六月七日 木曜日 A高 五限目おわりの休憩時間

 1Fへさくっと戻ったわたし。
 そうしたら、阿っちゃん、サッカー部くんがわたしの机のまわりにいた。柊子ちゃんは自分の席に座っているけど後ろの席の方へ振り向いている。隣の人は普通に椅子にかけたまま。
「早かったな」
 前を向いたままの隣の人。
「ウメコさん! 来ていたの~?」
 阿っちゃんだ。
「よう斉藤。もう大丈夫なのか」
 サッカー部くん。
「ウメコちゃん、すっごい痩せたねー。びっくりしちゃったよ私」
 柊子ちゃん。
「そ、そお? あ、あの久し振り。えーっと、ちょっとわたし熱出してぶっ倒れちゃってて、少し入院をば」
「知っているよ」
 隣の人。前を向いたまま。え、そうなの?
「行ったんだよ私達~」
 阿っちゃん。
「市立病院な」
 サッカー部くん。
「みんなズラ~っと一杯いたよ。他校、っていうか」
 柊子ちゃん。
「みんな、な」
 前向いたままの隣の人。ということは、この四人……来てくれたんだ。わざわざ病院まで。
「その……ありがとう。嬉しい、や」
 ちょっと涙がちょちょ切れてしまった。なんだかテレくさくて、ぺこりと頭を下げる。
 嬉しい。
「なに真っチロな顏して言ってんだか」
「あ、あのサッカー部くん、せっかく教えてもらったのに全然、出来なくてごめん」
「サッカー部くん言うなあ……」
「ケッサクだなサッカー部!」
 サッカー部くんにはそっちを向いて話す隣の人。てやんでえ。

 三人+一とちょっとお喋りした。とにかくもう大丈夫、心配かけてごめんなさい、また授業に出られなかったから今日からは真面目に、うん体育はちょっと休むかも。そして六限目が始まった。

六月七日 木曜日 A高 放課後 部室

 さて、わが師匠のご指示どおり、部活へ出るとしますか。
 とは言っても毎度まともに部活動はしていないし、そもそも部活と言ったってまじめにやっているのは癪だけど西川だけだし、わたしは、そりゃあいろいろ研究をしているつもりだけどただ見ているだけだし、先輩二人はさっぱり来ていないし。
 そういえばわたしって西川とふたりっきりで個室に篭って部活をやっているんだよねー。はっはっはー。今更そんなの知ったって誰もなんとも思うまい。西川が相手なので、なにも遠慮は要らないのだ。

 久し振りな感の新校舎へ行って、間違ってもC組は見ないで即座に部室へ。からからと扉を開け……られない。閉まっている。
 まあ、西川は隣のクラスだし、そのうち来るでしょうやつも。

 そう思って、扉を見つめながら待っていると、誰かが背後からやって来て鍵を開ける。そして扉を。ガラっと。乱暴に。
 それは長身眼鏡、長めの黒髪、手に鞄と鍵束を持ったひと……。

六月七日 木曜日 A高 放課後 部室

 部室へ入れられた。扉は乱暴に閉じられた。そしてすぐ鍵を掛けると成田くんの肩に担ぎ上げられた。
 なにも言えないでいると、奥の部屋へ連れて行かれる。鍵をこじ開け扉を乱暴に、奥の部屋へ入って鍵を閉めてその場に鞄と鍵を取り落とす。ショーツを剥がれた。ひざのところで止まるそれ。スカートをすとんと落とされる。はじめて入った奥の部屋の、椅子のない机の上に下ろされる。背中は壁。すぐ口を吸われる。思わず目を瞑った。
 両腕は所在なくだらんとおりたまま。体力があった入院前なら腕を首にまわしていたかも知れないけど、今は無理。ただなすがまま。かちゃかちゃとなにか音がする。ネクタイを取られベストは剥がされ、ブラウスはよくボタンが飛ばなかったなと思う程すばやくおへそのあたりまで外されて、中途半端に脱がされる。前をはだけるだけ。スリップは邪魔者扱い、ブラはホックを外される事なく上に、鎖骨のあたりまで乱暴に剥かれた。
 あとはさっきから貪られたままの口にプラス、胸を揉みしだかれる。ねっとり。壁に背中を押し付けられる。机にはおしりで直にペタンと座っていたけど、もう、滲み出ていた。
 乳首を指ではじかれると、繋がったままの口からでも息が漏れた。
「ん……ン」
 もうそこが、じくじくしていて、熱くて、吐息と体温を感じて、目を少し開けると長い睫がばさばさで、すごく男っぽくて、眉毛がきりっとしていて整ってて、長めの髪が色っぽくて。
 欲情、されていた。
 口、吸われたまま。お互い荒く鼻から息、するしかない。それすら熱くて甘くてびりびり感じる。それでも両腕に力は入らない。
 蹂躙されたままの乳房から成田くんのおっきくて力強い左手が外される。片脚を高く上げられる。右のかかとを机の上に引っ掛けられる。そして口を吸われたまま、成田くんの左手、ゆびが、挿る。
「ン!!」
 吸われたまま。貪られたままでなければ、今頃どんな甘ったるい声を響かせていたか。しばらく、なかをぐっちゃぐちゃに掻き回される。乱暴に。成田くん、あのゆび、長い……。
 成田くんの右手が胸から外されて、左の脚、もっと開かされる。
 乱暴で性急な筈なのに、もう気持ちも躯も高ぶってて、多分それは成田くんも同じで。

