春休み前 部室

 三学期ももうすぐおわる。明日から春休み。そんな日に、我が部室では師匠がまたもパソコンの画面に向いていなかった。
「というわけで雑談大会を開催する。新入部員の件だ」
 ああ、それなら立派な雑談大会だ。
「うん、そうだね。どうするの?」
「まずテメェは仮な部員だ、間違っても勧誘なんざするな」
「……はい」
 どうせどうせ……ぅぅ。
「テメェに間違って、ワタシ・ボク入部したいんですけどなんざ言って来るやつについては全部俺に振れ。いいな」
「はい」
 そんなひとはいないけど。確かに、間違って言って来てしまう可能性は、ある。
「明日から俺様はホーローの旅だ。勿論餞別はいつでも受け付ける」
 ……成田くんとふたり、無言で部室を出ました。

三学期最終日 A高一年F組 夕暮れ刻

 夕刻。ここ一年F組では、生徒総勢三十数名が揃って頭を付き合わせていた。
「今回でまあ、ラストだな」
「立ち番しとく」
「頼ま」
「始めるべ」
「こうして放課後こそこそ居残ってもらったのは他でもねえ。例の件だ」
『ああ』
「……ってなんの件だっけ?」
 井上くぅんがぽつりと言った。
「だから、ラストだよ」
「ラストだねえ」
「一年、経っちゃったなあ……」
「そうだな……」
「しみじみだなあ……」
「あのさ。入学式の日、今日がこんなふうになるって予測した奴手を挙げ……っていねえか」
「いないよ」
「なんて言うかさ……」
『……怒濤?』
「……声揃ったなあ……」
「揃いもするよ……」
「いやー……多分さ、っつうか、間違いなく……」
『セーシュン?』
「……揃ったなあ……」
「いやあ、疾風怒濤の大青春だったなあ……」
「全くだ」
「あたしは来年、文系だけど……」
「俺もなんだよな……」
「頑張れよ」
「頑張ってね」
『理系の人達』
『……』
「今。声、割れたな」
「割れたな」
「……まあ、理系ったって四クラスあるからな」
「大丈夫だよ」
『多分』
「今。声揃えたの文系だろ」
『当然』
『……』
「今。無言だったの、理系の人達だよね」
『……』
「まあ、ねえ……」
「その、ねえ……」
『頑張ってね』
『頑張れよ』
「来年は確実に一年間、毎日教室攻撃ってかー」
「……坂崎って結構オソロシイ事ズバっと言って来るよな」
「そういう坂崎君だって理系でしょう? 危なさそうだよ」
「あっヒッデーんだトーコちゃん」
「まあ、俺達も人のことは言えん」
「そうだな」
「っていうかさ、それはまあ、神っつうか学校側のみぞ知る、なんだけどさ」
「そうだよ、あたし達ラストだよ?」
 A高一学年生の総人数は現時点で既に三百名を割っていた。ただし処分されて欠けたわけではなく、全員が転校してのものだった。転校生が出なかったクラスはない。一番少ないクラスは一人だった。転校生の分布図はそのクラスに近ければ近いほど多かった。ただし一番多かったクラスは転校生が一人のクラスから割と離れた位置にあった。この事実を転校生が一人だけだったクラスの者はこの時点ではあまり気付いていない。

 A高以外の状況にも触れよう。まず、A高の入学式の翌日起こった騒動がらみの話をば。
 騒動が起こった翌日こそ転校者は出なかったものの、その日から、名前が出るのも懐かしいがB高は相馬、C高は前野剛、D高は藤谷、彼らの活躍、いや暗躍により転校決意者の数は跳ね上がった。彼らにちくちく、ネチネチ、どつき回された五中関係者の居場所はなかった。ひとり・ふたり、ぽつぽつと関係者は転校し出す。転校先はランクを下げた所にしか行けなかったが、その先にも五中関係者達を付けねらう者は当然いた。いない高校といえば天下の自由校・E高くらいなものだった。
 だがE高へ転校した者達は、転校出来ない関係者達から「いいよねあんたは転校出来て」という揶揄を受けた。
 結局五中関係者、及び騒動を引き起こした者達は管内に留まる限り居づらさは変わらなかった。それを知らぬ当事者と言えば被害者くらいなものだった。