二月十四日 A高一年F組 早朝

 朝もハヨからここ一年F組では、生徒総勢三十数名が揃って頭を付き合わせていた。そのうちの誰かがあたりを見渡して、
「大体これで集まったな」
「立ち番しとく」
「頼むぜ」
「始めるべ」
「……ってさあ、いつものやつはどうした?」
 とある男子が気付いてその場のみんなに質問する。
「サッカー部か? いねえなあ……」
「あいついつも朝イチなんだけどなあ……」
「忘れちゃあいまいが」
「時間なくなっちゃうよ」
「始めようよ」
「そうだな」
 今日の会議の開催は、ないものととらえたA高一年F組の生徒もいた。井上くぅんもその内の一人かと思われ、議事は粛々と進められて行った。
「じゃ不肖和田、代返しまーーす」
 背がでかい、くらいしか特徴のない(ちなみに横幅も結構ある)あの和田が手を挙げる。彼はこの役を一度はやってみたかった、らしい。
「おーヤレヤレーー」
 近くの男子が数名賛成する。
「おっほん。こーして朝もハヨからこそこそ集まってもらったのは他でもねえ。だっけ」
「そんなもんだ」
「多分な」
「例の件だ」
『ああ』
 井上くぅんがいてもいなくても、あうんの呼吸は健在である。
「C組へは行かない。それは断言していた。だが」
「今日は例外だ」
『ああ』
「バレンタインだ」
『ああ』
「ひょっとして、向こうへ行くなら今日は集まらなくてもよかったんじゃ……」
 誰かの鋭いツッコミに、誰もが一様に沈黙した。
 だが、誰かが気を取り直して言い直す。
「甘い。甘いぞ」
「食えればいいがな」
「それはともかく」
「そんな話は置いておけ。空しい」
 これを言った彼は、どうも今まで貰ったことがないらしい。
「文化祭当日までこっちに来ない、とも断言していた」
「ああ」
「つまり」
『来るな』
「高校生外なやつだ。本日は女が男のもとへ出向くという世間一般のジョーシキは通じまい」
「とすると」
『来るな』
『ああ』
「俺達はなにも貰えずそんなもん見にゃならんのか?」
「ひょっとしてすげえ目の毒なんじゃねえ?」
「ひょっとしなくても目の毒だ」
「誰か止められるか?」
 皆一様に想像する。梅子が照れながらチョコレートを渡し、斉志が嬉しそうにそれをほおばる。そして自分達の手にはなにもない。
「今回は対処無しだな……」
 彼らのむなしさと言ったら、如何。
「な、何よ」
「そうよ男子一同。そんな目で女子見ないでよ」
 男子一同はモノ欲しげに女子一同を見た。まるで睨みつけるかのごとく。
「根本的解決策と言えば俺達野郎じゃ無理なんだが……」
「それはいつもでしょ」
 彼女達のツッコミは、今日の彼らには厳しかった。
「ひでえ……」
「なあ……」
「こんなふうに集まんのももうラストかも知んないってのによ……」
 時期はもう、三学期のなかばだった。
「そう考えると寂しいよね」
「なんだかんだ言って集まったもんねー」
「いいクラスだと思うぜ」
「最初があーだったけどな」
「おわりよければ全てよし、っていうか」
「……なんかしんみりしてきたな」
「今日ってそういう日じゃねえよ」
「そーだぞ女子」
『だからー』
「毎度頼って悪いが、たまにはクラスメイトへ解決策を提示して貰いたい」
「それはブツを貰いたいってこと?」
「みなまで言うな」
「悪いんだけど」
 みんなの輪の中に途中から割って入った男がいる。そんなことが出来る人物といえばただ一人。
「今日はどんなの持って来てくれたのトーコちゃん」
 トーコちゃんでも、茹でダコになる日はあるのである。
 坂崎はトーコちゃんを輪の外へと連れ出し、皆が貰いたいブツを朝イチで笑顔満面で貰っていた。
 それを見ていた野郎一同、
『ついに来たか坂崎……』
「あれがフツーのコーコーセーだよな」
「そうかあ?」
「てかさー。……俺達は?」
 野郎達は一斉に女生徒を見やる。
『だからそんな目で見ないでよ……』
 なーんて言っといて、準備をしている女子は何人かいた。よかったね男子達。

 ちなみに梅子達がどうなったのかというと、遼太郎が気をきかせて部室で手渡しさせた。もちろん遼太郎はそんな場面に同席していられるかァとばかりに退出していたが。斉志の相好の崩れようといったらなかった。こんな顔を誰に見せられよう。梅子は遼太郎の気遣いに感謝し、来年もこうしてもらおうと切に願った。