夏休み某日 森下邸

 バカップルを除くいつものメンバーは、別にいつも決まったメンツで団体行動をしているわけではない。中にはカップルになった者、同性で仲のいい者、がめいめい会ったりしている。
 その中で、盟友同士の二人、森下和子と佐々木明美が、先日の海での出来事の件でここ、B市森下邸で話し合っていた。
「どーすりゃいいかねえ」
 明美は、いつものメンバーと自分の、遼太郎に対する考えがあれほど乖離していたとは思わなかった。事情を訊いたのは藤谷兄妹からだけだが、全員に訊いたら全員同じ答えを出しそうで怖かった。
「決まっているでしょう? 非介入……よ」
 先日の事情を話すと、和子からはそっけない回答しか返って来なかった。
「なんでだよ」
「私は一年前、西園寺さんの様子がおかしいと中野さんに聞いた時こう言ったわ……当人の問題は当人が解決しなくてはならないのよ、と」
 つまりは、遼太郎の問題も遼太郎自身で解決せよ、ということである。
「尻拭いを……いつもいつまでも成田にさせる程度ではね……」
 分かっている。いつも斉志に対して細やかな忠告をしていた遼太郎は、しかし騒動で梅子を見捨てたと思われており、その贖罪になにかをしなくてはならない立場だった。だからある意味必死であの二人の仲を成就させたのであり、本来は斉志一人で出来た合同祭での頭脳労働を遼太郎も手伝ったのだ。
「……成田の隙に対しちゃ、遼フォローしているじゃん」
「気付いているでしょう……一票差の二位と言われても壇上に立ち、場の雰囲気を盛り下げてでも頭を下げればよかったと。格好が悪いから、そういう場ではないからと問題を先送り? 政治屋じゃあるまいし」
 では明美は、第二回合同祭のMVP発表時、壇上へ行けと、ケツをはたいておくべきだったのだろうか。
「それに較べて坂崎君の素晴らしさと来たら……“漢”の差が歴然よ」
 いや、違う。他人に言われてようやっと、では納得しない。誰より梅子がそれを許さない。
 梅子が許した者。それは、大勢の前に自分から身をさらして言い出した者達だけ。マコ、元F、修学旅行で梅子に大々的に謝った2Bの女子達。
「去年一年間、成田は坂崎君へ全幅の信頼を寄せウメコを預け攻撃時以外一切非介入。なのに部活へは介入し続けている……隙は学校生活のいつ出来ているのかしら?」
 明美は、遼太郎が梅子と斉志の仲をとりもつ為、尽力したと知っている。だから、皆とは違う考えを持っていた。
 だが、それは内情を知る自分だけだ。第三者からは、なにもしていないも同然としか思われていないのだ。大々的に、他人にもはっきり分かるような形では、遼太郎はなにもしていないのだから。
「らしくないわね……なにを気にしているの?」
「遼の立場が実にヤバくなっているからさ。一年以上経ってこんな風向きになるとは思わなかったよ」
「明美が心を砕くことではないわ……」
「パーっと海でみんなと騒ごうと思っていたんだけどさ……」
「ここまで来たら……有耶無耶にするのは却って逆効果、よ……」
 同意せざるを得ない明美。
「明美? 非介入でいなさい……」
 しかし、なにもしないなど、明美の性分ではない。
「世間の耳目をいつもいつまでも犠牲の子羊へ向かわせるより……その方がいいのよ」
「……ああ、なるほど」
「ヤバい立場になる義務があるわ、ウメコの為に……そうでしょう?」
 ここでようやっと、明美は納得した。犠牲の子羊、俎の上の鯉になるのは梅子ではなく遼太郎であるべき。確かに和子の言う通りだ。
「よっしゃ分かった。非介入だ。あんがとよ、ちょいと振っ切れたぜ」
「まあ……ちょいととはなぁに?」
 和子が紅茶を淹れ直す。
「西園寺まで巻き込まれそうじゃないか」
「それも当人の問題……ひとを見抜けなければ、それまで……」
「……そう、だな。元々このテの話は他人が出張っていいコタぁない。西園寺なら引く手数多だ、アタマもいい、ヒデぇ男と思やぁ自分からさっさと振る、か」
「振っ切れたかしら?」
 和子がにっこりと笑った。
「まあ、大体は」
 明美は、言うほどには納得していない。だが、味方になると宣言した梅子と、宣言した相手の遼太郎を天秤にかければ、いつも立場の弱い女の方に傾くのが明美であった。

 ──そう言えば、遼がウメコと和子、あたし以外のオンナと喋ってるトコ、見たことないな。……待てよ。オトコは?
 明美は思う、そういえば遼太郎は高校へ入ってから一体誰と喋っているのかを。
 ──執行部? いや、これは名称、役割だ、喋るは関係ない。成田とウメコ、あたし、稀に和子。いや、和子は運営としてだ。サッカー部……いや、これはおちょくっているだけ。坂崎……は除外。A高生……生徒会は全滅。お祭り男ズ? バスケと文化祭以外は……遼の交遊範囲って……ことによると……ウメコより狭いんじゃ? 成田に独占されてダチとまともに会話していないウメコを、みんなこの通り気遣っている、あいつらそういうやつらだけどさ……。

 明美は後日、気心の知れた、いつもつるんでいるあすみとタカコにもそっと探りを入れてみた。すると、やはり分かっていたようだ。梅子がD高に殴り込んだ時、梅子の面倒を見たタカコははっきり憤慨していた。成田の相棒があれ、つまり騒動の内容を聞いても無反応だったなんてな、と。あすみは去年のA高文化祭で、遼太郎が梅子の為に成田を諌めていたのを見ていたから、あれでどうしてあの時無反応だったんだろうな、という感想だった。二人とも、病院で遼太郎が頭を下げたのは当然、それがあるから声高に吹聴し回さず黙っているだけだという。
 ──こりゃ遼を遊びには呼べないな。
 合同前に遊んだように、後ろ盾の成田がいる所へなら呼べそうだが、梅子の味方連中の不満が溜まるだけ。そして連中は成田とも知り合い以上。合同の作業、本来は遼太郎は必要なかったとカンづけているかも知れない。
 誰より遼太郎自身が、他人にそう思われていると分かっているだろう。
 ──どう出るんだい遼……こりゃいよいよ足元すくわれるなんてもんじゃなくなって来たぜ……