夏休み某日

 朝、わたしがいつものように起きて服を着替えて顔を洗って……あとは朝ご飯を食べていると、父ちゃんが言って来た。
「梅子。浜仕事を手伝えー」
「え……」
 浜仕事、というのは、実際に海に船で出て、海の上でする漁業の作業のことをいう。
 けどわたし、今から成田くんのところへ行こうとしていたんだけど……。
「なんだー。今日も斉君の所へ行くのかー」
「う、……うん」
 わたしは休みだというのに、父ちゃん母ちゃんのお手伝いを全くしていない。それは、悪いなあと思っていたのだけど……。
「斉君に言えー。今日は浜仕事があるから、休むってー」
 ……父ちゃんにそう言われれば……。
 わたしは、居間の黒電話から成田くんに電話を掛けた。
「梅子?」
「あ、あの……おはようございます。斉藤、です」
「うん、梅子。おはよう。どうした?」
 ああ、うんとやさしいお声……。
「あの、あの……今日は、父ちゃんのお手伝いをするので……」
 電話の向こうが無言だった。
「……あの」
「うん、……分かった。梅子、親父さんによろしく言っておいて」
「うん……」
 よかった、なんとか納得して貰えた。

 わたしは作業のスピードが全然遅くて、今までは父ちゃんの相手にもされなかった。
 けど、ずっとさぼってばかりもいられない。確かに、父ちゃんの言う通りだった。さて、こんがり焼けないよう、けどちゃんと焼けたって分かるくらい薄めのクリームを塗って、と。

夏休み某日

 翌日は成田くんの所へ行った。
「頑張ったんだ、梅子……」
 えっと、……そういう意味ではないと思うんですが、とにかく、ハイ、一生懸命お手伝いして参りました。浮気してません。
 けど。いつもならそう言うかな、言われるかなと思っていたけど、今日は言われなかった。
「じゃあ……」
 ハイ、それから、その……ベッドで一回目(……)です。
 けど。
「……きて。起きて、梅子……」
 ぴたぴたと音が耳元でする。ほっぺたが冷たい。
 ほっぺが冷たい? ということは、時間?
「うん。行こう、梅子」
 時間、時間……時計を見る。三時。
 さん、じ?
「梅子お手伝い頑張ったもんな。疲れているみたいだ。明日は休んで」
 ……え。
「梅子の家でたっぷり寝てて」
「うん……」

夏休み某日

 斉志は、その性分から行けば珍しく、反省していた。
 この、真夏に大雪が降るかのごとき現象は、勿論梅子が適度に日焼けして来たからだ。
 梅子が真っ白のまま学校へ行けば、いつも屋内にいた=室内で性行為を繰り返していたと下種勘されることは必定。それを避ける為に、梅子は日に焼けて来たのだ。そんなもの、自分が配慮してやらなくてどうする。
 修学旅行では、少しはそう出来たかなと思うものの、まだまだであった。斉志は大雪どころか長槍が降るかのごとく反省した。自分は梅子にヤってばっかり。梅子に余裕を持たせろと、さんざん忠告してくれやがった相棒の言葉を思い出す。梅子は自分を叱らない。もう、自分に忠告してくれる者はいない。
 ──ガキだな。
 そう思うだけでは駄目だ。梅子の言っていることは、キスマークもそうだが正しかった。
 ──そうだ、マンションに庭を付けよう。
 彼は、将来自分と梅子が住むマンションの設計に着手していた。現在はその最終段階だが、まだギリギリで図面を引き直せる。そうだ、庭を付けようと思い立つ。
 結婚すれば誰にもなにも言われないが、他ならぬ梅子に言われるだろう。それどころか、太陽の下にも出さない暮らしなど不健康だ。斉志は、防犯と盗撮のことを考え、梅子をどこにも出さないつもりだったが、その考えを撤回した。誰あろう梅子の為に、考えを変えた。
 そして、もう一つ、やらなくてはならないことがある。

夏休み某日

 斉志は思い立ったが吉日とばかりに改造携帯を取り出した。そして、同型のそれを持つ彼に連絡する。
「遼」
「あー、なんだ」
 今度の休みは管内にいる遼太郎。梅子を散歩させるとなれば、その姿を近場の遼太郎がひょっこり見るかもしれない。しかし、それは斉志の醜いオトコゴコロが許さない。
「いねェよ」
 遼太郎の、言葉を端折った言い方。訳すと「ここに環はいませんよ」と言ったのだ。
「……梅子、午前中、家の近所を散歩させることにした」
「あっそ」
 これだけで遼太郎には分かる。へいへい、午前中は屋内にいろ、近所に出歩くなと言いたいんだな、と。
「向こうはマジ部活。時間あんのは八月末だけだ」
 その日は環が来るから、斉志達の方こそ家を出るなと言っている。
「……ごめん」
「おう、クソして寝ろ」

夏休み某日

 次の日から、わたしは成田くんのお家へ行くと、近場を散歩することになった。
「梅子。海へ行こう。ここの近所にも浜辺があるから。泳がないけど、……一緒に歩こう、梅子」
 とのこと。
 わたしは、バイクに乗るからジーンズで来ていたのだけど、ふわふわのワンピースにお着替えして散歩です。日焼け止めのクリームは忘れずに。けど、そのクリームは、わたしの使っているのと効用が似ていた。つまり、絶対日に焼けないように、という強いものではなく、比較的弱いもの。
 お昼までそうして。ご飯を食べた後は、はい・あ~んで押し倒されたけど(……)その後、それ一回きりで帰して貰った。