 来て。

六月七日 木曜日 A高 放課後 部室奥

 閉じ込められたままの、お互いの声は、いつも聞いていたから、声にならなくても届いていた。成田くんのわずかに漏らされる吐息。聞くといつも締まって……あとはわたしの、バカみたいに甘ったるい声。ぁン、なんて連続で。今日は声にならないだけ。
 抱え上げられる。右脚の膝下に腕を入れられて。一番熱くてたまらないところにもっと熱いものが捩じ込まれる。性急に。おっきくて、……ふとい。
 奥に入ってくる。左脚、宙に浮いている。キスで声を吸われたまま。

 ひょっとしたら、あのときより激しく、かもしれない。ううん、すごく。
 激しい。
 ほんとに……欲しがられていた。欲しい欲しい欲しい欲しいって。

 下からずんずん突かれるわたしの躯。接合部がどんなことになっているか想像も出来ない。そのくらい、べちゃべちゃというとんでもなく濡れまくった音がする。あのときよりも激しくされて、それでも痛くないはおろか。
 わたしも……欲情しているので。
 もう、性感帯。なだけ。自分の体重で斉志を……やっと、両腕を斉志に回せた。そうでないともう、一緒に、なれなくて……声も、あそこも、漏れる。なにもかも。成田くん好きって言いたかった。逢いたかったって、心配かけてごめんなさい、合同大変だったでしょう? どうだったの、いっぱい楽しんだ? 出たかったけどごめんなさい、成田くんのこと見たかった。一等賞ってよく分からないけど頑張ったんだ、格好よかったんだろうなあって。
 けど当然意識はどこかへ飛んでって。

 あとは二人、性急に爆ぜた。

六月七日 木曜日 A高 放課後 部室奥

 気がつくと机へ座ってぼうっとしていた。上半身の服は整えられていたけどスカートも、左足に引っ掛かったままのショーツも穿いていない。
 す、すごい格好なのでは……。
 ちょっと怖くなって来ると、部室の方に誰かが入って来る気配があった。ど、どうしよう。
「……梅子?」
 な、成田くんだ、よかった……。
 ほっとした。こ、こんな格好あと誰に見せられるっていうのー。
「な、なななりたくん……」
 小声で、泣きそうな顔で思わず呟くと、
「今そっちへ入るから、目を瞑っていて」
「う、うん」
 言われた通り目を瞑る。あとは音しか聞こえない。

 靴の音が弱い。病院では、それは響くようだったのに。ああ、内履きだからか。奥の部屋のと思う、鍵が開けらる。静かに扉を開けて、閉めて、鍵をかけて。そして成田くんの気配が近付く。風を巻いて。体温、におい。成田くん。
「拭くから」
「……うん」
 多分とんでもないことになっている、下腹部から下を丁寧に拭われる。少し脚を開かされる。
 さっき自分で下、見てなくてよかった……のかな? 今見られているじゃないー。もう恥ずかしくって、ぎゅっと目を瞑っていた。
 丁寧に……ほんとに丁寧に。多分タオル二枚使っている。ぬるま湯で濡らされたタオルでゆっくり拭かれる。そこ、内もも。あー……どこまで伝っているのやら。躯を肩に抱え上げられ、お尻も丁寧に。スカートに、それが付かないように。ショーツをもう片方通させて、内腿まで上げられる。あとは床に立たされる。内履きではなくくつしただった。
 そのまま離されればわたしはフラフラ倒れそう。頭の後ろをおっきな手で支えてもらって、成田くんの胸板に額をつける。両腕はだらんと下りたまま。成田くんはわたしのショーツをきちんと穿かせて、スカートを整えた。靴を履く。
 また肩に担ぎ上げられると、あとは奥の部屋を出た。

