六月九日 土曜日 合同打ち上げの朝 斉志

 梅子は俺がそう思っている以上に、外見だのを言われることを嫌う。つい思った通り胸のことを言ったら、泣かれた。だから今隣にいて、着て来てくれた服を似合うと褒めることすら出来ない。
 謝罪することも許されない。
 惚れる以外なにも出来ない。

六月九日 土曜日 合同打ち上げ

 ここは隣の人のおうち。旅館です。
 そこの一階のわりと大きな畳の部屋で第一回合同祭の打ち上げをやっている。わたしはそこへ成田くんと一緒に行った。
 成田くんが会場のふすまを開けてくれて、みんな、友達はもう集まっていて、だから開口一番でこう言った。
「みんな、心配させて、迷惑かけてご」
「待ったァ!」
 ……ごめんなさいと言おうと思ったら、とても大きなデカ声にかき消されてしまった。
 その声の持ち主は佐々木明美と言って、わたしの親友のうちの一人だった。
「おいバカウメコ。あたしゃこのあいだからワビは一生分見て来ているんだ、もういいぜ」
 ……??
 なにを言っているのかよく分からないけど、わたしがみんなに迷惑や心配をさせたのは事実。言わなくちゃいけないのに。
「おまけにプラス一生分」
「全くだよ」
 明美だけではなく、マコまでこんなことを言う。さらには、
「そういう場合はどうするんだっけ? ウメコ」
 なんて言う。
 そういう場合って……このあいだは畳に頭をこすりつけて、両手をついたじゃないかー。
 ……でも、分かっている。いまさらごめんなさいと言ったって、倒れた事実は変えられない。
 それにみんな、マコや明美だけじゃなくみんなが、ワビはもう見たくないって言っている。ほーれほれって、違うことを、言うべきことを言ってと目で言っている。
 だからわたしは、頭をうんと下げながら言った。
「……ありがとう」
『ヨシ!!』
 その後は、みなさんからこんな激励のお言葉をいただきました。みんないいひと達です。ありがとう、ぅぅ……。
「まったく、もう倒れるなよ!」「体力なさ過ぎるんだよ!」「わざわざ病院まで行っちまったよ!」「連絡くらい寄越せ!」
 その通りです。体力ないです。もう倒れたくありません。太りたくなーい。みんな病院に来てくれたんだ……連絡くらいしなくちゃ。でもお白州に引っかかるんです!
 と、思っていたら。
「バーカ、成田に殺されるぞ!?」
 と、またまたデカ声の明美が言う。
「そうだな!」
 へ?
「なに、ウメコ知らないの」
 え、え、え。ななななにを……って、マコ、あの……
「あたしが喋るわけないじゃん!」
 え。なにをですかマコさん。
「あたしもだぜウメコ!」
 なにをですか明美さん。
「と・ゆ~ことはぁ? 誰がナニを言ったか。分かるよねウメコちゃ~~ん」
「ひっひっひ」
 そんなふうに笑わないで下さい。
 みんな、厭になるほどニヤニヤしながらわたしの背後のひとを指差した。
「な、な。成田、く……」
「斉志」
 な……斉志は、とても優しい目でわたしを見る。
 だから、わたしもそんなふうに見つめ返しただけだったのだけれど。
「ひゅーひゅーーーー! 名前で呼び合う仲だもんな!」「俺達斉藤の名前呼べねえんだもんな!」「元から呼ぶ気ないけど」
 なにを言っているんですか隣の人。元からなにもかも分かりません!
「成田自分の名前、誰にも呼ばせる気がねぇってさ!」
 なぜですかお祭り男くん!
「斉~~」
「慶はアホだから別!」
「俺も別ね当然」
 あ、あのあのあの。だから。慶ちゃんも西川も一体、なにを……
「呼んで? 梅子」
 成田くんが、あーんな瞳でわたしを見る。
 ひょっとして、こんな満座の目の前で、わわわわわたしになにをしろ、と……
「……呼ばないと……」
 う。駄目ですこれ言われると。もうなにされるか分かりません。
「せ。せ、いじ。」
 みんな、うんと大っきい冷やかしと口笛をありがとう。近所から苦情が来ますよ……。
「俺、一等賞を取ったんだ」
 あれ、そういえば父ちゃんがそんなこと言っていたような。
「一等賞って、なに?」
 わたしは単純に訊いた。そんな賞があるなんて聞いていなかった。
「MVP」
 わー……凄いや……見たかったなー……
 そう、そういえばそういうのがあるんだった。確かみんなの投票で決まるって書いてあったような。
「梅子の親友が俺に、MVPを取ったからスピーチしていいって言ったんだ」
 な、な、なにを?
「あたしのせいにするなァー!」
 明美が成田くんに突っ込む。厭な予感がうーーんと。
「な。な。なにを言ったのかな……」
「うん」

 そう。
 後悔とは絶望のことを言うのです。
 わたしは誰よりそれをうんとよく知っていた筈なのに。
 どーしてわたしあのときぶっ倒れて入院してしまったのー……。試験はおわっていたし、その上部活を休めとまで言われたのに……。
 もう……どれだけタコを茹でてもこうはなるまいというほど煮立った上、砂漠の砂より干乾びました……