前説

 成田斉志。
 一見、頭脳明晰眉目秀麗硬派堅物マシンガン命令トーク野郎。
 しかしてその実体は万年発情理性無し、うんとメーワク掛け続ける只のガキ、口癖「俺のこと……嫌い?」(全て対梅子専用モード)な男。
 ツラがいい、頭がいいなど言われちゃいるが、親しい人間から見れば実態はこんなものである。
 その彼がこの三日間、一体どういう生活を送ったのか。
 合同と称されるお祭りがどういうものであるかは、来年も開催されるので、梅子が倒れたいま、説明はその時でも構わない。しかし、たった二ヶ月間の高校生活を記述するだけで随分な文量になってしまった。したがって、取り敢えず記すこととする。
 彼はこの二ヶ月間、曰く怒濤の毎日を送って来た。ある日は真っ白、ある日は絶望、ある日は舞い上がり、お預け喰らって人生最高の刻を迎えるももの、自滅。それでもなんとか、想い人の尽力と己が性欲で立ち直り、さぁ問答無用、有無を言わせず想い人との仲を関係者全員に暴露してやろうと画策していたこの三日間。
 彼はプライドが高すぎて、とにかくまず動く、という想い人の得意技を体得出来ていない。
 であるからして。よく晴れたあの三日間は。
 やはり怒濤の三日間と相成ったわけで。

五月三十一日 一

 主導権を斉志が握ったと言っても、合同開催日当日の三日間、ずっと運営テント下に斉志がいるわけではない。和子もそうだが、ひとりひとつは参加競技がある。斉志は競技タイムテーブルを作った最初から、自分と和子の競技参加時間を可能な限り重ならぬようずらしていた。
 初めての開催、通常のA高生徒数の約三倍の人員が常に流動する三日間。それでもこの二人ならばひとりでも完璧に指示してのけるだろう。だが斉志はそれをしなかった。二人の力関係がどうであっても、いざとならばお互い、同じ内容の一本化した指示が出せる。それに斉志は間違ってもこの三日間を運営の為だけに捧げる気などない。むしろ期間中は運営から離れたいくらいだった。
 ──梅子、……まだ来ない。
 運営テント下で斉志は先程から、梅子の携帯電話へ連絡をし続けている。鳴るだけで出ない携帯。車の中で寝ているのか、と思ったが、いくらなんでもそろそろ学校へ到着していなくてはならない時間だ。
 祭りの御輿、佐々木明美の競技参加は最終日最後の種目、一発勝負の女子リレーのみ。記入用紙へ希望種目はなにも書かず、百メートル自己ベストタイムのみを記す度胸がなければ出来ない芸当で、明美の運動神経のよさが伺えた。
 明美は最初から、競技に参加しようという気はなかった。自分が御輿、絶対にうしろを見せてはならない。とはいえ自分の丁稚その他は優秀過ぎるから、こうして日よけのある運営テント下にドンと座ってバカ話でもして笑い飛ばしていればいい。またそうし続けなくてはならない。あとは全て、自分を使えと言って来た自称置いとく大親友をアゴでコキ使ってやればよかった。
 斉志はバスケ、ラス前の競技、そしてリレーに参加する。最終日最終競技のリレーの時間帯ともなると、役員・運営に対する指示はもうあらかたおえている。
 斉志は自分が出るバスケの競技時間と梅子が出るミニサッカーの時間も当然のようにずらしてある。自分の競技は見て欲しいし梅子のプレイ姿も観たい。梅子は照れ屋だから厭がるだろうが問答無用だ、などとあの誓いはどこへやらなこともきっちり考えている。白一年のA高入場門は通常使用している正門、校庭集合場所とミニサッカー競技場は運営テントのど真ん前、運営テントとバスケの会場第一体育館は直近、バスケとミニサッカーの競技時間はそっくり同じ、タイムテーブルは勝ち進めば絶対に重複しないという念の入れ様。権力乱用私情入れ放題も甚だしい。
 普段はウェーブの掛かったロングヘアにセーラー服でB市内を闊歩している和子は、今日は髪をまとめてジャージでテニス。実に華麗に似合うそうだ。斉志と入れ替わりの形になるが、競技がない時間はトランシーバーにより役員・運営に的確な指示を出す。
 遼太郎は刻々と変化・進行する競技勝敗を集計し即刻周知させるの係。とは言っても単純作業となるので、常時マシンにかじりついているわけではない。むしろ斉志のフォロー役となる。しかし出場競技はラス前を除けば斉志と同じであるので、やはり競技参加中はアタマを和子に一任、ということになる。
 横島・渡辺・前野・藤代はそれぞれ第一体育館、第二体育館、第一・第二校庭へ。各競技場へ配置された役員を指揮・監視する。この四人はそれぞれ出場競技はひとつに絞って、やはり被ることは少ない。競技時間の違う和子と斉志が同時に運営テント下にいない場合は即座にこの四人のうち一人がこの順位で臨時に指揮を執ることになる。
 いずれ今回が最初の開催。全てはこの三日間で勝負が決する。なにがあっても成功させる。その為には、この優秀すぎる運営陣の行動、判断が全ての鍵を握る。誰であっても軽挙妄動をしてはならない。泰然と。当然のように。
 もっとも管内全高校生は運営陣への不安など微塵もない。あまりにも迅速、簡潔、無駄のないこれまでの活動ぶり。偏差値の別のはっきりしている五校への通達は常に同時。資料は分かりやすく、経過報告は最大船速、即時通達。心配など誰もしていない。ただもう、楽しみにしていた。この行事を、誰もが。
 誰も、この優秀な人物達が、運営のとある一人物からの報告で、瓦解の危機を迎えることになるなど知りようもなかった。