六月七日 木曜日 A高 放課後 部室

「もう、目を開けていい」
 そう言われたのは、わたしが部室での指定席に座らされたときだった。
 ゆっくり、恥ずかしくて、けど逢いたいから、目を開ける。淡い光、成田くん。
 久し振りに逢った成田くん。あのときと同じ夏服。格好いい……男くさくなっている。
「……梅子」
「……斉志」
 しばらくお互い、見つめ合う。
 どうしよう、なんて言っていいか分からない。
「……躯、……つらくない?」
「……え」
「つらいだろ梅子。俺、また理性なくて、いきなり……その」
「ううん……」
「……」
「……あの、なんだか……」
「うん……?」
「すごく……」
 成田くんが、ほんとうに心配そうに、けどあの瞳で見るものだから、つい本音が。
「……感じちゃった」

六月七日 木曜日 A高 放課後 部室

 惚けた。
 惚けたぞ梅子。そんなもん他で言うな。絶対言うな。俺の想像を遥かに越えたことを言うわやるわ。いくらなんでも凄すぎる。俺に言葉だけでイけというのか?
 激烈に痩せた梅子。なんて軽い。
 ……むかついた。体重、なんでこんなに落ちなければならない。肋が浮いていた。むっちりした太股だったのに……乳房、サイズひとつ落ちた。絶対戻す。特に胸は戻す。ブラを始め下着、制服に至るまでかなりサイズが合った服。見れば分かるが全部新品だった。俺に言ってくれれば。オーダーメイド一点ものなどいくらでも……。
 はい・あ~んだ、梅子がなんと言おうと教室攻撃だ、長期お預け暗黒地獄の刑は忍耐で勤め上げたんだ、二度と待たん。
 今までの制服、胸に合わせていたんだろう、少し不格好で、それがよかった。俺でもなければノーマークだったろうからな男ども。だがこんなにきっちり合わせたら躯のラインが出るだろうが! 夏服だから曲線がよりバレるんだぞ!? なんで以前よりスカートの裾が短いんだ? 
 ……むかつく。
 明日から教室攻撃開始決定。合同できっちり宣言した、管内の連中全員に話を付けた。
 学校へ来るのはいいが、よりにもよってイの一に遼なんぞのところへ行きやがって。何故俺に連絡せん。病み上がりと遠慮したのが不味かった、待っていいことはなにもない。退院したら即刻俺に言え梅子。履行条文が追加されたな、躯で分らせてやる。
 躯……痩せて軽くて感度よくて……いかんここは学校だ。つい理性が。買ったばかりの制服、皺が……。
 梅子……俺のこと嫌った?
 ……感じた?
 誰がそんな台詞を教えた……。

六月七日 木曜日 A高 放課後

 今日はちゃんと放課後部活をやってから、と父ちゃんに言ったら、じゃあその頃に迎えに行くからと言われた。お前日暮れ前に帰るからな、その頃だろう、と。
 成田くんはあれっきり、なにも言ってくれなかった。反応がないって厭だなあ……。
 わたしはもう、時間だから帰るね、と言ったら、はっとしたようにタオルとかをビニール袋に仕舞って、さらにそれを鞄に突っ込んでいた。

 部室の鍵、……そういえば立場上わたしが返さなくちゃいけない。そうだ、西川はどこ? 合同おわったんだからもう、会議とか……。
 ……合同。
 いけない、話を聞かないと。

 成田くん……。
 うんと迷惑を掛けた。多分間違いなく、心配している。どう言ったらいいんだろう。倒れてごめんなさい? このあいだからわたし、成田くんに謝らせていない。そのわたしがどの面下げて……。

