四月十九日 金曜日 A高職員室

 模試期間中で生徒が職員室へ入って来ないこの時期、教師の間でこんな会話があったという。
「いやー……。もうなにも言えませんな」
「成田ですか?」
 おバカな斉志が授業中読んでいるものはなにか、という話題になっていた。
「ええ、六法全書でしたよ、しかもボロボロの……」
「そうでしたか……、私はもうなんの本だか見当も付きませんでしたが」
「去年に較べればましな方ですよ……。私はあのクラスの授業が出来た憶えがありませんでねえ」
「ああ、やはり……。私もですわ」
「彼女と一緒のクラスでしかも隣と来れば、成績を落とすかと心配しとったのですがねえ……」
「まあ、たまにいますがねああいう生徒は」
「受け持っただけで光栄と思うべきなんでしょうなあ」
「いやはや……」

四月十九日 金曜日 放課後

 今日は合同祭の競技用紙に記入の日。わたしの所属する白二年はここ、二年B組へ集まる。だからわたしも、成田くんも西川も、隣の人も前の人もここへ留まって用紙に記入をする。
 リーダー君がいつものように、教壇に立って記入方法を説明するなか、わたしの競技記入用紙はわたしの手元にありません。
 そう、成田くんが持って行って、さらさらの奇麗な字で全てを書いて下さっているのです……。
 ……。
 それを模試の時にやって下さい、と言えたら、こーーーーーんなに苦労することもないものを……。
 と、思って。もう観念しました。わたしに用紙記入権がないのは。はぁ……。

四月十九日 金曜日

 遼太郎は帰宅後、斉志へ電話を掛けていた。今日は久々に黒電話同士だった。
「お前なあ、まだ早ェと言ったろ。そんな暇潰しでも硬直しなくて済むのは俺様以下三名だけだ。去年じゃあるめェし、その必要はねェだろ」
 暇潰しとは、斉志が教室で見せた爆発的集中力ご披露のことを指す。
 斉志はまたも無言。
「なんだ」
 言いたくないことでも言って貰う、とでも言いたげな遼太郎。
「理性、が」
「そんなもん同じクラスで隣同士になりゃそうなるって分かっていただろうが! 全く教師ども態度で脅して無理矢理同じにしたくせに。よく去年その手使わなかったな」
「そりゃ、……」
「学校側に口ではっきり言って借りを作りたくなかった。それでお前のにメーワクが行くのを避けた」
「……うん」
「そういうのを理性っていうんだ斉。ちゃんとあるじゃねェか。ちったァ配慮しろやまともなクラスメイトさんにはよ。俺様方式だ、少しづつ慣らせ」
 集中するのは結構だが、突然爆発的にではなく、徐々に発揮せよと言っている。
 しかし、斉志はバカだった。
「無理かもしれない」
「あのなァ……」

四月二十日 土曜日

 模試の日。
 わたしは一生懸命、解答していたのだけれど、隣の成田くんが開始五分でもう、机に向かっていないのが気配で分かりました。
 ……。
 集中しました。集中です。ええ、たとえ斜め左前の師匠が十分で同じような気配を漂わせていたとしても集中です。隣の人は、なんて余裕ありません! わたしとは次元の違うひと達はとにかく無視です。言ったら明日なにされるか分からないけど全部無視、わたしがいますべきことをする!
 時間ギリギリ最後まで粘って、見直しもして。一限目がおわるごとに立ち上がって、わたしの列のひとの解答用紙を集めて教卓へ。成田くんもそうする。休憩時間はさいごの足掻きの時間、一生懸命頭に叩き込んで。
 お昼ははい・あ~んなし。お弁当だけ戴いて食べる机も別、食べながら教科書ノートを読む。さっさか食べおわって足掻きの時間へ。
 こんな調子で三教科終了。
 ああ、魂が抜けて行く……。おわったんだ。机に突っ伏すわたし。もうなにも出来ません……。

四月二十日 土曜日 放課後

 模試後は成田くんと二人、いつものよう帰った。
 その道中、成田くんに言われた。
「梅子。合同の話、気になっているだろ」
「……う、ん」
「梅子。前にも言った通りだ、もう連中とは一切関わるな。浮気しないで」
「しない、そんなのしない」
「……うん」
「あのね斉志、その……」
「要綱か。それなら来週月曜日出る。いいから梅子、もう気にするな」
「……うん」
「管内のやつらは皆俺がやっているものだと思っている。責任は全て俺が持つ。梅子、俺のこと信じて」
「うん」
「……明日は、じっくり攻めるから」
 無言で家へ帰りました。
 そうです、口は災いの元なのです。明日、一体わたしはどうなるのでしょう……。