 藤代りうの担当は小さめの第二校庭だ。正門から校舎に向かって右にあり、ソフトやテニスの会場となっている。常に渡辺と同行するりうであるが、今回はさすがに別行動。彼女の担当範囲がもっとも狭い。
 執行部は全員、指示連絡をトランシーバーにより行っている。なにせ同一箇所で三千弱の人数がおそらく一気に電話回線を使用する。よって携帯での連絡は避け、有効範囲は狭いがこういう場合では最も適しているトランシーバーを使用する。当然遼太郎と斉志が改造を加えている。
 その回線は全員通達用回線、運営内のみの回線、個人対個人回線、の三つがある。
 りうは先程斉志から、正門前へ向うよう個人回線で連絡を受けていた。
 通常の三倍の生徒数でごった返すA高の入り口は三つ。正門、裏門、通用門。今回は全て使用する。可能な限り車による登校は避けることが大前提。
 出入り口を三つに分散しようとも、正門前はやはり混雑がある。とは言え、全員に自分が第一校庭のどこへ集まればいいのかはもう通達されている。ここへは運営は配置されず、役員数人が誘導に当たっていた。そこへ斉志はりうに行け、と言う。
 りうは苦笑した。
 藤代りうはB市出身だが、斉志の家のわりと近所に住んでいる。渡辺和彦とともに、斉志とは小さな頃からの知り合いだ。よって、斉志とは遼太郎を除く運営の他の連中のように、突っ慳貪だったり競争したり嫌ったり存在をあまり知らなかったり、というような間柄ではない。いい友人だ。お互い性格は知っている。斉志と梅子との仲も。
 ──嫉妬しているのね。
 役員とはいえ男には梅子と応対させたくない、女ならいいかと言えばそうではなくて、責任と知己のある自分を向わせた。どこまでの仲かなど、りうは見れば分かる。かなりの惚れ込みようだ。勿論、あ~んな仲であるとまでは、女の直感度なら執行部一のりうと言えども看破出来るわけはない。
 しかし、女嫌いで通した堅物の斉志が、我を忘れ立場を忘れ、プライドまで忘れて皆のいる前で名前を漏らし、運営会議とは名ばかりの場で自分からあんな風に公表した。どれだけ大切な存在であることか。
 かなりの人数が坂を上って来ているが、それに逆らって、むしろにこやかな笑みを浮かべながら、斉志の想い人を探す為坂を下りた。
 しかし斉藤梅子は倒れる。りうは一等最初に考えた。
 ──妊娠?

