六月十六日 土曜日

 成田くんは穏やかで。
 男っぽくなっていた。
 色っぽくまでなっていて。
 猛々しくて。

 ……激しい。

 身に纏うのが腕時計とブラだけになってベッドの中。左腕が下。背後には、裸の斉志。背中を見せて。腕枕もない。ふたりの間は、多分五十センチメートルくらい離れている。
 さっきからずっとこの体勢。どこも触れていない。……ただ見られている、だけ。もう、躯の全ては弛緩していて、緊張していて、びくびくいってて、そしてもう、……我慢なんか出来ない。
 息も吹き掛けられない。当然、触れられもしない。ただ体温を感じる。
 熱い。
 それがずっと続いている。もう半泣きで……それでも斉志はなにもしてくれない。
 なにも、わたしは言えなくて。ぎゅっと目を瞑っているだけ。
「梅子……」
 声に。うるんだ声に、こんな反応をしてしまう。
「……ぁン」
「なに……? 呼んだよ梅子、返事して?」
「……、……」
 そんなの、……無理……もう泣き顔。
「あ、あ、あ……うぅ……」
「どうした? 梅子」
 そんなやさしい声でわたしを。
「……ほ、……ほっとか、ないで……」
 お願い……。
「俺が? 梅子を?」
「……わ、……わたし、が……ぁン!!」
 熱くうるんだ唇がホックを器用に解く。ぷつん、そういって……ぷるんって、音を立てる……むね。
「梅子が……俺を……」
「わ、たしが……あぁぁン!!! あ・ぁ……せ、せいじィ!!! ……あ、あ、」
 唇が、背を這う。熱くて、もう……
「俺を……?」
「もう、もう……」
「俺を、……もう?」
「放っとかない、ひとりにしない、ずっと一緒に、だから、だからッッッァあああああア!!」

 そのままうつぶせにされて、お尻を上げられて後ろから、もうゆびも舌も、なくて両の、乳房を後ろから鷲掴み。
 こころゆくまで……犯される。

 ベッドの上で、腕時計と薄い一枚の掛け布だけ纏うわたしと、同じ布だけの斉志。わたしの頭の後ろには斉志の引き締まった腕がある。
 前にもこんなことがあった。成田くんは、いまはわたしの薬指を弄ぶだけ。静かで、穏やかで。
 この体勢で、前にいろいろ聞かれたから。わたしは逆に聞きたいこと、ではなくて、してみたいことがあった。穏やかだから、成田くんが……だからいいかな、と思って。
「……斉志?」
「うん……?」
「あの……ね、ちょっと斉志に、……お願いが」
「なに……? 梅子のお願い……なかった。今まで」
「そう?」
「……俺ばっかり我が儘言って」
「そんなこと……」
 ばっかりなような。と言ったら間違いなく今日は帰れない。ひょっとしたら今日だけじゃないかも。
「……浮気したい?」
「違う! あのね、斉志は……あの、武道かなにか、やっている?」
「……どうして」
「だって、その、……筋肉とか、腹筋とか……その、すごく引き締まっていて」
「……一通りは」
「そう、なの?」
 やっぱりなにかをやっているんだ。だって凄いもの、躯……成田くんだからと思っていたけど、普通に考えれば高校一年生、まだ十六歳。なのにどうしてこんなに体格がいいのかな。まだまだ成長しそう、瑞々しくて、猛々しくて。
 勿論成田くんに普通とかいう言葉は全然、合わないけど……。
「梅子の浮気相手に勝てる程度には」
「そんなひといない! ……斉志だけ」
「……お願いは……それを訊くこと?」
「ううん、違う……訊くこともあるけど、ちょっとその」
「なに……?」
「えっと、えっと……おなか、触ってみたい。斉志の」
「梅子」
「はい」
「そういうことなら遠慮するな。俺に触れたいならいつでもいい、学校でも皆のいる前でも」
 しません。
「いいよ……?」
「……うん」
 事前の許可を得ましたので。ちょっと失礼して。
 躯を起こして、白の奇麗な薄い布をちょっとだけずらして。右手でその、わたしの胸隠して。左手で成田くんのおなかをちょっと触る。
「あ、くすぐったくない? 成田くん」
「斉志」
「……いいの?」
 成田くんの表情は変わらない。静かで穏やかで。視線だけ下を見る。わたしがおそるおそる触る成田くんのおなか。
 ……すっごーく、固いのかなと思ったけど。弾力性があってむしろ柔らかいと思う。触る前の予想より。ちょっとでこぼこ。触っていると、躯の熱が伝わってくる。
「……梅子」
「……?」
「くすぐったくはないが……」
「どうしたの?」
「……感じた」
「……え?」
「……勃った」
「……え?」
「俺も、……お願い」
 そう言われて……成田くんがもう、下半身にしか纏っていない薄い布を、さらにずらして……。
 ……。
「梅子……お願い」
 そんな、甘ーい声で……。
 わわわたしにこのこの、ひだりにあるものを、どどどどーしろ、と……。
「口で……」
 そう言う成田くんは、とってもとっても、……苦しそう、で……。
「……して」

「歯は、駄目……」
 ……。
「手……添えて」
 ……。
「上下に……」
 ……。
「ぁ、……ン」
 ……。
「よ過ぎ……る、梅子」
 ……。
「それも……含んで」
 ……。
「飲んじゃ駄目だ……」

 ……それから二人でごしごし歯磨きです。並んで仲良く歯磨きです。
 当然無言で歯磨きです。
 わたしは顔をごしごし拭かれました。ごしごしです。胸も。
「俺の前で隠すな、梅子」
 ……。
「月一回でいいから」
 ……。
「これで期末は謹慎する。俺厭々我慢する」
 ……。
「……怒った?」
 ……。

 美味しいお昼が悪いんです。美味しくてとろけそうなお昼が悪いんです。はい・あ~んで条件反射。ええ、乗って食べました。
 だから……、怒っていない、うん、いいよ、って。
 躯で言わされて……。
 ……。
 頭の中には言いたいこと、うんとあるんだけど、なにせ相手は頭がよすぎてとても口では説得出来なくて。じゃあ、躯は、というとこのとおり……。

 な、情けない。
 その上お白州を開かれまして。

 ──またお預け食らうから。七月の休みはずっと来て。夏休みもずっと来て。

 わーたしーのからだーがつらい~~、とかいうのは、どこへ……

 もう夏至が近い。だから……その時間がありまして。
 わたしは確か退院したばっかり、……でもないけど。な筈なんだけど……。
 回数ですか? 内容ですか? もういいじゃないですか……。

 結局、言うのは帰り際しかなかった。
「あの。な……せいじ」
「なに」
 最初から成田くんと呼ばなかったのに……。
「あ、明日。女友達と会うの」
「どの男だ!!」
 いま、女友達と言いましたよ成田くん。
「女友達、です。で、あの、環と」
「本当に女なんだな」
 ま、前に言ったときはあんなにやさしく微笑んでくれたのにー。
「信じて、くれない?」
「梅子は俺の我が儘を聞いてくれない」
「……そんなことどの口が言う~~!?」
 ほっぺた両方つねってあげた。
 ひょっとしたらこれがコイビト同士って言うやつなのかもしれないな、と思ったけど。
 口にするとなにされるかわからないので止めた。

 ──明日の夕方電話するから。どういう話だったか、必ず報告すること。日暮れ前に家へ帰らなければどうなるか……。
 分かっています。