 言うべき言葉が見つからなくて、気まずい無言のまま部室を出る。いつもなら右に折れて渡り廊下を渡るのだけど、成田くんはわたしの左手首を持ったまま左へ。新校舎の生徒が使う下駄箱へ向かう。成田くんはわたしの左手首を持ったまま自分の下駄箱まで行って内履きを仕舞って大きな革靴を取り出す。それは履かないで、くつしたのまま渡り廊下を渡って右階段を下り、職員室へ一緒に向かった。
 な、なにか成田くんが廊下をくつしたでぺたぺた歩くなんてとっても似合わないというかなんというか。
 背が高い。そういえば、バスケ練習だけでも格好よかったな。見たかった。
 職員室へはひとりで入ろうとしたけれど、成田くんも一緒に入って来てしまった。わたしとは違う意味で常連さんなのかもしれない。
「失礼します」
 遠慮なくからっと扉を開けた。ひとまず成田くんには左手首を離してもらう。
 あれ、この鍵を誰に返せばいいのかな。仮な部員は部活顧問も知らないのだー。
 以前もこういう時があったけど、実はわたしのクラスの副担にお願いしていた。ぅぅ、あの時ちゃんと聞いておけばよかった、誰が顧問ですかって。今副担、いないもの。
 すると成田くんが持ったままの……そう、鍵も成田くんからまだ貰ってなかった、だから職員室入って来たんだよね成田くん。
 すると、名前は知らないけれど誰か先生が成田くんに声を掛けて来た。
「お、さっそくか。あまり見せつけるなよ成田、ここは学校だ」
「はい」
 ……どういう会話だろう。
 成田くんはまるでなんでも知っているかのように……ああ、知っているんだろうなあ……な手つきで鍵を壁にかかった鍵束の箱に掛けていた。ふーん、そんなことろにあるんだ。けど西川っていつもここへ取りに来ているのかな。それでどうしていつもわたしより部室へ来るのが早いのかな。

六月七日 木曜日 A高 放課後 茶店前

 結局、ここへ来るまで成田くんに、合同の件を聞けなかった。なんと言えばいいのやら……。前もこんなことがあって、そのときはマコに相談したけど、マコは待ちの状態。他の誰かに先に訊くなんて、成田くんは絶っっっっっっっっ対、厭がるだろうし。
 無言でここまで一緒に来てくれた成田くん。
 なあーんだか、格好いい……。
 変な話だけど、男っぷりが増している、というか、当人自覚があるかどうか分からないけど、色っぽくなっているというか、濡れた感じの長めの髪がちょっと伸びてて、なんだか見蕩れてしまった。そのまま、父ちゃんが車で来てくれるまで、茶店脇のベンチに座った。成田くんは立ったまま。

六月七日 木曜日 A高 放課後 茶店前

 ここはいい思い出がない。
 茶店脇。梅子が俺を怖がって、なにかあったら誰かに助けを求める為の場所。そこへ今から梅子のおやじさんが来る。
 梅子はフラフラしている。以前は感情だけだったが、今じゃ躯もだ。ただでさえ体力が落ちて躯の線が出まくりの制服を着ているなんて自覚がない。これで目を離したら、いつ誰かとどこかへ行ってしまうか気が気じゃない。自分は不用心です、攫って下さい、そう言っているようなものだ。
「……梅子」

六月七日 木曜日 A高 放課後 茶店前

 やっと喋ってくれた。なんだろう。あきれることを言うな、とかだったり……。
「明日は? 学校に来るのか」
「あ、うん、もう大丈夫」
 やっぱり。すごく心配させている。いけないや、こんなボーっとしたままじゃ。
「アシは? バスか」
「ううん、今週、だから明日までは父ちゃんが送り迎えしてくれるって。来週は、しばらくバスになると思う」
「躯……つらい?」
「ううん、そんなことない、……あの……」
「……うん?」
「あのね、あの、……合同は、……どうだった?」
 長い、沈黙があって。
 なんだかとっても、息が苦しくて。わたし、ひとり勝手に倒れちゃって。迷惑掛けちゃって。もうどうしようもなくて。連絡も、そういえばしてなくて、成田くんに絶対心配させちゃって、病院まで、成田くん来てくれて、みんな、せっかくいい機会だったのに、もう、もうどうしよう……。
「……楽しかったよ」
「本当に!?」
「……ああ」
「よかった!!」
 よかったよかった、わーいわーい! 成田くんが楽しいなんていうなら、きっとうんとうんと楽しかったんだ! これは大成功だったんだ! よかったー、見たかったけど、けどよかった!!
「よ、よかった、成田くん、わたし倒れてしまって、けど明美とか、せっかくあんないいこと提案してくれて、なのに出られなくて、うんとみんなに迷惑掛けて、そ、それであの、成田、くん……」
「斉志」
「あの……斉志……ごめんなさい、心配……したでしょう……?」
 この沈黙も長かった。
 なんだか今度は、こころが痛かった。
 だって目の前に立つひとは。うんとうんと、やさしい瞳でわたしを見て。
「好きだ」

 おかえり。
 ただいま。

 父ちゃんの車が来て、成田くんが父ちゃんに挨拶して。
 車に乗った。

 成田くんのやさしいこころがわたしを包む。