五月三十一日 二

 軽挙妄動は絶対に許されない。
 偶然か必然か、梅子のまわりは多くの生徒が歩いている。そしてギリギリ、自分が近付いたすぐそこで倒れてくれた。これが例の殴り込みのようにハデにやられたら、まだ開会式前だというのに取り返しが付かない。そしてすぐに、この件の報告順位を決めた。
 ──成田を一番後に。
 近付いて倒れたということは、視界がもうかなり狭まっている。今日、いや明日も駄目、ことによっては入院。まず先に保健室へ。
 りうは勿論、建て増し続きの複雑なA高校舎見取り図を頭に入れている。病人を肩にこの坂を上らなくてはならない。変化を見てとり駆け付けて来た役員女子と協力し、そっと、目立たぬように運ぶ。坂を行く皆はこれから起こるお祭りに意識を向け、みんな思い思いの集団で喋りあいながら校庭へ向かっていた。りう達の今この行動、隠密に出来なければ全てが終わる。
 運良く、梅子はそれでもまだ自力で歩いてくれた。例の自己紹介の場はやはり設けていてよかった。もっともあの時は、堅物の斉志の想い人を見たいという、少し下世話度が入っていたことは否めない。
 いずれ女子三人、校庭へは行かず坂を上り切り、左へ折れ保健室へ。ここからの判断が全て。
 りうは和子へ個人回線を開いた。
 ──どう成田に言えばいい? きっと自分からの報告を待っている。もう時間はない。
「森下、こちら藤代。ウメコさんが倒れ今保健室、おそらく数日の入院加療が必要。指示を」
 軽挙妄動は許されない。自分の判断には余った。
「こちら森下。成田へは未到着であるとのみ。症状を私に報告。斉藤家へ連絡、ご父母どちらかとの回線を確保。成田とのタイミングは私が。病院へそのまま付き添うように。あとは全て私に」
「了解」
 一息つく。駄目だ、こんなことでは。
 とても一番先に成田へそのまま言うことなど出来なかった。突然生徒会室を飛び出した成田。上の空でマシンガン命令指示。それが今こんなことを言ったらどんな行動に出るか。
 中学までの性格を知っている分、今回のような状況では逆にその反応がどういうものか予想も付かなかった。震える声を押さえる為、深呼吸をしてからトランシーバーを取った。

五月三十一日 三

 斉志は焦っていた。
 りうから、梅子はまだ姿が見えない、自分はもう持ち場へ戻るが経過報告は女子役員へ引き継ぐ、との連絡が入ったからだ。梅子の携帯は未だもって繋がらない。
 こういうことは入学以降何度もあった。
“感情で動くな、立場で動け”
 今がまさにそうであると厭になるほど分かっている。感情で動いた時、どれだけ梅子に迷惑を掛けたか。立場で動いた時、梅子を助けられなかった。この合同は誰の為にある? 全て梅子の為にある。その梅子が来ない、連絡も取れない。けれど自分はいつもの通り澄ましていなくてはならない。ドンと構える明美は全幅の信頼を寄せている。自分が不在の場合は全指揮権を保持する和子に失態を見せることは出来ない。自惚れが過ぎると言われようが間違いなく自分がこの祭りの成否の鍵だ。軽挙妄動を最も許されない立場にある。
 それでも今、今ほど感情で動きたかったことはない。連絡さえ取れれば。車で向かっている筈の梅子。
 和子が、内心を押し殺していつものように語りかける。
「成田……なんて間抜けな顔をしているの? 道が混んでいるだけでしょう……? オンナの支度は時間が掛かると決まっていてよ……?」
「まったく、ウメコのやつホントに遅刻ギリギリなんだな! こりゃ処分が解けても次危ないんじゃないのかい!?」
 和子と違って事態を知らない明美が笑った。
「まさか! 梅の字、こいつのせいで遅刻がいかに! イヤーーーなものか知っているからな!」
 同じく事態を知らない遼太郎も笑い飛ばす。
「そうだったな!」
「明美さん? ……そろそろ時間よ。……成田」
 和子の言に、しかし斉志は動かない。間抜けな顔などはしていないが、時間になっても席を立たずに座ったままだ。
「それとも……私に、全て預ける?」
「……行くぞ」
 プライドの高い者同士の会話。
 カンの鋭い明美、遼太郎にとって、この二人の勢力争いなどいつものこと。とにかく梅子が来さえすればいいのだ。明美も遼太郎も、これから始まるお祭り騒ぎへすでに心を飛ばしていた。

