五月九日 木曜日

 一限目がおわった後、わたしは二年D組へと足を向けていた。環と直接逢うために。
 環はわたしの姿を見て取ると、嬉しそうにこっちへ駆け寄って来た。わーい、環は抱き着きたいポーズでわたしをお出迎えでーす。
 でも駄目です。お白州です。
 わたしは環の二の腕をはっしと掴み、抱き着き合うのだけはなんとか阻止した。
「あ、あのね、環! 合同後の打ち上げのことなんだけど!!」
「うん、梅子?」
 環は笑顔満点でわたしの言葉に耳を傾けてくれる。いつものことなのだけど、せっかく成田くんが環を最初から呼んでもいいと言ってくれたのに、ここでお白州に引っ掛かってはなりませんっ!
「今年も来ない? 去年みたいに途中からじゃなく、最初から」
 すると環は、すこし目をぱちくりとさせてから言った。
「それは何時から?」
「え? うんと、朝九時からって言ってた」
「私、今年は先約があるの」
 すると環は、とても嬉しそうに言った。全体会合で友達になったひとともう予定を入れていたと。
 わーい、さすが環! もう友達が出来たんだ!
「良かった! 環。うん、残念だけど、そういうんなら仕方ないよね!」
「そうね、梅子。組、結局別になったけれど、ミニサッカーというのは同じなんでしょう?」
 ああ、そうか、参加競技。
「うん、そう。あ、環、またリレーに出るの?」
「ええ、そうよ。今年も勝つわ。必ず!」
 なーんていい顔をするんだろう!
 こんなに凄いひとが、わたしと一年間を共にしていたなんて。ほっぺたをつねりたくなるくらい、環はとてもとても美しかった。

五月九日 木曜日

 わたしはるんるん気分でスキップをしながら二年D組を後にして、2Bへと戻った。さっそく一番に成田くんへご報告。
「そうか。それなら仕方ないな」
 成田くんは、とてもとても穏やかだった。そのままの態度で、前の前に座る隣の人へと話し掛けた。
「というわけだ宿屋の若旦那。これで人員は確定した。払いはあれでよかったな」
 いくらなものやら……。
「そだね。リョーカイ」
 隣の人。いいみたいです。一体いくらなのかな……訊きたいような、訊けば逃げちゃいたくなるような。
 来週から部活はずっとありません。なぜなら成田くんと西川が、木村くんや竹宮くん、慶ちゃんと一緒にバスケットの練習をするから。けど、間違っても成田くんは忙しくありません!
 部活がない、かあ……それはそれでとてもさみしい。わたし、なにもしないでただ家に帰るっていうのもちょっと……。
 そう思っていると、ちょっとしたことをひらめいた。早速成田くんにそれを言う。
「あの、成田くん」
「斉志」
「うん、あのね?」
 部室で勉強をしてみたい、と言った。成田くんみたいに。
 成田くんは多分学校の勉強なんかしているわけではないだろうけど、とにかくあの場所で、あんなふうに集中してみたかった。
 すると成田くんは前に座る西川へ確認した。
「遼。梅子がこう言っているんだが、いいか?」
「んあ?」
 西川はこっちを向くと、
「ほーォ。そりゃいいが、テメェ珍しく集中のあまり帰る時間が遅くなりました、なんてこたァねえだろうな」
 うっ、そう言われれば。
 時間かどうかは、いつも西川に計ったように計られていた。あれがないと、わたしはついつい日暮れ後でも部室に残ってしまうのでは……。
「携帯の目覚まし機能を使うといい」
 成田くんが言う。そんなものあるの?
「まあそれならな。んじゃよ、鍵。間違っても遅くまで残ってどうのになるんじゃねェぞこの世間知らず」
 西川は鍵束から鍵を抜き出し、ぽーんとわたしに投げて寄越した。わたしはというと、携帯を成田くんにさし出して、なにやらな設定をしてもらっている。
「これでいい、梅子。アラームが鳴ったら勉強を止めにして、家に帰って。 部活中はちゃんと中から鍵を掛けること。帰るの遅くならないで、梅子」
「……うん」
 成田くんから携帯を受け取る。そういえばわたし、部室でひとりってあまりない。ひとりで鍵を掛けることも……。
「あれ? この鍵どうするの?」
 逐一職員室へ戻せばいいのかな?
「バーカ持ってりゃいいんだよ。合同がおわるまでだ、なくすなよ」
「う、うん。分かった」
 そりゃあなくしはしないけど……。
 でも忘れたら困るな。自転車の鍵と一緒に大切に持って置こうっと。