五月八日 水曜日

 本日は第二回合同祭第一回全体会合、です。
 今回わたしはC高へ。はじめて行きます。わーいわーい。
 今回はまだ実地じゃありません。顔見せ、あとはチーム作り。
 それで、今回はC高へは、バスや歩きではなく車で向かうこととなりました。和子さん……どうして免許を取っているのですか……いくら三年生、もう十八歳だからといって……だからどうして、車が中央階段下まで乗り付けてあるのですか……。
 助手席には、明美がもう座っていた。
「よっ、ウメコ。おいそこの二人! さっさと乗りな」
 明美がわたしの隣で左手首を弄ぶ成田くんと、背後にいる西川に声を掛ける。
 そうしてわたしは車中のひととなったのですが……。
 わたし。成田くんに乗っています。いつものことです、ハイ……。
 西川はわたし達の隣、後部座席にイヤっそうに座っていた。
「っカー、こんな狭い車ン中でまでいちゃついてんじゃねェよ、だから俺ァバイクがいいと言ったんだ!」
「この方が速いだろう。森下、済まんが帰りも頼む。ああ、佐々木を先にでいいからな」
「バーカ、会議をするに決まっているだろ運営のよ。そっちの本部を使うからな、茶菓子のひとつも準備しとけ遼」
「なんで俺が! ナニまた部活の邪魔をしているんだお前達!」
「うるさいな、誰が執行部の一番エラいやつだよ。丁稚は雁首揃えてあたしのメーレーにありがたく従っていな」
「っかー、アケ人使い荒いでやんの!」
「来週もだ。いいなウメコ」
「え」
 突然話を振られてびっくり。
「えじゃないよ。去年ぶっ倒れてさんざ心配した親友のあたしのテーネーな頼みをまさか聞けないなんていうんじゃないだろうなウメコ」
「いやあのどこが丁寧なの明美」
「ウメコさんへは……優しいのね、明美」
「こんなやつにさんなんざ要らないよ和子! お、着いたか」
「ふ……そうね」
 さっそく着きましたC高は管内の高校のうちA高に一番近い。けどわたしは来たことない。校舎のつくりとか大きさはなんとなく五中に似ている。A高みたいに校舎がふたつ、じゃなくてひとつだけ。開けっ広げの校庭からどどーんと校舎全部が見える。その左、少し小高いところに体育館がある。これもA高のに較べれば小さい、と思う。
 和子の車を降りて。和子は車をどこへ停めに行くのかなと思っていたけど、待ち構えていたひとがすすっと運転席へ入れ替わりのように乗ってそのまま車を運転してどこかへ行った。そのひとが実はB高の校長先生だなんて当然わたしは知らない。
 ともかく、初めて来ましたC高校。
 A高と違ってひとめで校舎の造りが分かるこの配置。なんとなくD高を思い出すなあ……。
「まさかテメェ、さァこれから殴り込みだなんざ考えていねェだろうな」
 ぎく。
「いや、その気だな。見なよ腰に手ぇやって仁王立ち。こんなふんぞり返った態度でうちの学校へ殴り込みに来やがったんだぜウメコのやつ」
 そんな昔のことを言わないで下さい明美さん……。
「まあ……勇ましいこと」
 ああ、和子にまであきられて……。
「梅子。次はEへ行こうな、俺と一緒に」
 わたしは成田くんにだっこされてC高体育館へと向かうことになりました。

