五月十一日 土曜日

 やって来ましたボーリング場。今日は成田くん提案の、大ボーリング大会です!
 部活のあるひとはここに来られないのが残念だけれど。
「さあってー! 遊ぶぞーー!」
 大声を張り上げるのは我が親友、マイシューズにマイボールを持つ明美さん。なーんかとっても、上手そう。
「おーアケ。随分気合い入っているなァ」
 そういう我が師匠はマイシューズとかを持っていません。その場でレンタル。
「当然だ。おいクソ成田! ベストスコア賞とかお楽しみイベントのひとつやふたつ、当然あるんだろうな!」
「誰に言っている」
 あるらしいです。なにかな。
「優勝者にはこの俺が直接勉強を教えてやろう」
 わたし以外には勉強を教えられるかもしれない、だそうです。そうですか……。
「この野郎! ひとが楽しくスポーツをしようって時に勉強の話を持ち出すんじゃないよ!」
 明美さん、手が出ています。成田くんをマイシューズでぶん殴ろうとする。それをひらりと躱す成田くん。うーん、すごいです。
「俺が教えれば、順位が全国で二桁は上がるぞ。そうか、要らんか」
 なにか明美、考えこんじゃっています。それはみんなもそうでした。あのー、わたしは? と言いたかったけど止めにした。
「なあ成田……」
「まさかそれって……」
『とんでもねえスパルタって言うんじゃねえだろうな……』
 木村くんと竹宮くんです。仲良く声が揃っている。なにかあったのかな。
「何故バレた」
『あーーーーーーーーのなあ!!』
 結局。優勝者には、賞金が出る、ということになりました。福沢諭吉さんをお一人分。
「安い! せめて五人前は出せ!」
「ほう……構わんが、優勝者にだけだ。当然俺がなる。準優勝者になど褒美は出んぞ」
 成田くんです。自信たっっっっっっっぷりに宣言しています。一度でいいから言ってみたい……。
「いい根性だこのクソ成田! 一度その高いハナをあかしてやろうと思っていたぜ!!」
 運動神経の大層よろしい明美さんならではの挑戦状です。一度でいいから言ってみたいーーーー。
 そして競技(?)は開始されました。賞金は十人分までアップする、と成田くんが言うと、みんな目の色が違って来ています。そうですか……みんな自信があるんだァー。
 さてわたしは、と。
 そもそもボーリングをしたことありません。そんなわたしに、懇切丁寧に教えてくれる成田くん。大丈夫だ梅子、安心していい。俺、梅子の為にマイシューズとマイボールを揃えておいたから。と言われて、わたしの持つそれはここのお店のレンタルでもありません。わたしの足のサイズちょうどのシューズ、わたしの握力にみあったボールが用意されています。アリガトウゴザイマス……。
 涙ちょちょぎれで、わたしはボーリングに勤しむことになった。ひとつのレーンを四人が使う。わたし、成田くん、明美、西川で一つの組。隣には和子、木村くん、竹宮くん、そしてスーツ姿が板につく、公務員(でも今日は土曜日だからお休み)の前野先輩。
 みんなそれぞれ四人一組になって、大ボーリング大会は開始された。
「斉。俺ァパーフェクトを狙っているが、当然お前もだろ。同着の場合はどうするんだ」
「俺がケチなことなぞすると思うか」
「いよっしゃあ、十万円は戴きだァ!」
 自信たっぷりに宣言しています我が師匠。いいなあ、一度でいいから言ってみたい……。
 すると明美さん。
「よく言ったよ遼。その自信だけは分けて貰いたいね。まあ? あたしも挑戦するからなパーフェクト。見ていろよ」
 明美さんまで……。
 こーんな三人に囲まれて。わたしは一体、どうすればいいというのーー……。
「梅子。フォームを覚えよう。俺のする通りやってみて」
 この人数がいてスポーツなら、成田くんはわたしになにかを教えられるとのことです。ソウデスカ……。
 わたしは、成田くんの言うとおり、レーン外で静かに、みなさんのお邪魔をせずにと思って。やってみたのだけれど。
「なあウメコ。ボーリングってのはさ。盆踊りじゃないんだよ」
「足、もつれていているぞテメェ」
 あの……このボール、重くありません? え? ルール上ギリギリの軽さ? 嘘でしょう?
「四人一組対抗で、賞金を争う……というのはどう? 成田」
 和子です。レーンひとつを使う四人組の総合得点が最も高い所を優勝チームとする、賞金はそれぞれで山分けはどうかと言って来ています。
「いいんじゃねェ? こっちは四人で三人みてェなもんだからな。一人分、ハンデをくれてやるよ」
 ひどいですよいくら師匠とはいえ……。
 すると、各チームから、こそこそこと「それはいい案だ」「なら対抗出来るな」とか、こそこそ聞こえて来ます。聞こえていますよみなさん……。
「皆、そんなに自信がないか。まあいい、ハンデだ、くれてやろう」
 あのー、成田くーん……。
 わたしの泣き言は目の前に賞金がぶら下がったみなさんには通じないらしく、試合は開始となりました。試合と名の付くもので勝ったためしはないんだそーー!