五月三十一日 四

 りうから和子へ個人回線で連絡が入った。
「こちら藤代。ウメコさんは疲労性高熱。A市立病院へ直行、入院期間は一週間前後。斉藤家とは未だ連絡取れず」
「藤代、ウメコさんの手荷物は?」
「所持せず」
 りうは言った途端にはっとなった。そういえば梅子は荷物を一切持っていなかった。この状態で自転車で来ることは不可能だろうから、学校へ来る手段といえばバスか? いや、来た途端に倒れたのだからバスも無理。となれば、車で送られて来たのだろう。つまりは……
「おそらく車中」
「ウメコさんの携帯電話番号で回線確保を」
 和子はりうに、梅子の携帯へ掛け続けろと指示を出す。斉志も掛け続けているだろうが、開会宣言ののちすぐ競技へ参加する斉志はずっと掛け続け、というわけにはいかない。最終的には車を運転し、着信音を聞き続けているであろう斉藤父に出てもらう。それしかなかった。

五月三十一日 五

 開会式の時間となった。
 梅子からも役員からも連絡はまだない。携帯は繋がらない。梅子の自宅は斉藤母が出たが、梅子を車で送った斉藤父はまだ自宅へ戻っていない。
 斉志は改造携帯を切ると、想いを振り払って運営テントの席を立った。
「斉。時間だ」
「ああ」
「よっしゃ行くかーー!!」
「お祭りの……始まりね」
 遼太郎はウィンクで三人を見送った。席を立ってはいるものの、校庭に仕立てられた小さな雛壇傍へは行かずテント下で待機する。
 ──すぐ来るさ。大丈夫だ、お前の信じな。

 全高校生徒総数二千八百十三名。うち、ひとりを除き、五校全生徒がA高第一校庭に集結した。管内史上初めてのことである。

五月三十一日 六

 壇上へ歩を進めるのは先頭から今回の行事の提案者、D高生徒会長、佐々木明美。次にA高、成田斉志。現在はなんの肩書きもないが、間違いなく彼こそ今回の行事の立て役者だ。トリはB高生徒会長、森下和子。
 A高校庭に集まった全高校生全員が知っている、今最も有名なこの三人がテント下から同時に席を立ち、雛壇へと近付いただけで、轟音のような歓声が沸き起こった。

五月三十一日 七

 壇上に立つは佐々木明美。壇下両脇に成田斉志、森下和子を従え、第一回合同祭の開会を宣言する。
「さあってっとーーー! それでは……」
 明美はマイクを握り締め、腰に手を当て笑顔全開、デカい声で開会宣言をする。途端水を打ったような静寂が訪れる。誰もが、あの携帯ごしに聞いた文言を期待した。
「……なーんてね! 堅ッ苦しいことはなし!! みんな、楽しむぞーーーーー!!!」
『おーーーーーーーーっっっっ!!!』

