五月三日 金曜日 祝日 斉志

 久々の二番駅。そこで梅子を待つ。チンタラが癪だった半年間。
 待ち人がここに来る。俺の贈ったいつもの小さな鞄、じゃない。……大荷物。
「おはようございます、成田くん」
「斉志……」
「今回はお泊まりに参りました」
「……」←舞い上がり
「あの、六日は駄目なんだけど」
「……」←真っ白
「五日までならいいって。明美のうちに泊まっている、ってことにしてもらって。去年もそうだったから」
「……」←一升瓶
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「……」←言葉だけでイっている
 五月三日、人生最良で最高の日。一生幸せにする。俺、一生幸せになれる。梅子に惚けた。つい昨日まで暗黒地獄と思っていたのに。もう梅子を家に帰さなくてもいい、夢のような時間。
 一生大切にする、梅子。
 いつもは時間が惜しくて性急に攻めていた。梅子が俺を誘って来る。やわらかい肌。出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んで。お陰でブラックリストが増えた。あんな連中なんぞに目を付けられて……二度と会わせん。
 梅子が日暮れを過ぎてもいてくれる。夕日は嫌いだ馬鹿野郎。だが今日は違う。日が暮れて、夜になっても梅子はいる。これを日常にしてみせる。
 この家で初めて一緒に食べる夕食。当然凝ったものを出す。今までで一番、会心の出来。初めて夕飯を。陽の光ではなく部屋の灯りの下で、はい・あ~んで食べた。梅子は和食が好きで、洋食はなんとなく勘で……カレーだのハンバーグだのスパゲッティだのを出したら喜んで食べていた。梅子はこの辺が子供っぽい。言ったらむくれるだろうが。

梅子

 なにも言わないのにうん、って言うなんて。ここ数日の成田くんはなにか集中していて。合同があるからだろうけど、生徒会の分室へ行っていて。わたしは部活で、西川に合同の状況を尋ねるなんてことはしない。お互い集中。最近、なんか少し、あれっと思うことがある。ちょっとだけ、……なけなし、分かるソースが増えて、嬉しかった。
 一年間お世話になって。仮な部員のままでいさせてくれて。あんな言い方で、けど気を遣ってくれて。散々お世話になって。うんと迷惑掛けて、そしてきちんと叱ってくれる。
 成田くんは相棒でも電話は事前の許可が必要、なんて言っているから、きっと駄目だって言うと思っていたのに。ちゃんと話せば分かってくれる。
 よかった。
 逢いたくて明美に無理言って。あんた去年もそうだったよな、今年泣いたらもう駄目だからな! って。
 もう泣くことないと思う。穏やかな成田くん。美味しい食事、成田くん料理の才能もある……。

斉志

 惚けて、とけた。ずっとこのままでいられるなら……。
 梅子は体力がない、家へ日暮れ前に帰しても、多分疲れ切って眠っている。俺がそうした。だから今日は梅子が夜、どんなに……疲れているのか、見ようと思った。俺のせいで疲れて帰る梅子。

梅子

 無理言って泊まらせて貰って。勉強の邪魔、している。わたし、……我が儘だなあ。
「……斉志」

斉志

 夜、俺の名を呼ぶ梅子。夢のような刻。俺を見上げて……この表情、また俺の心配をしている。
「梅子」
「……はい」
「梅子が心配することはなにもない。そう言ったぞ」
「……」
「俺、……今浮かれている」
「え……」
「梅子、俺去年あんな」
「斉志」
 鋭い声。滅多にない口調。やはり謝罪の言葉は言わせて貰えない。墓へ入るまでには必ず言う。
「あの、斉志。わたし」
「ここにいて梅子。もう帰らないで。俺、梅子がいないと勉強なんかしない」
「……」
「ごめん。……けど本音だから。心配しないで」
「……」
「俺のこと……」
「好き」
「信じて」
「……うん」
 風呂で初めて、した。梅子と俺。湯で惚けた。腰を叩き付け、下から突いた。梅子、ぎゅっと目を瞑って、真っ赤になって、うつむいて、間断なく漏れる喘ぎ声、水音、梅子のでかい胸の音。汗と……梅子。湯気、いつもより上気した表情、目を開けてと言うとようやく俺を見る。誘うなんてもんじゃない表情で、俺の名を呼ぶ。逃げるところなどない場所で、腰を振って……突いて、熱ィ、音と声が浴室に響く。そそっ、た……。
 のぼせたのも手伝ってかすぐうとうとし出す梅子。やはり、な。このままここにいてくれるならそれでいいが。……よくこれでおやじさん結納許したな。俺なら、……まだ敵わない相手。
 だが梅子は貰う。丸ごとだ。一生だ。
 あのネグリジェで隣にいられると眠っていると分かっても理性が飛ぶ。今夜はパジャマ。梅子は白のシルクが似合う。布団を掛ける。寝息が静かで、ほとんど音が聞こえなくて、むしろ心配になる。机に向かって集中し出すと逆に聞こえて来る梅子の寝息。ずっと聞いていたくて、気が付くと朝だった。