六月十七日 日曜日 午後 マコ

 明美に相談した。ウメコにワビ入れたい、ただしあの時みたく不特定多数の真ん前でじゃなくサシで。そしたら、それならいいが間違ってもヘタ打つな、余計なことをまた言うんじゃないぞ、ってさ。そりゃ前回ちょっとやっちゃったけど、もうあんなことしないよ。環のこともちょっとだけ言った。詳しい内容は言わないけどさ。
 森下女史にも外出許可を貰って、電車で一路一番駅へ。そこからワリと近所だっていう環の家へ。環はわざわざ駅まで迎えに来てくれた。あたし初めて行くもんね。
 環の家は二階建てだった。さすがに女史の家みたくゴーセーじゃないけど、結構それなりの家構え。ちゃんとした庭付き一戸建て。一階には西園寺家、の人達。両親と祖父母、かな。ちょこっと挨拶して二階の環の部屋へ。これまたやっぱり、綺麗に整然と片付けられた八畳一間の和室。うーん、なんか環ナイズ。これで環和服でさ、お茶とか点てたらさぞや似合うだろーな。
 なんてことを考えながら二人してウメコを待つ。あたしが環の家に行った時間は一時半、ウメコは二時の約束。あたしと環、今日の最終確認、ってヤツ。でもまあやること決まっているし。
 ウメコはやく来ないかな、いくらなんでも遅れはしないよね。なんて用意された座布団に座りながら考えていたら、環がやけに思いつめた表情、声であたしに話し掛けてきた。
「マコ」
「ん? なに環」
「私、これからなにを言うつもり?」
「へ?」
 ってー。おーい環、なに言ってんのかな。ワビ以外ないじゃん。その為に先週はワイワイオンリーだったんだよ?
「あの人が……梅子を好きかもしれない、というのは……確認したわけじゃないわ」
「ああ、そりゃあ、まあ……」
 そうだけどさ。今更……。
「それを梅子に言うの?」
「え?」
「勝手なことを言われるのがどんなに辛いか、私より梅子の方が知っているわ。なのに私は梅子に言うの? 勝手なことを言われて、翳で言われ放題で、それをどうすることも出来なかった私が梅子に言うの?」
「え」
「私が確認したわけでもないことを勝手に考えて、それを元に梅子へ一方的に謝って。それで梅子、どう、思、う……」
「あ」
 あ、あ、あ。
 どうしよう。うわ、どうしよう。環の言う通りだ。
 マズい。
 いやそりゃどう考えたって親しい以上だけど、確認したわけじゃない。こんなんは微妙な話だ、確かに勝手に憶測するもんじゃない。ウメコ前にやっていたけど今から思えば大ハズレもいいとこだったし、例えば(やらないけど)あたしがあれを勝手に成田へ言ったらどうなる?
 ……間違いなくヤバいって。
 まさかして、ひょっとしてそれと同じこと……なんじゃあ……。
 うわ。やっべ。
 ちょっと待ちなよ、環はウメコを誤解して会えないと思っている。ワビたい、でもさ。
 ワビるにはあの誰かさんに、ウメコにホレていないかを確認する必要がある。それを詮索でなくする為には告白が一番。でも、今環はそれが出来ていない。
 ヒトのキモチ、勝手に、確認もせず思い込んで友達親友と言えど元は全然関係ないヤツに問い詰める、なんてのが。どんっだけサイテーか。
 うわ、あたしが一番よく知ってんじゃん。しかも相手は同じウメコ。どっひー。
 今環、間違いなくそれやろうとしてんじゃん!? うわーうわーどうしよう。ねえどうしよう。環、ねえ、また泣いちゃっているんだけど……。こーんな大ド美人がボロ泣きで、もうちょっとでウメコ来ちゃうんだけど……。

 ちょ、ちょっと待て、待て待て。今またあんときみたくヘタ打ったらヤバいって。あの程度でさえウメコに後で言われたって明美言っていたし。今その明美はいない、あたしがヘタ打ったらパーだ。
 ……れ、冷静になろう。あたしもダテで森下女史の元で働いているんじゃない。
 まず、今日はあたしがワビる。それだけにしよう、余計な一言が命取りだ。とは言ってもウメコは気になるだろうけど、あたしにしたって環を泣き止ますなんて出来ない。ここは一発あたしがなんとかウメコを言い包めよう。ウメコ詮索しないタチだもんね本来は、そこを付けこんで。実にイヤなやり方だけど元からパーよか全然マシ、大泣きの環相手だったらウメコだってそれ以上言うまい。
 もう今日はこれしかないよ。にしてもなんのタメの今日なんだっけー……。