五月三十一日 八

 壇から降りて来た明美に、和子はあきれ顔で言った。
「全く……もう少しまともなことを話したらどう?」
「しょうがないだろ森下女史、あーんなに人がいっぱいいるなんざ考えもしなかったよ。いや、壮観壮観」
 言われた明美はそ知らぬ顔。ただ今その目で見た感想を言った。興奮が、高揚が声だけではなく全身から放たれていた。
「タイムスケジュールに……影響があるのよねえ」
 事情を知る和子は、なに喰わぬ顔でたわいもないことを言った。
「なァに、アケのスピーチなんざ三十秒程度しか予想しちゃいなかったさ、早いのはいいことだ」
「だろ?」
 遼太郎の明るく朗らかな言葉に、明美は自信たっぷりと応じた。
「遼太郎、成田……さっそく競技でしょう? さっさとトランシーバー……置いて行きなさい?」
 和子はこれまたあきれ顔で言う。斉志は明美のスピーチがおわったあと、すかさず席へ戻ると片手で携帯を取り出し相も変わらず梅子宛てに掛け、片手のトランシーバーで役員に連絡を取り、梅子はまだかとせっついているのだ。すぐに競技が開始されるのに、である。
「斉、行こうぜ。だから来るってば。いや分かっているって、またヘンな道を来たり迷ったり攫われたりとか考えているだろ。バーカお前ののおやじさんに限ってそんなことねェって」
「遼、けど電話が」
「あー駄目だアケ、こいつまた真っ白直前だよ。もし梅の字がこっちに来たらさ、第一体育館まで送りつけてくれや」
「まったくあんたってオンナにゃ過保護だな。そんなシケたツラしてどうするんだ? カッコイイところを見せるんだろ? 言っとくけどあんまりウメコをぶっ倒れさせるなよ、あいつぁすぐ真っ赤になって干涸びちまうからな」

五月三十一日 九

 運営テント下に陣取る森下は、斉志・遼太郎がトランシーバーをここへ置き、第一体育館へ向かったのを確認してから、運営内のみの回線を開いてこう言った。
「こちら森下。前野、横島、渡辺、応答を」
「こちら前野」
「横島」
「渡辺。どうぞ」
「ウメコさんが高熱を出しA市立病院へ入院。藤代が付き添う。一週間以内の入院。あとは全て私へ」
「了解」
 渡辺が答えた。りうが付いているのなら安心だ、そう想いながら。
「了解。女史、成田へは」
 前野が訊ねる。
「現在の競技が終了後、遼太郎へ。横島」
 和子は横島へ、遼太郎を介して斉志へ伝えるよう指示を出した。了解の二文字で、横島が応じた。

五月三十一日 十

 雛壇うしろの運営テント下。このど真ん中に佐々木明美の席はある。
「しかしまあ、始まっちまうとヒマだねぇ。あたしもやっぱりなにか競技に出りゃよかったよ。こーんな? シケたツラを見ていてもさー」
 通常、どんな執行部会議でも中心は斉志が占めたものだが、今回の本番だけは違っている。斉志はテント左の三メートル四方を確保していた。明美あたりは、おおかたウメコと二人でとでも思っているんだろ、と勘付いており、実際その通りの予定だった。
 運営テント下は左・真ん中・右エリアに分かれる。それぞれ十二席分ずつ。左のエリアを斉志がひとり占め、真ん中のエリアを他運営六人+遼太郎が陣取る。右エリアには役員席、その長机の上にはノートパソコンがずらりと並んでいる。役員は全員が助監督よろしくA高中を走り回っている。
 真ん中の運営席へは現在、佐々木明美と森下和子のみがいる。的確な指示を出す和子であるが、その会話を聞く明美はすでに異変を感じ取っていた。
「女史ィ、あんたテニスだってー? いっやー似合うっつーかなんつーか! あーなーたーは? とか言いながら……くっくっくっく、笑っちまうね!」
「その間抜けヅラのまま聞きなさい」
「まァしかし随分な人だかりだもんなー、あたしゃ五校全部まわって演説ぶったけど、それがぜーんぶ! 一同に会しているなんざマジ壮観だぜ!? あんた壇上で挨拶したかっただろー、あれだけ人数いるとスカっとするぜ!」
「ウメコさんが高熱で倒れたわ」
「いー天気だよなあ! みんな歩くか走るか教室でウロウロするしかないんだろ? その点、あたしは! 座って日傘の下! 楽でいいねえ!」
「A市立病院に一週間以内の入院。藤代が付き添う。成田へは最後に。説得は遼太郎」
「あたしも応援とか行くかぁ! 楽しそうだもんなあ!! ……なーんてね」
 明美は言われた通りの表情を保つ。後ろを見ることもしない。
 管内で最も気の強い、かもしれぬ女生徒二人は視線も表情も変えぬまま、校庭を見据えた。鋭い小声、一瞬だった。
「任せたぜ、和子」
「ええ……明美」