十月九日 火曜日

 もうすぐ文化祭なのだけれど。
 その内容、……いろんなクラスがそれぞれで催す、お化け屋敷とか喫茶店とか。どこのクラスがなにをやるとか。
 そういったプログラムはきちんと資料になって全校生徒へ配られている。
 らしい。
 けどわたしの手元にはそれがない。
 誰もくれない。
 柊子ちゃんは、これよりもっと詳しいの聞けるよね、とか言って。そういう資料はホームルームでテストの用紙と同じように、前の席から後ろの席へと配られる物だけど。わたしの列の場合柊子ちゃんまでで配布が止まって、柊子ちゃんは後ろの席のわたしには資料をくれなかった。自分の分までしか来なかったから、って。
 西川へは部活中、なにも訊けない。
 だから部活帰りの今しか、成田くんにしか言えないわけで……
「あの、……斉志」
「なに」
 う、これはいけない展開です。
「あの……文化祭の、プログラムとかいうの、は……」
「……」
「わたし、持って、いなくて……斉志、余分なの、持っていないかな……」
「ない」
「斉志が、その、持っていない、なら……」
 という話の展開になって。
 じゃあ分室に行くしかない、って言ったら。浮気するなと相成ったわけで……。
 浮気浮気と言われるけど、一度もしたことありません。そんなこと出来るお顔じゃあ……。けど成田くんの目の前で誰かと会って話をするだけでも浮気と思われているようで……。
 ……。
 よくクラスメイトとの会話を許されているなあ、と、最近の成田くん化したわたしの脳味噌は思うのです。

十月九日 火曜日

 放課後、文化祭の打ち合わせや、準備をしていると、突然開きました一年F組の前扉。
「っよーーーー! 元気かウメコ!!」
 そこにいたのは、スリッパを引っ掛けたわたしの親友、佐々木明美だった。
「あ、明美!? どうしたのそんな」
 合同でもあるまいし、殴り込みでもあるまいし、放課後とはいえ他校生の明美が来るなんて。
「お元気そうで……なによりね? ウメコさん……」
 なんと、和子まで来た。
「い、いいの?」
 思わず訊いてしまうと、明美がスッパリと答えた。
「いいに決まってらぁ! 第一、誰にも許可なんざ得ていないぜ!」
 自慢することじゃありませんよ明美さん……。
 だったら和子は、というと。
「ふ……校長に許可を与えはしても、逆など無いわ?」
 なにせこの人入学式の時総代さんだったらしいけど、体育館舞台上にひとり上がって壇上で、今日から私が生徒会長ですって言って本当にそうなった、なーんて聞いたことないことを平気でやるひとらしくて。生徒会役員さんは全部和子がその場で指名したとか……。
 どうなっているんだろうB高って……、マコに慶ちゃん、大丈夫かなあ。
「ところでウメコの所はなにをやるんだ?」
 明美が訊くと、わたしではなくて和子が答えた。
「喫茶店よ明美……ウメコさんを始め九名が当日実際に従事する。……そうね?」
「ハイ……」
 もうすっかり分かられているらしいです……。
「へぇ。じゃあどうしてやろうかね」
「こういうものはまず形から……任せて? 衣装は全員分、私が準備して上げるわ?」
『衣装??』
 隣の人を除き、みんなで声を揃えて和子におうむ返しに質問してしまった。
「まさか……制服にせいぜいエプロン、などという不覚悟な格好で業務を遂行する、など……言わないわね?」
 フカクゴ? ギョウム? スイコウ? 文化祭ってそういう文字を使うもの?
「善は急げ……この教室の下にトレーラーを付けてあるわ? 九名全員、さ・いらっしゃい」
『……』
 この教室の下? わたしはそれを一度だけやったことがある。正門の坂を上がってタクシーで来てもらった。けどそれは緊急事態で、呼んだのが先生、しかも当然A高のだからであって、いくらかかか和子でも、和子でも……。
 ……いました、ありました、うんとでっかいトレーラーが教室の下にどんと! どーやってこんなでっかい車があーんな坂を上って来るというのー。
 わたし達一般A高一年生九名は全員、大人しくB高生徒会長さんの指示に従いA高中央階段下へどんと横付けされたトレーラーへといざなわれ、その中で各人個室で体のサイズを測ってもらいました。
 ……。
 ひょっとしてこれがB高の日常風景なのでしょうか……。
 生徒会長ってなんだーっけ、なんだーっけ……。

十月九日 火曜日 改造携帯にて

 いつもならば、遼太郎は放課後になるとイの一番に教室を出て、部室へと向かっている。
 だが、弟子が放課後は文化祭の手伝いをすると言った日から、彼は部室へ行くのを遅らせていた。
 だから隣のクラスでなにが起きたか、彼は直接知ることが出来るわけで。
「いいのかよ斉。連中来ているぜ」
 わざわざ教室内から電話でご忠告してやったというのに、斉志は無言。
「どーせイッペン言ったのを取り消すなんざカッコ悪ィって思っているんだろ。このええ格好しぃめ。まあいいさ、お前もきっちりして来いよ、俺ァ髪を染めるのなんざわけねェからな」

十月九日 火曜日

 文化祭前の旧校舎一年F組の一部で、こんな会話があったという。
「あんなやつら相手に殴り込んだのか斉藤は」
「度胸は管内一だ」
「ああ」
「いいのかよ」
「びびんの止めって決めただろ」
「最終確認が必要と思うが」
 クラスメイトの視線の先は、かのサッカー部くん。
「俺はもう重責を担った」
 そんな視線にもそっぽを向く。しかし。
「坂崎がいいんだがな」
「やつはやるまい」
「もうとっくに重責担っちまっているからな」
「他に適任者はいない。特攻だ井上」
「これをやればもう格好付けと思わない」
「尊敬する」
「マジで」
 クラスメイト全員から肩をはたかれた彼は、深いため息とともに言った。
「……もう勘弁だからな」

十月十日 水曜日

 文化祭前に、新校舎一階の一年C組の廊下でこんな会話があったという。
「元気か成田」
「息災だ井上」
 その場にいたのは成田バカ志とサッカー部くんだった。
「俺達のクラスに病院で会ったやつらがガンガン来ている。止めてくれ」
「俺に二言は無い」
「よし。文化祭がおわるまで、なにがあっても絶っっっ対に恨むなよ」
「ああ」

十月十日 水曜日

 文化祭前の旧校舎一年F組の一部男子の間で、こんな会話があったという。
「どうだった」
「俺に二言は無い、だと」
「言ってみたい台詞ではあるがな」
「文化祭がおわるまでなにがあっても絶対に恨むな、とも言った」
「で?」
「ああ、とさ。俺はもう二度と特攻しねえからな」
「えらい」
「よくやったサッカー部」
 クラスメイト達から肩をはたかれた彼は、しかし喜んだりしなかった。
「井上だっつの」
「じゃ井上くぅンなんて呼ばれたいか?」
 彼は下を向いてぼそっと呟いた。
「……サッカー部くんでいいです」