五月八日 水曜日 C高

 白二年の前説(やっと意味が分かりました)は和子がやっています。今年の運営の四人はここにごちゃっと固まっています。いいのかな……。いいか、成田くんだし。西川だし明美だし……。
 ところで。わたしは真面目に和子の前説を成田くんに抱き締められながら(……)聞いていたのですが。
 和子アドリブしまくりです。いつもなら、あーなーたーは、とか言っているのに、とても楽しそうに、なんの書類も見ないでひとり突っ走って前説です。
「そこ……なにをのんきに番号交換などしているの? 暇があったら押し倒しなさい」
 とか、
「競技別に別れると、途端に男女別になるのよ……? なーにーを、のんきに構えているの? さっさとやっておしまい」
 とか、
「避妊は男の常識よ」
 とか、
「しない男なんて……股ぐらを蹴り上げておしまい」
 とか。
 あーのー……。
 こんな前説に緊張感なんかあるはずもなく、まるで去年のように、白二年のノリは軽かった。わたしの周りには、去年よりもっと多くの友達が集まっていた。西川が出したあの表通り、わたしの友人が多数わたし……というか成田くんを取り囲んでいる。いないのは環とマコくらい。そういえばこの二人、今年も青組で、わたしと別なのは残念がったけど、親友同士でつるむからいいよねー、とか言っていた。
「よー斉藤久し振りだなあ、おーそれが噂のバカップル振りか」
 わあ、懐かしい。相馬くんだあ。声を聞くのも久し振り。
「よくやるよと言いたいけど、今年はもう結構カップル出来ちゃったりしているから、去年と違ってみんな周りに遠慮するってのがないよな」
 朝子さん。
「ここまで明け透けのお二人がいれば、そういう方々とて余程のことをしなければまるで目立ちませんからね。よいことです」
 藤谷くん。
「まさか今年もスパルタかますんじゃねえだろうな成田」
 木村くん。
「今年はもう勘弁だぞ」
 竹宮くん。この二人、去年なにかあったのかな。
「ほう……お前達のことだ、さぞ準備万端で首を長くして待っていただろう。安心しろ、今年はB高も使う」
「どういう理屈でそうなるんだ!」
「こっちへ来るのか斉~~」
 慶ちゃんだ。久しぶり。
「ああ。ただしB高が中間試験で体育館が空く時だけだ。あとはC高とD高も使う」
「ひとの言うこと聞けよ成田!」
「大体なんだその口調は! まさか早速今日からとか言うんじゃねえだろうな!」
 木村くんと竹宮くんがなにか言っています。
「だから安心しろと言っただろう。来週月曜からだ」
「そ、そうか」
 やけにホッとしたような声です。
「って違うだろ! やっぱかますんじゃねえのかよ! モテる以前の問題だって、あそこまでやられりゃあ!!」
 けど成田くん、取り合いません。
「おい。皆、俺の話を聞いてくれ」
 二人の揃った声を無視して成田くんが周囲のみなさんに聞こえるよう、よく徹った低い声で言います。
『俺達の話も聞けぇ!!』
「ここまで知っているやつらが揃ったんだ。ひとつ提案がある。あんな前説などどうでもいいだろう」
「聞こえていてよ成田!」
 この声はマイクを持った和子です。
「なんだ?」
 相馬くんです。和子の声を聞いていません。いいのかな……。
「折角のお祭り期間中だからな。週末のでもどちらでもいい、ここにいる連中でまたどこかへ遊びに行かないか、春休みのように」
『おお』
「伸るか、反るか」
『伸ったぁ!』
 みんな声を合わせています。とってもいいノリです。
「俺はどうするんだよ、こちとら野球小僧だ。真面目に甲子園を目指しているんだぜ」
 相馬くんです。そう、野球部員さんはほいほいどこかへ遊びに行く、というわけにはいかないでしょう。
「ああ、ここにはそういうやつが他にもいるだろうがな、当然合同後の打ち上げに御招待だ。ここにいない連中でも構わん、皆どんどん呼んで欲しい」
「それならいいが場所は? 随分人数増えるぜ」
「というわけだ宿屋の若旦那。六月二日、一番駅近くの坂崎旅館で朝九時から一階宴会場をぶち抜いて貸し切り、どうだ」
 わあ、隣の人も来ていたんだ。わりと近くに座っていた。びっくり。
「たったいま現金ニコニコ一括前払いでヨロシク」
『いま金取るのかい!』
 みんな声を合わせています。気持ちは分かります。
「安心しろ。当然俺が今全額払う」
『よっ、太っ腹!』
 みんな声が合っています。気持ちは分かります……。
「合同後の打ち上げ参加希望者は俺にメールで。坂崎旅館収容人数まで先着順だ。早めに頼む。
 部活動を真面目にやっている皆には悪いがな、さっそくこの場で今週末の日時と場所を決める。お互い学生だ、連チャンにはせんがそれは合同祭当日に取って置く。どこがいい」
「ラブホ!」
 溜まっているそうです。なにが?
「南アフリカ!」
 サッカー観戦に行きたいらしいです。
「中国!」
 オリンピック観戦したいらしいです。
「南の島!」
 漂流したいそうです。
「健全に管内だ」
「そんな体勢でナニが健全だ!」
 独り身だそうです。
「そう僻むな」
 婚約者を抱き締めながら言うセリフではないと皆ハラの中で突っ込んだそうです。ええ、気持ちは分かります……。
 なーんだか楽しそう……というか、全体会合とは全然関係ない話が展開されている。いいのかな。けど確かに、説明は去年も聞いたし。成田くんの声でだったけど。あの時は遠くで聞き耳立てていたなあ。それが今はこーんな近距離。声、うんと綺麗で低くてよく徹って。耳元で囁かれると、もう腰が砕けて立てない……。こういう体勢でないと今頃体育館の床でのびているかもしれない。