 と、自信たっぷりにふんぞり返って、わたしがトップバッターです。成田くんに教えて貰った通りに投げる。えい。
 と思ったら、ボールが後ろへ飛んでしまったァー。
「痛っっってェ!!」
 師匠のすねに当たったらしいです。ふんだ、よけられないきみが悪いのだよ。なんちゃって。
「ぎゃーっはっはっは! 遼、弟子に仕返しされてやんの!」
 明美さんです。そこまで笑わなくとも……あ、成田くんまでクスっと笑ってる。
「テメェ……なんの恨みがあって……憶えてろよ……」
 憶えません。さあ、次次。今度こそ、せめてガーター、とやらには投げるぞー。
 と思って投げたらやっぱりガーターだった……。後ろの明美・西川には笑われるし。ぅぅ……前に飛んだんだからいいじゃないか……。
 お次は成田くんです。
「大丈夫だ梅子、安心していい。俺がきっちり取り返す」
 と言って。成田くんは借りシューズ、借りボールのまま素敵でかっこいい投げ方をみなさんに披露して下さいました。そうです、ボーリングのフォームというのはこれなのです。
 ボールは見事ピンに命中、ナイスストライク。さすが成田くん。
「ふっ、言うことだけはあるな成田。まあ見てろよ」
 お次は明美。華麗なフォームから投げられたマイボールは見事ピンに命中して……。あれ。
 ピンが二個、離れて立っている。
「ああ、梅子。あれはな、スプリットというんだ」
「俺ァあんなのヨユーでメイク出来るけどォ? アケは無理だな」
「言ったな遼……やってやるよ」
 明美の目がぎんぎらぎんに燃えています。出来るのかな……。
 と、思ったら!
「すっごーーーい、明美!」
 明美、ナイスメイクです! すっごーい!!
「どうだ遼!」
 明美が嬉しそうに西川へブイサインです!
「ま・やるじゃんアケにしちゃ。でもまァ、これでパーフェクトは無くなったな。まァ見てろよ俺様の華麗な技を」
 西川は、見ているわたしでもはっきりと分かるくらい成田くんとそっくりそのまま、鏡写しのようなフォームでボールを華麗に投げた。
「ま・こんなのはイチイチ嬉しがることじゃねェな」
 西川のストライクの感想はこうだった。むー、可愛くないなー。もうちょっと喜んでもいいと思うぞー。
 そんなこんなで一ゲーム終了……わたしのスコアはゼロでした……。
 明美はあれから、倒さなかったピンはなかったもののストライクとスペアを繰り返し、満点のスコアを叩き出した成田くんと西川には及ばなかった。
「まァざっとこんなもんだろ」
 わたしという巨大なハンデがあるにも拘らず、わたし達のチームが一位となりました。ゴメンナサイ……。
「もう一ゲームやろうぜ!」
「そうだ!」
 二位のお祭り男ズくん達が果敢に挑戦して来ています。でも。
「いや駄目だ。梅子の握力が底を尽きた。今日のお遊びはこれで終了」
 そうです、わたしの全くない握力は、ワンゲームしか持たないのです……。
 みなさん、えー、とか、反抗の声を上げていました。すると明美が、
「じゃあこいつ抜きにしてもうワンゲーム! あたしゃまだまだ行けるぜ!」
 との仰せ。ソウデスカ……。
 わたしは、みなさんが楽しめるならと、明美の案を了承し、ボーリング見学と相成りました。ええスポーツとは観るものです。だってもう手が持たないんだもん……。
 結局、みなさんは五ゲームもやっていました。そんなにやったらわたしの右手は使い物にならなくなるぞー……。
 などとわたしのツッコミもむなしく、わたし達のチームが優勝、となった。
「俺が四万、アケと斉は三万だな」
「なんであんただけ四万! 三万三千三百三十四円はあたしのものだァ!」
「なんで四円がアケ! それは俺だ!」
 なにやらケチケチした会話が優勝チームから上がりましたが……あのー、それってわたしは関係ないのでしょうか……。
 ないか……スコア、ゼロだし……。
「二万五千円づつだ。割算くらいしろお前達」
 と成田くんが言うと、
「梅の字も入れるのかよ! こいつなにもしてねェぜ!!」
 悪うございましたねお師匠さま……。
「俺は梅子がいなければ賞金なぞ出さん」
「じゃ出すお前は抜かして計算しろ!」
「誰に言っている」
 こんな会話が交わされつつ、本日も楽しくおひらきと相成りました……。ああ、手がだるい……。

五月十二日 日曜日

 今日は来るの、十一時でいいと成田くんに言われていたわたしは、その通りの時刻に公衆電話ボックスへ行く。そこから成田くんのバイクで成田くんのおうちへ。
 着くとすぐに、早めの昼食と言われてお食事を。はい、あ~んをしつつ一回目(……)。

 起きたら、もう三時だった。
「え!?」
 わたしはがばっと飛び起きると、隣には勉強机に向かう成田くんが、勉強を途中で止めてわたしににこやかに語りかけて来た。
「起きた? 梅子」
 いけない! 勉強の邪魔をしてしまった!
「俺は梅子に邪魔をされたことなど一度もない。梅子、今日はよく寝ていたな。昨日遊び疲れた? 今日はもう帰ろう」
 え……。
 成田くんは勉強を切り上げ、わたしをバイクに乗せて家へと送ってくれた。