六月十七日 日曜日 午後二時

 久々の環の家。環のお家のひとに挨拶をして。ご両親とおじいさん、おばあさん。三代共に美形揃い、みんな優しいひと達。どうぞ、二階で待っているよ、そう優しく言われた。中三のとき、最初のうちはこれがいつもだった。
 先週の打ち上げで会った、というのかな、環と今週も会う。それにしても本当に美少女。同性から見てもとんでもなく美人、可憐で清楚で。みんながあれだけ騒ぐのも当然当然、大納得。
 それはいいのだけど……環の部屋にはマコもいた。
「あ、あのー……」
「よっウメコ。元気?」
「元気っていうかなんていうか……あのー……」
「ウメコ、今回はあたしが先言うよ。あたしさ、今B高にいるの」
「え」
「B市へ引っ越したんだよ」
「……え」
 初耳……そうだったの?
「まあ聞きなよ。相も変わらずやつらと険悪だったんだけどさ」
 やつらっていうのは、両親代わりというあのひと達のことらしい。
「ついにバカやっちゃったよ。他に凶器なかったからさ、電話線ブチ抜いて受話器ごと投げ付けて、明日学校があるってのに家をおん出たんだ。GWおわりの話さ。悪いけどなんでかなんてもう言いたかないから親友とはいえウメコにだって言わないよ。ヤツらがその後どうなったかなんて知んない。
 で、明美の家まで無我夢中で走ったんだ。あいつの家、二階部屋空いているって聞いていたし。けど明美も大したヤツだからさ。家に匿うのはいいけど、やつらが学校まで来たらどうするんだ、って言われてさ。そういやそうだし、でもどうしたらいいか分からなくてさ。そういう意味では当然ウメコも駄目だろ。あたしウメコの家まで走る気なかったし、一文も持たずあそこを出たし。とにかく明美さ、合同で知り合いになった森下女史に連絡したんだ。家金持ちだし住むとこあるし、B市のB高だし。
 あたし、アタマに血ィ昇るとどうなるか知っているよねウメコなら。女史にゃ一発でそれ言われてさ。あーなーたーは危なっかしくてとても凶器なんか持たせられないわ? またウメコさんやD高のヤツらにメーワク掛ける気じゃ……ないわよね? なーんて言われてさ。その通りだったから電話も持たせてもらえなくて、ウメコに連絡もしないでぐっとガマンの子だったんだよ。女史厳しくてさ、B高だよB高。あたし成績ドン尻、一番ビリ。ウメコ三百番台がどうのなんて言っていたけど、あたしビリ同盟作ろうかと思ったよ。更にウメコになにも言えなくてさ。GWの後ウメコに会ったけど、あんたから今なにをやってんのって言われたくなくてビビっていたよ。それであんたに一人ゲロさせていたってワケ。明美もあんたにあたしのことをなにも言わなかったと思うけどこの通りでさ、世話になったけど口止めしていたんだよ。ウメコがあんまりバカップルぶりだったんでつい口滑らせそうになったけどフォローして貰ったのはそういう事情。あたしに連絡したいことがあったら明美に頼んでよ。
 というワケでさ、あたしD高のヤツらにこんな経緯を言いたくないからなんで引っ越したとか言っていないんだ。もっともあたしが転校って聞けばみんな事情を察してくれると思うけど。悪いけどさウメコ、誰かにあたしのことを訊かれたら、テキトーにごまかしてよ」
「……うん。その、……そうだったんだ……」
 マコの長口上は、わたしが簡単に口を差し挟んでいいものじゃなかった。そうだったんだ、大変だったんだ……
「そ。だから先週の打ち上げの時も言えなかったんだよ。楽しかったし? いい雰囲気だったじゃん、ウメコ成田とさ。あんたの友達みーんないいヤツばっかだよ」
「……うん、うん」
 友達がいいひと達なのはその通りですが、その、いい雰囲気というのは……止めてくださいマコさん。……でも無理か……。
「あたしの用件はトーゼンこんだけじゃないから」
「え」
「ワビ入れだ。ウメコ。今度こそあたしの直、受けてくれ」