆび、……いっぱい……。ぐちゅぐちゅ、って……。
 ……。
 躯で言いました。好きです、浮気なんてしません、って。
 ……ええ、いつもです。
 そしてわたしはお願いした。